そうしないと書けなくなる。
ティファニアとの使い魔の契約です。
「ちょっと! いきなり撃ってくるなんてどういうことよ! 私もいるのに!」
「裏切り者だからじゃないの?」
「でも、私達が死んだら困るんじゃ…。」
「とにかく、見てこよう。」
トゥは、そう言い、イルカ達のいるところへ向かった。
そしてルクシャナと共にイルカに跨がり、海中からちょっとだけ頭を出して外をうかがった。
「水軍の砲艦だわ!」
「あれが?」
そこには、鯨のような生き物の上に、砲塔や艦橋などが乗っていた。
「生き物の上に船…。」
その時、流れ弾がこちらに飛んできた。
ルクシャナが叫びそうになったので、トゥは、その口を手で塞いで水の中に一緒に潜った。
「もが…! なにすんのよ!」
「見つかっちゃうよ。」
「む…。」
「とにかく逃げよう。」
「どこによ。」
「ルクシャナしかこの辺りの地形を知らないんだよ?」
「う…。そう言われても…。」
二人はイルカに乗って、洞窟に戻りながら言った。
そして、トゥは、洞窟に戻ると、ルクシャナの小舟に二人を乗せ、自分は哨戒艇に乗った。
「自分だけそっちの船で逃げる気!?」
「違うよ。私が注意を引いて、二人を逃がすから。」
「私も行く!」
「ダメだよ。」
哨戒艇に乗り込もうとするティファニアを、トゥが止めた。
「でも、トゥさんを一人でおとりになんてできない!」
「……。」
「…トゥさん?」
「…足手纏いだから。」
「えっ…。」
愕然とするティファニアを押して、ルクシャナに頼み、トゥは、船の向きを変えて、エンジンをかけた。
まずは、ゆっくりと前進させ、やがて外へ出るとエンジンを全開にし、猛烈な勢いで哨戒艇を加速させた。
『相棒、酷いこと言うねぇ。』
「ああ言わないと聞かないから…。」
トゥは、少し悲しそうに言った。
やがて、四隻の鯨竜艦(げいりゅうかん)が見えてきた。
トゥは、哨戒艇を操りながら考えた。
ここは聖地なのかと。
ここに、ヴィットーリオが言っていた魔法装置があるのかと。
しかし……。
「デルフ。」
『あんだ?』
「あなたは、サーシャさんが作ったんだよね?」
『さあな。けど物心ついたときにゃあいつの手に握られてたな。』
「そう…。でもどうして忘れっぽいんだろう? それってエルフが作ったからなのかぁ?」
『どういうこった?』
「都合の悪いことを忘れる。サーシャさんがそうしたのかは分からないけど。もしかしたら…、隠したかったのかもしれないよ。」
『……。』
「どうしても聖地のことを…、ゼロ姉さんのことを、隠したいから話したくても話せなくなってるんじゃないのかな?」
『…かもしれねぇな。なんでか喋ろうとするとブレーキがかかっちまうんだ。』
「……嫌いだったのかな?」
『なに?』
「サーシャさんは、ゼロ姉さんのことが嫌いだったのかなぁ?」
『……さぁな。俺は使い手の心の中までは分からねぇ。っと、言ってる間に…、相棒来るぜ。』
「うん。」
やがてこちらの存在に気づいた四隻の艦隊が砲塔をこちらに向けてきた。
放たれてくる砲弾を、巧みに操る舵で回避していく。
トゥは、船に積んでいたロケットランチャーを出し、その先を一隻の鯨竜艦に向けた。
「カウンターは、大丈夫だよね?」
『だいじょうぶだ。あれは相当な手練れじゃないとできねぇ。』
「じゃあ、大丈夫だね。」
トゥは、デルフリンガーから確認を取ると、ロケットランチャーの発射スイッチを押した。
砲弾は艦橋に当たり、煙と炎を上げた。
しかし、焼け石に水とはこのこと。ロケットランチャー一発じゃ、艦を迎撃するには至らない。
『どうする相棒?』
「こっちに注意を引ければいいんだよ。これでいい。」
『直接乗り込んで叩くって手もあるぜ?』
「それだとルクシャナの約束を破ることになるよ。殺しちゃいけないから。」
やがて鯨竜艦がこちらに向き始めた。
その間にも砲塔から砲弾が飛んでくる。その狙いはかなりの精度である。
「? 私達を殺したらマズいんじゃないの?」
果たしてビダーシャルは、止めてくれたのだろうか?っという不安がよぎった。
やがて……、光のゲートが…、どこかで見たことがあるゲートが目の前に現れた。
「!?」
全速力で哨戒艇を操っていたトゥがそれを避けられるはずもなく、そのままゲートに突っ込むことになった。
そしてトゥは、ゲートの先にあったルクシャナの小舟の上に投げ出され、誰かにぶつかり、そのまま海に落ちた。
「ぷは!」
慌てて顔をだすと、小舟を捕まえていたらしいエルフ達が慌てた様子で銃を放ってきた。
トゥは、ハッとして海に潜って躱した。
海に潜ると、ルクシャナのイルカがトゥをボールのように跳ばした。
その反動でトゥは、小舟の上に乗り上げた。
「ここは…、洞窟? どうして……、えっ?」
トゥは、血のにおいに気づいた。
そして。
「ティファ…ちゃん?」
そこには、腹を押さえてうずくまっているルクシャナと、銃で撃たれて体中血まみれになっているティファニアがいた。
四隻の艦隊は、囮だったのだ。そして小部隊が洞窟に来て、二人を……。
その時、トゥの中でドクンッと音をたてて何かが胎動した気がした。
「許さない…。」
トゥは、デルフリンガーを抜いてこちらを見ているエルフ達に向き直った。
『相棒! 落ち着け!』
「許さない許さない許さない許さない…。」
トゥの尋常じゃ無い殺気に、エルフ達は蒼白として銃を撃ってきた。
しかしその銃弾は、トゥの眼前で止まった。まるで見えない力に阻まれたかのように止まっている。
青いオーラがトゥの身体から立ち上り、銃弾を防いだのだ。
エルフ達は、それを見て、一人がシャイターン!っと喚き、それは伝染するように恐怖が伝っていって彼らを混乱させた。
「殺す…。」
『相棒ーーー!』
「……ぅさん…
そのか細い声を聞いて、トゥは止まった。
途端、トゥの身体から発せられていたオーラが消えた。
エルフ達は我先にと逃げ出していた。
「ティファちゃん!」
トゥは、ティファニアに駆け寄ろうとしたが、そこに一人のエルフの少女が船によじ登ってきて、ティファニアの頭に銃を突きつけた。
その顔立ちは、ティファニアによく似ていた。
「動くな! 剣を捨てろ! ちょっとでも動いたら、こいつを撃つ。」
「……殺す。」
『相棒! 殺すな!』
「その、手を…どけろ……!」
そのあまりの殺気に少女が硬直した瞬間、トゥが消えた。
そして、ドッとデルフリンガーの峰の部分で少女の首を打ち、少女を気絶させた。
少女が倒れた後、ゼヒゼヒ、ゼーゼーと過呼吸気味にトゥは呼吸を繰り返した。
「ティ…ファ…ちゃん。ティファ…ちゃん…。」
『相棒…。よくやった。よく頑張ったぜ…!』
「…ゥ…さ…ん…?」
「! ティファちゃん!」
トゥは、ガバッと顔をあげてティファニアに駆け寄って上体を起こさせた。
「…あぁ…、トゥさん…、来てくれたの…?」
「ここにいるよ? 私は…ここにいるよ。」
「嬉しい…、召喚を唱えたら…トゥさんが来てくれた…。私の居場所…、私、嬉しい…。私とトゥさん…確かに絆が結ばれてたんだって…。」
「ティファちゃん…。ダメだよ…。そんなこと言ったら…最後みたいなこと言わないで?」
「……我が名は…、ティファニア・ウェストウッド…、い、五つを司るペンタゴン…、この者に祝福を与え、我の使い魔と…な、せ…。」
ティファニは、呪文を唱え、力を振り絞って、トゥの唇に自分の唇を重ねた。
「ティファちゃ…、うっ!」
次の瞬間、胸に強烈な、焼ける痛みが走った。
ティファニアの身体に覆い被さるようにトゥは、背中を丸め、痛みに耐えた。
「…はあ……、ティファちゃん? なにを…。」
しかし、もう返事は無かった。
「ティファちゃん? ティファちゃん? ティファ…ちゃん?」
『相棒! 指輪だ!』
「へ?」
『この子の指輪の精霊石を使うんだよ! 急げ!』
「!」
トゥは、ティファニアの指にはまっている彼女の母親の形見の指輪を外し、それをティファニアの身体に当てた。
「お願い!」
やがて精霊石がそれに応えるように輝きだし、徐々にではあるがティファニアの身体の傷を癒やしていった。
しかし……。
「ああ…石が…。」
すでにかなり消耗していた精霊石は、すべての傷を治しきれずに消えた。
ティファニアは、いぜん危険な状態で、ヒューヒューと呼吸していた。
「ティファちゃん…、ティファちゃん…。」
トゥは、涙をこぼしながらティファニアに話しかけ続けた。
自分の中のナニかがささやきかけてくる気がした。
ウタを使えと。
しかしウタを使ってしまったら…。
思い出される、あの白い巨体の怪物…。
「使わない…使わない…。」
頭を抱え、自分にささやきかけてくる声らしきモノに耐えた。
涙があふれてくる。しまいには涎まで垂れてくる。
辛い。悲しい。感情がグチャグチャとなってきて、ささやきかけてくる声に屈してしまいそうになる。
「ルイズ…、ルイズゥ……。」
たまらずルイズの名を呼んでしまう。
「ごめんね…ごめんね…やくそく…まもれ…な……。」
『相棒!』
デルフリンガーの声すら遠く。
トゥの目から光が消えそうになった、その時。
「ルクシャナ!」
男の声が聞こえた。
「……アリィー?」
そこに現れたのは、アリィーだった。
アリィーが倒れているルクシャナに駆け寄る。
「うぅ…あぁあ…。」
「おい?」
「どうしたんだ? 様子がおかしいぞ?」
アリィーの部下であるマッダーフとイドリスがトゥの様子がおかしいことに気づいた。
「おねが、い…。ティファ…ちゃ、ん…たすけ…て…。」
トゥは、そこまで言うと、前に倒れ込んだ。
ティファニアが死にかけたショックで、花に支配されかけてしまうトゥ。
アリィーが来なかったらヤバかったです…。