二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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久しぶりに更新。
ダンジョン飯の二次創作が面白くてこっちが疎かに…。


自由都市エウメネスでの、ティファニアとの会話が主かも。

そして、序盤、ちょっとトゥが狂気に…。


第百六話  トゥとティファニアの想い

 

 トゥは、稼いだ小銭を入れた袋をしまい、歩いていると、後ろから声をかけれた。

 振り返ると、通りの向こうから重そうな荷物を担いだ男が走ってきた。

 エルフではなく、人間だった。年は、五十ぐらいだろうか。

「いやいや、こんなところで出会うとは、まったく奇遇ですな!」

「あの…、すみません。どちら様ですか?」

「ええっ、奥様、もしかして、あっしを忘れちまったんですかい?」

「すみません…。」

「ああ、だから貴族様ってのは……、ほらっ、あっしでさあ、トリスティンのブルドンネ街で、あのお喋りな剣を売った。」

「ああ! あの武器屋さんの!」

 トゥは、ようやく思い出した。この人は、デルフリンガーを売っていた店の店主だったのだ。

『おうおう、お喋りな剣ってのは、俺のことか? このボンクラ店主!』

「お、なんだ、おめえ! デル公じゃねーか!」

『ひっさしぶりだな。会いたくなかったぜ。』

「ったく、相変わらず口の悪いこったな! 奥様、そんなやかましい剣でいいんですかい?」

「デルフでいいの。」

『そういうこった。』

「ところで、どうしてここにいるんですか?」

「聖地回復連合軍についてきたんでさあ。なんといっても手前どもは武器を商っておりますからな。エルフとの戦争が起きれば、商売のチャンスってことで、へえ。」

「せいちかふくれんごう?」

「へえ、先日ロマリアの教皇様が中心になって組織されたでさあ。いよいよ、聖地を取り戻す準備ができたとかで、へえ。」

「……まずいよ…。」

 トゥは、だくっと汗をかいた。

「どうしたんでさあ?」

「…なんでもない。」

「いやいや、尋常じゃない汗ですぜ?」

「…間に合わない……。」

「?」

『相棒…。』

 トゥは、頭を両手で押さえ、ブツブツと呟きだした。

『な、なあ! 親父! その軍はどこまできてんでい!?』

「あ? 確か…、アーハンブラに宿営地を設けたって聞いたぜ?」

『もうすぐそこじゃねーかよ!』

 デルフリンガーは、トゥを正気に戻すために話題を変えようとしたが、失敗したというふうに声を上げた。

 しかしすぐに、イヤ待てよ…っとデルフリンガーは呟いた。

『なあ、相棒! ってことはだぜ、ピンクの娘っこに会えるぜ!』

「…ルイズ…。」

『そうだぜ! あいつは、聖女って祭り上げられてんだ! 必ず前線にいるはずだ! もうすぐ会えるぜ!』

「会える? ルイズに?」

『おう! 会えるぜ!』

「…そっかぁ…。」

 トゥは、笑った。

 武器屋の店主は何が起こったのか分からずキョトンとしていた。

「あの、店主さん!」

「な、なんですかい?」

『まあ、待て相棒。なあ、店主よう。女王さんも来てんだろ?』

「? そりゃ当然だろ?」

『女王に伝えてくれよ。ここに相棒がいることを。』

「なんでおまえに頼まれにゃならねぇんだ?」

「私からもお願い!」

「う…、うう、わかりやした。」

 武器屋の店主は、トゥとデルフリンガーの頼みを聞いてくれた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 夕暮れ。

 施療院に戻ると、ティファニアとルクシャナは、もう手助けなしでも歩けるようになっていた。

「ティファちゃん、よかったね。」

「ええ。」

 二人は笑い合った。

 しかし、砂漠を横断するには傷の手当てがもっと必要で、三日三晩は水の魔法をかけ続ける必要あった。

 そう何日も滞在するわけにはいかない。

 ルイズ達と合流する必要があるし、何よりいくら鉄血団結党が来ないとは言え、向こうはこちらを血眼になって探しているだろう。だから何かしらの形でここに手が入ったらお終いだ。

 今現在いるのは、アリィーがとった宿だ。それほど上等ではないが、シーツはちゃんと清潔だ。

 隣のベットではルクシャナがスースーと寝息を立てている。

 アリィーは、砂漠を横断するためのラクダを確保するために出かけている。

「ティファちゃん…、私、甘かったのかな?」

「どうしたの?」

「あの女の子…、ティファちゃん達を酷い目に合せた子。解放しちゃった。」

「ううん。トゥさんは、優しいのよ。間違ってない。」

「そう?」

「うん。」

「なら…よかった。」

 トゥは、切なそうに微笑んだ。

「でも、ちょっと残念ね…。あの子とは、もっと話したいことが色々あったけど。」

「いつか、話せるよ。」

「うん…。」

「もうすぐルイズに会える。みんなとも会えるよ。」

「もうすぐそこまで来ているのね。」

 ティファニアに、聖地回復連合軍が近くまで来ていることは話した。

「もうすぐこの旅も終わるのね…。」

「ティファちゃん…。」

「ごめん。もうすぐみんなと再会できるのに、こんなこと言ってちゃいけないわね。」

 シュンッとうつむくティファニア。

 そんなティファニアの頭をトゥは撫でた。

「ごめんなさい…。」

「どうしたの?」

「……好きになっちゃって、ごめんなさい。」

「ううん。いいんだよ。」

「でも、トゥさんには、ルイズがいるから…。」

「いいんだよ。」

「どうして? どうしてそんなに優しくしてくれるの?」

「? どうして? どうしてティファちゃんを責められるの?」

「トゥさん…。」

 ティファニアは、涙を浮かべた。

 そんなティファニアの目元を、トゥは指で拭った。

「ティファちゃんは、良い子。」

「ううん。私、悪い子。大切な人がいる人を好きになった悪い子。」

「たまたま好きなった人がそうだっただけだよ。ただ、それだけの話。でも、ティファちゃんは、ちゃんと考えてるよね? 好きになった相手のことと、その人の大切な人のことを。」

「わ、私は…。」

「人によってはね。意地悪してきたり、仲を裂こうとしたりとかって強硬手段に出たりするのに、そんなことしないでしょ?」

「そんなことしないわ。そんなことをしてもどっちも不幸になるだけよ。」

「そう。そういうことを考えられるってすごいんだよ。すごく優しいことなんだよ。」

「トゥさん…。私…、トゥさんを好きでいていいの?」

「いいよ。私がいなくなった後、私じゃない人を好きになるときに、とても良い経験になるよ。」

「そんなこと言わないで。私、トゥさん以外を好きになれる気がしないの。」

「……ごめんね。」

 自分にはもう、時間が無いのだとトゥは、切なく笑い、ティファニアの頭を撫でた。

 ティファニアは、涙ぐんだ。そして、やがてヒックヒックと泣き出す。

「なに泣かせてんのよ?」

 目を覚ましたルクシャナが呆れたように言った。

「あー、やだやだ、蛮人ってところかまわずイチャイチャ、チュッチュしちゃって、あー。」

「えー? してないよ。」

「ところでさぁ…、あんた時間が無いって言ってたけど、それどれくらい?」

「…わかんない。」

「はっきりして。あんたは、世界の存亡に関わっているのよ? 海母の話が本当なら、悪魔であるあんたは、生きてるだけで近いうちに世界を滅びしちゃうのよ?」

「分かってる。」

「本当に?」

「自分がよく分かってるよ。コレ(花)がいずれ世界を滅ぼすっていうのは…。」

「いずれじゃないわ。もうすぐよ。」

 ルクシャナがぴしゃりっと言った。

「あと、あんた達の仲間がいるって言う、蛮人達の軍がすぐそこまで来てるって話、本当?」

「うん。たぶん。」

「聖地を奪いに来たの? それともあんた達を取り返しに?」

「たぶん、両方だと思う。」

「あんた達を引き渡せば、軍は止まる?」

「それはないと思う。」

「どうして?」

「教皇聖下さんは、何を考えてるのか分からないところがあるし…、そもそも聖地回復連合軍なんて名前だし…、何もしないで帰るなんてありえない。」

「あのね。私は自分の信念と、ちょっとした学術的好奇心で、あなた達を助けたわ。でも、悪魔に協力する気は無いの。もし、あなた達の仲間がエルフの同胞を傷つけるなら、その時は、もう助けることはできないわよ。」

「聖地…をちょっとだけ貸してくれってことじゃないのかな?」

「はあ?」

「教皇聖下さんが、聖地何をしたいのか分からないけど、少なくとも今までの歴史で争ってお互いが傷ついても意味が無いってことは分かってるはずだよ。だから、ちょっとだけ、聖地を貸してくれれば戦争は起きないんじゃないかな?」

「その確証は?」

「……ない。」

「は~~~~~。」

 ルクシャナは、呆れたと思いっきり長いため息を吐いた。

「なんであんたみたいなアホっぽい女が悪魔なのよ?」

「そんなこと言われても…。」

「まあいいわ。ともかく、何もしないよりはマシってことね。あんた達の仲間のところに行ってみましょう。」

「ありがとう。」

 トゥは、そうお礼を言って微笑んだ。

 ルクシャナは、それを見てまたため息を吐いた。

 

 その後、間もなくアリィーが部屋に飛び込んできた。

 そして彼は言った。エウメネスが、鉄血団結党の軍に取り囲まれていると。




聖地に教皇聖下達が迫っていると聞いて、花の狂気に支配されかけたトゥ。
彼女には、もう時間がありません。

物語もいよいよ、最後に迫ってきています。

次回は、火石によるエウメネス壊滅を防ぐための戦いが始まる。

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