二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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いよいよ、物語も終わりに近づいてて、心音がバクバクです。はい。

フーケとの思わぬ再会と、エスマーイルの計画を聞くの回。


第百七話  トゥ、思わぬ再会と、恐るべき計画を知る

 

 鉄血団結党の軍が自由都市エウメネスを包囲していると、部屋に飛び込んできたアリィーが言った。

「まったく、余計なことをしてくれたよ。」

 アリィーは、トゥを睨んだ。

 彼は、トゥがファーティマをわざと逃がしたと疑っているのだ。

「それにしても動きが速すぎるわ。どのみち、私達がエウメネスに来ることはバレてたでしょうね。」

 ルクシャナが助け船を出した。

「…とにかく、早くこの街から出た方がよさそうだ。」

「そうだね。ティファちゃん、起きれる?」

「うん。」

 その時、アリィーの耳がぴくっと動いた。

「誰か来る。」

「えっ?」

 アリィーは、鋭い目でドアの方を睨んだ。

「アリィー、あなた、つけられたんじゃない?」

「注意を払っていたつもりだったんだが。」

「待って。私が行く。」

 トゥは、デルフリンガーを手にし、ドアに近づいた。

 そして、ドアの横に立つ。

 ドアの向こうから足音がする。明らかに素人じゃない足音だ。

 その足音がドアの前で止まった直後、トゥは、ドアを開け、素早くその人物の腕を掴んで引っ張り込み、その首元にデルフリンガーの刃を当てた。

「あ…。あなたは…。」

「ふん、中々ずいぶん物騒な挨拶じゃないか。」

 フードが反動で外れ、その人物はニヤリっと笑った。

 彼女は、ハルケギニアの大盗賊、土くれのフーケだった。

「…なんだ? 知り合いか?」

「マチルダ姉さん!」

「ああ、ティファニア。無事でよかった。」

 トゥは、フーケを解放し、駆け寄ってきたティファニアとフーケは抱きしめ合った。

「どうして、あなたがここに?」

「ふん、ご挨拶だね。ロマリアの依頼で、あんた達を助けに来てやったのにさ。」

「ロマリアの?」

 トゥは訝しんだ。

 あの教皇聖下が…。待てよと、トゥは思った。

「もしかして、救出に失敗したら、私達のこと始末するって依頼されてた?」

「ご名答。」

 フーケとしては、ティファニアを始末するなんてできなかっただろうから、何らかの形でティファニアだけは救出しようとしただろう。

 やっぱりっと、トゥはため息を吐いた。ロマリアのやり方は分かっていたつもりだが、こうも目の当たりにするとうんざりする。

「さて、そんなわけで、無事に会えたことを喜びたいところだけど……、あいにく、旧交をあたためてる時間は無いよ。一刻も早くこの街を出るんだ。」

「鉄血団結党のことでしょ?」

「それだけなら、まだいいけどね。」

 するとフーケは、声を潜めた。

「連中…、この街をまるごと吹き飛ばすつもりさ。」

「なんで!?」

「おい、聞き捨てならないぞ、どういうことだ!?」

 そしてフーケは、水軍に潜伏している時に、鉄血団結党のお偉いさんが、火石を用意して、この街ごと、悪魔と虚無の担い手を消し去るつもりだということを聞いたと語った。

 トゥとティファニアは、言葉を失った。

「でも…。ここには、たくさんのエルフ達が住んでるんだよ?」

「そうだ。鉄血団結党は、イカれた連中だが、さすがに同胞を殺すことはしないだろう。」

「それはどうかしら?」

 っとルクシャナが言った。

 エウメネスは、蛮人と交易がある街である。それに元々は、罪を犯した者達の流刑地であったことから、鉄血団結党のような掟を重視しすぎる狂信者達にとっては、目の上のたんこぶだったのではないかと。

「それはそうだが……、いや、あのエスマーイルなら、やりかねんか…。」

「まったく、エルフってのは、ずいぶんと文明的な連中だね。」

「一緒にしないで、エルフは、平和と知性を愛する種族よ。」

 フーケの言葉にルクシャナが反論した。

「ま、とにかく、連中が大量の火石をここに運び込んでいるのは事実だ。この街と心中したくなけれりゃ、さっさと逃げることさ。」

「だめよ…。」

「ティファニア?」

「私達のせいで街が巻き添えになるなんて、そんなの、絶対にダメ。」

「あんたの気持ちは分かるよ。優しい子だね。ティファニア。でもあの人数のエルフ相手じゃ、どうしようもない。ここに残ったところで無駄死にするだけさ。」

「でも……。」

「ダメだよ。」

「トゥさん…。」

「この街を見捨てて、私達だけ助かってもいけない。」

 トゥの脳裏に、賑やかな街並みの光景が過ぎった。そこには、エルフも人間も関係なく友好が築かれているのだ。

 この街は希望なのだ。人間とエルフの未来の。

 そう思うと、見捨てるなんてできない。

「フーケさん。ティファちゃんを連れて逃げて。私が火石をなんとかするから。」

「私も行く!」

「ダメだよ。危険だから。」

「お願いトゥさん! 一人で行かないで! 私にも何かできることがあるかもしれない。それに、もう離ればなれになるのはイヤなの!」

「ティファちゃん…。分かった。」

「僕も行くぞ。さすがに同胞の危機は放っておけないからな。」

「もちろん、私も行くわよ。」

「おいおい、君も来るのか?」

「平気よ。あなた達みたいに剣を使うことはできないけど、精霊の行使に関してはそれなりに自信があるの。」

 自信たっぷりに笑うルクシャナにアリィーはため息を吐いた。

「とめても無駄だろうな。」

「ええ。でも、あなた、そんな私に惚れたんでしょ?」

「む……。ああ。そうだよ! 君には逆らえない。まったく! だけど、絶対に無理はさせないぞ。君に何かあったら、僕がビダーシャル殿に殺されちまう!」

「好きよ。アリィー。」

 ルクシャナがアリィーの頬に軽くキスをした。

「あんた達、正気かい? まあ、あんた達がどうなろうが、こっちは知ったこっちゃないけどね。ティファニアは、ダメだ。あたしが連れて行くよ。」

「マチルダ姉さん! お願い……、マチルダ姉さんだって、本当は街を見捨てたくないないでしょ?」

「…そりゃ、私だって寝覚めが悪いよ。でも、私は、この街より、ティファニア、あんたの方が大事なんだ。」

「ティファちゃんは私が守る。」

「その言葉、信じていいのかい?」

「うん。」

 フーケは、じーっとトゥを睨んだ。

 やがてフーケは、大きくため息を吐いた。

「やれやれ、七万の軍を止めた英雄さんには、何を言っても無駄さね。」

「いいの?」

「その子が自分で決めたことだからね。ただし、もしティファニアに何かあったら、この私があんたを殺す。いいね?」

「分かった。」

 トゥは、頷いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして作戦が練られた。

 まず火石であるが、火石を爆発させるには、途方もなく強い精霊の力が必要になるのだとルクシャナが言った。

 ジョゼブとミュズニトニルンは、虚無の力を用いて火石を暴走させることで爆発させていたが、実際に使おうと思うと色々と大変らしい。本来、火石にはとても強力な結界があり、エルフの先住魔法をもってしても、その結界を壊すのは至難の業らしい。まあ、あれだけの爆発力を秘めているのだ、それだけの強固な力で固めないとできないのだろう。

 フーケが盗んできた水軍の地図を広げ、その場所を指す。

 ソフィア大祭殿。

 灌漑(かんがい)工事をする時や、日照りが続いた時に雨を降らせるなど、大きな精霊の力を借りたい時に使われる特別な施設らしい。

「時間はまだあるの?」

「ええ。火石を爆発させるには、大がかりな儀式が必要になるわ。それに儀式が完了してから、実際に火石が爆発するまでの時差もあるはずよ。いくら連中がイカれてるっていっても、さすがに、この街と心中する気はないでしょうし。」

「……どうかな?」

「なによ?」

「ううん。じゃあ、この街の人達を避難させることは?」

「無理よ。そんなことをしている時間もないし、そもそも、エルフの同胞がそんなことをするなんて、信じるわけないわ。」

「そんなことをしてたら、私達が先に連中に捕まっちまうよ。」

 フーケがルクシャナの言葉に同意した。

「やっぱり、その大祭殿に乗り込むしか…。」

「しかし、街には鉄血団結党の連中がうじゃうじゃいるぞ、どうするんだ?」

「…しかたないねぇ。私が囮になるよ。」

「えっ! フーケさん、大丈夫なの?」

「マチルダ姉さん…。」

「ふん、私は土くれのフーケだよ。なに、エルフ相手にまともに戦おうなんて思っちゃあいないさ。私は攪乱の方が得意なんだ。」

 フーケは、そう言って不敵に笑った。

「じゃあ、お願いします。」

「任せときな。」

 方針が決まり、地図を丸め、そして一同は旅装束を身にまとった。

 

「…ほんとは、あいつと合流したいとこだけど…、まったく、どこで油売っているんだか…。」

 フーケは、小さくボソボソと言ったのだった。




次回は、エスマーイルと彼が率いる鉄血団結党のエルフ達との戦い。
そしてワルド再登場。

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