二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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ワルドとの一回戦目。

あとトゥがワルドから…という展開です。


第八話  トゥ、ワルドと戦う

 

 

 ラ・ローシェルの港町の入り口に差し掛かったが、どこにも船がなかった。

「あれぇ? 港町だよね? 船は?」

「君はアルビオンを知らないのかね?」

「知らないの。」

 ギーシュの問いかけにトゥは、首を振った。

 その時、横の崖から、火のついた松明が投げ落とされて来た。

 火に慣れていない馬は、驚き、ギーシュとトゥを放り出した。

「敵!」

 照らされた道に向けて矢が降り注いできたので、トゥは大剣を盾として使い、ギーシュを矢から守った。

「すまない!」

「いいから逃げて!」

 お礼を言うギーシュと、逃げろと訴えるトゥ。

 次から次に降って来る矢を、トゥは、剣を振るって防いだ。

 別方向から飛んできた矢を、小さな竜巻が防いだ。

「大丈夫か!」

「私達は大丈夫!」

 ワルドがグリフォンに乗ったまま駆けつけて来た。

「アルビオンの貴族の手の者かしら!?」

「いや、貴族なら弓矢は使わないさ。」

 グリフォンに乗っているルイズの言葉に、ワルドがそう答えた。

 その時、バサバサという羽音が聞こえて、崖の上の敵が騒ぎ出した。

「あれは、シルフィードちゃん!」

 トゥ達に向けられていた矢が上を飛ぶ、風竜・シルフィードに向けられた。

 風の衝撃が起き、崖から敵が次々に落ちてきてしこたま身体を地面に打ち付けて呻いた。

「トゥちゃーん!」

「あれ?」

 その聞き覚えのある声にトゥは、首を傾げた。

 風竜が降りてきて、タバサと、キュルケが降りて来た。

「キュルケ! どうしてここに!」

「朝起きたらあんた達が出かけようとしてたから、タバサを叩き起こして追いかけて来たのよ。何か面白そうなことしてんでしょ?」

「お呼びじゃないのよ! それにこれはお忍びなの。」

「お忍び? それならそうと言いなさいよ。とにかく感謝してよね、あなた達を襲っていた連中を捕まえたんだから。」

 ルイズ達を襲っていた連中は、地面に落下したことで怪我をして動けず、こちらを睨み、罵声を浴びせてきていた。

 そんな彼らにギーシュが近づき尋問を始めた。

 トゥは、トゥで、シルフィードを撫でていた。

 キュルケは、ワルドに近寄ろうとした。

「助けてくれたことは感謝するが、それ以上近づかないでくれたまえ。」

「あらん。なんで?」

「婚約者がいる手前、誤解されると困るからね。」

「えー! あんたの婚約者だったの!」

 キュルケは、つまらなさそうに言った。

 ルイズは、頬を染めていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一行は、キュルケとタバサを加えて、港町へ入った。

 街一番の宿をとり、一階の酒場でくつろいだ。

「うん。美味しい。」

「トゥちゃんって、美味しそうに食べるわね。」

「えへへ、本当に美味しいんだもん。」

「じゃあ、これ、飲む?」

「なにこれ?」

「いいからいいから。」

 そう言ってキュルケは、一杯の飲み物をトゥに飲ませた。

 そこへ、桟橋から戻ってきたワルドとルイズが来た。

「アルビオンへの出航は、明後日になるそうだ。」

「急ぎの任務なのに…。」

「ルイズー。」

「きゃっ!」

 トゥがルイズに飛びついた。

 押し倒されたルイズは、床に頭を打った。

「ルイズ、ルイズ、えへへへ。」

「う……。トゥ…あんた…、酒くさ!」

 顔色は変わってないが、口から強烈なアルコール臭がした。

 視界の端で、キュルケがバンバンと机を叩きながら笑いをこらえているのが見えた。

「キュルケーー! あんたトゥに何飲ませたのよ!」

「この店一番の度数を誇る逸品を一杯よ。」

「ルイズ…、ルイズ、しよう?」

「きゃっ! くすぐったいじゃないの! ぼ、ボタンも外さないでよ…!」

「頭を冷やしたまえ。」

 そう言ってワルドは、冷水をトゥの頭にかけた。

「冷たい!」

「目が覚めたかい?」

「ふえ?」

 酔いがさめたトゥが目をぱちくりさせた。下を見ると、服が乱れた涙目のルイズがいる。トゥは、状況が理解できなかった。

 見かねたワルドがトゥをどかし、ルイズを助け起こした。

「大丈夫かい?」

「うう…、トゥの馬鹿…!」

 ルイズは、恥も忘れてワルドにしがみついた。

「ごめんなさい…。」

「帰ったらまたしつけよ!」

「えー。」

「ま、またアレをやるのかい!?」

「なに期待してんのよ…あんた…。」

 その言葉を聞いてすぐさま反応したギーシュに、キュルケが呆れ顔でツッコんだ。

 ところで、部屋割りであるが、トゥは、ギーシュと同部屋になった。あまりのことに大混乱するギーシュとは反対に特に文句もないトゥ。

「ワルド…、トゥをギーシュと一緒にするのはちょっと…。」

「ルイズ、君と大事な話があるんだ。トゥ君には悪いが我慢してもらおう。」

「いや、そうじゃなくて…。ギーシュ! 絶対に手を出すんじゃないわよ!」

「ぼ、ぼぼぼぼぼ、僕は女性には誠実であろうとする男だ! そ、そそ、そんなことはしない!」

「動揺しまくってるじゃないの。今夜眠れないわね?」

「えっ? 眠れないの? 子守歌歌ってあげようか?」

「こ、こここ、子ども扱いしないでくれたまえ!」

 動揺しまくりのギーシュに、笑いが起こった。

 

 結局、ギーシュは、ギンギンに眼が冴えて眠れなかったため、トゥにウタってもらって眠った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌朝。

 ドアをノックする音がしたので、目が覚めたトゥは、目をこすりながら起き上がり、ドアを開けた。

「やあ、おはよう。」

 ワルドがドアを開けると立っていた。

「…おはよう。でもまだ眠い…。」

「寝ていたところ悪いが、ちょっといいかい?」

「なぁに?」

「君は、ガンダールヴなんだろう?」

「がんだーるヴ?」

「おや、知らないのかい? 君の左手にあるルーンのことさ。」

「これが?」

 トゥは、左手の布を取ってルーンを見た。

「フーケを捕えたのは君だと聞いている。それで興味を持って調べてみたら、伝説のガンダールヴに行き着いたんだ。そこでだ。僕はそんな君の腕に興味がある。ひとつ手合わせをしてもらいたいんだ。」

「てあわせ?」

「君と戦いたい。」

「えー?」

 トゥは、眠さも相まって興味なさげに声を漏らした。

「やだぁ…。」

「そう言わず…。」

「眠い…。」

「試合が終わったら、すぐに寝てくれていいから。この通りだ。」

「むう…。分かった…。」

 トゥは、そう言って頬を膨らませた。

 トゥの了承を得られて、ワルドはホッとした。

 

 

 ワルドに連れられて、昔の錬兵場へ来ると、ルイズがいた。

「あれ、ルイズ?」

「ワルド、来てくれって言うから来たけど、トゥを連れて来るなんて、どういうこと?」

「君に、介添え人になってもらいたい。」

「はあ? つまり…トゥと戦うってこと!? ダメよ!」

「おや、心配をしているのかい?」

「そ、それもあるけど、トゥは…。」

「大丈夫、残る傷はつけたりしないよ。」

「早くしようよ。」

 トゥが焦れていた。

「も、もう知らないんだから!」

「じゃあ、介添え人も来たことだし、始めよう。」

 ワルドが杖を抜いた。

 トゥも大剣を構えた。

「君から来るといい。」

「じゃあ、行くよ。」

 トゥが走った。

 その速度にワルドは、一瞬目を見開き、下から振り上げられた大剣を杖で防ごうとしたが、その一撃の重たさに杖がワルドの手から弾き飛ばされた。

「な…っ。」

「えい!」

「待って、トゥ!」

 杖を失ったワルドとワルドを切ろうと剣を振り下ろそうとしたトゥの間にルイズが割って入った。トゥは、寸前で剣を止めた。

「ワルドは杖を失ったわ。あなたの勝ちよ!」

「えー。もう終わり…? むう…、つまんない!」

「うっ…、耳の痛いことだ。」

 ブーブー文句を言うトゥの言葉に、ワルドは苦笑いを浮かべた。

「ふわぁ…。もう眠いから、部屋帰って寝る。」

「ああ、すまないな。ゆっくりと眠ってくれ。」

 そう言ってトゥは、宿に戻った。

 残されたワルドとルイズ。ルイズは、ワルドを見上げた。

「分かったでしょ? トゥは、強いのよ! なんであんなに強いのか分からないけど。」

「ああ…、驚いたのよ。あれは、日常的に殺戮をしていた者の腕だった。ガンダールヴのルーンの力だけじゃない。彼女自身が恐ろしく腕の立つ剣士だった。彼女の外見に騙されて完全に油断していたよ。」

「それだけじゃないわ。」

「なんだい? 他に何かあるのかい?」

「私にもよく分からないわ。だけど、トゥには、メイジと違う力がある。ものすごい力よ。フーケのゴーレムもあっという間に倒すほどすごい力。」

「そんな力があるのかい…。」

「だから、ワルド。何を思ったのか分からけど、トゥと戦うのはやめて。」

「ああ…。もうしないよ。」

 そう言ってワルドは微笑んだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 トゥは、宿に戻ってベットでぐっすり眠った。

 ギーシュが起きても寝ていた。

 日が高くてなってやっと起きたトゥは、朝ごはん兼昼ご飯を食べ、港町を散策した。

「やあ。」

「ワルド…さん?」

「少し話をしないかい?」

「なぁに?」

「ここではなんだ、そこの路地裏に入ろう。」

 二人は路地裏に入った。

「話って何?」

「…君は、まだ隠していることがあるようだね。」

「ルイズから聞いたの?」

 ワルドが聞こうとしていることをなんとなく察して、トゥが言った。

「その力はいったい…。」

「分からない。覚えてないもの。」

「君は記憶が…。」

「名前も覚えてなかった。剣に名前があったからたぶん私の名前かもって思ったの。剣を持つとね、体がふわーって軽くなって、戦えるの。不思議だね。全然覚えてないのに。」

「君と戦ってみて分かった。君は日常的に戦っていたんだ。魔法衛士を束ねる隊長である僕が保証するよ。君はとてつもなく戦いに慣れた戦士だ。」

「そうなの?」

「それでなんだが…、君は、レコン・キスタを知っているかい?」

「レコン…、キスタ…?」

「貴族で構成された、アルビオンの反乱軍さ。エルフ共が守っている聖地を奪還することを掲げている組織だ。そこに境界はない。」

「エルフ? せいち? なにそれ?」

「…分からなくていい。そこでだ、君、レコン・キスタに来ないかい?」

「えっ?」

「君はメイジじゃないが、レコン・キスタは、今強い戦力を必要としている。ルイズのもとでは、存分に戦えないだろう? 腕が鈍って仕方ないんじゃないのかい?」

「うーん…、ちょっとつまらないけど…。」

「どうだろうか? ぜひ、レコン・キスタに来てはくれないかい? 僕からの紹介なら、彼らも君を受け入れるだろう。」

「ワルドさんは…、レコン・キスタなの?」

「そうさ。だけどこのことは、そしてここでの話は誰にも話しちゃいけない。約束してくれ。でないと……。」

 ワルドが杖の切っ先をトゥの首に突きつけた。

「僕と、そして5万の反乱軍が君の敵に回ることになる。そうなればルイズ達の命はない。」

「……。」

「返事は、アルビオンで聞かせてくれ。いい返事を期待している。」

 ワルドはそう言ってマントを翻し、去っていった。

 残されたトゥは、デルフリンガーを抜いた。

『なあ、相棒…。聞いてたぜ?』

「どうしたらいい?」

『俺に聞くな。俺は剣だ。使われてこその武器なんだ。使い手の意思に逆らえねぇ。おめぇが決めることだ。』

「……うん。」

 トゥは、デルフリンガーを鞘に納め、街の散策を再開した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その夜。

 二つの月が、重なって一つになっていた。

「あれ?」

 トゥは、一つだけの月を見て首を傾げた。

 よく覚えていないが、実は二つの月には違和感を感じていた。

 だが一つとなった月を見たらしっくりきた。

「私…この世界の…。」

「トゥ。」

 そこへルイズが来た。

「なぁに?」

「……ねえ、トゥ。私、ワルドに結婚を申し込まれたわ。」

「わあ、おめでとう!」

「……あなたならそう言うと思った。」

 しかしルイズの顔色は優れない。

「どうしたの?」

「いいえ…、なんでもない。」

「そう?」

「結婚してもあなたは私の使い魔。忘れないでよ?」

「うん。ねえ、ルイズ、あのね…。」

「なによ?」

「あっ、ごめん。なんでもない。」

 ワルドから他言しないよう言われていたのを思い出したトゥは、そう言い直した。

 ルイズは、トゥが何隠しているのを見て取った。

「トゥ…、何か隠してない?」

「な、なにも隠してないよ。」

「嘘おっしゃい! 絶対何か隠してるでしょ! 言いなさい!」

「イヤ!」

「言いなさい!」

「イヤ! …あっ!」

「なに? …えっ?」

 次の瞬間、トゥがルイズを抱えてその場から部屋の中に飛んだ。すると二人がいたベランダが砕けた。

 巨大なゴーレムの拳によって。

「な、なに? ゴーレム!?」

「ルイズ、あれ!」

 トゥが指さした。

 その先には巨大な土のゴーレムの肩に乗ったフーケがいた。

「フーケ!? 投獄されたはずじゃ…。」

「またやっつけてやるんだから!」

「待って、トゥ! ワルド達にこのことを伝えないと!」

「分かった。」

 トゥとルイズは、部屋の中を駆け抜け、一階へ駆けおりた。

 下に降りると、一階の酒場も修羅場だった。

 ワルド達は、傭兵の一団を相手に戦っていた。

「ルイズ! トゥちゃん!」

 キュルケが叫んだ。

「私がやる!」

「ダメよ、トゥ!」

「なんで!?」

「だってあなたの力は…。」

「ルイズ、彼らが囮になってくれる! 裏口へ!」

 ワルドが叫んだ。

「分かったわ…。でも…。」

「私達は、大丈夫。行きなさい!」

 キュルケが叫んだ。

「行こう、ルイズ!」

 トゥがルイズの腕を取って走った。

 ワルドも続き、背後で爆発音や怒声が響いた。

「あっ!」

「ルイズ!」

 トゥに引っ張られていたルイズがこけた。

「ルイズ、大丈夫!?」

「あんた足速いのよ!」

「じゃあ…。」

「きゃっ!」

 トゥがルイズを抱きかかえた。

「しっかり掴まって!」

 トゥは、ルイズを抱きかかえたまま走った。

 ルイズは、走る振動に、咄嗟にトゥの首に手を回して抱き付いた。

 

 ワルドと共に、トゥとルイズは、桟橋へ向かって走った。

 

 




ワルドから勧誘されるトゥ。

トゥってなんとなく、酔っても顔色変わらなさそうというイメージ。

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