果たしてゼロ以外のウタウタイに花が咲くかは分かりませんが…、そういう設定でお願いします。
2017/05/15
後半、一部書き換え。
礼拝堂の外で、空を眺め、高台から足をプラプラさせていたトゥに、デルフリンガーが話しかけた。
『なんで見ないんだよ? なんかトラウマでもあんのか?』
「全然違う。そんなんじゃない。ただ…、ちょっとね…。」
トゥは、太ももに肘を乗せて手の上に顎を乗せた。
「私にも…運命の人がいたのかな?」
『俺が知るわけないだろ?』
「そうだよね…。ごめん。」
トゥは、右目を擦った。
『どうした、ゴミでも入ったか?』
「違う…。」
『はっ?』
「目が…。ああ…。」
ゴシゴシと乱暴にこすりだした。
「……あれ?」
『今度はどうした?』
「何か見える…。これ…礼拝堂の中? ルイズ?」
ルイズの視点と思われる映像が左目に浮かんでいる。
トゥは、その映像をジッと見た。
ルイズが、なんだから結婚を嫌がっている。
ワルドがそんなルイズの肩を掴んで、嘘だろうという風に言っている。
拒否するルイズを、残念だというワルド。
そして、ワルドが…。
ウェールズを……。
「ルイズ!」
トゥは、大剣を握り、デルフリンガーを取って礼拝堂のドアを蹴破った。
今まさに、ウェールズが鮮血を散らして倒れた瞬間だった。
ルイズの悲鳴が木霊した。
「ワルド! どうして!」
「僕の任務なんだよ。」
ワルドは、トゥの問いかけにこともなげに答えた。
「トゥ!」
「残念だよ、ルイズ。」
「キャア!」
ワルドの魔法でルイズは跳ね飛ばされ、床に転がった。
「ルイズ!」
「ライトニング・クラウド。」
ワルドが瞬時に唱えたライトニング・クラウドを、トゥは、バックステップで避けた。
「何度も喰らわないよ!」
「おや? もしかしてばれてたかい?」
「声が同じだったもん!」
「ふふ、そうか。だがこれならどうかね?」
ワルドが呪文を詠唱した。
「ユビキタス・デル・ウィンデ…。」
するとワルドが、本体を含めて六人に増えた。
「!」
「どうだこれが風が最強である所以だ! 風は偏在する!」
トゥを取り囲んだワルドが詠唱したり、杖を剣のように扱ってトゥを攻撃した。
トゥの剣が振るい杖を受け流し、大剣で風の衝撃を防いだ。
「なら!」
トゥが、ウタを使った。青く輝いたトゥの剣がズバズバと偏在達を攻撃した。
「それがおまえの隠された力か!」
偏在が三人減った。
「動くな!」
「!?」
ハッとしたトゥが見ると、ワルドの本体が倒れていたルイズの首を掴んで杖の切っ先を突きつけていた。
「ルイズ!」
「動くな。ジッとしていてもらおうか。」
「う…。」
トゥの体から光が消えた。
「剣を捨てろ。」
『従うな、相棒!』
「……ごめんね。デルフ。」
そう言ってトゥは、剣を捨てて、デルフもゼロの剣も捨てた。
2体のワルドの偏在が左右から詠唱を始めた。
ライトニング・クラウドが放たれ、トゥの体を焼いた。
「きゃああああああああああああああああ!!」
二発のライトニング・クラウドを受け、トゥは、その場に両膝と両手をついた。
「と、トゥ!」
「さあ、ルイズ、彼女のために僕と来るかね?」
「なに!? 何を言っているの!?」
「君がイエスと言うまで彼女を痛めつける。彼女は、凄まじい生命力だが、いつまで耐えられるかどうか見ものだね。」
「やめて!」
しかしワルドは、偏在を操り、再びライトニング・クラウドを放った。
稲妻が通電するたびにトゥが悲痛な悲鳴を上げ、体が焼けて煙が出て、焼けた悪臭が立ち昇った。
「やめて…、やめて!」
「なら、僕と来るかい?」
「っ…私…い…。」
「ルイズ、だめ!」
「まだそんな元気があるのかい? 驚いたよ、普通なら一発で死ぬところなのに。…化け物だな。」
体を引きずって叫んだトゥに、更にライトニング・クラウドが浴びせられた。
断末魔のような悲鳴が上がり、全身を黒焦げにしたトゥが倒れ込んだ。
しかしそれでもピクピクと痙攣する彼女に、ワルドは、息をのみ、ルイズは、顔から出る液体をすべて出して泣いていた。
「いや……、いやあああああああああああああああああああ!」
ルイズは、頭を抱えて叫んだ。
「ぅ、うう……ぐっ……。」
「は、ハハハ。まだ生きているとはね…。本当にバケモノか?」
さすがのワルドも最強の呪文の連発で疲れたのか息が上がっていた。偏在が消えた。
その時、ひと際大きく、トゥの体が跳ねた。
「う、あぁぁ…。」
ゆっくりとトゥの上体が、ゆっくりと起き上がりだす。
「なんだ?」
なにか様子がおかしいことにワルドは気付いた。
「トゥ?」
そして。
「あ、う…、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
大きく後ろにのけ反ったトゥの右目から巨大な薄紅色の花が発生した。
その現象にワルドとルイズが驚愕している間に、花の中心から鮮血が溢れ、そこから人間の手が生えた。
最初に生えて来た手を始めに、頭、肩、胸、胴体と、どんどん生えてくる。
それは、トゥだった。
先にあった黒焦げのトゥは、グズグズに崩れ、花に押し潰されるように消えた。
血塗れの、裸のトゥが花から生えて来たのだ。
「あ、ああ、ああああ…。」
「なんだ、これは…なんだ!?」
ルイズは、ガタガタと震え、ワルドは、ルイズを離して、杖の切っ先をトゥに向けたまま後退った。
ずるりっと花から出て来たトゥの右目には、薄紅色の花が咲いていた。
「…ああ…、私…私……、いやぁ…!」
トゥが、顔を手で覆いながら膝をついた。
そして膝の傍にあったデルフリンガーを握った。
『相棒…おまえ…!』
「デルフ、私…私!」
トゥの目からボロボロと涙が零れ落ちた。顔を汚す鮮血と混じった涙が床を汚す。
「ルイズ…。」
「いや、…いやぁ!」
ルイズは、首を振り、尻餅をついて後退った。
「約束……。」
トゥは、ワルドを見た。
ワルドの体がビクリッと跳ねた。
「おまえは…、一体…!? こんな、こんな…!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
トゥがデルフリンガーを構え、ワルドに踊りかかった。
大量の汗をかいたワルドが杖を構えたが、凄まじい動きを見せたトゥについていけず、ワルドの左腕が斬り落とされた。
「ぐあああああああああああああああ! なんだ、おまえはなんなんだぁぁぁぁぁ!?」
「私は…、私は…、ウタウタイ…。」
「うた…うたい?」
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」
トゥは、狂ったように絶叫しながらデルフリンガーを振り上げた。
その時、地響きが轟き、トゥがふらついた。天井に崩れて穴が空いた。
ワルドは、その隙に、呪文を唱えて浮き上がり、天井の穴から逃げて行った。
残されたトゥは、膝をついたまま、クスンクスンと泣き、ルイズは、そんなトゥを見て呆然としていた。
「ルイズぅ…、約束、守ってェぇ…。」
「トゥ…。」
トゥがルイズを見た。
右目から生えた花で右目はもうない。
「トゥ…。だからなの?」
「約束…。」
「だから殺してくれって言ったの? だからなの? こんなことになるから、私に殺して…、殺してくれって…。」
トゥがゆらりと立ち上がり、床にある花と元々の自分自身の残骸に近づいた。
その中から、ゼロの剣を持ち上げ、ルイズの傍に投げた。
「約束…。」
「トゥ…、私…できない…。こんなにあなたのことが怖いのに…できない。」
ルイズは、泣きながら首を振った。
「やくそ、く…。」
トゥが、ゆらりと幽鬼のように立ち上がり、ルイズに近づく。ルイズは、泣きながら首を振った。
「できないの…ごめんね。」
「約束…、あっ…。」
トゥがふらりと倒れた。
地響きがずっと轟いている。
「トゥ…。」
その時、床がモコモコと盛り上がった。
そして大きなモグラが顔を出した。
「…あ……?」
「あら、ルイズ!」
モグラが出た後、キュルケが顔を出した。
「キュルケ!」
「うわ! と、トゥ…さん…、血塗れじゃないか!」
「ギーシュ!」
「ちょっとぉ、あの子爵は?」
「しかも…裸!? ぐふっ。」
ギーシュは、鼻血を噴いた。
ルイズは、手短に状況を伝えた。
その時、ウゥ~ンとトゥが起き上がった。
「あれ? ルイズ?」
『相棒…。』
「あれ? 私…なんで裸なの?」
「あなた、また…。」
「どうして血塗れなの?」
「そこの花を見て…。」
「えっ…。っ!?」
ルイズに示されるままトゥが見たのは、巨大な花の残骸。
トゥは、恐る恐る自分の右目に触れた。
そこに生えた花に指が触れ、悲鳴を上げかけた。
「私…、私…、ルイズ…私…。」
「トゥ、落ち着いて…。」
『なあ、このままだとやべぇぜ。この地響き…、反乱軍が攻めて来たんだぜ。このままじゃ全員お陀仏だ。』
「なにそれ!?」
「と、とにかく逃げよう! この穴からアルビオンを脱出できる!」
「分かったわ。トゥ、早く!」
「………うん。」
トゥは、立ち上がり、自分自身の残骸から服と、大剣を取り出した。
ルイズは、ハッとして、ウェールズの体を探り、指にある風のルビーを見つけると、それを外した。
そしてトゥと共に穴に飛び込んだ。
ほぼ同時に、礼拝堂が倒壊した。
記憶が混乱しているトゥです。忘れたり思い出したりの繰り返しでグチャグチャ。
トゥに花が咲きました。
あの再生シーンは、実際見たらすっげー怖いと思う。