二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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またも短い。

バットエンドのようなノーマルエンド?みたいな感じです。

トゥがホムンクスル戦後、記憶喪失になり、ルイズのもとを去った後、ルイズがもしも、トゥとの約束を果たしたというIFです。


C分岐
トゥが、ルイズのもとを去ったら


 オスマンから、ルイズのもとにいなくてもいいと言われたトゥは色々と考えて…、ルイズのもとから去った。

 オスマンが言っていたように、剣を武器に傭兵になった。

 最初は女の侮られたが、その腕っぷしと、殺戮ぶりに瞬く間に名は知れ渡り、トゥを雇いたがる人間は増えていった。

 やがて、トリスティンとアルビオンの戦争が始まった。

 大量の傭兵が雇われ、その中にトゥもいた。

 

「トゥ…君…?」

 

「だぁれ?」

「僕だ。ギーシュ・ド・グラモンだよ。」

「あっ、学院にいた子だ。」

「ああ…。今僕はトリスティン軍、学生士官として従軍したんだ。まさかここで君に会えるとは思わなかったよ。」

「ふーん。」

「……ルイズは、来ていないよ。噂だと実家に連れ戻されたらしいが。」

「ふーん。」

「興味…ないのかい?」

「だって…、私もう関係ないでしょ?」

「それは…そうかもしれないが…。一応は君の主人だった人だよ?」

「覚えてないもん。」

「そうか…。君にとって彼女はもう…、過去の人ですらないんだね。」

 トゥが記憶喪失になったことを思いだし、ギーシュは切なそうに言った。

 

 

 やがて始まる戦争。

 陸軍に入っていたトゥだが、ウタの力を存分に使いアルビオンの大軍を圧倒した。

 陸軍をあらかた斬り捨てたトゥは、空を埋め尽くす艦隊に目を向けた。

 自分の中で肥大化したこの“チカラ”なら、今ならできる。そう確信して唱える。

 

「防御(とじ)ろ、アルマロス。」

 

 っと。

 それは、かつて妹の使徒が召喚できた天使と呼ばれるもの。

 空中に突如として要塞のようなものが出現し、敵も味方も混乱した。

 アルマロスが放つ砲撃と、花の魔力による四角い輪っかによって飛行する力を狂わされ、ミキサーのように動く刃のある吸い込み口に竜騎士達が吸い込まれ、敵の艦隊はひとたまりもなく退却を余儀なくされた。

 特に飛行する力を狂わす力により、多くの艦隊が成すすべもなく墜落した。

 

 トゥがアルマロスを召喚するところを多くの者達が見ていた。

 右目に花を生やした傭兵の女が、空を飛ぶ要塞を召喚した。

 その噂はあっという間にトリスティン軍内に知れ渡り、トゥは、戦闘後、アンリエッタに呼び出された。

 傭兵が城に呼ばれるのは稀なことであったが、その驚異的な力の真実を確かめるために呼ばれたのだ。

「…あなたは。」

「?」

 トゥを見てアンリエッタは、驚いた。

 彼女は確かルイズの使い魔だったはずだ。

 ルイズは、家で従軍の許しが得られずヴァリエール公爵により家に軟禁されているらしい。なのになぜ使い魔の彼女だけがここにいるのか?

「ルイズ、ルイズは?」

「どうしたんですか?」

「あなた…、ルイズと一緒ではありませんの?」

「もう使い魔じゃないよ。」

 トゥは、もう使い魔を止めたのだと言った。

 まさかルイズが死んだのかとアンリエッタが心配したが、確認したところ、ルイズは生きていることが分かった。

 単純にトゥがルイズから離れただけなのだと分かり、ルイズは使い魔に見放されたのかと顔を曇らせた。

 そしてトゥは、アンリエッタ達に、天使・アルマロスのことを話した。

 とはいえ、元々は妹・フォウの天使であるため簡単にしか話せないが。

 アンリエッタの臣下達は、これはルイズの虚無よりも使えるのではないかと話し始めた。

 そんな中、アンリエッタだけは、良い顔をしなかった。

 胸騒ぎがするのだ。

 良くない胸騒ぎが。

 このまま、彼女…、トゥの力に頼ってよいのかと。

 トゥをあらためて見る。

 彼女はボーッとしており、右目の花が怪しげに光って見えた。

 あの花を見ていると背筋がゾクリとする。

 綺麗なのに。綺麗なのに…。あの花はいずれ…世界を…。

「殿下、殿下!」

「っ!」

「どうされたのですか?」

「い、いいえ。なんでもありません。」

 一瞬であるが、まるで夢でも見ていた心地だ。

 その時、ふと、謁見の間の隅っこに、眼鏡の美女が立っていたのを見た気がした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 トゥが召喚したアルマロスを前にして、空からの攻撃手段を奪われたアルビオン軍は、陸戦を主にし、さらにアルマロスの砲撃が届かないよう遠くから攻撃を行うようにした。だがトゥの世界の技術力の違いか、はたまたトゥ自身の力の増大化によるものか、アルマロスの砲撃は遠くからでも届いた。それこそメイジ達の合体魔法の射程距離よりも長くである。

 陸を進むアルビオン軍の前には、トゥが待ち受けており。

「エグリゴリ。」

 アルマロスと同時に、二体の巨人、エグリゴリを召喚し、陸軍を蹴散らしていく。

「アハハハハハハ!」

 トゥは笑う。

 剣を振るい、血を浴びながら。

 その姿は狂気に満ちていたが、美しかった。敵も味方も見惚れてしまうほどに。

 トゥは、ウタう。敵を殺すために。

 

「トゥ…ちゃん?」

 

 キュルケがトゥが戦う姿を見て、顔を青くした。

「アハ…ヒヒ、ウフフフフ…、?」

 トゥの周りは、原型のない死体だらけで、血に海となっていた。

 その中心で、トゥが、敵の首を持って、笑っていた。

「キュル、ケ、ちゃん…。」

「トゥちゃん…、記憶が…。」

「どうしよう、どうしよう。もうダメだ…。私…私…。」

 トゥは、持っていた敵の首を捨て、空を仰ぎ見た。

「キュルケちゃん。」

「!」

「私を…殺して…。」

 トゥは、持ってきていたゼロの剣をキュルケの傍に投げた。

「トゥちゃん…。」

「お願い…、殺して…。」

「それは…。」

 できないと言う前に、目の前でトゥが倒れた。

 全身を真っ赤に染めて、スースーと寝息を立てている。

 キュルケは、ゼロの剣を拾いあげた。

 そしてゼロの剣を振り上げようとして……、やめた。

 やがて、トリスティン軍がトゥを回収し、此度の戦いはトゥのおかげで勝利した。

 キュルケは、ゼロの剣を持ったまま、決心して、ルイズの実家へ向かった。

 塔に軟禁されていたルイズに直接会い、ゼロの剣を差し出して。

「あんたがケリを付けなさい。」

「でも…。」

「トゥちゃんは、あんたの使い魔よ。」

「……できない。」

「トゥちゃんを助けられるのはあんただけよ。」

 キュルケはきっぱりと言った。

 残されたルイズは、ゼロの剣を前にして考えた。

 トゥは、自分のもとにいた時、自分に殺してくれと懇願し続けた。この剣を手に入れてから、ずっと。

 自分がやらなければならないのか?

 どうして自分なのだ?

 どうしてトゥは…、死にたがっているのか…。

 あの白い怪物を殺してから記憶を失ったトゥ。

 あの白い怪物との因果関係は分からない。だが何か関係しているのは間違いない。

 自分はどうすればいい?

 姉から聞いたが、トリスティン軍がアルビオンに優勢状態にあるらしい。キュルケの言葉から察するに、それはトゥのおかげらしい。

 なんだ自分がいなくてもトゥさえいれば勝てるのだと自分の価値のなさに自分で落胆すると同時に、大きな不安が湧きあがった。

 トゥをこのまま戦わせ続けて大丈夫なのかと。

 トゥがもたらす勝利の先にあるのは……、果たして平穏があるのかと。

 アルビオンで見た、あの再生を思い出す。

 あのようなおぞましい力を発揮する花の力が、平和をもたらすとは思えない。

 あの花は…、あの花は…。いずれ世界を…。

 ルイズは、ふと、物陰に落ちている棒っきれを見つけた。

 重い鎖を引きずり、腕を伸ばし、なんとか棒っきれを掴んだ。

 そして……。

 

 しばらくして、塔が爆発した。

 

 爆発の混乱の中、ゼロの剣を持って駆け出したルイズは、馬を捕まえ、走った。

 門も爆発させて粉砕し、堀を飛び越えて走った。

 足には、鎖の輪っかがついたまま、気にせず馬を走らせる。

 急げ急げと自分に言い聞かせる。

 しかし馬が疲れてしまい、これ以上走れなくなった。

 その時、ばさりっと音が聞こえ、上を見上げると、タバサがキュルケと共にシルフィードに乗ってきていた。

「決心がついたのね。」

「連れて行って! トゥのところへ!」

 キュルケの手を取り、シルフィードの上に乗ると、シルフィードは、トリスティン城へ向けて飛び立った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 トゥは、芝生の上にチョコンっと座り込んでいた。

 中空を見上げて、ボーっとしていた。

 周りには、死体、死体、死体、死体の山が築かれていた。

 ここはアルビオン。

 アルビオンの本国に単身潜入し、敵を蹴散らしたのである。たった一人で。

 周りには、もう誰もいない。

 皇帝も、5万の兵士も。

「静かだなぁ……。」

 トゥは、ぼんやりと呟いた。

 トゥの後ろ。

 アルビオンとトリスティンの境目では、アルマロスが陣取っている。

 トリスティン軍に牙をむいて…。

 もうトゥの意思ではどうにもできないのだ。チカラがあまりにも増大し過ぎてしまった。

 ああ、どうして自分は、止めることができなかったのかと自問自答してももう時間は還らない。

 その時、彼女の上を一匹の竜が飛び過ぎた。

「ああ……あああ…。」

 トゥの顔に喜びの色が浮かぶ。

「トゥ!」

「ルイズ…。」

「あんた、記憶が…。」

 シルフィードから飛び降りて来たルイズの姿を見て、トゥが笑った。

 ルイズの手には、抜き身のゼロの剣がある。

 それを見て、トゥの顔がますます喜びに歪んだ。

「トゥ…。」

「ルイズ…。」

 膝をついているトゥの前にルイズが立った。

 そしてトゥは、祈るように手を握った。

「ルイズ…私を…。」

「っ……、分かってる。」

 

「殺して。」

 

 大量の涙を流し、血が出るほど唇を噛んだルイズが、ゼロの剣を振り上げて…、振り下ろした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ルイズ、ルイズ。見て、今年もお花が綺麗に咲いているわよ。」

 カトレアが押す車椅子にルイズは、座っていた。

 その目は虚ろで、何も映していない。

「あれから何年たったかしら…。あなた使い魔さんの命日よ? 覚えてる?」

 しかしルイズは、何も聞こえていないのか、何も反応を返さない。

「ルイズ…、あなたは、救ったのよ。彼女のことを…。」

 カトレアは、キュルケ達から話を聞いていた。

 なぜルイズがトゥを殺すに至ったのか。

 

 ルイズは、トゥを殺して、自分自身の心を殺してしまった。

 

 それほどトゥのことを想っていたのだ。

 父親達は、ルイズをこんな状態にしたトゥのことを快く思っていないが、カトレアだけは、あの時、もう殺すしかなかったのだということを理解していた。

 ルイズは、、ただ交わした約束を守っただけだ。

 ただ、殺してもらうことでしか死ねないトゥを、殺すことでしか救えなかった自分自身を罰するために、自分の心を殺しただけだ。

 ただの口約束だったその約束は、いつのまにか、そこまで大きくなり、ついに約束は成就された。

 その後の結末は、良くないものだったが、トゥの暴走した力が世界に牙をむく前に止めることはできた。

 世間では、トゥのことを魔女と呼ぶ一方、アンリエッタは、あくまでもアルビオンとの戦争での勝利に貢献した第一人者だったと語り続けていた。

 

 中庭に咲く木の花びらが、ハラハラと舞い落ち、ルイズの右目からポロリっと一筋の涙が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 報告。

 

 トゥの死亡により、トゥの花の消滅を確認。

 だが、悪魔の門の問題が残されている。

 またこの世界に再び花が現れる予兆と思われる現象が確認され、予断を許せない状況と思われる。

 ルイズ、及び、アンリエッタを観測対象とすることを追加し、引き続きこの分岐の観測を継続する。

 




トゥが去った後、ルイズは、従軍しようとして実家に許しを求めますが反対され家に閉じ込められます。トゥがいないのでそのまま塔に監禁。

トゥがフォウ(デカード)の天使・アルマロスを召喚できるのは、B分岐の時みたいに花の力の増大化によるものです。

トゥは、戦いの中で花の支配に負けないよう頑張りましたが、限界寸前でルイズに殺してもらいました。
トゥを殺したショックでルイズは、自分自身の心を殺してしまいました。

最後にアコールがルイズとアンリエッタに花が寄生したのではないか、あるいは寄生する可能性があると判断して観測対象にしました。

B分岐で捏造した悪魔の門の問題は、ここでは解決しません。

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