水の精霊に取りつきます。
その水の精霊と戦います。
ラグドリアン湖。
トリスティンの、隣国にあたるガリアの国境にあり、そこのいる水の精霊に向かって交わした誓約は、決して破られることはないという言い伝えのある湖であると。ラグドリアン湖に向かう途中でギーシュから説明を聞いた。
「じゃあ、恋人同士が愛の誓いをしたりするの?」
「ああ、もちろんさ。」
「恋人…か…。」
「トゥは、私の恋人よ。」
「違うよ。ルイズ。私はあなたの恋人じゃない。」
トゥは、同じ馬に乗っているルイズの言葉を否定した。
ルイズは、片時もトゥから離れたがらず、同じ馬に乗っている。
「恋人よ!」
ルイズは叫んだ。
「恋人じゃないよ。」
それでもトゥは否定した。
「まあまあ、二人ともそこまでにして、今は秘薬を手に入れることに集中しようじゃないか。」
ギーシュが二人を止めた。
「…変ね。」
「どうしたんだい、モンモランシー?」
「水位が…。あれ、村じゃない?」
モンモランシーが指さす先には、水に沈んだ建物があった。
「もし…、そこの御方。貴族の方ですか?」
そこへ、痩せこけた老人がやってきた。
「ええ。そうよ。」
「もしや水の精霊と交渉をしにこられたのですか?」
「いいえ。別件で来たのですわ。」
「そうですか…。」
老人は酷く残念そうに俯いた。
モンモランシーは、ラグドリアン湖の水位が上がっていることについて老人に尋ねた。
するとここ数年の間に、急に水位が上がりだし、今では老人が住んでいた村もすっかり水没してしまったのだという。
村の領主は役に立たず、また王宮の方もアルビオンのことで忙しくまったく問題解決の糸口が見つからない状態らしい。
文句と愚痴を言うだけ言った老人は、去っていった。
「なんだか嫌な予感がするわ…。」
「……あれは…。」
「どうしたんだい?」
「………スピリット!」
トゥは、馬から飛び降り、剣を構えた。
湖の中央に黄色い浮遊する何かがいた。
それが、スーッと湖面に吸い込まれるように消えた。
すると、湖面がウネウネと動き出した。
「大変!」
「なんだ、何が起こって…。」
「逃げて!」
トゥが前に出て剣をかざし、ウタった。
魔法陣と天使文字が浮かぶ上がり、次の瞬間飛んできた水の弾丸を防いだ。
「これは水の精霊が!? まさか私達を敵だと思って…。」
「違う! さっき取りつかれたの!」
「とりつかれただって!?」
「スピリットっていう、魔物だよ!」
すると湖面が大きく揺らぎ、大きな波が発生した。
トゥは、更にウタい、魔法陣を大きくしてそれを防いだ。
周りが水浸しになるが、トゥ達がいる位置だけは、水から守られた。
「スピリットをなんとかしないと…。」
「どうする気だい!?」
「私がやる!」
トゥは、ウタを使い、天使文字を足に纏うと、水面を走った。
水の弾丸が飛んでくるが、それを素早い動きで避け、湖面の中央に来た。
水がうごめき、トゥを模した水の精霊が現れた。水の精霊は、黄色い煙のような物を纏っていた。
トゥが剣を構えると、水のトゥも水の剣を構えた。
トゥが剣を振るうと、水のトゥも剣を振るい、剣がぶつかった。
剣がぶつかった衝撃で水しぶきがあがる。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
トゥがウタを使い、体を青く輝かせた。
そしてとてつもないスピードで斬撃を放ち、水のトゥを切り刻んだ。
だが水である水の精霊は、すぐに元通りになり、水のトゥは、頭部を揺らして、水を放った。放たれた水は、トゥの頭部に当たり、トゥの頭を包み込んだ。
「ゴボ…っ!」
呼吸を絶たれたため、ウタえず、トゥの体から光が消え、足に纏っていた天使文字も消えた。
トゥの体が水に沈むと、畳み掛けるように水がトゥの周りに集まり、トゥを水の底へ沈めた。
「トゥ君!」
「ま、まずいわ…!」
「トゥ!」
トゥを水に沈めた水の精霊は、矛先をギーシュ達に向けた。水が再び波打ち、大きな波となる。
「に、逃げよう!」
急いで退却しようとしたギーシュとモンモランシーだったが。
「トゥを返して!」
ルイズは、馬から飛び降り、杖を構え、エクスプロージョンを唱えた。
爆発が起こり、波が弾け飛び、湖面に穴が空いた。
そこからトゥが頭を出し。
「エグリゴリ!」
叫ぶと同時に、空中に二つの魔法陣が出現して、鎧を纏った青い巨人が二体現れて湖に落ちた。
そして、巨人の一体がトゥを助け出すと、トゥを陸地へ移動させた。
「ゲホゲホ…。」
「トゥ、大丈夫!?」
「なんとか…。エグリゴリ…、水の精霊を…。」
エグリゴリという二体の巨人に命令した。
エグリゴリは、水の中に両腕をツッコむと、何かを重たそうに持ち上げた。
それは大きな水の塊だった。
だがただの水じゃない。黄色い煙を纏っている。
水の塊は、水の弾丸をエグリゴリに浴びせるが、エグリゴリは微動だにしない。
『相棒! 俺を使いな!』
「デルフ?」
『水の精霊にとりついている野郎を引っぺがしてやる! 俺を投げろ!』
「分かった!」
トゥは、デルフリンガーを抜いて、水の塊に投げた。
水の塊に突き刺さったデルフリンガー。すると、奇声のような声が上がり、水の精霊が纏っていた黄色い煙が宙に上がり、黄色い髑髏のような魔物・スピリットに変化した。
「アアアアアアアアアアアアアア!」
トゥは、大剣を構え、再び青い光を纏うと、エグリゴリの背中目がけて飛び、エグリゴリを足場にして登ると、スピリットに向かって剣を振り下ろした。
一刀両断されたスピリットは、塵となって消えた。
「やった!」
トゥは、エグリゴリの肩に乗り、ガッチポーズを取った。
『ウタウタイ…。』
すると美しい声が聞こえた。
エグリゴリの手から滑り落ちるように水の精霊は、湖に落ちて行った。
トゥは、もう大丈夫だろうと、エグリゴリを消した。
そして足に天使文字を纏い、湖面に立った。
すると、トゥの前に、水のトゥが再び現れた。だがもう黄色の煙は纏っていない。
『まずは、感謝するぞ。魔物より我を解放したことを。』
「水の精霊さん。頼みたいことがあります。」
『我にできることであれば…。』
「涙をください。」
『よかろう。』
すると水のトゥがブルブルと震え、ピチピチと水が散った。
湖の近くにいたモンモランシーが慌ててそれを瓶に入れた。
「それと、水の精霊さん。」
『なんだ、ウタウタイよ。』
「そこの村から水を引いてください。」
トゥはあの老人の話を聞いて、何とかしようと思い話を持ち掛けた。
『それはできぬ。』
「どうして?」
『理由を知りたくば、我の頼みを聞け。』
「分かった。何をすればいいの?」
『我に仇なす敵を倒せ。』
「敵?」
『夜に来る。そして我に攻撃してくる。』
「敵を倒せば村を沈めた理由を教えてくれるの?」
『そうだ。』
「嘘つかないでよ?」
『我は嘘などつかぬ。』
「分かった…。」
『頼むぞ。ウタウタイ。』
そう言って、水のトゥは水に戻り、直後、水に沈んでいたデルフリンガーを水の精霊がトゥに投げて返してきた。
トゥは、湖面を歩いて、ギーシュ達のところに戻った。
「目的は果たしたが…、何か頼まれたようだね?」
「水の精霊さんを攻撃している敵を倒してって頼まれた。」
「戦うのかい?」
「私だけ残って戦う。」
「ダメ! 私も行く!」
「ルイズは、ダメ。」
「なんでよ!」
「危ないから。」
「大丈夫よ!」
「……もう…。」
「モンモランシー、君だけは学院に戻っていてくれ。そして解除薬を作って待っててくれ。」
「どういうこと? まさかギーシュ、あなた…。」
「女性だけを残して退散するなんて、男としてやってはいけないことだ。」
「…私も残るわ。」
「危険だ。」
「あの女と一緒にいる方が危険よ! あんな見たことも聞いたこともない巨人みたいなモノを召喚するし、わけわからない!」
「……。」
「あ…、気を悪くしないでくれ。」
モンモランシーの言葉に固まったトゥに気付いたギーシュが謝った。
「…ううん。間違ってない。」
トゥは、無表情なまま首を振った。
「トゥは、危なくない!」
「…どうだか。」
トゥを庇うようにして前に出たルイズに、モンモランシーは、ハンッと笑って言った。
こうしてギスギスした空気のまま、夜を待った。
***
ガリア側から敵は来るらしく、ガリア側の湖の畔の茂みに隠れて敵を待った。
「トゥ君。聞きたいことがあるんだ。」
「なぁに?」
「その目の花は一体?」
「これは……、とっても危ない物だよ。」
「やっぱり。」
トゥの言葉を聞いたモンモランシーが、それ見たことかと言わんばかりに言った。
「人間の体に寄生している花なんて聞いたことない。やっぱり危険な物だったのね。」
そう言って露骨にトゥから距離を取る。
「本当に危険なものなら、とっくの昔に僕らにも寄生しているはずだ。」
モンモランシーに、ギーシュが言った。
「ディテクト・マジックでも分からない。だがその花は君の力そのものなんじゃないのかい?」
「そうだよ…。」
トゥは、ソッと自分の右目の花に触れた。
「これは、私の力。ウタウタイの力。」
「そのウタウタイとは?」
「ウタの力を行使する者のこと。って、ワン姉さんが言ってた。」
「君の姉妹にも同じ花が?」
「……ゼロ姉さんだけ…、っ…。」
「…来た!」
敵の襲来に気付いた二人は、声を潜めた。
黒いローブで身を包んだ二人の人物が、湖に近づいていく。
恐らくは、あれが敵だろう。
トゥは、剣の柄を握り、タイミングを待った。
その時、二人のうち一人が杖を抜き、トゥ達が隠れている茂みに風の衝撃を放ってきた。
「しまった、気付かれたか!」
ギーシュが驚き叫ぶのと同時に、トゥが飛び出し、二人の敵に斬りかかった。
しかし、風の魔法の衝撃が壁となり、もう一人が炎を放って風と炎が合わさった壁が完成し、トゥを阻んだ。
「くっ!」
火で軽く炙られたトゥは、バックステップをすると、そこへ火球が飛んできた、トゥが横へ避けると、更に風の衝撃が来てトゥは弾き飛ばされた。
正確に、そして素晴らしいぐらいの息の合った動きで、二人の敵はトゥを翻弄した。
「あぅう!」
地面に転がったトゥに向けて、火球が飛んできた。
トゥは、剣を振るい、剣の圧力だけで火球を消し飛ばし、素早く立ち上がった。
トゥに向かって飛んできた風の衝撃を、ギーシュのワルキューレが壁となって止めた。だがワルキューレが砕け散った。
「っ、アアアアアアアアアアアアアアア!」
トゥは、ウタを使い発光した。
すると。
「トゥちゃん!?」
その声を聞いて、トゥは、止まった。
「…キュルケ…ちゃん?」
「トゥちゃん、どうしてここに?」
黒いローブを外し、キュルケがトゥ達を指さした。
「キュルケちゃんこそ…、なんで水の精霊さんを?」
「それはこっちの台詞よ。どうして水の精霊をトゥちゃんが守って……。」
「落ち着く。」
手短に喋ったその人物がローブを外した。
タバサだった。
とりあえず、お互いの訳を話し合った。
キュルケとタバサが水の精霊を攻撃していたのは、ガリア側の領土を浸食する水の原因であるから退治しろという命令が下ったからだった。
「水の精霊さんが、敵を倒したら水を増やす理由を教えてくれるって約束したの。」
「あら、そうなの? なら理由をまず聞きましょう。それからでも遅くはないわよ、ねえ、タバサ。」
キュルケが意見を求めると、タバサは、こくりと頷いた。
ひとまず、水の精霊に報告するべく、翌朝、皆が見守る中、トゥが水辺に近づいた。
すると、水がうねりだし、水の精霊が再びトゥを模して現れた。
「敵はもう襲ってこないよ。だから教えて。どうして水位を上げてるの?」
『我が守りし秘宝を、単なる者共もが盗んだのだ。』
「たんなるものって?」
『この場合、お前たちの言葉で言う処の人間だ。』
「誰が盗んだの?」
『分からぬ。我が眠りについている間に盗んでいったのだ。確か盗んでいった者共がこう言っていた。クロムウェルと。』
「クロムウェル…、アルビオンの新皇帝の名前か? まさか同一人物じゃあるまいね?」
「まさか…。」
トゥ達は顔を見合わせた。
「その秘宝って?」
『アンドバリの指輪という。』
「アンドバリの指輪…、ちょっと聞いたことがあるわね。確か…、偽りの命を死者に与えると言われる。」
『その通りだ、単なる者よ。』
水の精霊の説明によると、アンドバリの指輪というのは、確かに一見すると死者をも蘇らせるほどの力を持つ秘宝であるが、実際には死体を操る代物であるらしい。
「気持ち悪いマジックアイテムね…。」
キュルケが吐き捨てるように言った。ギーシュ達もウンウンと頷いて同意した。
「じゃあその秘宝を取り返せば、水を止めてくれるの?」
『ウタウタイよ。我の願いを聞いてくれるか?』
「うん!」
『おまえの命尽きる時まででよい。頼むぞ。』
「……分かった。」
トゥは、少し間をおいて承諾した。
そして、水の精霊が水に戻ろうとした時、タバサが前に出た。
「待って。」
トゥ以外の全員が驚いた。他人に興味を持たないタバサが誰かを呼び止めるなど初めてだからだ。
「水の精霊。あなたに一つ聞きたい。」
『なんだ?』
「あなたは、私達の間で誓約の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい。」
そして水の精霊は、説明した。
水の精霊は、根本が他の生命体と異なるため、なぜ自分がそんな呼ばれ方をしているのか分からないらしいが、ただ理由を付けるのだとしたら、精霊とは自然そのものであり、ゆえに形を持たず、だが自然と共にずっと存在するからだという。
変わらないから、それに対して祈りたくなるのだろうと、水の精霊は言った。
するとタバサが、目をつむって両手を合わせ、祈り始めた。
「ねえ、ギーシュ。」
「なんだい?」
「あんたも誓約しなさいよ。」
「なにを?」
するとモンモランシーは、ギーシュを殴った。
そして、なぜ惚れ薬を作ったのかについてガーガー怒りながら言った。
ギーシュは頬を押さえながら、誓約を口にした。
これから先、ずっと、モンモンランシーを愛すると誓うと言った。
だが、モンモランシーに再び叩かれ、自分“だけ”を愛することを誓えと怒鳴られていた。
すると、トゥの手を、ルイズが握ってきた。
「ねえ、トゥ…。」
「ダメだよ。」
トゥがルイズが言わんとしていることを察し、否定した。
「まだ何も言ってないよ?」
「ダメだからね。」
「誓って欲しいの。ダメなの?」
「ダメだよ。今のルイズじゃ……誓えない。」
トゥは、哀しそうに言った。
スピリット。ドラッグオンドラグーン3に登場する敵キャラで、その辺の敵にとりついてパワーアップさせる厄介な敵。
なぜかいるが、この他にドラッグオンドラグーン3の敵キャラを出す予定です。
原作で地球の物が流れ着いてくるんだから、モンスターも流れて来るんじゃないかと勝手に妄想しました。