二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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トゥが記憶喪失。

記憶喪失から復活するまでの過程。

途中アコールらしき人物が出ます。


第二十一話  トゥの選択

 

 トゥが全部の記憶を失った。

 医者に一応見てもらったが、診断結果としては、大きなショックによる記憶喪失だということらしい。

「トゥ、本当に覚えてないの!?」

「? なんのこと?」

 トゥはキョトンとしていた。

 もちろんルイズのことも覚えておらず、名前を思い出したというより、ルイズが言ったからその名前が自分の名前かということで収まったようなものだ。

「トゥちゃん…、あなた…。」

「あなたは、だれ?」

「私は、キュルケよ。」

「キュルケ…ちゃん?」

「そうよ。」

 前のようにちゃん付けで呼ばれ、キュルケは微笑んだ。

 記憶を失ってもトゥはトゥなのだと確認ができて。

「トゥ君、記憶を失ってしまったそうだね…。」

「あなた、だれ?」

「僕は、ギーシュ・ド・グラモンだ。ギーシュでいい。」

「ギーシュ…くん。」

 トゥは、それから次々に色んな人の名前を聞き、口に出してみたりした。

 それで何か思い出そうとしていたが、思い出せないようであった。

 しかし歩くことなどの動作は覚えており、剣の使い方も覚えていた。

『相棒。気を落とすなよ。』

「あなたは?」

『俺は、デルフリンガーってんだ。デルフって呼ばれてたぜ。』

「デルフ…。」

『まあ、おいおい思い出すさ。焦るこたぁない。』

「ありがとう。」

 

 それからトゥは、広場に置いてある戦闘機のところに行った。

 

『相棒はこれに乗って空を飛んだんだぜ?』

「空を…。」

『それでよぉ、アルビオンの竜騎士団を全滅させたんだぜ。いやー、すごかったぜ。』

「そうなの?」

 

「トゥさん!」

 

「? あなたは?」

「っ! 本当に忘れちゃったんですか?」

「あなたは、だれ?」

「私は…シエスタです。覚えてませんか?」

「シエスタ…。うーん、思い出せないや。」

「そうですか…。」

 シエスタは、ショックのあまり、走り去ってしまった。

「?」

『相棒…、ゆっくりでいい。ゆっくり思い出せばいい。』

 デルフリンガーがそう言って励ました。

「トゥ君、そこにいたのかい?」

 そこへコルベールがやってきた。

「なんですか?」

「オスマン氏が呼んでいる。来てくれるかい?」

「はい。」

 トゥは、コルベールに連れられ、学院長室に来た。

「そこに座りなさい。」

 オスマンに促され、オスマンと対面する形でソファーに座った。

 オスマンは、コルベールを退室させ、二人きりになった。

「さて…、君はすべてを忘れてしまったそうじゃな?」

「…はい…。どうして忘れちゃったのかな?」

「医者によると、精神的な打撃が大きかったと聞いておる。…辛いことがあったのじゃな。」

「覚えてない。」

「お主は、花のことを覚えておるか?」

「花?」

「お主の右目に生えておる花じゃ。」

「これ……。っ…!」

 言われて自分の手で右目の花に触れた時、トゥは、ビクッとして手を離し、顔色が悪くなった。

「どうやら、その花が危険な物であることは、本能で分かっておるようじゃな。」

「わ、私……。」

「落ち着くんじゃ。深呼吸を。」

 オスマンに促され、トゥは何度も深呼吸をした。

「落ち着いたかね?」

「…はい…。」

「花が危険なことを覚えておるなら、十分じゃ。それでじゃが…、お主はこれからどうする?」

「どうする、って?」

「お主はミス・ヴァリエールの使い魔としてこの学院に在籍している。じゃが、無理にここにいる必要はないんじゃ。」

「でも…。」

「お主は、ヴァリエール……、ルイズのことをどう思う?」

「どうって……。どう?」

「うむ…、そうかこれまでの間に築いた関係も失ってしまったのか…。なら、余計にここにおっても仕方ないじゃろう。」

「でも、私、ルイズの使い魔なのに?」

「お主は、ルイズと共におってもよいと思っておるのか?」

「分からない…。でも……。」

 トゥは、モジモジと手を動かした。

「何か…約束をしたような気がするの…。」

「やくそく…かね。」

「はい。」

「その約束は大切な物かね?」

「分からない…。」

「よく考えるんじゃ。じゃが無理をして思い出そうとするではないぞ。そんなことをしたら、またお主は心を壊すことになるじゃろう。女の身一つで放り出されるのは心もとないじゃろうが、お主ほどの力があれば、傭兵としても生計を立てることができるはずじゃ。」

「ようへい?」

「戦場から戦場へ…、金で雇われ、戦う職業じゃよ。」

「ふーん。」

「興味は…、微妙そうじゃな。まあ、頭の隅にでも置いておくとよい。」

「はい。」

 オスマンとの会話はそれで終わった。

 

 トゥが退室した後。

 部屋の物陰から、眼鏡の美女が現れた。

 

「あの様子では、思い出すのも時間の問題でしょうね。」

「…お主が直接会話すればよいじゃろう。」

「トゥさんは、あの通り忘れっぽいですから私が言ってもすぐ忘れてしまうでしょう。」

「じゃからといって、わしにその役目を押し付けんでも…。」

「あなたは適任者ですので。」

「酷いのう…。」

 オスマンは、溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 トゥは、ルイズの部屋に戻ってきた。

 ルイズは、椅子に座っていた。

「ルイズ。」

「……オールド・オスマンと何を話してたの?」

「ここにいなくてもいいんだよって、話をしたよ。」

「そう…。じゃあどこへなりと行きなさいよ。」

「えっ?」

「勝手にすればいいわ。なにも無理に私の使い魔である必要なんてないのよ。」

「どうして?」

「どうしてって…、全部忘れちゃったんじゃないの!」

 ルイズが叫んだ。

「名前も、私のことも、全部全部忘れて……、どこでも好きに行けばいいのよ! その方があんたにとって幸せよ!」

「でも…。」

「全部忘れちゃったあんたなんて……、あんたなんて…。」

「私は……、行かないよ?」

「っ!」

 ルイズは、トゥを見た。

 トゥは首をかしげてルイズを見ていた。

「だって、使い魔だもん。」

「だから! 使い魔でいる必要なんてないのよ!」

「だって、ルイズが言ったでしょ? 使い魔は、主人の目となり、主人を守るためにあるんだって…。」

「……だからって…。」

「それにね。約束があるでしょ?」

「えっ?」

「覚えてないけど…、何か約束したよね? 私。」

「そ、それは…。」

 ルイズは、青ざめた。

 その約束とは、ゼロの剣でトゥを殺すことだ。

「あっ…そっか…。」

 トゥは、ポンッと手を叩いた。

「私を…殺してって、約束したんだよね?」

「トゥ…。」

「ごめんね…。そんな酷い約束させちゃって…。」

「あんた記憶が…。」

「まだ全部思い出せない。でも…、ちょっとだけ…思い出した。」

「………バカ。」

 ルイズは、トゥに抱き付いた。

「ごめんね。ルイズ。」

「バカ、バカバカ!」

「私は、ルイズの傍にいるよ。」

「……うん。」

 トゥは、ルイズの頭撫でながら言った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「で、結局、全部じゃないけど、思い出せたのね?」

「うん。キュルケちゃん、心配かけてごめんね。」

「いいのよ。トゥちゃんが元気になったんなら。」

「僕のことも思い出してもらえたのかい?」

「うーん…。」

 悩むトゥを見てギーシュは、ガーンとなった。

「うそうそ、ごめんね。思い出したよ、ギーシュ君。」

「びっくりさせないでくれたまえ!」

「よかった、トゥさん…。本当によかった…。」

「ごめんね、シエスタ。心配かけたね。」

「いいんです! 思い出してくれて…。嬉しくって…。」

 

 そんなこんなで、トゥの記憶喪失の事件は納まった。

 

 トゥに、あの怪物…、ホムンクルスのことを聞くのは戸惑われた。

 ホムンクルスと戦ってから、精神状態がおかしくなったのだから。

 もし掘り返せば、今度こそトゥは……。

 だから聞くことができなかった。

 

 

 一方、アカデミーに運ばれたホムンクルスの死体を研究員達が調べた結果…。

 そこから複数の人間達の細胞が採集された。少なくとも、100人ぐらいの…。

 報告を受けたトリスティン城では、ホムンクルスの製造について、アルビオン共和国の仕業ではないかという結論を出し、警戒を強めた。

 

 

 

 




ハルケギニアにホムンクルスのような生物がいないので、調査は難航。

オスマンがトゥにルイズから離れてもいいと勧めたことは、別の分岐に繋がります。

ホムンクルスがアルビオン万歳と言っていたので、アルビオンとの関係は間違いないと思われてますが、ウタが原因だとは分かっていないので共和国が嫌疑をかけられました。

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