トゥとルイズは、走っていた。
トゥの手には大剣とデルフリンガー。
彼女らの後ろには、様々な変装をした竜騎士の少年達がおり、彼らも走っていた。
そんな彼らの後ろを、5メートルはあろうかというトロル鬼が10匹、それからオグル鬼が追いかけてきていた。
「やっぱり、私が足止めすれば…。」
「バカ言うんじゃないわよ! そんなことしてる間に、5万の敵が押し寄せてきたらどーするのよ!」
『単純に相棒のことが心配ならそー言えばいいだろ?』
「違うわよ! トゥ一人ならなんとかるなでしょうけどね!」
「うん。たぶん大丈夫だと思うよ。」
「あんた以外が足手まといだって言うの!?」
「えー?」
時間は少し遡る。なぜこんな状況になってしまったのかである。
まず、任務言い渡された。それはいい。
その任務の内容とは、敵の陣中に入り込み、そこでルイズのイリュージョンで味方の軍勢の幻を作って混乱させるというものだった。
「いい? 何を見てもキョロキョロしたり、騒いだりしないでよ?」
「うん。」
ルイズは、そう前もってトゥに注意した。
しかし、それでもやはり怪しまれた。
警邏のメイジに、神聖アルビオン共和国第二軍を指揮する将軍は誰だという質問を受けてしまい、誰も答えられなかったのだ。
それでメイジ達とトロル鬼達に襲われたわけで、現在逃走中なわけである。
その時、前方からオーク鬼が現れた。
オーク鬼が武器を振り落そうとしたが、トゥが剣を振るいその両腕を斬り落とした。
悲鳴を上げるオーク鬼。
しかし前に気を配っていると、後ろががら空きになった。トゥが跳躍して、少年達に武器を振り下ろそうとしたトロル鬼を一刀両断した。
しかし前を後ろをと交互に気にしている内に、追い詰められた。
トゥの戦闘能力は高いが、こちらには竜のない竜騎士の少年達と、ルイズがいる。トゥ一人では守り切れそうになかった。
竜騎士の少年達は、もう駄目だと、唇を噛み、せめて空で死にたかったと…言っていると、トロル鬼が突然燃え上がった。
空を見上げると、ジュリオ達、味方の竜騎士隊がいた。
ジュリオ達が放つブレスと魔法で敵は後退し、ルイズ達はジュリオ達の竜に乗って退却した。
退却した後、ジュリオが、軍人達がルイズのことを道具としてしか見ていないから、嫌だなぁっと言った。
「私も嫌だ。」
「ミス・トゥもそう思うかい? 気が合うね。」
「あの人達、きっとルイズがなんでもできるって思ってる。そんなことないのに…。」
「望むところよ。」
「ルイズ?」
「なんでもできるってところを見せてやろうじゃない。」
そうきっぱりと言ったルイズに、トゥは首を傾げた。
***
それからは、将軍の演説があり、シティオブサウスゴードを開放する戦で、そこでギーシュが手柄を立てていたことが分かったりした。
「ギーシュ君、すごい。」
トゥは、素直に賞賛した。
しかし隣にいるルイズは、なんだか浮かない顔だ。
「ルイズ?」
「…なんでもないわ。」
ルイズは、そっぷを向いてしまった。
「どうしたのルイズ? なんだか変だよ?」
「……ねえ、トゥ。」
「なぁに?」
「この戦争に勝てれば…、家族は私を見直してくれると思う?」
「えっ?」
「…あんたに聞いた私が馬鹿だった。」
「あっ…。」
ルイズは、さっさと行ってしまった。トゥは慌てて手を伸ばしたが、その手がルイズに届くことはなかった。
***
アルビオンの冬は早いのだと聞いた。しかも浮遊大陸だから突然来るのだそうだ。冬が。
暖炉の前で、ルイズは毛布にくるまって震えていた。
トゥは、ルイズの隣で剣の手入れをしていた。
二人とも黙っていた。
あの日からなんだか二人はギクシャクしていた。
「ねえ、ルイズ。」
しかしルイズは何も答えない。
「……認めてもらいたいんだよね?」
トゥは、続けた。
「家族に。」
トゥは、コトリッと剣を床に置いた。
「私、頑張るよ? ルイズが頑張ったんだってことを、ルイズの家族に伝えるために。」
「……当然よ。あんたは、私の使い魔なんだから。」
やっとルイズは口を開いた。
「ねえ、トゥ。」
「なぁに?」
「あんた……、両親っているの?」
なんとなく、聞いてしまった。
姉妹がいるのは聞いていたが、両親がいるかは聞いていなかったからなんとなく聞いてしまった。
「…いないよ。」
「そう…。悪いこと聞いちゃったわね。」
「別に…。」
「トゥ?」
口調がまた機械的なそれになっていたことに気付いたルイズは、トゥの顔を見た。
トゥは、ボーっと暖炉の火を見ていた。
ルイズから見てトゥの右側が見えているのだが、花で顔色が分かりずらい。
ルイズは、まずいことを聞いてしまったと顔を青くした。
「トゥ!」
「…えっ? どうしたの?」
「…悪いこと聞いちゃったわね。」
「なんのこと?」
案の定、さっきの会話を忘れていた。
「ねえ、トゥ。あなた、外で空気でも吸ってきたら?」
「なんで?」
「気分が悪そうだから。」
「気分悪くないよ?」
「いいから行ってらっしゃい。」
「…うん。」
ルイズに言われるまま、立ち上がったトゥは、部屋から出て行った。
トゥがいなくなった後、ルイズは大きく息を吸って吐いた。
「気を付けなきゃいけないわね…。」
トゥにとって悪い言葉となる言葉を言わないよう心掛けれねばと決意したのだった。
***
シティサウスゴードの広場のベンチに、トゥは腰かけた。
そして道行く人々を見る。
敗戦したのにまったく暗くないサウスゴードの民、勝ったことで胸を張って歩くトリスティン・ゲルマニア連合軍の兵士達。
新政府のあり様に苦しめられていた民は、連合軍が来たことを歓迎し、アルビオン政府に不利になる情報を流したりして、サウスゴードを解放する手助けをしてくれたらしいと聞いている。
もうすぐ新年…、降臨祭があると聞いているので、なんとなく街の様子が明るいことを感じた。
トゥがぼんやりと、ベンチに座っていると、後ろから声を掛けられた。
「トゥさん!」
「えっ?」
ここにいないはずの声に、一瞬誰だか分からなくなった。
「シエスタ?」
「はい! こんなところで会えるなんて、感激です!」
「あらん。シエスタちゃん、お知り合い?」
野太い声なのに、カワイイ台詞。この声は…。
「スカロンさん?」
「あら、トゥちゃんじゃない!」
「どうしてここに?」
よく見ると、スカロンの後ろには彼の娘であるジェシカもいた。
シエスタに抱き付かれながら、トゥは、目をぱちくりさせた。
話を聞くと、慰問隊が組織されたことで来たのだということらしい。
スカロン曰く、アルビオンは、料理はマズイ、酒は麦酒ばっかり、女はキツイで有名なのだそうだ。
確かに言われてみれば、ワインを出す店はない。
スカロンは、アルビオン人はワインをあまり飲まないのだと言った。
食事の問題は確かに重要だ。士気にかかわる。
そこでトリスタニアの居酒屋が何軒も出張することになり、魅惑の妖精亭にも白羽の矢が立って来ることになったのだそうだ。
王家と所縁も深いこともあり、名誉なことだとスカロンは腰をくねらせた。
「でもなんでシエスタがいるの?」
「私、スカロンさんの親戚なんです。」
「えっ?」
「従妹なんだよ。」
ジェシカがそう言った。
トゥは、シエスタとジェシカを見比べた。確かに二人は見事な黒髪だ。世の中って狭いなぁっと、トゥは思った。
それかトゥは、シエスタから、学院が賊に襲われたことを聞いた。
シエスタ達は宿舎で震えていたそうで、人死にも出たそうだ。だが平民である彼女達にも何も知らされたなかったそうだ。
そして学院は閉鎖され、シエスタは、叔父であるスカロンのお見せの手伝いをすることにしたのだそうだ。
いざ店に行ってみたところ、叔父のスカロンと従妹のジェシカが荷物をまとめているのを見て、アルビオンに行くことを聞き、シエスタもついていくことにしたのだそうだ。
「どうしてついてきたの? 危ないよ?」
「…その……、トゥさんに…会えると思ったから…。」
頬を赤らめモジモジとしてそう言うシエスタ。
その姿を見たジェシカが、トゥとの関係を聞いて来た。
「えーと…。お友達だよ。」
「お友達って関係には見えないよ?」
「わ、私が…、告白したの。」
「えー! そうなんだ! で、それで返事は!?」
「…ごめんなさいって言われた。」
「ああ…、そうなの。ごめんね。聞いちゃ悪かったわね。」
「ダメもとだったんだからいいの。」
「あらん。そうだったの、シエちゃん…。」
スカロンがシュンッとしているシエスタの頭を撫でた。
「ごめんね…。シエスタ。」
「いいんです。トゥさんは悪くありませんから。そういえば、ミス・ヴァリエールは、お元気ですか?」
「元気だよ。」
「あらまあ、ルイズちゃんもいるの? じゃあご挨拶しなきゃね。」
スカロンが爪を弄りながら言った。
思わぬ再会に、トゥは、笑顔になった。
スカロンさん達が出ると、なんかほんわかしますね。
シエスタと親戚なのがびっくりだけど…。