二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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最初にゼロがちょっと登場。

ティファニアとの出会い編。


第三十二話  トゥとティファニア

 

 薄紅色の花の夢を、また見た。

 

 分かっている。分かっているつもりだ。

 

 この花が危険なことは。

 

 だけど頼らずにいられない。この力はまだ必要だ。

 

 そうしなければ、いずれこの世界は……。

 

 トゥは暗闇の向こうに、誰かが立っているのを見た。

 

 その人物の右目にも、トゥと同じ薄紅色の花が咲いていた。

 

 美しい銀色の長い髪の毛。真紅の瞳。

 

「ぜろ…、姉さん…。」

 

 トゥは、ゼロに向かって手を伸ばそうとした。

 

 すると、ギギギギっと、大きく分厚い扉が閉まっていく。ゼロはその扉の向こうにいる。

 

『来い。そして必ず…。』

 

 ゼロが何か言っている。

 

 トゥは、必死に手を伸ばすが届かない。

 

『私を…。ーせ。』

 

 そして扉は、閉じてしまった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「………夢?」

 トゥは、目を覚ました。

 最初に目に入ったのは、知らない天井だった。

「ここ…どこ?」

 周りを見回そうと首をひねると、様々な色の髪の毛の子供達がいた。大きかったり小さかったり、年齢はバラバラのようだ。

「ティファお姉ちゃーん! 目ぇ覚ましたよ!」

 子供の一人が部屋の外に向かってそう叫ぶと、みんな外へ出て行った。

「……?」

 トゥは、呆然としながら起き上がった。

 すると、部屋の扉の向こうから金色が現れた。

 いや、金色が現れたというのは変な言い方だが、最初に目に映り、そして印象深かったのがその色だったのだ。

 少女だった。とても美しい金髪の。

 けれど、その髪の毛から出ている両耳がツンと尖っていた。

「痛いところはありませんか?」

「…、ないよ。」

 あまりにも美しい少女に見惚れてしまっていたトゥは、ハッとしてそう返事をした。

「目立った外傷は見当たりませんでしたが、どこか変なところはありませんか?」

「大丈夫。なんともないよ。」

「よかった。二週間近くも眠ってたから、心配だったんです。」

「にしゅうかんも…。」

 トゥは、意識を失う前のことを思い出そうとした。

 そうだ。ルイズ達を無事に退却させるために、自分一人で七万の敵に挑んで。そこでウタを使いすぎて…。

「あ…、敵は? 敵はどうなったの?」

「ごめんなさい…。私は、よく分からないの。」

「そういえば、デルフは?」

「でるふ?」

「剣だよ。喋る剣。」

「あの剣なら、騒いでいるので、隣の部屋に置きました。」

「分かった。」

「あっ、まだ起きちゃダメ。」

「もう大丈夫だよ。」

「と、とにかく、ジッとしててください。私が持ってきますから。」

 そう言って少女は、急いで隣の部屋に行き、重そうにデルフリンガーを持ってきた。

「デルフ!」

『よぉ。相棒。目が覚めたか?』

「うん。」

『それでよぉ…。まあ…、今は平気そうだな。』

「なんのこと?」

『いや、こっちの話だ。忘れてくれ。』

「ふーん。でも、どうして、私、ここにいるの?」

『ああ…、そりゃ…、俺がおまえを操って森まで移動させたんだよ。』

「へ? そんなことできるの?」

『おまえさんの中にある力を少し使わせてもらったんだ。けど、危うくこっちがぶっ壊れるところだったけどな。』

「そうなんだ。ありがとう。」

「あなたが森の中で倒れていたのを子供が見つけて、ここまで運びました。」

「そうなんだ。ありがとう。」

「いえ…、そんな…。」

「私、トゥ。あなたは?」

「私は、ティファニアといいます。ティファでもいいですよ。」

「ティファちゃんか…。改めて、本当にありがとう。ティファちゃん。」

「ティファ…ちゃん。」

 ティファニアは、少し恥ずかしそうに言葉を繰り返した。

『それでよー。相棒…。言いにくいんだが…。』

「なになに?」

『左手の甲…。見てみ。』

「…あれ?」

『な? ルーン…消えちまったんだ。もうお前さんは、伝説じゃねぇ。』

「もう使い魔じゃなくなったってこと?」

『そうだな…。』

「うーん。別に困らないけど。」

『まあ、相棒は元々が怪力だからな。あんまし影響はなさそうだが……、けど…。』

「けど?」

『これは、俺が判断していいもんか分からないが、できることなら、もう一度再契約を行った方がいいかもしねぇ。』

「それってまたルイズと契約するってこと?」

『そうなるな。けど、あの娘っ子がまたサモンサーヴァントをするかどうか…、それでいてゲートがおまえさんのところに開くかどうかなんだよな…。運命でもなけりゃ、再召喚ってことにはならないかもしれねぇ。』

「うんめい…。」

 

 『私達って、運命の恋人だよね?』

 

「っ…。」

『おい、相棒!』

「だ、大丈夫…、なんか今…。」

『いい! 思い出すな! ルーンの抑止力や補正がない今、下手に思い出すと心が持たねぇぞ!』

「よくしりょく? ほせい?」

『ガンダールヴのルーンは、おまえさんを守ってたんだ! 武器を使う力を与えてただけじゃねえんだ! ああ、やっぱりルーンまた刻むしかないのか…。』

「私…。」

『相棒!』

「大丈夫。大丈夫だよ、デルフ。」

 目を閉じたトゥは、自分に言い聞かせるように言った。

「私は、大丈夫。ルイズのところへ帰ろう。」

『待て、待て、相棒。おまえさんは、疲れてんだ。帰るのはもう少し後だ。』

「二週間も寝てたのに?」

『あーっと…、あのな…、今帰ったところでルーンを刻むことはできねぇ。ゲートを通らねぇと再契約とはいかないんだ。それに帰っている途中で廃人にでもなったらどうする気だ?』

「ねえ、デルフ…。何を知ってるの?」

『うっ! それは…。』

 デルフリンガーは、口ごもってしまった。

 今、この状態のトゥに花のことを話して大丈夫なのかと自問自答する。

「花…のことだよね?」

『相棒…。』

 デルフリンガーが答える前に、トゥが言った。

「ごめんね。ありがとう。気を使ってくれて。」

『相棒…。』

「私…、信じてみる。ルイズの運命だって、信じてみる。」

 トゥは、デルフリンガーにそう言うと、ティファニアに向き直った。

「ティファちゃん。しばらく、ここにいてもいい?」

「いいですよ。何か深い事情があるみたいですし…。」

「ありがとう。ここにいる間、お手伝いとかもするよ。」

「助かるわ。」

 

 こうしてトゥは、しばらくティファニアのもとで過ごすことになった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ティファニアと過ごしてて分かったことだが、まずティファニアは、ハーフエルフだということ。

 次に現在いる場所が、七万の軍と戦った場所からそんなに遠くない場所であること。

 ひっそりとした小さな村に来た商人から聞いた話だと、アルビオンとの戦争は終結したこと。

『相棒。おまえさんが、足止めした甲斐があったってもんだ。味方は無事に撤退したってこったろ。』

「うん。」

 トゥは、あれから寝ていた時間を含めて3週間以上ここにいる。

 現在のんびりと、薪割りなどをしていた。

「ティファちゃーん。終わったよー。」

「お疲れ様。もうすぐご飯ですよ。」

「分かった。」

 すっかり馴染んでた。

 ティファニアが言うには、この村は、身寄りのない子供を引き取って育てる村で、現在は年長者であるティファニアが子供達の飲食などの面倒を見ており、昔の知り合いの人がお金を送ってくれるのでそれで生活しているのだそうだ。

 そして重要なことがひとつ。

 

 ティファニアは、ルイズと同じ虚無の系統だった。

 

 先日襲って来た盗賊から記憶を奪い、退散させるという魔法を使って見せた時にデルフリンガーがそう言ったのだ。

 夜になって事情を聞くと、彼女は、アルビオン王の弟の娘で、アルビオンのサウスゴードという地(現在いる場所)を治めていた彼の愛人であったエルフの女性との間に生まれた子供だということ。

 そして様々なことがあって、彼女の母親は殺され、彼女も命の危機に瀕し、咄嗟に忘却の魔法を使うことで命を長らえたことが語られた。

 ティファニアは、デルフリンガーから伝説の系統だと言われても、大げさだと笑った。世間から隔離された場所で長らく生活していた彼女は、まるで世間知らずだった。

 

 

『神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。

 

 神の右手ヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

 

 神の頭脳はミュズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知恵を溜めこみて、導きし我に助言を呈す。

 

 そして最後にもう一人…。記すことさえはばかれる……。』

 

 

 ある夜、ティファニアがハープを奏でながら、涙を浮かべながら歌った歌だった。

 

「どうして、最後の一人は記されなかったんだろ?」

『覚えてねぇ…。』

「デルフも分からないの?」

『いや…、なんかとんでもない見落とししてる気がするが、思い出せねぇ…。』

 デルフリンガーは、ブツブツと思い出せない思い出せないと言っていた。

 

 

 




ガンダールヴのルーンがなくても、戦うにはあまり困らないけど、花の抑止のために必要ということにしました。

次回、ルイズと再会。

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