二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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ルイズと再会。

ミュズニトニルン登場。

ガンダールヴのルーンの復活です。


第三十三話  トゥとルイズの再会

 トゥがティファニアのもとに来て、もう何日が経っただろうか。

 まあ、そんなには経っていないだろう。だがトゥにはとても長く感じられた。

「ゲート…、出ないね。」

『あの娘っ子。おまえさんが死んだと思ってふさぎ込んでるのかもしれねぇな。サモンサーヴァントをやりたくないほどにな。』

「ルイズ…。」

 ガンダールヴのルーンをもう一度刻むには、サモンサーヴァントを経るしかない。

 しかしそれには、ルイズの召喚の呪文。サモンサーヴァントが絶対に必要なのだ。

 やってもらわないと、ゲートがこちらに現れるかどうかすら分からない。

 トゥは、もどかしい時間を過ごしていた。

『なあ、相棒…。ゲートが現れなかった場合のことを考えないか?』

「でも…。」

『あの娘っ子にこだわる必要がどこにある? 確かにおまえさんの心を取り戻す一端を担ってくれたとはいえ、そこまでする義理があるか?』

 デルフリンガーの言葉に、トゥは、うーんっと唸った。

「私……、やらなきゃいけないことがある…。」

『なんだって?』

「っと、思う…。」

『あんだそりゃ。』

「そのためには、ルイズの傍にいなきゃいけないんだと思うの。」

『やらなきゃいけないことってなんだ?』

「それは……、分からない。けど、頼まれたの。夢で。」

『夢で?』

「あの人が…、私に……、私に…。」

『おい? 相棒? おい!』

 デルフリンガーが叫ぶ。

 トゥの目から徐々に光が消えだしていた。

「トゥさん。」

「あ…。」

 ティファニアの声が聞こえて、トゥは、ハッとした。

「ご飯ですよ。」

「うん。分かった。」

 トゥは、右目の淵を撫でながらそう返事を返した。

 最初こそ、トゥの右目の花を、子供達が好奇の目で見ていた。

 小さい子供がふざけてトゥの右目の花に触れた時、トゥがたまらず悲鳴を上げてしまった時、子供は大泣きをしてしまい、ティファニアが宥めるという事態があってからは、一時期子供達はトゥから距離を取ったりした。

 トゥの花が、ティファニアの耳と同じように触れてはいけないものだと理解した子供達は、今ではトゥの花のことに触れることなく、普通に接してくれている。

 トゥは、それをとてもありがたく感じた。

「トゥさん。本当にいいんですか?」

 ご飯の後、ティファニアが言った。

 本当にいいのかというのは、自分の無事を知らせなくていいのかということだ。

「私の家族、いないから。」

「でも知人の方とかはいるでしょう?」

「今のままじゃ会えないの。」

「どうして?」

「それは…。」

 

「ここで何をしている?」

 

 っとその時。低めの女の声が聞こえた。

 そちらを見ると、短い金髪の女性が立っていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 女性の名前はアニエス。

 トリスティン銃士隊の隊長の女戦士だった。

「お姫様が、私を?」

 アニエスは、トゥの捜索をアンリエッタから依頼されて単独で来たらしい。

 トゥが暴れに暴れてくれたおかげで、味方の軍の撤退ができたのは、一部で知られており、生死不明の行方不明扱い状態になっているそうだ。

 しかしその話が事実ならば、とてつもない偉業であり、死んでいたとしても何かしらの勲章を与えるべきだという進言があったのだそうだ。

「では、行くか。」

「いいえ。」

「どうした?」

 一緒にトリスティンへ戻ろうとするアニエスに、トゥは首を振った。

「今のままじゃ帰れません。」

「どういうことだ?」

「私、使い魔じゃなくなりました。だから、ルイズのところに帰れません。」

「使い魔じゃなくなった?」

「ここに印があったんですけど。」

 トゥは、左手の甲を見せた。そこにはきれいさっぱりガンダールヴのルーンが無くなっている。

「今のままじゃ、私…、もたないと思う。」

「なぜだ?」

「ガンダールヴのルーンは、私の心を支えてくれていたから。」

「それが無くなった今、このままだとおまえの心がもたなくなるということか?」

「そうです。」

『もう一度ルーンを刻むには、また召喚してもらうしかねーの。』

「っ、インテリジェンスソードか…。驚かせるな。」

『帰って娘っ子に伝えな。もう一度サモンサーヴァントを行えってな。』

「だが確実なのか?」

『あー、痛いところ突かれた…。確実とは言えねぇんだよな。それこそ運命でもない限り…。』

「それでは意味がない。」

『けど、どーしようもねーんだよ。それしか手がねぇ。』

「そうか…。分かった。」

「お願いします。」

「君が、ヴァリエール嬢の運命であることを祈る。」

 アニエスは、そう言って、帰って行った。

 

 アニエスを見送ったトゥは知らない。

 この後、アニエスが報告しに戻ったはいいが、ルイズがトゥを探すと決心して入れ違いになってしまうなどと。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ルイズらしき人物が、黒髪の少女と共に森を歩いているという情報を聞いたのは、アニエスが帰ってから数日後のことだった。

『たぶん、入れ違いになっちまったんだろうな。』

「どうしよう…。」

『相棒。腹くくろうぜ。』

「ダメ。今のままじゃダメ。」

「分かりました。私がなんとかします。」

「ティファちゃん、ごめんね。」

 トゥは、協力してくれるティファニアに、謝罪した。

 それから、樫の樹の下に墓石を作り、そこにトゥの大剣を供え、ストールをかけた。

 トゥは、家の中に隠れ、ソッと様子をうかがった。

 帽子をかぶって耳を隠したティファニアが、ルイズとシエスタに説明していた。

 そのことに嘆いている二人を見て、トゥは心が痛んだが、我慢した。

 やがて夜になり、ティファニアの家に二人を泊めた。

 トゥは、こっそりとルイズの様子を見た。

 ルイズは泣きつかれたのかぐっすり眠っている。

 その姿が痛々しくて、トゥは、うっかり床をきしませてしまった。

「…トゥ?」

 トゥは、慌てて逃げた。

「トゥ、そこにいるの?」

「ミス・ヴァリエール。」

 するとそこへシエスタがやってきた。

 なんだシエスタかと、ルイズは心底がっかりした顔をした。

「さっき、そこにトゥさんが…。」

「えっ! やっぱりトゥは生きているの!」

 シエスタの言葉に、ルイズは飛び起きた。

「どこに行ったの!?」

「こっちに…。」

 ルイズは、シエスタに案内されるままに部屋を、そして家を出て行った。

「ルイズ?」

 トゥは、ルイズとシエスタの様子がおかし事に気付いて、後をつけていった。

 

 

 やがて開けた場所に来た二人。

 ルイズが、夜の闇を照らそうとコモン・マジックを唱えようとした時、シエスタが突如、ルイズが持っていた始祖の祈祷書を奪おうとした。

 驚いたルイズは、シエスタを蹴っ飛ばし、素早くディスペルマジックを唱えた。

 シエスタの姿が光と共に消え、そこには、小さな人形が残された。

 すると、ルイズの背後からローブをまとった人物が現れた。身体のラインから察するに女性である。

「名乗りなさい!」

「そうね……、どちらを名乗るかしら?」

「ふざけないで。」

「あなたは知らないでしょうけど、シェフィールドと名乗っていたわ。本名じゃないけどね。」

 ルイズは、素早くエクスプロージョンの魔法を唱え、黒ローブの女性を爆破させた。

 しかし、ローブの女がはじけた後には何も残らない。近づくと、そこにはバラバラになった小さな人形があった。

「卑怯よ! 出てきなさい!」

 すると、闇の中から、何人もの黒ローブの女性が現れた。

「はじめまして。ミス・ヴァリエール。偉大なる虚無の担い手。」

「……ガーゴイル(魔法人形)使い?」

 ルイズは、魔法を詠唱しようとした。

「やめなさい。あなたの詠唱よりも早く、私の人形があたなを貫くわ。」

 すると次々に周りから、槍や剣を持った騎士の人形が現れだした。その数、数十体。

「私の能力を教えてあげましょうか? 紙の左手こと、あなたのガンダールヴは、あらゆる武器を扱える。私は、神の頭脳、ミュズニトニルン。あらゆるマジックアイテムを扱えるのよ。」

「!」

 そして黒ローブの女性が頭を隠していたローブを取った。

 女性の額には、見たことがあるルーンが光っていた。

「それ…。」

「そう。私も虚無(ゼロ)の使い魔なの。」

 

 

 

 

『相棒! マズイぜ!』

「…っ。」

『迷ってる場合かよ!』

「違う…。そうじゃない…。」

 トゥは何かに耐えるように、デルフリンガーを握りしめた。

「頭が……、花が…うずくの…。」

『なんだって!』

「このままじゃ私…。っ…。」

『相棒、しっかりしろ! くそ、娘っ子……、サモンサーヴァントさえすれば…。』

 膝をつくトゥに、デルフリンガーは、何もできない自分を悔いた。

 

 その時だった。

 

 トゥの目の前に、光のゲートが出現した。

「これ…。」

『げ、ゲートだ! 間違いねぇ! やったぞ、相棒! おまえさんは、娘っ子の運命だ! 立て、相棒! くぐるんだ!』

「うん!」

 トゥは、ゲートに飛び込んだ。

 そしてドサッと音を立てて、トゥは地面に倒れた。

「トゥ!!」

 ルイズの叫び声が聞こえ、トゥは、顔を上げて微笑んだ。

「ルイズ…。やっと呼んでくれたね…。」

「バカ! バカバカバカ! 何勝手に死んだことにしてんのよ! 生きてたんなら、生きてたって顔出しなさいよ!」

「お願い…ルイズ……。キス……して?」

「はあ!? 急に何よ!」

『コントラクトサーヴァントだ! ガンダールヴのルーンを刻んでやれ!』

 トゥの代わりにデルフリンガーが叫んだ。

 デルフリンガーの叫び声に一瞬ビクッとなったルイズだったが、ぐったりしているトゥを見て、そして迫って来る人形達を見て。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え。我の使い魔となせ!」

 ルイズは、かぶりつくように、トゥの唇に己の唇を重ねた。

 すると、ジュウッと音を立ててトゥの左手にルーンが刻まれた。

「うう…く…。」

 トゥは、左手を押さえながら立ち上がり、ルイズに背を向けてデルフリンガーを握った。

「ありがとう。」

 背中を向けたままルイズにお礼を言うのと同時に、トゥは駆けだした。

 そして迫りくる人形を次々に切り裂いていった。

 圧倒的なトゥの戦闘能力の前に、ミュズニトニルンの人形達はひとたまりもなく、すべて破壊された。

 すべての人形を倒し終えたトゥが、ルイズのもとに行くと、ルイズは、その場にへたり込んだ。

「ルイズ、大丈夫?」

「バカ…、本当にバカ…。なんで帰ってこなかったのよ…。」

「私…、使い魔じゃなくなってたから…。」

『あとで説明してやる。まずは、戻ろうぜ。』

 デルフリンガーがそう言い、その言葉に従って、二人は、ティファニアの家に戻った。

 

 ティファニアの家に戻った後、騒ぎに気付いたティファニア達やシエスタが出迎え、ルイズは、現実を実感したのか人の目も憚らず、トゥに抱き付いてワアワア泣いた。

 シエスタも、トゥに抱き付き、ワアワア泣いた。

 

 




ギリギリです。ルイズがコントラクトサーヴァントしなかったら、ヤバかった状態です。

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