二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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貴族になってからのトゥの新しい日常生活。


第三十五話  トゥの日常の変化

 魔法学院に帰ってきたトゥは、シュヴァリエのマントを羽織ったまま、駆けて行った。

「マルトーさん、ただいま!」

 そう言って厨房に顔を出したのだが、待っていたのは冷たい視線だった。

「あ…。」

「ここは、貴族様が来るところじゃねぇよ。」

 そうマルトーが冷たく言うと、トゥの目から涙が零れた。

 それを見て、マルトーだけじゃなく、他のコック達も慌てふためいた。

「おいおい、泣くこたぁないだろ…!」

「だって…、だってぇ…。」

 トゥは、両手の甲を目の下に置いてうぇ~んっと、大泣きした。

 マルトー達は、必死にトゥを慰めようと声を掛けたり、謝罪したり、新作のデザートを出したり、一生懸命した。

 平民のメイド達も現場を見て、慌ててトゥを慰めた。

 十数分して、やっと泣き止んだトゥ。

「それにしても、なんで貴族になっちまったんだ?」

「今までの働きがあるからだって。お姫様が…。断ったらお姫様が恥かくって…。」

「それで承諾しちまったのか。」

「うん…。」

「まあ…、人伝に聞いた話じゃ、とんでもねー活躍したって聞いてるしよォ…。学がない俺にゃ分からねぇし、王室なんて無縁だからなぁ。平民が頑張れば貴族にだってなれるんだってことを示したんだ、おまえさんは。それなのに、俺達は…。」

「マルトーさん達が貴族嫌いなのに、貴族なった私が悪いんだ…。」

「すまねぇ! 本当にすまねぇ! あんたが他の貴族みたいに威張り散らすはずがねぇってのに! 本当ーーーに、すまねぇ!!」

 マルトーは、土下座した。他のコック達も続けと言わんばかりに土下座しだした。

「マルトーさん、顔上げて。」

「本当にすまねぇ!」

「もう、大丈夫ですから。」

「ありがとよ…。」

 立ち上がったマルトーは、ズビッと鼻水をすすった。

 すると、そこへ。

「マルトーさん、大変なんです!」

「シエスタ?」

「あ、トゥさん!」

 トゥがいることに気付いたシエスタは、真っ赤になった。

「どうしたんでい?」

「あの…、私、異動になりました。」

「なんだって!」

「いどう?」

「はい、もう私この学院のメイドじゃなくなります。」

「えっ!」

「そ、その代り…。」

 シエスタは、スカートを握りながら俯きモジモジとした。

 そして、顔を上げて、トゥの両手を握った。

「私、トゥさんの、専属メイドになることになりました!」

「えっ?」

「アンリエッタ殿下から署名が書かれた書類が学院長に届いて…、それでトゥさんは、学院のメイドから誰か一人を選ぶようになって。メイド長が、仲の良い私がいいだろうって…。あの……。」

「はあ…。よく分からないけど…。シエスタが、私のメイドになるってことだよね? 私だけの…。」

「そうです! これからよろしくお願いします!」

 シエスタは、トゥから手を放し、少し離れて頭を下げた。

「貴族って…、大変。」

 トゥは、そう呟いた。

 

 

 その後トゥは、自分がアルビオンに行っている間に学院が敵に襲撃された時、コルベールが身を徹して守り、そして死んだと聞いて泣いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ひとしきり泣いて、その後シエスタを連れてルイズの部屋に来たトゥは、そこで奇行を犯すルイズに遭遇した。

 セーラー服というものを着て、なんかやっていた。

「ルイズ? どうしたの? 何か変な物でも食べたの?」

 っとトゥが聞くと、こちらを見て固まっていたルイズは、ハッとして脇目も降らず窓に向かって行った。

 慌ててトゥが素早く動いて窓から身を乗り出すルイズを止めた。

 それからルイズを落ち着かせるため2時間かかった。

 なんとか落ち着いたルイズは、ブスッとした顔で二人を見ていた。

「それで? 連れてきちゃったわけ?」

「うん。」

「世話なら間に合ってるわよ。」

「いいえ。ミス・ヴァリエールのお世話をするんじゃありません。トゥさんの周りのお世話をするためです。」

「そんなの自分でやらせるわよ。」

「ですが、女王陛下の直々の仰せです。」

「姫様がぁ?」

 素っ頓狂な声を上げるルイズにシエスタが書類を見せた。

「…ほんとだ。」

「私だって、そんな、自分から押しかけるほど図々しくありませんわ。」

「どうだか。で? あんたは、どうなのトゥ。」

「えっ?」

「シエスタがあんたの傍にいてほしいわけ? どうなの?」

「うーん…、確か訓練とかってあるから、ルイズの周り事できなくなりそうだし。その時は、シエスタに頼んでもいい?」

「もちろんです! トゥさんのお役に立てることが私の幸せですから。」

 シエスタがトゥの手を握って微笑んだ。

 ルイズはそれを見て、ムッとしたが、堪え、だが口元をひくつかせがら。

「で…でも、寝るときはどうするのよ? ベットは一つしかないわよ? どこで寝るのよ?」

「一緒に寝ればいいじゃん。」

 トゥがさらっと言った。

「狭いわよ! それにシエスタは…。」

 言いかけてルイズは、止まった。

 シエスタは、平民だと言いかけたのだ。

 しかしトゥは知らないことであるが、ルイズにはシエスタに恩義がある。無下にするなんてできない。

 だが、寝ている時に、シエスタがトゥに何かする可能性はある。

「じゃあ、私が床で寝て、ルイズとシエスタがベットで寝ればいいよ。」

「そんなことできません! トゥさんは、騎士様ですよ!? それなら私もお供します!」

「えっ?」

「ダメよ! ダメだったらダメ! それなら一緒に寝ましょう!」

「いいの?」

「いいわよ!」

 なんだか慌てているルイズの様子に、トゥは、首を傾げた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その夜。

 三人は一つのベットに川の字で寝た。

 トゥを真ん中に右にルイズ、左にシエスタ。

 ルイズは、寝たふりをしながら二人の様子をうかがっていた。

 しかし二人とも動く様子がない。

 その内、ルイズは、眠くなり眠ってしまった。

 

 どれくらいかしてふと目を開けたルイズは、左側を向いて寝ているトゥに寄り添って寝ているシエスタを見た。

 最初は少し離れて寝ていたのに!っと、ルイズが怒鳴りそうになって堪え、寝ているトゥの肩を掴んで無理やり右を向かせ、自分がトゥにくっついた。

 するとシエスタがトゥの背中にくっつき、トゥの胴体に腕を回した。

「……起きてるでしょ?」

「ぐうぐう。」

「寝たふりしないで。離れなさい。」

「トゥさんがそうしろって言うなら、そうします。」

「寝てるから私が命令するの。離れなさい。」

「イヤです。」

「離れなさい。」

「イヤです。」

「トゥは、私のものよ。」

「ですが、私はトゥさんのメイドです。私がトゥさんのものなんです。」

「メイドが主人にそんなことしていいのかしら?」

「あーしろ、こーしろと禁止されることを言われてませんから。」

「屁理屈言って…。」

「そちらこそ。」

 二人の攻防は、トゥを挟んでその上で行われたため、トゥはうなされた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌日から再び始まった学院でのトゥの生活は、以前とは違ったものだった。

 まず視線が違う。

 ある者は、恐れ。ある者は嘲り。反応は様々だがトゥが貴族になったことに反応していた。

 トゥは、そんな視線など気にすることなく、戦争に行く前のように、他人の使い魔と遊んだりしていた。

 決闘を申し込まれたりもしたが、トゥがあっさりと退けると恐れをなしてすれ違いざまに悪口を言われることもなくなった。

 

 トゥが学院に戻って三日後。

 アンリエッタに呼ばれて、なんとか近衛騎士隊長なってくれないかと言われた。その理由として、ある部隊が編成されたのだ。

 その部隊の名は、水精霊騎士隊(オンディーヌ)。

 その昔、実際にあった部隊らしいが、一度解散され、そしてアンリエッタが再びその名を持つ部隊を編成するに至ったのだ。

 トゥは、渋々ではあるが、承諾した。

 そして後日、部隊の少年達を前に、ギーシュとトゥが立っていたが、ギーシュはカチコチになっていた。

「ギーシュ君?」

「い、胃が…。」

 なぜギーシュが緊張して胃を痛めているのか。

 それは、アニエスからの進言でトゥが急に隊長なったらいらぬ嫉妬を買うから、まずはギーシュを表向き隊長とし、トゥが副隊長として着くということになったのだ。

 伝説の騎士隊の隊長に急になって、そりゃ緊張もする。

 前にいる部隊の少年達と、トゥの視線を受け、ギーシュの顔色が青から土気色に変わりだした。

「や…、やっぱり、僕が伝説の騎士隊の隊長というのは…。」

「でもギーシュ君もすごいよ?」

「確かに…、家柄とか、勲章とか…、僕だって手柄も立ててはいるが…。」

 そんなことしてたら、やがて少年達からブーイングが上がりだした。

「まあ、とりあえず、訓練しよ?」

「う、うむ…。」

 なんやかんやあったが、訓練は始まった。

 騎士隊の編成と稽古。剣を振り回したり、魔法を一斉に撃つ練習、組手とやることは様々だ。

 みんながクタクタになる中、体力がずば抜けているトゥだけはケロっとしていた。

 ぐったりしている者達を後目に、自前の大剣を振っているのである。

 これが早朝からあり、授業が終わるとまた始まり、夜まで続くのである。

 

 

 そんなトゥを、広場の端のベンチで眺めているルイズ。

 彼女の隣にはモンモランシーもいた。

「ほんと、バケモノね。」

「他の人が体力ないだけじゃない。」

「右目から花はやして、七万の敵を相手にして、それで無事に帰ってきたなんてバケモノ以外に何があるの?」

「トゥが強いからってそんなこと言っちゃって。バケモノだろうがなんだろうが、姫様はお認めになってシュヴァリエの称号をトゥにあげたんだからね。」

 ルイズは、ふふんっと鼻で笑った。

 モンモランシーは、ムッとしながら、ルイズの手元を指さした。

「それより、あんたは何してんのよ。」

「…縫物。」

「悲惨なことになってるわよ?」

「うるさいわね。」

 ルイズは、今、トゥのボロボロになったストールを繕っていた。

「繕い物なんて、メイドに頼めばいいじゃない。」

「いいの。私がやるの。」

「…変わったわよね。あんた。」

「そう?」

「あの女が来てから、変に献身的だし…。」

「別に献身なんてしてないわよ。」

「自覚がないわね…。それに独占欲丸出しだし。」

「ど、どどど、独占なんて…! 確かにトゥは、私の使い魔だけど、そんなんじゃないわよ!」

「動揺しちゃって…、本当のことでしょう?」

「違うってば!」

 そんな言い合いが、しばらく続いた。

 

 

 こうして、貴族となったトゥの日常は、始まったのだった。

 




原作と順序を色々と変えてみました。

ルイズとシエスタの攻防。結構悩みました。

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