二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

42 / 116
今回短めかも。




第三十八話  トゥ、イルククゥと出会う

 

 ルイズの部屋は、重たい空気に満ちていた。

 しかしトゥは、能天気にシエスタが入れてくれたお茶を飲んでいた。

「トゥさん、どうぞ。」

「ありがとう。」

 隣に座るシエスタからクッキーをもらい、能天気にサクサクと食べている。

「トゥさん、これも美味しいですよ。」

「ほんと?」

「はい、アーン。」

「? あーん。」

 シエスタがビスケットのひとつを摘まんで、トゥに食べさせようとした時、ビキッという音がした。

 見ると、ルイズがお茶のカップの欠片を口にくわえていた。どうやら口で割ったらしい。

「…ルイズ?」

「……おかわり。」

 びっくりしているトゥを無視して、ルイズは、割れたカップをシエスタに差し出した。

 シエスタは、はいはいと立ち上がると冷え切ったお茶を注ぎ、にっこりと笑ってそれをルイズに差し出した。

「どうぞ。」

「ちゃんと新しいのを淹れなさいよ。使えないメイドね。」

 言われたシエスタは、お茶のポットの中の出涸らしを捨てたが、新しい茶葉がないことに気付き困った顔をした。だがすぐに何か思いついたような顔をして、外へ出ると、すぐに戻ってきた。その手に雑草をたくさん持って…。

 その雑草をポットに入れ、冷めたお湯を注ぎ、それをルイズのカップに注ぎ入れ、笑顔で、馬鹿丁寧にルイズに差し出した。

 ルイズは、ルイズで、笑顔でカップの中身をシエスタの頭にかけた。

 シエスタは、笑顔を張り付けたままハンカチを取り出し、頭を拭いた。

 そして今度はシエスタが、ポッドの中のお茶(?)をルイズの頭にかけた。

 二人は笑顔を張り付けた状態で睨みあっていたが、やがてどちらからともなく、飛び掛かり、取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 トゥは、髪の毛を掴みあったりして喧嘩を続ける二人をポカーンと眺めていた。

 二人の喧嘩を眺めていたが、飽きたトゥは、窓の方を見た。

 タバサからはまだ連絡はない。

 それにスレイプニィルの舞踏会の夜に襲って来たガーゴイルがミュズニトニルンのものであるということは、ミュズニトニルンは恐らくガリアにいるのだろうと予想される。

 現在ガーゴイルの破片を解析に回してもらってガリアの仕業であるという証拠を探してもらっている。

 だがしかし、証拠を突きつけたところで向こうが白を切ってしまったらお終いだ。

 トゥは、溜息をついてズズッとお茶をすすると、肩をガッと掴まれた。

「止めなさいよ!」

「ふぇ…。」

 この後、ルイズとシエスタの二人がかりで怒られた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 戦闘機の格納庫に作られた、水精霊騎士隊のたまり場で、トゥは、クスンッと泣いていた。

「あーっと…、つまり君は考え事をしていて二人の喧嘩を止めそびれてしまったわけだね?」

 ギーシュがトゥから聞いた話をまとめてみてそう言った。

「タバサちゃん、まだ帰ってこないから…。」

「それは、君のメイドが怒りそうだね…。」

「なんで?」

「いやいやいや、君分かってるのかい? 君の専属のメイドだけど、彼女の君を見る目は、明らかにだね…。その…。」

 ギーシュがわたわたと手を動かして説明しようとしていると、突然ドンッという音が聞こえた。

 見ると、酔って顔を真っ赤にしたマリコルヌがワインの入った瓶の底を叩きつけたらしかった。

「いいよなぁ…、女の子にまでモテるなんて…。」

「ま…マリコルヌ?」

「生まれてこの方17年女の子から一度だって詩の一説すら送ってもらったことのないというか目を合わせただけでプッとか笑われる人生を送ってきた僕を侮辱しているのか。」

 酔っているマリコルヌが一気にそう言った。

「どうしたの?」

「どーしたのじゃないんだよぉぉぉぉ!」

「ふぇ…。」

「お、落ち着きたまえ…。飲み過ぎだよマリコルヌ。」

「恋人がいるやつぁ、このマリコルヌに説教すんな!」

 マリコルヌの拳がギーシュの顔に当たり、ギーシュは崩れ落ちた。

「ギーシュ君!」

「聞け。恋人のいる奴は一歩前へ。で、息するな。貴様らは、僕の前で呼吸する権利すらない。」

 などとムチャクチャなことを言い出すマリコルヌ。

 その迫力に、その場にいた面々の中の何人かがそんなマリコルヌに頭を下げだした。

 トゥは、ギーシュを介抱しながらオロオロとしていた。

「そ、その、なんか、す、すまない、マリコルヌ…。」

「…すまないと思うなら出してよ。」

「えっ?」

「女の子、出してよ!」

 マリコルヌが哀し気に叫ぶ。そんなこと言われてもできるわけがない。その場にいた男子達は顔を見合わせた。

 っと、その時、門限八時だと叫ぶ女の子達がやってきた。その中には、ルイズやモンモランシーがいた。

 トゥに介抱されているギーシュを見て、カッと顔を赤くしたモンモランシーは、ギーシュを奪い取っていまだ意識が朦朧としているギーシュに怒鳴っていた。

 トゥは、トゥでルイズにプンプン怒られた。

 他の女の子達もそれぞれ恋人らしき少年に向かって怒っていた。

 それを見ていたマリコルヌは、ブルブルと震え。

 やがて机が吹き飛ぶほどの風の魔法を放った。

「僕にも女の子出してよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 そう泣き叫ぶ彼の上の方、適当に作った板の天井が突如として破れた。

 そしてマリコルヌは、潰された。女の子に。

 びっくりした周りは、目を真ん丸にした。

 その女の子は、女の子…というには、年がいっており、20代くらいであろうか、そして裸だったのだ。

 びっくりして固まっていた女子達がハッとして恋人の目を手で覆うなりした。

 その青い髪のその女性は、よろよろと起き上がり周りを見回し立ち上がるが、転んだ。

「きゅい…。」

「あれ?」

 トゥはその声を聞いて、はてっと首を傾げた。

 女性は、トゥを見ると、危なげな足取りで歩いてきてトゥに抱き付いた。

「よかったのね! 会えたのね!」

「えっ? えっ?」

「こら! トゥから離れなさい!」

「大変なのね! 大変なのね!」

「なにが、大変なの?」

「お姉さまが大変なのね! 助けてなのね!」

「おねえさま?」

「とにかく何か着なさいよ!」

「とりあえず…、これ着て。」

 見かねたモンモランシーが肩掛けを女性に着せた。

「あなた…シル…。」

「! 違うのね!」

 女性は慌ててトゥの口を手でふさいだ。

「えっと、その、イルククゥ。お姉さまの妹なのね。あ、お姉さまってのは、ここでいうタバサその人なのね。」

「タバサの妹? …そうは見えないけど。」

 他の者達も首を縦に振った。

 それからイルククゥは、たどたどしい言葉で必死に説明を始めた。

 いわく、タバサがガリア王家を裏切り、その結果、シュヴァリエの称号を剥奪されたこと。

 母親を拘束され、タバサは、母親を救い出すために単身ガリアへ向かったこと、そして圧倒的な魔力を持つエルフに捕まったこと。

「で、助けを求めてきたわけ?」

 ルイズが聞くと、イルククゥは、きゅいっと言いながら頷いた。

「……この女性は、ルイズやトゥ君を襲ったガリアの手の者なんじゃないのかね?」

 やっと立ち上がったギーシュが言った。

 周りの者達も、不審な目をイルククゥに向けている。

 さらに彼女の言い分自体が怪しく、ワナの可能性が高いとモンモランシーが分析する。

 言われたイルククゥは、しょんぼりとした。

「どう見ても妹には見えないんだよ!」

「そこは信じてなのね。」

「やっぱりワナなんじゃないか?」

「足りないのに、ナマ言うんじゃないのね。」

「な、なんだとぉ!」

「証拠を見せるのね、きゅい!」

 イルククゥは、小屋から出て行った。

 なんだなんだと後を追いかけて外に出ると、そこには、見慣れた巨体があった。

「シルフィードだ!」

「ああ、間違いない、タバサの風竜じゃないか!」

 そう騒ぐ面々の後ろからひょこりっと顔を出したトゥは、何とも言えない表情をしていた。

「さっきの女の子はどこ行っちまったんだ?」

 一人がそう言うと、シルフィードは、慌てたように空へ舞い上がり空へと消えた。

 トゥ以外の面々がはてなっと思っていると、イルククゥが建物の影から走ってきた。

 どこに行ってたのかと聞かれると、イルククゥは、トイレに行っていたと苦し紛れに言った。

 シルフィードは、どこ行ったんだと聞かれると、怪我をしたから出かけたと苦し紛れに言った。

 トゥは、一人、ルイズに言うべきか言わないべきかとキョロキョロとしていた。

 イルククゥは、そんなトゥを見つけてあわあわと手を動かしてきゅいきゅいっと意味不明な声を発していた。

 

 この後、マリコルヌが、自分が女の子が欲しいと言ったらイルククゥが落ちてきてくれたからと近寄って手を取ろうとしたら、イルククゥがそれを完全に無視してしまったためマリコルヌが絶叫した。

 

 




トゥに、早々にバレたイルククゥ。

連投稿します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。