二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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ここから、タバサ救出編かな。


第三十九話  トゥ、ガリアへ

 タバサ救出!

 …っとは、すぐにはいかなかった。

 まずルイズが水精霊騎士隊としての筋を通すべきだと言った。

 まずは、アンリエッタに報告し、許可を取るべきだと。

 そこでも問題となったのが、タバサがトリスティン人ではなく、ガリア人であること、これについての外交的な問題が浮き彫りになった。

 下手をすると戦争という言葉に、騎士隊の多くが顔を青ざめさせた。

 レイナールを始めとした少年達が、タバサ救出のためにガリアへ向かうことを諦めるべきだとトゥとギーシュを説得しようとした。

 トゥは、少し考え、レイナール達に無理してこなくていいよっと言い、レイナール達がいなくなった後、シュヴァリエの称号の証であるマントを脱いだ。

 驚く周りを後目に、アンリエッタにマントを差し出した。

「タバサちゃんを助けるのに邪魔なら、いりません。」

 そう言って微笑んだ。

 アンリエッタは、目を見開きトゥを見つめた。

 トゥは、その視線や周りの視線も気にせず微笑んでいた。

 トゥが本気だと感じたアンリエッタは、鐘を鳴らした。

 そしてやってきたマンティコア隊の騎士達にトゥ達の武装を解除し、捕えるよう命じた。

 残ったギーシュとマリコルヌがトゥと共に拘束されて牢屋に入れられた。

 余談だが、トゥの大剣が重たくて大の騎士達が数人がかりで運んだという。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 トゥは、牢屋の窓から二つの月を見ていた。

「ホント馬鹿ね…。なんで、あんな啖呵きったのよ。」

 後から同じ牢屋に入ってきたルイズが言った。

「別に…。」

「そうよね。あんたはそんなつもりなんてなかったんでしょうね。」

「うん。」

 トゥは、ルイズの方を見て頷いた。

「……しかし本当に何の策もなかったとわ…。」

「あら? トゥがそんな頭してると思ってたの?」

 ズーンっと落ち込んでいるギーシュとマリコルヌに、ルイズが言った。

 どうやら二人は、トゥに何か策があるとみて期待してたらしい。

「さてと。」

「何する気よ?」

「? 牢屋を壊して…。」

「バカね。そんなのすぐバレるわよ。」

「牢屋を壊せることについては否定はしないんだ…。」

 マリコルヌがツッコミを入れた。

「この子の馬鹿力なら牢屋も簡単に破壊できるでしょう。」

「! ならそうすべきじゃないか!」

「だけど、その後はどうするの?」

「えっ?」

「力のあるトゥはともかく、私達はメイジといえど、その力の源の杖を取り上げられて凡人に成り下がってるのよ? どこかに私達の杖とトゥの武器が納められてるでしょうけど、あんた達、ここの構造なんて知らないでしょ?」

「じゃ、じゃあ彼女に守ってもらいながら探せば…。」

「それこそ多勢に無勢よ。アルビオンでの戦いの時、トゥ一人に負担をかけさせて危うく全滅するところだったわ。トゥ一人ならともかく、トリスティン城の兵達全部を相手に、私達を守りながらなんてムチャよ。」

「女性に守ってもらいながらなんて、僕の誇りが許せないな。」

「ギーシュまで…。」

 味方がいないと察したマリコルヌは、がっくりと肩を落とした。

 トゥは、ふわぁっとあくびをした。

「まずは、体力を蓄えておくことね。」

「なにが体力を蓄えるだよ…。なんの策もない癖に!」

「あら、じゃあ、あなたにはいい案があるわけ?」

「…うっ。」

「マリコルヌ。無駄な体力を使ってても埒が明かないし、いざって時に動けないぞ。とりあえず寝よう。」

 ギーシュがそう言ってマリコルヌの肩を叩いた。

 ルイズは、先にベットに潜り込んだトゥの隣に潜り込みさっさと寝ていた。

 ギーシュもベットに横になってしまい、残されたマリコルヌは、悔しそうに頬を膨らませ、渋々ベットに横になった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌朝。

 鉄格子の窓から差し込む日差しでトゥは目を覚ました。

 その時だった。

 凄まじい閃光と、大音量が響いた。

「な、なに!?」

 トゥの隣で寝ていたルイズも、ギーシュもマリコルヌも飛び起きて窓の外を見た。

「オストラント号!?」

 低空飛行で飛ぶオストラント号がいた。

 何かをばら撒きながら。

 オストラント号からは、大音量の音楽と、拡声器からの声が聞こえた。

 内容は、オストラント号のお披露目を知らせる言葉だった。

 モンモランシーの声だった。

 竜騎士がオストラント号の周りをグルグルと回り、近づいて、よそでやれ、帰れっと警告しているようであった。

 トゥ達がポカーンっと外を見ていると、ドサッという音が牢屋の前から聞こえた。

 すぐそちらを見ると、見張りの衛兵達が倒れていた。

 そして。

「キュルケちゃん!」

「コルベール先生!」

「シッ! 静かにしてて。」

 キュルケが指を唇に当てて静かにするよう言った。

 その間にコルベールが衛兵から鍵の束を取ると、牢屋を開けた。

 そこからは、早かった。

 建物の構造を知っているらしいコルベールにより、杖とトゥの武器を納められている場所に行き、杖と武器を奪還。

 立ちはだかる衛兵も素早いコルベールの体術と眠りの雲の呪文で眠らせて、あっという間に城の門に辿り着いた。

 そして出る客のチェックが手薄なことを利用して、コルベールの身分証明を出してあっという間に門を通り、城下町に出た。

 城を抜け出した一行が向かった先は、魅惑の妖精亭だった。

 そこには、馬や旅装が用意されていた。

「お友達を助けに行くんでしょう? 協力するわよぉ~~~。」

 スカロンが腰をくねらせ、ウィンクをした。

「しかし、誰が僕たちが捕まったことを知らせたんだい?」

 ギーシュがキュルケに聞くと、酒場の隅から恥かしそうにレイナール達が出て来た。

「レイナール君。」

「どうせ反対されて諦めると思って、中庭で君達の帰りをこっそり待っていたたんだ。したら、君達が捕まって連れていかれるのが見えたから…。」

 更にオストラント号で待機していたキュルケ達に知らせ、更には魅惑の妖精亭に協力を仰いだというわけであったらしい。

「みんな…、ありがとう。」

「お礼を言うのは、タバサ君を助けてからだ。」

 コルベールが地図を広げた。

 コルベールの計画は、以下の通りだ。

 まずガリアへは陸路で向かう。

 トリスティン側は、まずオストラント号を疑うであろうからそれを逆手にとって追手を引き付ける。そしてゲルマニアに向けて飛行し、ゲルマニアからガリアへ入るであろうと思い込ませる。

 オストラント号を使えないのは、オストラント号がデカすぎるため、すぐにガリア軍に見つかるから。それに、オストラント号をそういうことに利用したくはないというコルベールの意思もあった。あくまでも東の国へ向かうために作ったのだからと。

 

 こうして、タバサ救出の旅が始まった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 タバサ救出のメンバーは、トゥ、ルイズ、ギーシュ、マリコルヌ、キュルケ、コルベール、そして治療要員としてモンモランシーが同行した。

 水精霊騎士隊全員で行くと確実に目立つので、残るメンバーは、オストラント号に乗り囮となった。

 イルククゥは、怪我をしているため学院に残った。

 国境を超える時には、空からついてきていたシルフィードに乗り、夜陰に乗じてガリアに空から忍び込む。

 国境まで馬で来たのは、怪我をしているシルフィードが、七人の重たさを乗せて長時間は耐えられないためであった。

 ちなみにトゥ達は、変装していた。

 髭を付けたり、道化の衣装や商人服、踊り子、村娘の格好。様々だ。

 トゥは、羽根突き帽子にマントを身に着け、背中に背負った大剣と腰のデルフリンガーで、まるで剣舞をする役者のような格好だった。

 こうして、一見すると旅芸人一座ができあがった。

 ちなみにトゥにも踊り子の衣装を着せるという案のあったが、剣を装備しているためそれだと怪しまれるということで却下となった。

 酒場で食事をし、一服した後、一行は宿屋に行った。

「ねえ、トゥ。」

「なぁに?」

「どうして、あんたは、タバサを助けようとしてるわけ?」

「だってタバサちゃんには色々と助けてもらったし…、なのに恩返しもしないまま見過ごすなんてできないよ。」

「あんたの目的は、シルフィードじゃなかったわけ?」

「っ…。」

 ルイズは、ジトッとトゥを見た。

「シルフィードに食べてもらうためにタバサを助けるって言うんじゃないわよね?」

「違うよ。」

「まあ、そうよね、別に食べてもらうだけだったならわざわざタバサの許可なんて必要ないし。」

「ルイズ…、私は…。」

「もういいわよ。あんたがいくら言ったって死にたがってるってことは。私の知らないところで勝手に死ねばいいのよ。」

「そ…それじゃダメ。」

「なによ! 私に死ぬところを見てろっていうの?」

「違うそうじゃない。」

「じゃあなんなのよ?」

「分からない…。」

 トゥがそう言うとルイズはずっこけた。

「でも、ルイズと一緒じゃなきゃダメ。そんな気がするの。」

「なによそれ…。」

「あそこへ行くには、ルイズと一緒じゃなきゃ…。」

「あそこって?」

「分かんない。」

「話にならないわ。」

「…ごめん。」

「…夜まで時間があるわ。とにかく寝ましょう。」

「うん。」

 二人は、話を打ち切り、寝ることにした。

 

 そして夜を迎えたが、異変はすぐに起こった。

 アンリエッタが差し向けた追手としてアニエスの部隊が宿を取り囲んだのだ。

 そこでコルベールが自らの炎の魔法で足止めを買ってた出た。そのことにキュルケが血相を変えたが、コルベールの意思は固かった。

 コルベールが起こした炎の壁によりアニエスとその兵達が阻まれ、トゥ達はシルフィードに乗って空へ飛んだ。

 

 シルフィードに乗り、国境を越え、旧オルレアン公邸に到着したのは、深夜だった。

 

 




次回、ハルケギニアの竜種が、トゥをどう見ているのか、について。

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