二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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ビダーシャルとの戦い。
そしてタバサ救出。


第四十一話  トゥ、エルフと戦う

 

 アーハンブラ城についての情報収集であるが、これは、キュルケがやった。というか、やらされた。

 キュルケは、自分ばかりがやらされることについて、トリスティンの貴族は自尊心ばかり高いと文句を言った。

 これについてルイズが自分もできると言ったが、貴族だとバレバレの状態での給仕で得た情報とキュルケが己の魅力を遺憾なく発揮してやる情報収集とじゃ天と地の差がある。

 キュルケが得た情報をまとめると、このアーハンブラ城にタバサとタバサの母親がいることは間違いないとのことだ。

 その証拠に、マリコルヌが遠見の魔法で得て来た城の情報から、二人の貴人を守るためにガリア軍が二個中隊…おおよそ300人、貴族の将校が10人ちょいいることが分かった。

 この面子で、すでにリーダー格となっているキュルケが、作戦を立てていった。

 まず奇襲による攻撃は却下。こちらには、七万の大軍を相手にして生き残ったトゥがいるとはいえ、援軍が来られては分が悪く、それによっておこる騒ぎでタバサに危害が加わる可能性と、どこか別の場所に移される可能性が危惧された。

 そこで、兵士達を眠らせるという案が出た。

 呪文じゃ無理。ならば薬を盛るという作戦となった。

「で、エルフを見たら…。」

 眠り薬を作るためと、引き続き城の様子を見るため出発しようとした、ギーシュ、モンモランシー、マリコルヌが、ビクリッと震えて顔を青ざめさせた。

「逃げて。絶対戦おうだなんて思わないで。」

 キュルケは、ひたすら逃げろと言い聞かせ、そしてこの旅の目的がタバサと、タバサの母親の救出なのだということを念押した。

 友人を救いに来たのだから、傷ついたら本末転倒、逃げることは、臆病でもないのだと言った。

 三人は分かったと頷いた。

「私の親友を救い出す作戦に協力してくれてありがとう。あなた達の勇気に感謝するわ。」

 キュルケは丁寧に一礼した。

 怯えた顔をしていた三人は、そんなキュルケを見るのが初めてだったので一瞬驚き、すぐに真剣な顔をして出発していった。

 そして。

 キュルケは、ルイズとトゥに向き直った。

 二人にはエルフと戦ってほしいと言った。

 ルイズは、驚き怒った。自分は傷ついてもいいのかと。

 キュルケは首を振った。

「たぶん、あたしたちだけじゃエルフに勝てない。可能性があるのは、あんたの伝説よ。」

 それを聞いたルイズは目を丸くした。

「知ってたの?」

「知らないと思ってるのは、いつだって自分だけよ。」

「私は?」

「トゥちゃんも、ルイズと一緒に英気を養ってて。あんたは、切り札よ。」

「きりふだ…。」

「私達の魔法とは全然違う…、そのウタの力っての? それがエルフに通用するかどうか分からないけど、万が一の時は…、お願いよ。」

「なによ。私の力が勝てる可能性って言っといてそれはないじゃない。」

「トゥちゃんの力は…、生易しい物じゃないってことは、主人のあんたが一番分かってるでしょ?」

「っ!」

「トゥちゃん。ウタを使う時は、本当にマズイ時よ。いいわね?」

「…うん。」

 キュルケに念を押され、トゥは頷いた。

 

 そして体力温存するため、ベットに向かった。

 その時、別のベットで寝ていたシルフィード(人間形態)が目を覚ました。

「きゅい。」

「あ、起きたの?」

「ありがとうなのね。」

 そうお礼を言って来た。

「お姉さまを助けるために、皆頑張ってくれているのね、すっごく感動なのね。きっとお姉さま、皆が助けに来たと知ったらすっごく喜ぶのね。お姉さまは喋らないからなんだか冷たく見えるけど、本当はとっても優しいのね。シルフィはお姉さまのことが大好きだけど、負けないくらいお姉さまもシルフィのことが好き。お姉さまは何も言わないけど、そのぐらいのことは伝わってくるのね。」

「そうなんだね…。」

「どうしたのね?」

「ねえ、シルフィードちゃん。」

「た、食べるのはなしなのね!」

「まだ何も言ってないよ?」

「言いたいことはなんとなくわかるのね! た、食べないのね!」

「なんで?」

「た…食べちゃったら…、あんたのご主人が悲しむのね…。」

「……。」

「でも、すごく食べたいのね…。」

「我慢しなくていいんだよ?」

「ダメなのね!」

「いい加減にしなさい。今は、休むのよ。」

 先にベットに入っていたルイズに怒られた。

 トゥは、渋々ルイズのいるベットに入り、シルフィードは、ホッとした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌日の夕方。

 作戦は決行された。

 買い占めた酒に眠り薬を仕込み、それを持ってアーハンブラ城に向かう。

 キュルケが素晴らしい言い回しでうまく駐屯地の隊長を言いくるめ、300人の兵士に酒を配られるよう仕向けた。

 そしてキュルケを中心としたモンモランシーとルイズ、そしてシルフィードによる、踊りが披露され、娯楽に飢えた兵士達はどんどん酒を飲んでいく。

 キュルケの踊りは見事なものだが、モンモランシーとルイズの踊りは不器用だ。シルフィードは、人間形態に慣れないため、最初こそ生まれたばかりの小鹿のようなものだったが、だんだんと要領を掴んで、暴れるように踊りだした。

 やがてキュルケが駐屯地の隊長に呼ばれて、残されたメンバーは、眠り薬が効くまでの1時間の時間稼ぎを行うことになった。

 キュルケを欠いた面々は、そりゃもうグダグダだったが、ギーシュとマリコルヌが宮廷音楽を奏でたことで、モンモランシーが気品と優雅さに溢れた踊りを披露して兵士達の心を掴んだ。

 その結果、無事に眠る薬の効果が発揮される時間を稼ぎ、兵士達は、眠りに落ちていった。

「すごーい。」

 300人の兵士達が寝転がっている光景は、壮観だ。

 兵士達が丸一日分の眠りに落ちたと見るや、ルイズ達は、隠していた杖を出したりして武装を完了した。

 ルイズ達が中庭からエントランスに通じる階段を駆け上がった時、天守の壁の一角がいきなり爆発した。

 ついで中から一人の人間が降って来るのが見えた。

「キュルケ!」

「酷い怪我!」

 モンモランシーが慌てて水の治療魔法を唱え、シルフィードも変身を解いて一緒に治療魔法を唱えた。

「エルフ……、気を付けて……。」

 キュルケは、そう言うとがくりと気絶した。

 ギーシュとマリコルヌにキュルケを任せ、トゥは、駆けだした。そのあとをルイズが追いかけた。

 天守に通じる階段を登っていたトゥに、後ろからルイズが抱き付いた。

「待って! 相手はエルフよ! 慎重に行かないと…。」

「キュルケちゃんがやられたんだよ? このままじゃタバサちゃんが…。」

「あんた、死に急ぎ過ぎなのよ!」

「ふぇ…。」

「竜に食べてもらおうと躍起になるし、私に殺せって言うし…。私は…、あんたに死んでほしくなんてないの!」

「ルイズ…。」

「お願いだから、死のうとしないで!」

「それは…。」

 できないと言いかけて、トゥは、ハッとして天守のエントランスの方を見た。

 炎の球がいくつも飛んできたので、デルフリンガーでそれを消した。

 トゥは、ルイズを振りほどいて、階段を駆け上がり、エントランスの柱を切り裂いた。

 太い柱が切り倒され、後ろにいた駐屯地の隊長が現れた。

「ひ!」

 トゥは、構わずデルフリンガーの柄で隊長の腹を殴り、気絶させた。

「この人がエルフ? 違うよね?」

「全然違うわ。エルフはもっとこう、耳がとんがって…。」

 

「お前たちも、さっきの女の仲間か。」

 

 澄んだガラスの鐘のような声が響いた。

「あんな風にすらっとしてるのよ。」

「ふーん。」

 トゥは、大剣も抜いて構えた。

「わたしはエルフのビダーシャル。お前たちに告ぐ。去れ。我は戦いを好まぬ。」

「じゃあ、タバサちゃんを返して。」

「タバサ? ああ、あの母子か。それは無理だ。我はその母子をここで守るという約束をしてしまった。渡すわけにはいかぬ。」

「じゃあ…、戦うしかない。」

『相棒…、やめとけ。』

「でもここで引いたら、タバサちゃんと二度と会えない気がするの。だからダメ。」

「……その花は…?」

 ビダーシャルは、トゥの右目の花を見て顔をしかめた。

「? 花が、どうかした?」

「まさか…、いやありえぬ……。」

 ビダーシャルは、何やら汗をかいて首を振っている。

「…来ないなら、こっちから行くよ!」

 とてつもないスピードでビダーシャルに突撃したトゥ。

 ハッとしたビダーシャルは、すぐに目の前の空気を歪め、トゥを弾き飛ばした。

 トゥは、中庭に張り出されたエントランスホールまで、転がった。

 ビダーシャルは、階段の途中で立ち止まり、トゥを見おろした。

「立ち去れ。蛮族の戦士よ。お前では、決して我に勝てぬ。」

「トゥ!」

 ルイズが倒れているトゥに駆け寄った。

「あー、びっくりした…。」

 トゥは、何事もないように起き上がった。

『相棒。ありゃ反射(カウンター)だ。戦いが嫌いなんて抜かすエルフらしい、厄介でいやらしい魔法だぜ…。』

「かうんたー?」

『あらゆる攻撃、魔法を跳ね返す、えげつねえ先住魔法さ。あのエルフ、この城中の精霊の力と契約しやがったな。なんてぇ、エルフだ。とんでもねえ行使手だぜ、あいつはよ…。』

「すごいんだね…。」

『覚えとけ相棒。あれが先住魔法だ。今までの相手はいわば仲間内の模擬試合みたいなもんさ。ブリミルがついぞ勝てなかったエルフの先住魔法。本番はこれからだけど、さあて、どうしたもんかね。』

 そうこうしていると、ビダーシャルが動いた。

「石に潜む精霊の力よ。我は古き盟約に基づき命令する。礫(つぶて)となりて我に仇なす敵を討て。」

 ビダーシャルの左右の階段を作る巨大な意思が地響きと共に持ち上がり、宙で爆発した。

 その礫が散弾のようにトゥとルイズを襲う。

 トゥは、大剣を盾にルイズを守るよう立って礫からルイズを庇った。

 その量は想像を絶しており、幾つもトゥの体に当たり、頭に当たって血が流れた。

「トゥ!」

「大丈夫。」

 トゥは、垂れて来た血を乱暴に拭った。

 傷はすぐに塞がる。

 ビダーシャルは、それを見て僅かに顔をしかめた。

「ルイズ、解除(ディスペル)だよ。」

「えっ? ああ!」

 トゥに言われ、ルイズは、ハッとした。

『いいや、待て。あの野郎はこの城中の精霊と契約してんだ。それを全部解除するとなると相当な精神力が必要だぜ? 娘っ子、おまえさんにそれだけの精神力が溜まってるかね?』

「うっ…。」

「ルイズ、気で負けたらダメ。」

「トゥ…。」

「蛮人よ、無駄な抵抗はやめろ。」

「負けるわけにはいかないんだもん。」

 トゥは、そう言って剣を構えた。

 ビダーシャルは、首を振り、再び両手を上げた。

 すると今度は、壁の石が捲れ、巨大な拳の形になった。

「なにあれ…。」

 ルイズが恐怖に震えた声を漏らした。

 トゥは、大剣とデルフリンガーを構えたまま、大きく息を吸い。

 そしてウタった。

「あアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 トゥの体が青く発光した。

 ブワリッと空気が震え、ビダーシャルは、目を僅かに見開いた。

「これは……、まさか!」

 ビダーシャルが驚いている隙に、トゥが走り、ビダーシャルに迫った。

 ビダーシャルは、ハッとして石の拳をトゥに向けた。

 トゥが剣を振るうと、巨大な石の拳が粉々に砕けた。

 石が砕けた時に発生した煙を割り、トゥがビダーシャルに剣を振り下ろそうとした。

 ビダーシャルは、風石を仕込んだ指輪を作動させ、宙に浮いてそれを避けた。

「ウタ、ウタイ…、ウタウタイなのか!! 答えよ!」

 ビダーシャルが冷静な顔を崩し、怒声にも似た声を上げた。

『ああ、そうだぜ! 相棒はウタウタイだ! あのウタウタイだぜ! おっかねぇぞ!』

 デルフリンガーが代わりに答えた。

 すると、ビダーシャルの表情がみるみる青くなった。

 そして慌てたように両手を振るい、礫を飛ばしてきた。

 トゥは、それを見えないほどの剣舞ですべて粉砕した。

「ううう! シャイターン……、悪魔が再び降臨したというのか!?」

 トゥの剣が迫ると、ビダーシャルは、反射の壁を作った。

 トゥの剣と反射がぶつかった。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 トゥは、更にウタい、剣に天使文字を絡ませた。

 天使文字が絡まった大剣は、反射の壁を切り裂き、そして砕いた。

 ビダーシャルに剣の刃が迫り、ビダーシャルは、恐怖のあまりか咄嗟に腕を目の前で交差した。

 ビダーシャルが無意識に、咄嗟に起こしたのかどうかは分からないが、礫の一つが横からトゥの頭にヒットし、トゥが横にのけ反った。

 その隙にビダーシャルは、宙に浮き空へ舞い上がりだした。

「悪魔よ! 警告する! 決してシャイターン(悪魔)の門へ近づくな! その時は、我らはお前たちを打ち滅ぼすだろう!」

 そう言い残して空へと消えた。

 ビダーシャルが消えた後、トゥの体から光が消え、頭を押さえてへたり込んだ。

「トゥ!」

 ルイズが駆け寄った。

「えへへ…、ルイズ…勝ったよ。」

「……ウタは、最後の切り札でしょうが…。」

「うん。でも使わなかったらきっと、負けてた。」

 

 その後、モンモランシー達と合流し、皆で無事を祝い、そして、タバサを救出するために行動を開始した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 タバサが見つかった、彼女は扉を切って入ってきたトゥを見るなり子供のように泣いた。

 一行は、馬車を一台拝借し、夜陰に紛れて街道をひた走った。

 キュルケは、全身包帯だらけで髪の毛が焼けてやや巻き毛みたいになったが、モンモランシーの治療魔法のおかげで火傷はほとんどない。だが気を失っていた。

 シルフィードに乗ることはできなかった。ハ人に増えてしまったため、シルフィードでは全員を乗せて飛ぶことができなかったのだ。なにせまだ幼体なのだから。

 ギーシュとマリコルヌは、御者台で馬の手綱を握り、自分達はよく考えたら大変なことをしてしまったなぁっと色々と会話していた。

 モンモランシーは、牢屋なんて御免だと言っていた。だからギーシュに絶対に諦めるなと言い聞かせていた。

「トゥ…、ごめんね。」

「なんで謝るの?」

「私、結局何もできなかったわ…。結局あんたに頼っちゃった。怖くて動けなかった。情けないわ。」

「仕方ないよ。あんな凄い魔法、ルイズ見たことないんでしょ? 見たことない物って、怖いもん。仕方ないよ。」

「…本当に、ごめんなさい。」

「もう、謝らないでよ。」

「ねえ、トゥ…。約束して…。」

「なぁに?」

「…死に急がないで。」

「……それは…。」

「口約束でいいから。私だってあんたを殺してっていう約束させられてんのよ?」

「……分かった。」

「それでいいわ。」

 トゥの返事を聞いた後、ルイズは、トゥの横に寄り添った。

 トゥの甘い香りがして、ルイズはやがて馬車の揺れも手伝って、ウトウトと眠った。

「………ごめんね。ルイズ……、それは……、きっと、できないと思う。」

 眠ったルイズに、トゥは、儚げな声で呟いた。

 




ウタは、エルフの先住魔法に通用するということにしました。

ここでやっと、悪魔の門についての話題が出せた。
デルフリンガーが何か知ってる節がある風ですが、記憶がないのでまだ確信には触れません。

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