忘却の魔法をルイズが自分にかけてもらいます。
仇敵とのパーティーは、まあ当然だが盛り上がるわけもなく、ギーシュはうんとか、うむとか、呟くばかりで、キュルケは、胸の間に入れている杖を出したり入れたりを繰り返し、ルイズは、心あらずな状態であった。
「で? あんた達は何をしに来たんだい?」
「あっ…。それなんですが…。」
トゥは、ハッとしてティファニアを見た。
「ティファちゃんを連れて来てってお姫様から言われたんです。」
「えっ!」
ティファニアは驚いた。
フーケは、眉を僅かに動かした。
「虚無に担い手を狙っている敵がいるから、保護しなきゃっていうことなの。だからティファちゃんを連れて来てって言われたの。」
「でも、私…。」
「子供達も連れきて良いよって言ってたよ。生活も保障してくれるって。」
「本当に?」
「うん。だから大丈夫。子供達と離ればなれにならないよ。」
トゥが笑顔で言うと、ティファニアは、ホッとした顔をした。
そしてティファニアは、フーケを見た。
フーケにとってトゥ達は、仇敵だ。それなのに大事なティファニア達を同行させるのを許すかどうか?
しかし、フーケは。
「いいよ。行っておいで。ティファニア。」
案外あっさりと言った。
その意外さに全員が驚いた。
「おまえもそろそろ、外の世界を見た方がいい歳だ。」
「いいんですか?」
「ああ、それに今の私は文無しでね。仕送りしたくてももうできない。今日はそれを言いに来たのさ。ちょうどいいかもしれないね。」
「マチルダ姉さん…。」
「馬鹿な子だね。なんで泣くんだい?」
「だって、そんなに苦労してるんなら、どうして言ってくれなかったの?」
「娘に心配かける親がいるかい?」
「マチルダ姉さんは、私の親じゃない。」
「親みたいなもんだよ。だって、小さな時からずっと知っているんだものね。」
***
ティファニアが泣き疲れて寝て、フーケは、帰り支度を始めた。
「フーケさん。」
「なんだい?」
「ティファちゃんに挨拶しなくていいの?」
「…いいのさ。こっちは色々と多忙なもんでね。」
荷物をまとめ終わったフーケは、扉から出る時、ふと思い出したようにトゥの方を振り返った。
「あの子のことをよろしく頼むよ。世間知らずなんだ。変な虫がつかないように、よく見張るんだよ。」
「うん。分かった。」
「さて…。次会うときは敵だね。」
フーケは、トゥ達を見渡して言った。
「じゃあね。精々、元気でやるんだね。」
そう言い残して、フーケは去っていった。
フーケが去った後、トゥ達は床につくことにした。
「トゥ…。」
「ルイズ?」
トゥが寝ているとルイズがやってきた。
ルイズは、泣いていた。
「どうしたの、ルイズ!」
「ねえ、トゥ…。」
「なぁに?」
「どうしたらいいの?」
「えっ?」
「私…、告白したでしょ?」
「えっ…あ…。」
「あなたは応えてくれないのは分かってた。でもね…。気持ちが…心が落ち着かないの。」
「ルイズ…。」
「分かってたはずなのになぁ…。」
ルイズは、自虐的に泣き笑った。
「私にとっての初恋って、ワルドが初めてだったと思った。けど、…たぶん違ったのね。だってこんなに心が痛まないもの。」
「ルイズ…。」
「きっとあなたが初めてだったのね。うん…、たぶん、きっと、そう…。」
「ルイズ、私は…。」
「あたなを困らせたいわけじゃない。困らせたくないのに…、ごめんね。」
「謝らないで。」
「どうしたらいいのか分からないのよぉ…。」
ルイズの涙の粒が大きくなり、ルイズは、ボロボロと泣いた。
トゥは、そんなルイズを放っておけず、自分のベットへ招いて、頭を撫でたり抱きしめたりして慰めようとした。
結局ルイズは、泣き疲れて眠ってしまった。
「……私も、どうしたらいいのか、分からないんだよ?」
トゥは、スヤスヤと眠るルイズの寝顔を見ながらそう呟いた。
トゥは、横になり、ルイズの髪の毛を撫でた。
「私は…、ルイズの恋人になっちゃいけないんだ。」
トゥは、反対の手で、自分自身の右目に咲いている花に触れた。
「…この花がある限り。」
やがてトゥも目を閉じて眠った。
***
翌朝。
トゥは、ベットの中にルイズがいないことに気付いた。
「ルイズ?」
先に起きたのだろうかと思ってトゥも起き上がった。
すると。
「いつまで寝てるのよ! 馬鹿使い魔!」
「ふぇ?」
ドアが乱暴に開かれて、怒り顔のルイズが入ってきた。
「お、おはよう、ルイズ。」
「さっさと起きないから、今日は朝食抜き!」
「る、ルイズ?」
「ルイズさん、それは可哀想です。」
「あんたは黙ってて!」
後ろから来たティファニアに、ルイズが怒鳴った。
トゥは、ルイズの様子が何かおかしいことに首を傾げた。
「ルイズ…? どうしたの?」
「はあ?」
「なんだかおかしいよ。」
「おかしくなんてないわよ。ほら、さっさと起きなさい。私は先に行くからね。」
ルイズは、そう言い捨てて去っていった。
残されたトゥは、ポカーンとし、ティファニアは、オロオロしていた。
「ティファちゃん?」
「えっ…、あ…あの…。」
「?」
ティファニアの挙動にトゥは不信を感じた。
「ティファちゃん、何したの?」
「な、何もしてません! 何もしてませんから!」
「バレバレだよ?」
「あ、あの…、あの…。」
「騒がしいわね。どうしたの?」
そこへキュルケがやってきた。
「あ、キュルケちゃん。」
「おはよう。トゥちゃん。どうしたの?」
「あのね…。ルイズが変なの。」
「ルイズが?」
トゥは、キュルケに説明した。
キュルケは、眉を動かし、ティファニアを見た。するとティファニアは、ビクリッとした。
「もしかして、あなた…。」
「何もしてません! 何もしてません!」
「あーもう、もう少しうまい嘘つきなさい。使ったんでしょ、あなたの虚無の魔法を。」
ずばり言われてティファニアは、ヒィっと短く悲鳴を上げた。
「どういうこと?」
「あ、あの……、ルイズさんが………どうしてもって……。あんまりにも辛そうだったから…。ごめんなさい!」
ティファニアは、泣きながら頭を下げた。
トゥは、呆然とし、キュルケは、頭を押えた。
「その魔法って解くことはできるの?」
「…それは、やったことがなくって…、呪文も知りません。」
「参ったわねぇ…。馬鹿な子。」
「ごめんなさい!」
「あなたの事じゃないわ。あなたにそんなことをさせたルイズのことよ。」
早まって…っとキュルケは、大きくため息を吐いた。
家の外に出ると、子供達とルイズ、そしてギーシュがいた。
「遅いわ!」
「誰の所為よ。」
「なによ?」
「はあ…。馬鹿な子ね。」
「何がよ!」
「と、とりあえず朝食にしようじゃないか、なっ。」
ギーシュが慌てて仲裁に入ろうとしてそう言った。
朝食の雰囲気は最悪だった。
ルイズの機嫌が悪く、そしてティファニアは、終始うつむいており子供達に心配されていた。
「トゥ…、なんでそんなに離れてるのかしら?」
「私の隣に来てって私が言ったのよ。」
「なんでキュルケの言うこと聞いてんのよ! あんたは私の使い魔でしょ!」
憎々しげにトゥを見るルイズから守るようにキュルケが間に入る。
トゥは、いまだショックが抜けずどこか上の空だった。
「私の所為だ…。」
「トゥちゃん。思いつめ過ぎちゃダメよ。」
「でも…。」
「トゥ、こっちに来なさい!」
「ダメよ。今のあんたのところには置いておけないわ。」
「なんでよ!」
「トゥちゃんへの“想い”を忘れちゃった、あんたの傍にはね。」
「おもい? 何のことよ?」
「はあ…、もういいわ。ねえ、トゥちゃん。ほとぼりが冷めるまでゲルマニアにいらっしゃい。」
「えっ?」
「ちょっと、キュルケ!」
「トリスティンに帰ったら、ゲルマニアに行くわよ。」
「聞きなさいよ! トゥ、あんたも、行くんじゃないわよ!」
「……ごめんね。ルイズ。」
「! トゥ…、あんた…。」
ルイズは、呆気にとられたが、すぐに憤怒の表情を浮かべて椅子を蹴倒して立ち上がった。
「いい加減にしなさい! あんたは私の使い魔よ! 使い魔は主人の盾となり目となるの! それなのに…。」
「私…、ルイズの傍にいちゃいけない。」
「っ! 勝手にしなさい! そして二度と帰ってこないで!」
ルイズは、トゥを指さしてそう叫んだ。
トゥは、ルイズを見ることなく、黙って頷いた。
そんなトゥに、ルイズは、ますます怒りに顔を歪め、トゥのところへ来て叩こうとした。
しかしキュルケが立ちはだかった。タバサもだ。
「どいて!」
「ダメ。」
「今のあんたをトゥちゃんの傍に近づけさせられないわ。」
「何よ! 使い魔の肩なんてもって!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「あんたもなんで謝ってんのよ!」
ティファニアは、こらえきれず泣きながら謝り続けた。
朝食の場はメチャクチャになった。
原作だとここで才人に忘却の魔法をかけられますが、このネタでは、ルイズがティファニアに頼み込んでトゥへの想いを消しました。
結果、最初の頃のように辛辣な態度のルイズになり、そこまでルイズを追い詰めてしまったのかとトゥはショックを受け、キュルケとタバサは、ルイズからトゥを庇います。ギーシュは、事情が分かってないので空気です。
この後の展開どうしようかな…。