捏造したブリミルについての話をデルフリンガーがします。
あと、キュルケがルイズにアドバイス(?)をします。
散々泣いて喚いたルイズをベットに寝かせ、トゥは、水で濡らしたハンカチをシエスタに渡した。
ルイズと同じく泣いていたシエスタは、濡れたハンカチで腫れた目を押えた。
「トゥさん、お願いですから死なないでください。」
「それは…。」
「お願いです。お願いです。死なないでください。」
そう懇願し、また涙を浮かべるシエスタにトゥは困ったように笑った。
「どうしてですか?」
自分は死なないと言わないトゥに、シエスタが言った。
「その花がいけないんですか?」
「……そうだね。」
「その花をなんとかすればトゥさん死ななくていいんですよね?」
「……それだけじゃダメ。」
「どうしてですか?」
「私自身が花なの。」
「トゥさんが、花?」
「花を駆逐するには、私自身が死ななきゃダメ。」
「そのために、最強の竜がいるんですか?」
「うん…。でも、それだけじゃない。」
「なんですか?」
「私が竜に食べられないと……、最強の竜は生まれない。」
『いい加減にしな相棒。おまえさんはそのために呼ばれたんじゃねぇ。』
今まで黙っていたデルフリンガーが言った。
「それ以外に何があるの?」
『そんなことのために、ウタウタイは存在するんじゃねぇ。そんな…そんなことのためにおまえさんが何もかもを捨てる必要があるってんだ?』
「でもそうしないと、この世界は滅ぶよ?」
『それは…。』
「トゥさんが死ぬことと、世界が滅ぶことが関係しているんですか?」
「最強の竜がどうして必要…。それが約束……。」
「誰との約束なんですか?」
「……誰だっけ?」
『おいおい、肝心なところが抜けてるじゃねーかよ。』
「デルフだって、覚えてないでしょ?」
『何がだよ。』
「いつか言ってたでしょ? 少しだけでも幸せだったって。それって、誰のこと?」
『…そういやそうだな。』
デルフリンガーは、観念したように言った。
『ああ、そうだな。あいつは、少しの間だけでも幸せだったと思うぜ。』
「その人って、私と関係がある人?」
『恐らくな。』
「ふーん。」
「トゥさん…。」
「シエスタ…。ごめんね。」
「どうしてなんですか…?」
またポロポロと泣くシエスタの頭をトゥは撫でた。
「ごめんね。ごめんね。」
「謝らないでください…。余計哀しくなります…。」
「…ごめんね。」
「トゥさん…、トゥさん…。好きです、大好きです。」
「うん。」
「どうか忘れないでください。私は、ずっとトゥさんが大好きです。」
「うん。」
手の甲を目尻にこすりつけ、泣き続けるシエスタの頭をトゥは撫で続けた。
***
泣き疲れたシエスタもベットに寝かせ、トゥは、部屋の窓から月を見上げた。
「綺麗な月…。」
『なあ、相棒。』
「なぁに?」
『あいつも…、ブリミルと一緒に月を見てたんだ。思い出したぜ。』
「ブリミルって、この世界で神様みたいに崇められてる人のこと?」
『ああ、そうだぜ。』
「そうなんだ…。こんなに綺麗な月なら一緒に見ていたいよね。」
『あいつは、嫌がってたけどな。なんでおまえなんかと月を見てなきゃいけないんだってな。』
「本気で嫌がってたわけじゃなかったんだね。」
『たぶん照れ隠しだな。その後ブリミルの奴が本当は月より君を見ていたいんだ、な~んて言って殴られてたっけな。』
「へ~。」
『殴られたってブリミルの奴、ヘラヘラ笑っててな。あいつ呆れてたぜ。』
「わー。」
『ハハハ、もっと素直になってりゃいいのに、あいつも色々とあり過ぎてブリミルを信用できなかったってのもあるんだろうが…。それでも少しだけでも心を寄せられる相手に出会えたってのはデカかったはずだぜ。』
「ブリミル、頑張ったんだね。」
『まあな。そーとー頑張ったぜ。あの根気はとんでもないぜ。』
「よっぽど好きだったんだね。」
『ああ。』
「あれ?」
『どうした?』
「あれは…、竜?」
窓の外に、竜が一匹飛んでいるのが見えた。しかもその背には誰かが乗っている。
次の瞬間、氷の矢がトゥに向かって飛んできた。
「きゃっ!」
トゥは、咄嗟にデルフリンガーで氷の矢を砕いた。
ついで竜は、窓にいるトゥに向けて向かって来た。
トゥは、窓に竜が近づいて横切る時、竜の背に乗っている人物の背中に飛び乗った。
「誰?」
デルフリンガーの刃をその人物の首に突きつけた。
「ま、待ってくれ!」
「あれ?」
どこかで聞いたことがある声だった。
「僕だ、ルネだよ。覚えてないかい?」
「ルネ…。あ、竜騎士の?」
「そうだよ! すまない、驚かせようと思ってね。」
「もう、びっくりしたよ。」
トゥは、呆れながらデルフリンガーを引っ込めた。
「で、何しに来たの?」
「君に…、いや君達に手紙を届けに来たんだ。」
「てがみ?」
「ああ。一応形式だけは取らせてくれるかい?」
ルネは、かっちりと軍人らしく直立し、トゥに向かって言った。
「水精霊騎士隊副隊長トゥ・シュヴァリエ殿! かしこくも女王陛下より、御親書を携えて参りました! 謹んでお受け取りくださいますよう!」
ルネは、懐のポケットから何重にも封がされた手紙を取り出し、恭しくトゥに差し出した。
「女王陛下って…、アンリエッタ姫の?」
「その場で開封し、中の指示に従うようとの仰せでございます。」
「うん。」
トゥは言われるまま封を切って中の手紙を読んだ。
***
「諸君! これは名誉挽回の好機である!」
翌日、オストラント号の甲板で、ギーシュが水精霊騎士隊の少年達の前で言った。
女王アンリエッタからの任務とは、ルイズとティファニアを連合皇国首都ロマリアまで至急送り届けることだった。
ギーシュ達は、覗き事件で落ちてしまった水精霊騎士隊の名誉を取り戻すためにやる気満々だ。というか必死だ。
急な任務で、しかも至急とあったので移動方法に頭を悩まされたトゥ達は、コルベールに泣きついた。そしてオストラント号での移送を受けてもらえたのである。
騎士隊の少年達は、女王アンリエッタからの名誉ある任務にポロポロと泣いていた。
彼らの自業自得と言える苦労を分かっていないトゥは、首を傾げていた。
オストラント号を動かすため、キュルケと、あとなぜかタバサがついてきていた。
ルイズは、タバサがいることにあまり良い顔をしなかった。
「ちょっと、どうしたの?」
「別に。」
キュルケが聞くとルイズは、そっぷを向いてツンッと言った。
キュルケがタバサに何かしたのかと聞いた。タバサは、キュルケの耳元で昨日のことを話した。
顔をしかめたキュルケは、ルイズの肩を掴んだ。
「なによ?」
「ちょっとこっちいらっしゃい。」
「はあ?」
ルイズが眉間にしわを寄せるのも構わずキュルケは、ルイズの肩を掴んだまま甲板の隅に連れて行った。
「ねえ、ルイズ。」
「なによ?」
「あんたトゥちゃんのこと好き?」
「何よ急に!」
「顔赤くなってるわよ。」
「えっ!?」
「まあ、アルビオンでその想いを消すほど好きだったってのは分かってたけど…、あんた恋ってしたことないでしょ?」
「あんたみたいな色ボケと一緒にしないでくれる?」
「色ボケで結構よ。そんなことより、あんた努力してるわけ?」
「なにがよ?」
「トゥちゃんと両想いになれるよう頑張ってる?」
「そ、それは…。」
「どーせそうだろうと思ったわよ。」
「悪かったわね!」
「いい、ルイズ。トゥちゃんは、色々と普通じゃないわ。分かってるでしょうけど。でもトゥちゃん、あんたの気持ち分かってる、ちゃんと分かってる。分かってて受け入れちゃいけないって困ってるのよ。」
「…死にたがってるから?」
「…そうね。トゥちゃんは、急いでる。」
「どうして死にたがるのよ…。私はトゥに死んでほしくないのに!」
「あんたその気持ちは分かるわ。私だってトゥちゃんに死んでほしくないもの。でも…、子供みたいに癇癪起こしたってトゥちゃんの運命は変えられないのよ。」
「じゃあ、どうしろってのよ!」
「愛しなさい。」
「はっ?」
「深く…、深く愛しなさい。トゥちゃんのことを。」
「愛するったって…、そんな…。」
「今のあんたは子供の独占欲と恋を履き違えてるところがあると思うわ。あんたは、まだ人を、誰かを愛したことがないのよ。」
「……。」
「愛してるってことを示すのよ。心から。……その愛が、もしかしたら運命を変えるかもしれないじゃない。」
「何を根拠に言ってるのよ…。」
「根拠とかそういうことじゃないの。未完成な愛のまま終わらせるより、全力で愛した方がいいじゃない。例えそれが…、ほんの少しの時でもいいのよ。何も残さず終わらせないで。」
「何よ、…なによなによ…。」
ルイズの目に涙が溢れた。
「トゥのこと好きだけど、あ、ああああ、愛してるなんて…、い、い、言えな…。」
「なんでそこで詰まるのよ。ほら、いってらっしゃい。とりあえず、愛してるって言って来るだけでいいから。」
そう言ってキュルケは、ドーンっとルイズの背を押してトゥの方へ行かせた。
「ぶへっ!」
勢いのままトゥの背中にぶつかった。
「? ルイズ?」
「あ、…トゥ…。」
「どうしたの?」
「あ……、あの…。」
「?」
「あ…、あ、あ、あ、…。」
「?」
顔を真っ赤っかにして言葉にできずにいるルイズの背中に、キュルケからの、行け、行け!っという感じの視線が刺さる。
そしてゆでだこのようなったルイズは、耐え切れず目を回してその場に倒れた。
「ルイズー!?」
何が起こったのか分からず、トゥも近場にいた水精霊騎士隊の少年達もパニックになった。
キュルケは、額を押え、あちゃーっと声を漏らしたのだった。
男運がどん底レベルだった人の心を掴むのって、どうしたらいいんでしょうか…。書いてなんですが…。
キュルケのアドバイス(?)は、かなり悩みながら書きました。
私自身、誰かに恋したり、心から愛するっていう経験がないので恋の描写がホント下手で申し訳ないです。