大聖堂に案内され、晩餐会となった。
トゥ、ルイズ、ティファニア、アンリエッタ、そしてジュリオと、教皇ヴィットーリオ。
そして水精霊騎士隊の少年達と、キュルケ、タバサ、コルベールと二部屋に分けられた。
まずトゥは、ヴィットーリオの神々しい美貌と、聖職者だからこそ放たれる慈愛のオーラに圧倒されポカンッとしてしまった。
ティファニアも妖精のごとく美しいが、彼もまた別の意味で美しかった。
晩餐会が始まったが、ヴィットーリオは、労をねぎらうばかりで、ルイズとティファニアを呼び出した理由を話さない。
アンリエッタも、出会った時にどこか心あらずな状態であり挨拶を交わしただけである。
「どうして姫殿下と教皇聖下は、私達を呼んだのかしら?」
「むぐ…、ご飯が終わったら教えてくれるかも。」
「…そうね。」
そのことが気になって食事に手を付けていなかったルイズは、パクパクと料理を食べていたトゥとそんな話をヒソヒソとし、ルイズは悩んでいても仕方ないと諦め食事に手を付けた。
ヴィットーリオが急に深々と頭を下げ謝罪しだした。
「わたくしの“使い魔”が、大変ご迷惑をおかけしました。」
「! 聖下…、今なんと?」
ルイズが食べていた物を噴いて聞いた。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ジュリオ。なぜ勝手にそのようなことをしたのです?」
ヴィットーリオに叱られてもジュリオは、月目をきらめかせ、笑みを浮かべた。
「そ、そうじゃありません! 今、聖下は“使い魔”とおっしゃいましたね?」
「はい。そうです。」
ヴィットーリオは、ルイズとティファニアを交互に見る目、頷きながら言った。
「わたくしたちは、兄弟です。伝説の力を宿し、人々を正しく導くための力を与えられた兄弟なのです。」
ヴィットーリオの突然の告白に、ルイズもティファニアも、聞いていたトゥも目を丸くした。
するとジュリオが右手の手袋を外した。
そこには、トゥの左手のように使い魔のルーンが刻まれていた。
「僕は、神の右手。ヴィンダールヴだ。トゥさん、あなたとは兄弟というわけだ。」
「へ?」
「ヴィンダールヴ…。」
キョトンとするトゥ。そしてティファニアがそう呟いた。
「ティファニア嬢は未だ、使い魔をお持ちでないから…、これで三人の担い手、二人の使い魔、そして……。」
ヴィットーリオは、ルイズが傍らに置いた始祖の祈祷書を見つめて言った。
「一つの秘宝、二つの指輪……、が集まったわけです。」
そこへジュリオがヴィットーリオに小さく「指輪はあと一つ、加わるかと」っと言った。
「っと、なると指輪は三つ。っということですね。」
ヴィットーリオは、アンリエッタの方を向いた。
緊張が包む中、アンリエッタが頷く。
「さて、本日お集まりいただいたのは、他でもない。わたくしはあなた方の協力を仰ぎたいのです。」
「協力とは?」
「わたくしがお話ししましょう。」
ルイズ聞くと、アンリエッタが説明を買って出た。
***
アンリエッタの説明を簡潔にまとめると。
ようするに、ルイズ達の力を使い、エルフから聖地を奪還したいとのことだった。
それでは、レコン・キスタと同じだとルイズが異議を唱えると。
アンリエッタは、違うと首を振った。
「交渉するのよ。戦うことの愚を、あなた達の力によって悟らせるのです。」
「どうして……、聖地を回復せねばならないのです?」
「それが、我々の心の拠り所だからです。」
次にヴィットーリオが口を開いた。
なぜ自分達は愚かにも同族で戦いを繰り返すのか。それについて心の拠り所を失っているからだとヴィットーリオは言った。
聖地を失い幾千年、自信を失った状態であること、異人に拠り所を占領されている状態が民族にとって健康なはずがないこと、自信を失った心は安易な代替え品を求めくだらない見栄や多少の土地の取り合いでどれだけ流さなくていい血を流してきたかっと語った。
ルイズは、言葉を失う。それはハルケギニアの歴史そのものだったからだ。
そしてヴィットーリオは、聖地を奪還できればハルケギニアは栄光の時代を築き、真の意味で統一されると語った。
トゥは、話を聞いていて、ゆっくりと首を傾げた。
「あの、それって、剣で脅して土地を巻き上げるってことですか?」
「ちょっと、トゥ!」
「ああ、よいのですよ。確かにあなたの言葉と同じ意味ですね。」
「エルフが相手だからって、そんなことしたくないです。」
トゥは、ティファニアを見た。
「ティファちゃんのお母さんの大切な故郷をそんなやり方で奪っていいわけない。」
「トゥさん…。」
ティファニアは、泣きそうな顔でトゥを見た。
「トゥ殿。わたくしも色々と考えてみたのです。」
アンリエッタは、自分の考えを語った。
自分達はかつて愚かな戦いを続けた、もう二度と繰り返したたくない、力によって戦を防げるのなら、それも一つの正義だと思ったったと。
トゥは、俯き、少し考え顔を上げた。
「反対です。」
「トゥ殿…。」
「そのためなら、エルフが傷ついてもいいって言うなら、私、自分の力も、ルイズの力も使ってほしくない。」
「わたくしは、人の国の王なのです。」
「だから人じゃないエルフは、どうでもいいの?」
「わたくしは、ロマリア教皇に就任して三年になります。」
ヴィットーリオが言った。
「その間、学んだことがあります。」
ヴィットーリオは、力を込めて最後の言葉言った。
「博愛は、誰も救えない。」
っと。
***
それからしばらく、無言のまま食事が続いた。
そんな中、トゥが聞いた。
「あの、質問していいですか? 虚無を集めるのはいいけど、ガリアはどうするんですか?」
ガリアにも虚無の担い手と使い魔がいる。
だがミュズニトニルンは、姿を現しているが、その主人である担い手が姿をいまだ隠しているのだ。
そこでヴィットーリオは、ちゃんと手を打っていることを語った。
三日後に自分の即位三年記念式典を行う、ガリアとの国境の街であるアクイレイアでそれを行うのだが、それにルイズとティファニアも出席してほしいと言った。
「まさか! 私達を囮に?」
ルイズが立ち上がってそう叫んだ。
「これは、わたくしの式典。事前にわたくしが虚無の担い手ということはガリアに流します。あなた方だけではありません。もちろんわたくしも囮になるのです。」
自分は、何事も自分で行わないと気が済まない性質ですからっと、ヴィットーリオは、言った。
「危険です!」
そう叫ぶ声に危険は承知だとヴィットーリオは、答えた。
ただ受け身でいる方が危険であること、ガリアのジョゼブ王の野望は何か? 恐らくそれは虚無の担い手を己の持ち駒を除いて抹殺することだろうと語り、ジョゼブが無能王などと内外から嘲られているが、実際は違うとも言った。
狡猾で、残忍で、非情な男であると。
三人も虚無の担い手が揃えば、手を出してくるに違いないと言った。
「どんな作戦を立てるんですか?」
「トゥ!」
「エルフを攻めるって話は嫌だけど、こっちは賛成。だってガリアには、タバサちゃんのことも、それにミュズニトニルンも…、色々と私達にしてきたのに、不問になってたから、ここで何とかしないといけない。」
トゥの言葉に、ヴィットーリオは、満足げに頷いた。
そしておそらくまずジョゼブは、ミュズニトニルンを使うだろうと言った。
何度もルイズやトゥ達を襲って来た相手だ。油断はできない。
そしてヴィットーリオは、ミュズニトニルンを殺さずに捕えるよう言った。
その理由は、殺してしまっては使い魔をまた召喚されてしまうから。それを防ぐには生きたまま捕えてしまうこと、そして守ること。
そうすればジョゼブの力は半減し、その間に色々とやってジョゼブを退位に追い込む、その後は時を見てご友人(タバサ)に王位を継いでもらうというのどうだろうかと言った。
トゥは、笑顔になり、それで行こうと手を上げた。
アンリエッタも頼もしそうにトゥを見て、ジュリオも笑みを浮かべた。
だがルイズだけは首を縦に振らなかった。
「反対です!」
「どうしたの?」
「私達はミュズニトニルン一人にすら苦戦しています。担い手が加わった時の戦闘力は想像すらできません。危険です。慎重に…。」
「我々に必要なのは勇気です。」
ヴィットーリオは、言った。必要なのは現状を変える勇気だと。これ以上敵が力を付ける前に決着を付けなければならないと。
「ルイズ。聖下が言うことはもっともだと思うよ。」
「馬鹿!」
「えっ?」
「あ…。」
ルイズは、ハッとして口を両手で塞いだ。
「と…とにかく、それでも私は反対です。教皇の御身を危険に晒すような計画には賛成できません。」
そう言い直したルイズは、
「まあ、いきなり協力しろと言われても、すぐに納得できるはずもないでしょう。ゆっくりとお考え下さい。」
ヴィットーリオは、笑顔でそう言った。
その後、誰も何も言わなくなり、晩餐会はお開きとなった。
ヴィットーリオの話は一理あるが…、うーん。悩みました。
なぜか、フォウのおまけシナリオを思い出したがなぜだろう…。