とうとう、六十話突入。でもあんまり進展してません。
色々と考えて、この展開にしました。
竜の牙は、トゥを貫くことはなかった。
魔法の氷や、青銅のゴーレムがトゥを喰らおうとした竜を止めたのだ。
今まで事の成り行きを見ていることしかできなかったギーシュ達が動いたのだ。
やられた竜は、怒り、ギーシュ達を睨んで吠えた。
その竜の上から、ようやく落ち着いたアズーロが乗っかり、地面に叩きつけるように押さえつけた。
「トゥ…、トゥ…、トゥ!」
倒れていたルイズが起き上がって、トゥに駆け寄り、トゥを抱きしめた。
「よかった…。よかったぁ…。」
「ルイズ…。」
「馬鹿…、バカバカバカ…! もうほんとに馬鹿なんだから!」
トゥの肩に額を押し付けて泣きながら叫ぶルイズ。
「ばかぁぁぁぁ…。」
「……ごめんね。」
泣くルイズを、トゥは、抱きしめ返した。抱きしめ返されたことでトゥが生きていることを余計に実感したルイズは、大声で泣きだした。
その姿を見て、ギーシュ達は、ホッとした。
しかしコルベールだけは、何とも言えない、思いつめたような顔でそれを見ていた。
***
ジュリオが落ち着いた竜達を舎に戻し、ルイズとトゥは、ギーシュ達に支えられる形で自分達に与えられている部屋に戻った。
ベットに横になったトゥは、そのまま泥のように眠った。
「…ほんとに馬鹿なんだから。」
目を真っ赤に腫らしたルイズが、寝ているトゥを睨んだ。
しかしスヤスヤと安らかに寝ているトゥの姿を見ていると、怒る気も失せ、やがて自分も眠くなってトゥの横に潜り込んだ。
背中にくっつくと、トゥの鼓動を感じ、ルイズは、また涙が込み上げてきた。
トゥが生きている。
ルイズは、それを感じながらやがて眠りに落ちた。
先に目を覚ましたルイズは、目の前にトゥの寝顔があって、ドキリッとした。
ソッと手を伸ばし、トゥの頬と髪に触れる。
温もりがあり、寝息がある。彼女は生きている。
それでまた涙が込み上げてきたので、ルイズは、自分は何て単純なんだと苦笑した。
ルイズは、先に起き上がり、着替え、トゥが起きない内にと部屋を出て、しばらくしてから戻ってきた。
それからしばらくしてトゥが目をこすりながら起きた。
「……ルイズ?」
「あ…、お、おはよう。」
二人の間に気まずい空気が流れた。
「ねえ、トゥ…。」
「な、なぁに?」
「…で、…出かけない?」
「えっ?」
「街でお祭りがあるの。ほら、教皇聖下の即位三周年記念の話聞いたでしょ? そ、それで、一緒に行かない?」
「えっ、でも…。」
「訓練のことでしょ? もう明日に控えてるんだし、今更やってもあまり意味ないと思うわ。骨休めも必要よ。」
ルイズは、まだベットの上にいるトゥの傍に来て、その手を握った。
「ね? 行こ。」
「……。」
トゥは、ルイズが握ってきた手とルイズの顔を交互に見た。
ルイズは、緊張して返事を待った。
「……分かった。」
「ほ、本当!?」
「うん?」
「あ…、べ、別に、嬉しいわけじゃないのよ!」
「? 変なルイズ。」
そしてルイズは、昨日買ったという可愛らしい服を纏い、トゥの分だと言って買ったという服をトゥに渡して着替えさせ、二人は出かけた。
***
トゥは、ルイズと街中を歩いていたが、困っていた。
というのも、腕にルイズがピトッと寄り添い、腕を絡めて来ているのだ。
「ね、ねえ、ルイズ…。」
「なに?」
「くっつき過ぎじゃない?」
「なによ、嫌なの?」
「嫌じゃないけど…。ほら、人目が…。」
「気にし過ぎよ。」
ルイズは、ニコニコと笑いながらスリスリと頬をこすりつけて来る。
トゥとルイズのそんな様子を、通り過ぎる人達が少し不思議そうに見ながら通り過ぎていく。
「ねえ、どうしたの、ルイズ? 変だよ。」
「変じゃないもん。」
「ううん、やっぱり変だよ。」
トゥは、眉を寄せ、ルイズを振りほどいた。
まさか誰かがルイズに化けて…、っと思ったが、ルイズが急に悲しそうに顔を歪めて涙ぐんだので、トゥはギョっとした。
「トゥ…、私のこと嫌いになった?」
「えっ? そ、そんなことないよ。」
「うそ…。」
「ち、違うよ。違うからね? ルイズのこと嫌いにならないよ?」
「ほんとう?」
「うん。」
「よかった!」
笑顔になったルイズは、ピトッとトゥに抱き付いた。
トゥは、なんだか様子がおかしいルイズに、調子が狂った。たぶん…間違いなく…、ルイズはルイズなのだろう。だがこんなに人目も憚らず懐いてくるなんて。
様々な露店が軒を並べている通りに来ると、ルイズは綺麗な小物が並んだ露店の品々に釘付けになった。
「欲しいのあった?」
「これにするわ。」
「髪飾り?」
「ほら、あんたの青い髪の毛にぴったり。」
「私に?」
ルイズは、トゥの頭に髪飾りを飾ってご機嫌だった。
「ねえ、ルイズ…。変なお薬飲んだの?」
「そんなわけないでしょ。」
「えー。」
トゥはますますわけが分からなくなった。
髪飾りを買い、仕方なくルイズをくっつけたまま歩いていると神官達を見かけた。
お祭りの時は羽目を外していいのか、お酒を飲み、肩を組んで楽しそうに歌っている。
初めて接触した時のような堅苦しささえ無くなれば、トリスティンの貴族とそんなに変わらないようだ。
通りの真ん中で、太鼓や笛を吹いて踊っている一団を見つけた。
「あら、楽しそう。ねえ、トゥ、私達も踊りましょう。」
「…うん。」
一団の中にルイズがトゥを引っ張っていき、ルイズが楽しそうに踊りだす。トゥも踊った。
やがて踊りつかれたルイズを休ませるため、どこか休める場所はないかと探し、酒場を見つけた。
「あれ? ここって…。」
どこかで見た覚えがある酒場だった。中を見ると見覚えがあって当たり前の人物がいた。
ロマリアに来た時にトラブルがあって籠城場所にした酒場の店主がいたのだ。
キュルケから巻き上げたお金で新調した高級そうなテーブルやコップ、お皿など、店の中は見違えるほどピカピカだった。あと店主自身も上等な服を纏っている。
あれだけ破壊してしまったのだ、全部取り換えるしかないだろう。だがそれにしたって綺麗になり過ぎだ。一体幾らキュルケに請求したのか…。
グラスを磨いていた店主は、二人の存在に気付くと、いらっしゃいと言いかけて止まり、気まずそうに顔を背けた。
キョトンとするトゥとは反対に、ルイズはクスッと笑っていた。
席に着くと、店主は無言で次々に料理を運んできた。
料理を運んできた時、トゥとルイズに「来年も頼む」っと耳打ちして来たのだった。
「トゥ。」
「ん?」
「はい、あーん。」
「えっ? あ、あーん…。」
フォークで刺した一口大の煮込んだ鶏肉を差し出され、トゥは、咄嗟に口を開けた。
トゥが食べたのを見て、ルイズは、嬉しそうにニコニコとしていた。
「あーん。」
「えっ?」
「もう、分かってよ。私も。」
「わ、分かった。」
トゥは、スープをスプーンで掬い、ルイズの口に運んだ。
「んふ。美味しい。」
「よかったね。」
「おかえし。ほら、あーん。」
「も、もういいよぉ。」
「遠慮しないで。」
「え、遠慮とかじゃなくってぇ…、もう…。」
ルイズに押し切られ、トゥは仕方なく食べさせあいっこをした。
***
店を後にすると。
「ねえ、キスして。」
「えっ?」
人の往来のある場所でいきなりルイズに言われた。
トゥが固まっていると、ルイズが目を瞑って、ンッと口を突き出すようにしてきたため、トゥは、焦り、ルイズの手を引いて建物の間に入った。
「もう、ルイズ。ほんとうにどうしたの?」
「イヤ?」
「えっと…、今日のルイズ、なんか変だよ。」
「もう、いいじゃない。」
「あっ、ちょっとぉ。……んっ。」
ルイズは答えを出さず、トゥの頬に両手を添えて自分の唇を重ねた。
しばらく、少し長めの口づけをした後、ルイズは、またニッコリと笑った。
トゥは、そのルイズの笑顔に少し不信を感じつつ、ルイズがそうしたいなら仕方ないかと半ば諦めながら付き合った。
そうして散々遊んだ二人は、大聖堂であてがわれている部屋に戻った。
「トゥ、水飲む?」
「うん。」
ルイズから水の入ったコップを受け取り、一気に飲み干した。思っていたより喉が渇いてたらしい。
「トゥ…。今日…楽しかった?」
「…うん。」
ルイズがモジモジとしながら聞いて来たので、トゥは頷いた。
するとルイズは、パァッと顔を輝かせた。
「よかったわ。」
「ルイズ。」
「なに?」
「今日…、どうしたの?」
トゥが真面目な顔で聞いた。
ルイズは、無理に笑顔を保とうとしているのか顔が僅かに引きつった。
「……私、一生笑わない。」
「えっ?」
「もう誰も、愛さない。」
「ルイズ?」
「トゥ…、あなただけよ。これから先、ずっと。」
「何言ってるの?」
「ずっとずっと、何十年先も、ずっと、私の一生が終わる時までずっとよ。」
「るい……、?」
トゥの目の前が歪みだした。
頭が重い。なんだか体に力が入らない。
「るい…ず…?」
「……愛してる。」
意識が完全に落ちていく中、それが最後に聞いた言葉だった。
結局、ほぼ原作通りの展開にしました。
次回は、ブリミルとの接触かな。ゼロとはすれ違いになる予定。