二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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ブリミルとの会話。


あと最後に、ゼロとすれ違い(?)。


第六十二話  トゥとブリミル

「あの…、いいですか?」

 ひとしきりサーシャが怒鳴って殴って少し落ち着いたところで、トゥが聞いた。

「やぁ、なんだい?」

 サーシャの下敷きにされている金髪の男性が顔を上げて照れ臭そうに言った。

「私、トゥっていいます。」

「そうそう。この子も、私と同じ左手に文字が…。」

「なんだって?」

 サーシャが言うと男性は跳ね起き、トゥの左手を取って手の甲を見た。

「ガンダールヴじゃないか! 魔法のように素早い小人!」

「えっ? 私、小人じゃないよ?」

「いいんだ! いいんだ! ほら、サーシャ、言った通りだろ! 僕達の他にもこの変わった系統を使える人間がいたんだ!」

 男性は、興奮していた。

「お願いだ、君の主人に会わせてくれ!」

 っと、トゥに言った。

 トゥは、困った顔をした。

「あの…、今私のご主人様(?)は、いないの。気が付いたらここにいて、どこだか分からないの。」

 それを聞いた男性は、がっかりしていたが、すぐに顔を上げて笑った。

「紹介がまだだったね。僕の名前は、ニダベリールのブリミル。」

「えっ?」

 それを聞いてトゥは、キョトンとした。

 ブリミル。ブリミルと言ったのかこの人は。

「あの、もう一度聞いていいですか。お名前は?」

「ニダベリールのブリミル・ル・ルミル・ニダベリール。」

「聞き間違えじゃなかった…。始祖ブリミルさんなの?」

「始祖? 何のことだい? 人違いじゃないのかい?」

 ブリミルと名乗ったこの人は、キョトンとしてそう聞き返した。

 えっ、どういうこと?っと、トゥは、グルグル考えた。

 自分以外にガンダールヴがいて、目の前にいるのは、ブリミルと名乗っている男の人。

 そしてある答えが思い浮かんだ。

 

 ここは、過去の世界。

 6千年前のハルケギニア。

 

 ならこのリアルな感じも合点がいく。

 空気、踏みしめている大地、彼らの肌質や動き、全部本物だ。夢なんかじゃない。

 自分がもといた別世界と、ハルケギニアを繋げる魔法があるのだ、もしかしたら過去に行く魔法もあっても不思議じゃないのかもしれない。

 ここへ来る前に何があった?

 ルイズから渡された水を飲んで、意識が無くなって…。

 ルイズが過去へ自分を飛ばしたのだろうか?

「…どうして?」

 トゥは、わけが分からなくなりすぎて、膝をついた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、トゥは、ブリミルとサーシャに連れられて、ブリミルが住むニダベリールに来た。っというより、ブリミルが作った鏡の魔法を使ってそこへ移動したのだ。

 ニダベリールという仰々しい名前だからてっきり町なのかと思ったが、そこは小さな村だった。

 ただの村ではない。建物は、移動式のテントで、それは遊牧民を思わせる。

 ブリミルに案内されたのは、一番高い位置にあるテントだった。

 そこには、青い旗が立てられていた。

「しかし、驚いたな!」

 中に通され、椅子をすすめられて座ると、ブリミルがまた興奮して言った。

「で、君の主人はどこだい? ミッドガード辺りかな? とにかく、その人に会いたいんだ。」

「あの…。」

 トゥは口ごもった。

「信じてもらえないでしょうけど。私、ずっとずっと未来から来たの。だから会えない。」

「……。」

「でも、本当なんです。」

 俯いて腿の上で手を握りしめるトゥの様子に、ブリミルもサーシャも黙ったままだった。

 やがてブリミルが、言った。

「いや、すまない。君の主人の存在を庇いたいのは分かるよ。こんなご時世だ。僕たちみたいな変わった系統使いは珍しいし、ヴァリヤーグ達にばれたら大変だもんな。話したくなったら話してくれればいいよ。」

 ブリミルの気遣いが微妙辛かった。

 それより気になったのが。

「ヴァリヤーグってなんですか?」

「知らないのかい?」

 トゥは頷いた。

「恐ろしい技術を持った悪魔のような連中だよ。」

「エルフのこと?」

 次に瞬間、パーンっと頭を叩かれた。サーシャに。

「なんでわたし達が、あんな野蛮人なのよ!」

「ご、ごめん…。」

「彼女は、我々とは根本から違う種族だ。」

 ブリミルがとりなすように言った。

 ブリミルが言うには、この広い世界のどこかで、自分達とは異なる文化を持って息づいている種族なのだと。

 だから自分は、彼女にルーン刻んだのだと言った。旧い自分達の言葉で、魔法を操る小人という意味の、ガンダールヴを。

「君の主人は違うのか?」

「えっと…、キスしたら刻まれるの。」

「な…。」

 ブリミルは、顔を赤くした。

 どうも話を聞いている限りでは、この時代の頃は、自分でルーンを刻んでいたらしい。サモンサーヴァントで召喚された物に強制的に使い魔の印をつけるルイズ達の時代とは随分と違うようだ。

「そ、そうなのかい…?」

「うん。」

「っということは…、君は君の主人と…その…。」

「チューしたよ。」

「!!」

「何想像してんのよ。」

 鼻血を噴きそうになほど顔を真っ赤にしたブリミルにサーシャが頭を叩いてツッコんだ。

「でも、私、魔法使えないよ?」

 ウタのことは伏せて、トゥが聞いた。

「それは、君が人間だからだね。」

 本当は人間ですらないのだが…っと、トゥは、俯きそうになった。

 初代のガンダールヴがエルフだったから魔法が使えるという意味で、魔法を操る小人という名前が与えらえたのだろう。

 さらにサーシャに先住魔法のことかと聞いたら、違うと首を振られ、精霊の力だと訂正された。

「どうして、さっき魔法を使わなかったの? エルフの魔法ってすごいよね?」

「精霊の力を血生臭いことに使いたくなったからよ。」

 そういえば、エルフのビダーシャルとの戦いの時も、デルフリンガーがエルフは、戦いを好まないと言っていたのを思い出した。

「ほんとうのほんとうにヴァリヤーグを知らないのかい?」

「うん。」

「羨ましいな。」

 この世界のどこかに彼らに脅かされない人々がいるなんてっと、ブリミルは言った。

「ああ、なるほど、だから君は君の主人のことを隠しているんだね。」

 なんだか分からないがそう納得されてしまった。

「魔法を使っても怖いなんて、どんな人たちなんですか?」

「…たぶん、すぐ分かるよ。」

 ブリミルは、哀しそうに言った。

 やがて、扉を破るようにして若い男が飛び込んできた。

「族長! 大変です!」

「…来たか。」

「えっ?」

「来たのよ。ヴァリヤーグが。」

 キョトンとするトゥに、サーシャが言った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 外へ出ると、ブリミルは、村人たちの中心に立って指示をして出していった。

 トゥは、それを見ながら周りを見回した。

 そして丘の向こう。そこからたくさんの何かが来るのを感じた。

「…せめて“彼女”が戻ってくれば…。」

「ダメよ。あいつは頼りにならないわ。こんなご時世だってのに、男目当てにほっつき歩いてるんだもの。いい加減やめときなさい。あんな女。」

「…仕方ない。行こうサーシャ。」

「私も行く。」

 トゥは、大剣を抜き、ブリミル達について行った。

 丘を越えると、そこには…。

「あれが…ヴァリヤーグ?」

 大軍がいた。

 その数は、何千、何万という数で、綺麗な陣形を取り、恐ろしい角の付いたか部位と、胸鎧、そして四メートルはあろうかという槍を持ち、兵隊人形のように微動だにしない。どれをとってもとてつもない軍だった。

「どうするの?」

「時間稼ぐのよ。」

「えっ?」

 その時、後ろの方でブリミルが詠唱を始めだした。

 他の村人達が、空が曇るほどの矢の嵐を風の魔法で防いだ。

 次に突撃して騎馬隊と重装の歩兵達を、サーシャとトゥが迎え撃った。

 これほどの武装を纏った敵はどんな怪物なのだろうかと思ったが、トゥが敵の兜を切った時、愕然とした。

「人間?」

「ジッとしてる場合じゃないわよ!」

 サーシャに鼓舞され、トゥはハッとして眼前に迫る敵を切っていった。

 どれくらい時間が経っただろうか。たぶんそんなには経っていないだろうが、あまりの敵の多さに永遠に続くように錯覚した。

 ブリミルの虚無が完成し、放たれた。

 真っ白な光球が膨れ上がり、巨大な爆発が巻き起こった。

 爆発は軍勢を飲み込み、辺りに破壊と混沌をまき散らした。

 トゥは吹き飛ばされ、背中を岩に打ち付けた。

 呻きながら起き上がると、泥だらけのサーシャが手を差し出してきて立たせてくれた。

「大丈夫?」

「な、なんとか…。巻き込むなんて…、ルイズより酷いよ…。」

「まあ、ああするのが効果的なのよ。」

 ほらっと、サーシャが示した。

 見ると、あの大軍の歩兵達のほとんどが倒れて呻き声をあげ、後方にいた軍も後退して行っていた。

「大丈夫か! すまない! 本当にすまない!」

 ブリミルが駆けつけてきて謝ってきた。

 トゥは、パンパンと土埃を払った。

「ブリミルさん。どうして彼らと戦っているんですか?」

「……分かり合えないからだ。」

「そうですか。」

「人は、自らの拠り所のために戦う。だが、拠り所たる我が氏族は小さく、奴らに比する力を持たない。でも…、神は我々をお見捨てにならなかった。僕にこの不思議で強力な力を授けてくださった。僕たちは、勝つよ。いつかきっと勝つ。」

 最後、ブリミルは、力強く言った。

 

 

 村に戻ると、村人たちはすっかりテントを片付け、出発の準備をしていた。

 こんなに早く撤収の準備ができるということは、これが彼らの日常なのだろう。

 そしてブリミルがゲートを開く呪文を唱えた。そして大きなゲートが開いた。

 さすが将来始祖と呼ばれることになる男。これだけの力を発揮するのだ。こうして彼らは、ヴァリヤーグのような敵から逃亡を続けながら生活をしているのだ。

 まず女性と子供達がゲートを通り、続いて大人の村人達、そして最後にサーシャとトゥとブリミルが残った。

「さあ、次は君達だ。」

 ブリミルに促されてゲートを通ろうとした時。

「ああ! ゼロ!!」

「えっ?」

 トゥがそちらを振り向こうとした時、サーシャにぶつかって、ゲートの方に倒れてしまった。




ゼロとすれ違い(?)になりました。

なんか、ブリミルの最後の方の台詞は、ヴィットーリオの台詞と被る気がする。
気のせいか?

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