二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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明けましておめでとうございます。
今年最初の更新です。


記憶が戻った反動で、ルイズがトゥに迫ります。

軽いですがキス表現あり。胸グリグリします。


第六十四話  トゥ、ルイズに迫られる

 

「待ちなさい!」

「やだ!」

 

 ガリアのヨルムンガンドの大軍を倒してから、二週間ほど経過した頃。

 ルイズは、トゥを追いかけていた。トゥは、ルイズから逃げていた。

 二週間…、毎日のようにこの追いかけっこが行われていた。

 行きかう街の人々は、またかっという顔をしたり、不思議そうに見ていたりしていた。

 やがて疲れたルイズがへたり込み、手の甲で目をこすりながら声を上げて泣きだした。

「酷い、酷い! あんなキスしておいて私を捨てるの!?」

「ち、違うよォ…。」

 ルイズが止まると同時にトゥも止まり、ふり返って違うと手を振った。

「じゃあ、どうして逃げるのよォ!」

「だ、だって…。」

「弄ばれた~! キー! 死んでやるぅ!」

「違うってばぁ!」

 ルイズの傍に駆け寄ったトゥは、ルイズを立たせて抱きしめた。

「あのね、ルイズ…。あの時チューしたのは、…なんというかそんな雰囲気だった気がしたからで…。」

「…そんな雰囲気って何よ…。あんたってその場の勢いでなら誰とでもあんなことするわけ?」

「そんなことないよ。ルイズだからだよ。」

「私だから? ほんとう?」

「うん。」

「じゃあ…、私のこと…、好き?」

「う、うん。」

「ハッキリしなさい!」

「す、好きだよ?」

「もっと大きな声で!」

「は…、恥ずかしいよぉ。」

「言えないなら、き…、キスしなさい…。」

「えー。」

「なにが、えーっ、よ! ほら、早く!」

 トゥを見上げて、目を閉じ、ンッと口を寄せてルイズは、待った。

「…もう。」

 トゥは、仕方ないなぁっと困った顔をして、ルイズの額にキスを落とした。

「もう! どうして口にしてくれないの!」

「だってぇ…。」

「あの時はしてくれたのに…。」

「えっと…。」

「意気地なし! 馬鹿、バカ…、キライキライ…大っ嫌い…。ああ、ウソウソ! 大好きぃ!!」

「えー。」

「いいもんだ。グリグリしてやるんだから!」

 そう言ったルイズは、トゥの胸に顔を埋めてグリグリしだした。

 トゥは、困ったように笑いながらそれを受け入れていた。

 

 …周りの人の目と、水精霊騎士隊の少年達やキュルケ達の視線などまったく気にせず。

 

「反動って恐ろしいな…。」

 ルイズは、トゥに関する記憶を消した反動で、トゥを想う気持ちが爆発。結果、一目などまったく気にならないほどトゥに迫るようなってしまったのである。

 前にトゥへの想いのみを消したことがあったが、今回は想いを消さずに思い出を消しただけだったのでトゥがいない間の時のルイズは、自分の中に渦巻く切なく強烈な想いに悩まされていたのだ。それがトゥが戻ってきたことで記憶が補填された。まるで僅かでも別れ離れになった時を埋めるかのようにルイズは、トゥを求めた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「でも、どうして聖女なんて就任しちゃったの?」

「…今思えば馬鹿な真似をしたわ。」

 部屋に戻った二人は、ベットに座り、ルイズは、スカートの裾を握りしめた。

「教皇聖下が嘘を吐くなんて、世も末だわ。」

「嘘はついてないよ。」

「なんでよ!」

「私の生死までは言ってなかったんでしょ? 生きた状態で帰すって。」

「そんなのってないわ! 詭弁よ! 私、これほどブリミル教徒であることがこれほど恥ずかしくなったことはないわ! 新教徒か、砂漠の悪魔に宗旨替えをしたいくらいよ!」

「でも、今じゃなくてもいいじゃないかな。」

「なんであんたはそんな冷静なのよ!」

「だって、利害は一致してるでしょ? ガリアの王様を倒すって目的が。」

「トゥ…、あんた、あいつらに何か吹き込まれたとかしてないわよね?」

「んーん。」

 ルイズの怪しむ言葉に、トゥは、首を横に振った。

「だって、私達、ヨルムンガンドのあの大軍を倒したし、知名度はロマリア軍に知れ渡ってるし、それがいなくなったら、きっとヴィットーリオさん困ると思うの。きっと兵士さん達の士気も下がっちゃう。」

「……トゥ。」

「なぁに?」

「あんた、いつからそんなまともな考えできるようなったの?」

「えー?」

「ま、まあ、仮にも騎士隊の副隊長だものね。それぐらいできなきゃ笑われるわよね。」

「えー。」

「か…可愛い顔しないでよ!」

「えっ? そう?」

 トゥが自分の顔の両頬を包むように手を置いた。

 そんな仕草すら、可愛く見えて、ルイズは、身悶えしそうになった。

 ヨルムンガンドの大軍を倒した後、トゥにキスされてからルイズは、わけのわからない体の奥から湧きあがるモノに毎晩のたうち回りそうなっていた。

 トゥを見ると…、ついつい…、唇に…、手に…、目に…、胸に…。視線が定まらない。

 たったそれだけで心臓の鼓動が速くなる。

 どう発散したらいいか分からないナニかにルイズは、赤面してプルプル震えた。

「ルイズ? どうしたの?」

「っ! あ…、頭冷やしてくる!!」

「えっ?」

 ルイズは、素早く立ち上がると、乱暴に部屋から出て行ってしまった。

 残されたトゥは、ポカーンっとした。

 

 その後、ルイズが井戸水の桶に頭を突っ込んでいる姿が目撃され、ちょっとした騒ぎになった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ヨルムンガンドの大軍との戦いがあって、2週間も経ったが、戦いが終わったわけではなかった。

 カルカソンヌという地方の北側に流れるリネン川を挟んで、ロマリア軍とガリア軍が対峙していた。

 しかし睨みあいをしている両軍が戦いに用いているのは、魔法でも矢でも鉄砲でもなく、言葉だった。

 お互いを罵り合い、挑発しあう。

 頭にくると、一人二人が川の中州で一騎打ちをする。そして中州に勝った方が旗を立てる。戦いと言ってもこんな感じだ。怪我人や死者が出れば、両軍の小舟が回収し、お互いにそれを邪魔しない。戦争とはいえ、騎士道としての精神からその点は配慮してくれているのである。

「派手だったのは、最初の時だけだったな。」

 アルビオンの時を思えば、平和に思えてしまう戦いであった。

 だがそれでも死者は出てしまうし、状況から見ればロマリア軍の方が不利と言えた。

 なにせ敵は、新教徒でもなく、同じブリミル教徒であり、またガリア側も自分達が共通の敵とするエルフと組んでいるということを知っていない、それゆえの戸惑いと、ガリアの国の半分がロマリア側に味方している状態なのだ。しかも聖戦を発動した以上、お互いに引っ込みがつかず、だがその状態もロマリア側に味方をしているガリアの半分がロマリアが不利だと思ってしまえば、あちら側に寝返る可能性がある。先ほどから中洲の旗がガリアの旗のままなので、このままでは危険だと水精霊騎士隊のレイナールが言った。

 そんな状態の戦線に来たトゥは、中州を陣取っているガリア軍人を見た。

 禿頭の大男で、レイナールが言うには、西百合花壇騎士ソワッソン男爵というのだそうだ。そして見た目通り、豪傑で有名な貴族らしい。

「私なら勝てるよ。」

「よし、行ってきてくれ! っと…言いたいところだが、君は最後の手段だ。」

「どうして?」

「アンリエッタ陛下が、時間を稼いでくれって言ってたろ? アルビオンで七万の敵を相手にした君ならあの豪傑を倒すのは容易いだろう。だがそれだけだ。あっという間じゃダメだ。」

 ヨルムンガンドの大軍との戦いの後、トゥからヴィットーリオ達とのやり取りを聞いたアリンエッタは、自分が何とかすると言って帰国したのだ。

「じゃあ、どうすればいいの?」

「うーむ…。」

 水精霊騎士隊の少年達は、みんなで悩んだ。

「なら、これはどうかね?」

 ギーシュが名案が思い付いたとヒソヒソと話し合った。

 ギーシュからの提案を聞いた少年達は、えーっという顔をした。

「では、トゥ君、行こうではないか!」

「うん。」

「あーあー。もう知らないぞ。」

 他に名案がない水精霊騎士隊の少年達は、意気揚々と中州へ行く小舟に乗っていくギーシュとトゥを見送りことしかできなかった。




次回は、ソワッソンとの戦いとか色々。

もっとルイズに迫られるトゥを書きたかったけど、私の文力では、これが限界でした…。いつか書き直すかも。

アンリエッタ姫は、なんか信用ならない感じがして…。うーん。

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