二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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穏やかからの、狂乱。


第三話  トゥの一日

 

 

 三日三晩も眠っていたトゥを心配していたのは、ルイズだけじゃなく、平民で構成されたシエスタを始めとしたメイド達や食堂の厨房のコック達だった。

 彼らにしてみれば、一見平民であるトゥが貴族を倒したことは驚くべきことであり、彼らが尊敬するに足りる要素となった。

 そのトゥが倒れた。これは、由々しき事態であった。

 トゥを心配し、シエスタは、毎日のようにルイズのもとを訪ねたりした。

 本気で心配するシエスタを邪険にできず、ルイズは、眠っているトゥの寝顔を見せたりした。

 そして目を覚ましたトゥ。シエスタは、泣きながらトゥに抱き付いた。

「よかったぁ。よかったですぅ。」

「シエスタ?」

「もう目を覚まさないかと思いました…。本当によかった…。」

「私は大丈夫だよ。」

 そう言ってトゥはシエスタを優しく抱きしめた。

 その様子をルイズは、複雑な顔で見ていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 トゥは、その後、最初の一日とあまり変わらない日々を送った。

 ルイズの着替えを手伝って、ルイズについていって、食事になれば、また床の上で、不服を申し、ルイズが却下し、トゥは食事が足りないので厨房に行く。そこで賄を貰う。

「我らの剣が来たぞ!」

 厨房に行けば、コック長のマルトーが歓迎してくれる。

「われらのつるぎ?」

「おおよ。」

「なんで?」

「おう、聞いたか? 達人ってのは、誇ったりなんざしないものだ! 見習えよ!」

「えー?」

「トゥさん、剣の達人なんですよね?」

「分かんない。覚えてないもん。」

 シエスタの言葉に、トゥは首を振った。

「おう、どうしたんでぃ? まさかあんた記憶が…。」

「あのね。私、名前も覚えてなかったの。剣に名前が書いてあったから…、たぶん私の名前かな~って思ったの。剣もね、持ってると、ふわ~って身体が軽くなって、自然と身体が動いたの。変だよね?」

 マルトーは、真剣な顔をしてトゥに近づき、その肩にポンッと手を置いた。

「いつでも来てくれ。美味い飯食わしてやるから。」

「うん! ありがとう、コックさん!」

 トゥは嬉しそうに笑った。その笑顔に、厨房中の人間達が和んだ。

「マルトーだ。」

「マルトーさん、ありがとう!」

 トゥは、マルトーに抱き付いた。

 結果、ダイレクトにトゥの胸が押し付けられるわけで…。

 マルトーは、赤面の末、鼻血を吹いて倒れた。

「きゃー! マルトーさん、しっかり!」

「あれ? あれれ?」

 慌てるシエスタとは対照的に、トゥは首をかしげているだけだった。他のコック達は、倒れたマルトーを羨ましそうに見ていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 食事が終われば、今度は授業。

 授業中は、後ろで他の使い魔達と戯れる。

 フカフカの毛並みを持つ幻獣に顔を埋めていると、だんだんと眠くなってきたのか、トゥは、スピスピと眠ってしまった。

 生徒でもない、使い魔である彼女を誰も咎めはしない。そんな決まりなどないのだから。

 そんな中、一人、イライラしている生徒がいた。

 ルイズだ。

「ムニャムニャ…。」

「…トゥ?」

「……やん……、もう、ダメぇ…。」

 なんかエロい寝言が聞こえてくる。

 男子達がいち早く気が付き聞き耳を立てた。

「あ……ぁ、あん……。そ、こ…、うぅん…。あ…ああ…ぁ…。や…あ…、あぁあん…。」

 男子達は、目を血走らせ、ハアハアっと呼吸が荒くなりだした。

「…こ、…こらー! 起きなさい、トゥ!」

「うぅん……。」

「起きなさい!」

「………セント……。」

「っ…、起きなさいってば!」

「ふえ!」

 ルイズの怒鳴り声でトゥは飛び起きた。

 トゥは、キョロキョロと周りを見回し、赤面してぶるぶると震えているルイズを見た。

「ルイズ?」

「あんたって奴は…。」

「どうしたの?」

 全然夢のことを覚えていないらしいトゥに、ルイズは、行き場のない怒りに震えていた。

 そしてにしても。

 セントと、寝言で言ったトゥの目に、僅かに涙が浮かんでいたような気がしたのは気のせいだろうか?

 まあとにかく。

「授業中に居眠り禁止!」

「えー?」

「いいじゃねーかよ、ゼロのルイズ。」

「そーだそーだ!」

 男子達がブーイングをあげた。それを女子生徒達は冷ややかな目で見ていた。

 フカフカの幻獣をぬいぐるみのように抱っこして床に座っているトゥは、とても可愛い。その周りに使い魔達が集まっているのも、彼女の魅力を引き立てている。

 それを見ているとなぜかムカムカした。

「他の人の使い魔と遊ぶのも禁止!」

「イヤ!」

「禁止!」

「イヤ!」

 そんな押し問答が続き、ルイズが教師に叱られた。

 授業中、やっぱりトゥは、使い魔達と遊んでいた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 お昼ごはん。

 ルイズからご飯抜きと言われたトゥだが、すぐに厨房に行ってご飯を貰った。

「シルフィードちゃーん!」

 大きな風竜であるシルフィードと戯れるのも、楽しみだった。

「ローストビーフの切れ端もらったの。一緒に食べよう!」

 シルフィードは、喜んでローストビーフの切れ端を食べた。

 

 その様子を、水色の髪の少女が見ていた。

 

「…最近太ったの、原因コレ?」

「あれ、だれ?」

「…タバサ。シルフィードは、私の使い魔。あなた誰?」

「私は、トゥ。ルイズの使い魔だよ。」

「ルイズの?」

 タバサは、上から下までトゥを見た。

 トゥは、タバサの頭の上に手を持ていった。そして自分の背と比べた。

「? なに?」

「ちいさいねぇ。可愛い。」

「……。」

 タバサは小さい。ちなみにトゥは、170センチある。

「あ、ごめんね。気にしてた?」

「別に…。」

「ねえ、シルフィードちゃんにこれからもご飯あげてもいい?」

「太る。」

「そっか…。」

 シルフィードは、残念そうにうなだれた。

「ダイエット。」

 シルフィードは、顔を上げてイヤイヤっと首を振った。

「ごめんね、シルフィードちゃん。」

 トゥは、謝った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 お昼休みが終われば、また授業。

 お腹がいっぱいになったトゥは、またスピスピと居眠りをした。

 眠りが深いのか、寝言すらも言わない。それを男子達は残念がった。

 ルイズは、そのことにホッとし、授業に没頭した。

 眠っているトゥの傍に、一匹のネズミが近づいた。ネズミは、ジッとトゥを見ていた。

 授業が終わり、ルイズがトゥを起こすまでネズミは、近くにいた。

 

 

 その夜。

「変な寝言言ってた罰。外で寝なさい。」

「イヤ!」

「あんだけグースカ授業中に寝てたくせに!」

「それとこれとは別。」

「ダメよ、ダメだったらダメ!」

「イヤだったら、イヤ!」

 ベットでの攻防となったが、身体能力じゃ全く歯が立たずルイズは負けた。

 仕方なくトゥと一緒にベットで寝る。

「私はルイズと一緒に寝るの、好きだよ?」

「あのね…、あなたは使い魔なのよ? 使い魔に贅沢覚えさせたくないの。……ところで、トゥ。」

「なぁに?」

「……セント、ってなに?」

「!!」

 途端、トゥの表情が一変した。

 ガバッと起き上がり、目を見開き、唇を震わせる。

「あ……あぁ…。」

「トゥ? ちょっと…、どうしたの?」

「せ、んと……、セント、セントセントセントセントセントセント…、あああ、…っ、ああ…、ぁあああああああ!」

 トゥの右目が光りだし、衝撃波がトゥの体から発せられ部屋に置いてあった物が吹き飛んだ。ルイズも壁に背中を叩きつけられた。

「っ…、トゥ! 落ち着いて、トゥ!」

「セントォォォォ、あああああああああああああああああああ! あ………。」

 しばらく叫んでいたトゥだが、急に糸が切れたようにベットの上に倒れた。

「…トゥ?」

 ルイズは、恐る恐るトゥを見た。

 トゥは、スースーと静かに寝ていた。

「なに? なんなの、さっきの一体…、トゥ…あなた…。」

「ルイズー、一体何事なの?」

 すると部屋のドアを叩く音が聞こえ、キュルケの声が聞こえた。あとドタバタと足音が聞こえてくる。トゥが起こした衝撃波は、寮中に轟いていたらしい。

「な、なんでもないわ。」

「なんでもないわけないでしょ?」

 キュルケが魔法を使って鍵を開け、部屋に入ってきた。

 そしてメチャクチャになった部屋を見回し、寝ているトゥを見た。

「何があったの?」

「分かんない…。」

「分かんないじゃないわよ。その子が関係してるんでしょ?」

「それは…。」

 ルイズは、口ごもった。

 セントという言葉を聞いた途端に豹変したトゥが、謎の力を発揮して部屋をメチャクチャにした。

 トゥにとって、セントという言葉は何かしらのトラウマなのだろうか?

「ねえ、ルイズ…。その子…トゥは、本当に普通の人間なの?」

「えっ…。」

「細い癖にあんな大きな剣を片手で振り回すし、ギーシュをあっさり倒すほどの戦闘能力といい…まともじゃないわ。」

「それは…。」

「まあ……、あんたの使い魔のことなんだから、あんたが片づけなさいよ。」

 キュルケは、そう言い残して去っていった。外にいる人間達には、キュルケが説明したのか、足音が去っていく音がした。

 ルイズは、トゥを再度見た。

 トゥは、眠っている。さっきまでの豹変が嘘のように安らかに眠っている。

「呑気に寝ちゃって…、部屋の片づけどうするのよ…こんなにメチャクチャにして…、明日片づけさせてやるんだから。」

 そう言ってルイズは、トゥの隣で寝た。

 

 

 翌日。

「トゥ、まずは部屋を片付けるのよ。絶対に壊さないでね。」

「えー。」

「あんたがやったんだからね。」

「私が?」

「覚えてないの?」

「なにが?」

「……まあ覚えてないなら別にいいわ。あんたにとって、セントってのがどんな意味を持つのか分からんないけど。」

「……。」

「あっ…。」

 ルイズは、軽々と口にしてしまって慌てて口を手で抑えた。

 だがトゥは、首をかしげていた。

「トゥ?」

「ねえ、ルイズ。」

「なによ?」

 

「………セントって……、なに?」

 

 そう言ったトゥの右目と、左手のルーンが光ったような気がした。

 

 

 




セントのことは、トゥの心に残っていましたが、色んな補正により無理やりに忘れられています。
しかし完全には消えません。

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