二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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トリスティンへの帰還。

聖地について、少し触れています。いや、ほとんど確信ついてます。

あと、胸を揉む程度のガールズラブ要素あり。


第七十一話  トゥ、これからのことをルイズと話す

 

 トリスティンに帰ったトゥ達を、オスマン達が出迎え、そして、魔法学院本塔の二回の舞踏会ホールにて、オスマンによる演説と共に、正装した水精霊騎士隊とトゥ、ルイズとティファニアが緞子の向こうから現れ、生徒や教師達から割れんばかりの拍手と歓声が上がった。

 トリスティン魔法学院には、すでに自分達と同じ年の騎士隊が、このたびのガリア王継戦役でどれだけ功績をあげたのか知れ渡っているのだ。

 さらに、トゥの活躍についても知れ渡っており、彼女のことを不気味がって遠巻きにしていた生徒も教師も手のひらを返したように歓声を上げた。

 そのことに、トゥは、苦笑した。

 オスマンは、オホンッと咳払いし、トゥ達を労う言葉を述べ、それから、誇らしげに、わしが育てたと言い出した。

 これには、水精霊騎士隊の仲間達がお互いに顔を見合わせ、なんか教わったっけ?とか、ちゅうか育てられたっけ?と、思っていたし、顔にも出していた。

「はい! オスマン氏の教育のおかげであります!」

 めざとくギーシュがそんなことを言い出した。まあ、ここでオスマンに恩を売っておくのは悪くない。

 その後、オスマンによる、セクハラじみたジョークがあったりもしたが、水精霊騎士隊の隊長であるギーシュにシュヴァリエの称号が授与され、そして他の仲間達も、白毛精霊勲章を戴いた。

 教師の中でギトーだけは、ムスッとした顔をしていた。どうやら生徒達がこのような勲章を授与するのが気に入らないらしい。

 ルイズとティファニアは、巫女として従軍していたので、ジュノー管区司教の任命状が授けられることになった。

 これには、生徒達からため息が漏れた。

 あとでトゥが聞いた話によると、司教の肩書きは、言ってしまえばお金持ちへの急行券なのだそうだ。例えば、税金が免除されたり、寺院税を得られたり、つまり何もしなくてもお金が入ってくるのだ。

 勲章の授与が終わった後、ふと、教師も生徒達も気づいた。

 トゥには、何も勲章が授与されていないのだ。

 しかし、オスマンは、パーティーの開始を宣言した。

 トゥには、すでにシュヴァリエの称号があるので、今回は据え置きなのだろうかと、教師も生徒達も納得したのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…トゥ。トゥ。」

 ドレスで美しく着飾ったルイズがトゥを探した。

 やがて、ホールの端っこの椅子に、まるで隠れるように座っているトゥを見つけた。

 正装して男装っぽく着飾られたトゥは、これはこれで魅力的だ。

「なにしてるの?」

「んーん。別に。」

「楽しくない?」

「うん…。」

 トゥは、頷きうつむいた。

「もしかして、ジョゼフが死んだこと…まだ引きずってるわけ?」

「……気にならないって言ったら、嘘になる…。」

「…あなたの責任じゃ無いわ。あの王は、遅かれ早かれ、誰かに殺されてたわ。」

 ルイズがそう言うと、トゥは、ふるふると首を横に振った。

「そうじゃない…。」

「じゃあ、なに?」

「ヴィットーリオさん達が、今一生懸命、聖地を取り返そうとしてるでしょ?」

「そうね…。まったくエルフが黒幕だのなんだのって、あんなことよく言えるわよねぇ。あんな恐ろしい火の玉を見たら、誰だってエルフと戦おうだなんて思わないわ。」

「そうじゃない。」

「なによ? 虚無だってジョゼフ王だったんだし、死んじゃったからもう虚無をそろえるなんて無理よ?」

「違う。」

「なんなのよ?」

「ヴィットーリオさん達が目指してるモノ…、きっとハルケギニアの未来に関わってると思う。」

「そうね。だからこその聖戦なのよ。」

「でも…、聖地に……“滅び”しか無かったら?」

「…えっ?」

「救いなんか無かったら……、どうするんだろう?」

「トゥ…。」

 ルイズは、確信した。

 トゥは、トゥは、聖地に危険なモノがあることを知っていると。

 だがここで問いかけたら、きっとまた忘れてしまうだろうから、聞き返そうとした口をぐっとつぐんだ。

「……ブリミルさんは…、姉さんと、何を約束したんだろう?」

「そ、そういえば、姉さんがいるって言ってたわね。」

「きっと、大切な約束……。きっと、それは世界を……。」

 中空を眺めながら、ボソボソと言葉を紡ぐトゥの言葉を聞き逃すまいと耳を研ぎ澄ませるルイズは、世界とはどういうことなのかということを問いかけたい気持ちを必死に押さえていた。

「……ゼロ姉さん…。」

 すると、スイッチが切れたように目をつむったトゥがふらりっと椅子から倒れそうになった。

「トゥ!」

 慌ててルイズがその体を支えた。

「…ふぁ…。りゅいずぅ?」

 トゥが寝ぼけたように舌足らずな声で言いながら、トロンッとした目でルイズを見上げた。

 それが可愛くて、ルイズは、ドキリッとした。

「ルイズ……、いい匂い…。」

 そのままスリスリとすりついてくるトゥに、ルイズは、変な声を上げそうになり、なおかつ悶絶しそうになった。

「ルイズ~、ぎゅ~。」

 トゥは、ルイズの腰に手を回して、苦しくない程度の力で抱きついてきた。

 ふぉぉおおおおおおお!!っと、ルイズは、声を上げたかったが、口を手で押さえて堪えた。

 なんて、なんて可愛いの! どうしてトゥってば可愛いのかしら!? さすが私のトゥ!

 っと、心の中で悶えまくっていたルイズを現実に戻したのは、他でもないトゥの声だった。

「ねえ、ルイズ。」

「はぅ!? な、なに!?」

「これから、私たち、何したらいいんだろう?」

「は? へ?」

「ヴィットーリオさん達は、きっと宛てがあるんじゃ無いかな? きっと諦めないよ、聖戦。」

「……それだけど、ジョゼフ王が虚無だったってことを知ったのは、最後の時だったでしょ? きっと他に虚無がいるって思ってたんだわ。じゃなきゃ、あんなにさっさとロマリアに帰ったりなんてしなかったはずだわ。今頃、聖戦を掲げたことを後悔してるんじゃない? 下手したら失脚して、明日にでも新教皇選出会議開催の報がトリスタニアに届くかもしれないわよ?」

「うーん…。」

「何をそんなに不安がってるのよ? いい? 私たちがこれからすることは、始祖ブリミルがエルフを使い魔にしていたことを調べることよ。きっと、エルフと私たちが争うようになった原因はそこにあるはずだわ。それが分かれば、彼らと争う理由は無くなるかもしれないじゃない。」

「……原因は…。」

「なに?」

「なんでもない…。」

 そう言って顔を伏せてしまったトゥを見て、ルイズはしまったと思った。

 さっきの言葉から察するに、トゥは、おそらくエルフとの戦争が始まった原因も知っているはず。

 けど、それを聞き出すきっかけを潰してしまった。

「やってしまった…。」

「えっ?」

「な、なんでもないわ。」

 仕方ない。またの機会に聞き出そうと決めた。

「あら? お邪魔だった?」

「キュルケちゃん。」

「なにしに来たのよ。」

 やってきたキュルケは、二人がいる場所の壁により掛かって。

「タバサの即位に乾杯。」

 っと、どこか寂しそうに言った。

「キュルケちゃん、あれからタバサちゃんからの連絡は無いの?」

「ええ。このあいだ実家から連絡があって、ガリアから使いの人が来て、タバサの母君を連れて行ったらしいわ。そのぐらいね。」

「ねえ、キュルケ。タバサは、まさかロマリアの言いなりになったりないわよね?」

「あの子に限って、それはないわよ。あの子、ああ見えてそういう駆け引きは百戦錬磨だしね。」

「タバサちゃん、強いんだね。」

「ええ、とびっきり強いわよ。」

 キュルケが豊かな胸を張ってそう言った。

「ま、人の心配より、自分の心配したら?」

「?」

「そうよ。トゥちゃんってば、ますます綺麗になったじゃない? 今までトゥちゃんのこと邪険にしてきた奴らも手のひら返したように賞賛してるし、言い寄ってくる輩が出てくるんじゃないかしら?」

「なんですってぇ!?」

「頑張りなさいよ。」

 憤慨するルイズを見て、キュルケは、楽しそうに笑いながら去って行った。

 地団駄を踏むルイズとは反対に、分かっていないトゥは、首を傾げていたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後。

「…き、気持ち悪い…。」

「飲み過ぎだよ。」

 舞踏会が終わり、生徒達が寮に戻る頃、トゥもルイズも寮に戻ってきた。

 のだが、ワインを飲み過ぎてしまったルイズが、ヘロヘロとトゥにもたれかかってきた。

「ねー、トゥ~。」

「なぁに?」

「ほんろにぃ…、わらしと、いっしょにぃ、暮らしてくれるのぉ?」

「ルイズがいいなら。」

「イヤってぇ、言ってないれしょぉ!」

 酔っ払って呂律が回っていない口でルイズが怒鳴った。

「明日は、虚無の日だよね? だから一緒に住むお家探そうね?」

「もちろん、よぉ。」

「いいお家があるといいねぇ。」

「あるにぃ、決まっれるわよぉ~。ねぇ、トゥ~。」

「なぁに?」

「触っていい?」

「ふぇ?」

「触っちゃえ。えいっ。」

「ふひゃ、ルイズぅ。」

「ああ…、やっぱり最高のさわり心地…。」

 ルイズが、トロンとした目でトゥの胸を揉み出した。

「も~、トゥったら、どうしてこんなにぃ、魅力的なのぉ?」

「えっ…、わ、わかんないよぉ…。」

「可愛いし、綺麗だし…、胸…あるし…。」

 ルイズは、自分の体の胸部を見下ろして、ズーンっとなった。

「ルイズは、綺麗だよ?」

「だってぇ、私にこんなのないし。」

「人間、胸じゃないよ?」

「そんなこと言ってぇ…、ますます好きになっちゃうじゃないのぉ!」

 ルイズが、ポカポカと力の入っていない拳でトゥを叩いた。

「ね~、トゥ、一緒にぃ、ベット行こう?」

「眠いの?」

「違うわよぉ~。分かってよぉ。」

「? 寝る以外に何するの?」

「も~、じゃあ、私が教えてあ・げ・る!」

 ニヤーっと笑ったルイズがトゥの腕を掴み、それから勢いよく部屋の扉を開けた。

 

 しかし、ルイズの頭が一気に冷えた。

 

 部屋の中では、『おかえりなさい、トゥさん』と書かれた垂れ幕と、テーブルに並べられた料理と……シエスタと、その他メイド達がいたのだ。

「あ…。」

 ルイズは、冷えた頭で一気に事を理解した。

 シエスタは、現在、トゥ専属のメイドだ。さっきの舞踏会に姿が無かったのもそのせいだ。

 ずっと部屋にいたということは、部屋の前でやっていたトゥとのやりとりをすべて聞かれていたわけで…。何より、シエスタ達の顔が物語っている。

「あ、あああ…ああああああああああああああああああ!!」

 ルイズは、あまりの恥ずかしさに顔を覆って、その場にへたり込んだ。

 トゥは、床に膝をついて、オロオロとルイズの肩を摩ったり、背中を摩ったりして落ち着かせようと一生懸命になり、シエスタ達は反応するタイミングを逃してしまい、顔を見合わせたりしていた。

 




酔った勢いで、関係持とうとしたルイズですが、大失敗。

次回は、お家探しとルイズとシエスタとの攻防(?)かな。

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