なぜかスピリット(ドラッグオンドラグーン3の敵キャラ)が一瞬だけ登場します。
夜になった。
昼間に散々騒いだのでルイズはすぐに寝てしまった。
ベットは相変わらず一つだけである。
というか、一緒に寝たいから一つなのだ。ちなみにシエスタのベットは、ちゃんと買ってある。
しかし、シエスタは、こっそりとトゥとのルイズのベットに入ってきて、翌朝ルイズに怒られるのを繰り返していた。
ベットが固いだの、お化けが出るだの言って言い訳を述べてくるが、全部嘘だ。
「えっ? スピリットがいるの?」
「なんですか、それ?」
「お化けのモンスター。」
「えっ? そんなのいるんですか?」
「黄色で、ドクロの形してるの。何かにとりついて強化してくるの。見つけたら真っ先に倒さないと…。」
「落ち着きなさい。さっき言ってたでしょ? シエスタが見たのは白っぽい何かだって。スピリットって、前に水の精霊にとりついて凶暴化させた奴でしょ? そんなのいたらシエスタが無事なのがおかしいじゃない?」
「…そっか。」
「そ、そんなに危ないんですか?」
「ちょー危ない。」
トゥの言葉に、シエスタは、顔を青くしダラダラと汗をかいた。
「トゥ…、トゥさん。お願いです。一緒に寝てください。」
「こら、嘘ばっかり言って、自分で自分の言ったことに怖くなって首を絞めてんじゃないわよ。」
「じゃあ、ミス・ヴァリエールが確かめてください。そのスピリットがいないかどうか。」
「私を生け贄にしよっての!?」
「じゃあ、私がシエスタの部屋に行くよ。」
「えっ!?」
「えっ!?」
「スピリット退治するまで待っててね。」
トゥは、にっこりと笑ってそう言うと、大剣を背負ってシエスタの部屋に行ってしまった。
「あ…。」
「ふ…、馬鹿ね。」
シエスタが止める間もなくトゥが行ってしまったため、伸ばした手は空を切り、ルイズは、肩をすくめて笑った。
しかし、その数分後だろうか。凄まじい破壊音がしたので、二人は慌てて行くと、そこには、シエスタのい部屋のベットを切り落としたトゥがいた。
カランッとトゲトゲのついた輪っかが真っ二つになって床に落ち、黄色い煙のようなモノが部屋に僅かに残っていた。
「トゥ、これは…。」
「いたよ、スピリット。危なかったね、シエスタ。」
「あらま。」
嘘から出た真とはこのことだろう。
「トゥさん、トゥさん! 怖いです! 一緒に寝てください!」
「たぶん、あれ一匹だったはずだよ。じゃないと、修繕に来た業者さんや、ヘレンさんにもとりついていたはず。」
「スピリットって、昼間も出るの?」
「うん。」
「お化けよりたち悪いじゃない。」
「うん。たち悪い。」
きっぱり言うトゥに、ルイズもシエスタも絶句した。
結局、シエスタのベットを破壊してしまったため、また寮のように一緒に寝ることになったのだった。
***
夏休みに入って一週間後。平和は打ち破られた。
ルイズの姉、エレオノールが突然来訪したのである。
「ちび! ちびルイズ!」
「いだい~~~!」
エレオノールがいる応接室にルイズが入るなり、エレオノールがルイズのほっぺたを抓った。
「やめて!」
「あんたは、もう、また勝手なことをして! け、けけけ、けほぉ…。」
エレオノールが息を切らし、咳き込んだ。
シエスタが慌てて水を持ってきて渡し、水を飲んだエレオノールは、言葉を続けた。
「結婚前の娘が、同じ性別の人と同棲ですって? いったいあなたは何を考えているの! 勝手に戦争に行ったと思えば、今度は同棲ですって? あなた、そんなの、私、絶対に認めたませんからね!」
「そ、そんなぁ…。ほ、ほら、主人と使い魔だから……。」
「あんたの目がただの使い魔…、ましてや同じ女を見る目じゃないのよ。」
「!」
「図星でしょう? 初めて見たときからおかしいと思ったのよ。」
エレオノールとトゥが遭遇したのは、アルビオンとの戦争の時に許しをもらうためにルイズの実家に帰るときだった。
反対され、逃げ込んだ先で、ルイズは、トゥに慰められて、ルイズは、トゥの胸にグリグリと顔を押しつけた。たぶんその時のことを言っているのだ。
「世間様になんて説明するの? ヴァリエール家の三女が同性愛嗜好の気があるだなんて!」
「いいじゃありませんか!」
ルイズがついに叫んだ。
「私は、女が好きじゃ無くって、トゥが好きなんです! トゥだけ、トゥだけなのぉ!」
「ちびルイズ。あなた、伝説の系統なんでしょう?」
「ええ! だから父様から『己の信じた道を行きなさい』と言われました!」
「私もあの場にいたから聞いているわ。けれど、それは、好きかってしていいというわけではないわ。あなたはね、自分の器以上の力を手に入れてしまったのよ。」
「分かってます。」
「分かってないじゃないの。あなたの力はあなただけのものではないのよ。祖国の命運を左右する、大変な力じゃないの。自重しなさい。ルイズ。」
「でも…、もう平気よ。大事なことにはならないわ。」
「どうして?」
ルイズは、ちらりと、トゥを見た。
それからルイズは、ロマリアであったことをエレオノールに語った。
トゥは、ルイズとエレオノールを交互に見て、俯いた。
「…っというわけで、始祖の力の復活は防げて、ロマリアの聖戦も続けられなくなりました。姉様の言うとおり、私の力を守るためなら、なおさらトゥが必要だわ。この子以上に、私を守れる奴なんかいないんだから。ね?」
「う、うん。」
「なによ、その自信なさげな返事は! そこはしっかりハイっ!って言いなさい!」
「屁理屈を述べないでちょうだい!」
エレオノールが怒鳴った。しかしルイズも負けない。
「違うわ! 屁理屈を並べているのは姉様の方よ! なによ! 伝説の力なんて本当はどうでもいいんでしょ? ちにかく、私がすることなすこと、気にいらないだけでしょう? 私だって、いつまでも小さいルイズじゃないんだから!」
「じゃあ、今みたいな言い訳を、父様と母様に聞いていただきましょう! さあ、ラ・ヴァリエールに帰るわよ!」
そう言ってエレオノールは、ルイズの首根っこを掴んで引きずっていこうとした。
「あの! ルイズのお姉さん!」
「なによ。あんたにお姉さんなどと呼ばれる筋合いはなくってよ。」
エレオノールは、じろりっとトゥを睨んだ。
「手を離して。」
「ダメよ。そうそう、あなた、少々手柄を立てたようで、調子に乗っているようだけど、私の妹をたぶらかすなんて、許しませんからね!」
「別にたぶらかしてなんか…。」
「お黙り! じゃあ、あなた、ルイズの方が先にあなたにす、す、す、すす、好きとでも言ったわけ?」
「はい。」
トゥはきっぱりと言って頷いた。
エレオノールは、目を見開いて、ポカンッと口を開けた。
しかしすぐに表情を改めると、ギッと手元にいるルイズを睨んだ。
「ちびルイズ! あなたという子は!」
「本当のことだもん。」
ルイズは、ニヤ~っと笑った。
「私の方から告白しました!」
エッヘンという風に自慢げに言うルイズは、エレオノールの顔がみるみる赤くなる。それは、怒りなのか、羞恥なのか…は、分からない。
「あなた…、名前は?」
「えっ?」
「トゥ、名前よ! あんたの名前! 言ってあげなさい!」
「えっと…、トゥ・シュヴァリエ・ド・オルニエールです。」
「男爵の爵位もない、ただの平貴族が気取るんじゃないの。」
エレオノールは、一刀両断した。
「とにかく! 伝説だろうがなんだろうが、ぽっと出の貴族に、ラ・ヴァリエールの娘を嫁がせることはできません!」
「あ! 私のこと、トゥのお嫁さんってことでいいのね! それとも、トゥ、私が旦那さんの方が良い?」
「えっと…。」
「なに良い方に解釈してんのよ、ちびルイズ!」
エレオノールは、トゥLOVEすぎるルイズに、呆れながら怒った。
「なら……、どこに出しても恥ずかしくない貴族に仕立て上げれば、文句ないわけですよね?」
「はあ? あなた、何言ってるの?」
「私が、トゥを、立派な貴族にしてみせます。」
「立派な貴族ぅ?」
「えっ?」
トゥは、キョトンとした。
そうこうしているうちに話は進み、エレオノールは、次回来るときまでに貴族の作法をたたき込んでおけと言い、自分が満足できるものでなければ、ルイズは、自分と共にヴァリエール家に帰るのよと言った。
エレオノールは、ルイズとの会話を終えると、トゥに挨拶もせず帰って行った。
「…嫌われてるのかな?」
「トゥ。」
「ん? なぁに?」
「なぁに、じゃないわ。『ミス・ヴァリエール、私に作法を一から仕込んでください』、でしょ。」
「えっ?」
「えっ、じゃないわよ。ほら、言いなさい。」
「…もう始めるの?」
「ったりまえでしょ。次にエレオノール姉様が来るまでに、あんたをつま先から頭のてっぺんまで、誰に文句つけようのない貴族に仕込んであげるわ!」
「えー…。」
大変なことになってしまった…。
なぜかいたスピリット。シエスタ、間一髪。
エレオノールに色々ぶっちゃけるルイズでした。