「トゥさん…。」
「……シエ、スタ?」
「気がついたんですね!」
ベットの上で目を覚ましたトゥ。
「いったい、何があったんですか?」
「……ルイズ、どこ?」
「トゥさん。ミス・ヴァリエールはいません。見つからなかったんですか? 昨晩、探しに出たんですよね?」
「ルイズ…、どこぉ?」
「トゥさん! しっかりしてください!」
「ルイズ…。ど…。」
パンッと音が鳴った。
シエスタがトゥの頬を叩いたのだ。
「……いたい…。」
「しっかりしてください! そんな調子でどうするんですか! 一体何があったのか教えてください!」
「……。」
トゥは、少し黙った後、ポツリポツリと喋りだした。
地下室のカギを見つけ、地下室に行ってみたら、そこがアンリエッタの寝室につながってたこと。
アンリエッタと地下室で話をし、感情が高ぶって泣いてしまい、アンリエッタの胸を借りて泣いたこと。
アンリエッタと友達になったが、その後、部屋の外にルイズのスリッパが落ちていて、どうやらアンリエッタとのやりとりを見られて激しい誤解をされたのではないかということ。
それで慌ててルイズを探しに行ったら、部屋に手紙が置いてあって、大慌てで外に探しに行ったら、謎の二人組に出会い、戦いになったことを話した。
「その二人組と戦ってから、放心していたんですか? 何かされたんですか?」
「……。」
「答えてくれないと分かりませんよ!」
「ルイズ…、どこ?」
「トゥさん!」
『無理だ。心の支えの一つを失っちまって心が酷く荒れてやがる。こりゃ、まともになるのに時間が必要だぜ…。いや、元に戻るのか?』
「そ、そんな!」
デルフリンガーの言葉にシエスタが驚愕した。
『娘っ子ぉ…、なに勘違いして早とちりしちまったんだよぉぉ…。』
デルフリンガーの嘆きは、ルイズには届かない。
***
『相棒。相棒。メイドがお前さんのために奔走してくれているぜ?』
「ルイズ、どこ…?」
『なあ、せめて手紙を出そうぜ。それで王宮とか娘っ子の実家とか…、まあとにかく娘っ子の行きそうな場所に片っ端から探すんだ。なあ、そうすりゃ必ず見つかるって! なあ!』
「ルイズぅ…。」
『相棒! なあ、相棒!』
「……。」
『お?』
ベットに座っていたトゥがおもむろに立ち上がり、壁に立てかけていた大剣とデルフリンガーを掴んだ。
ついに自分の言葉が通じたかと思ったが、そうではなかった。
『おい、相棒! 聞けって、相棒!』
そのまま二つの剣を引きずりながら、ゾンビのように歩き出していた。
「トゥ、トゥさん! どこに行くんですか!」
ズルズルと剣を引きずるため、床を壊す音が聞こえ、駆けつけたシエスタが叫ぶがトゥは止まらない。
そのまま外に出て行こうとしたため、シエスタは、たまりかねてトゥの前に立ちはだかった。
「そんな状態でどうするんですか! まさかこのままの状態でミス・ヴァリエールを探しに行く気なんですか!?」
「…ま…。」
「えっ?」
「ジャマ…。」
「!?」
トゥがデルフリンガーを振り上げた。
『やめろ、相棒!』
「ーー!」
振り下ろされる刃に、シエスタは、ぐっと目を閉じた。
しかし刃は、寸前のところで止まった。
シエスタは、斬撃が来ないため、恐る恐る目を開いた。
その横を、トゥが剣を引きずりながら通り過ぎていった。
「…ま…、待ってください、トゥさん!」
シエスタは、離れて様子を見ていることしかできなかったヘレンと共に素早く身支度を調え、ヘレンに留守を任せ、トゥを追いかけた。
ゾンビのようにゆっくりと歩いていたトゥには、すぐに追いついた。
「トゥさん! トゥさん! 馬を借りましょう! その方が早いですよ!」
「ルイズぅ…、どこぉ…。」
「トゥさん! こっちです!」
シエスタがトゥの腕を掴み、引っ張った。
トゥは、大人しくシエスタに引っ張られていき、駅の馬を借りた。シエスタが促すと、素直に馬に跨がったりもする。
シエスタが前に座り、トゥを後ろに乗せて馬を走らせた。
まず向かう場所は…、魅惑の妖精亭だ。
***
「あ~ら、シエちゃん、トゥちゃん、いらっしゃい。どうしたの?」
「スカロンおじさん…。」
「あら、シエちゃん! なに? そんな泣きそうな顔して…。」
「ルイズ…どこ…。」
「……トゥちゃん?」
「助けて、スカロンおじさん。トゥさんが、トゥさんが…。」
「大丈夫。大丈夫よ。ほら、涙拭きなさい。」
ポロポロと泣き出してしまったシエスタの涙を、ハンカチで拭いた。
シエスタは、泣きながら、ここまであったことを話した。
「トゥちゃんにとって、ルイズちゃんは、大切で、大きな心の支えだったのね…。」
『主人と使い魔って関係も大きいかも知れねぇけどな。』
「ルイズ…、ルイズぅ…、どこぉ?」
「トゥちゃん。まずは、手紙を書きましょう。字、書けそう?」
そう言ってスカロンは、紙とペンを持ってきてトゥが座っている椅子の前にあるテーブルに置いた。
「まずはね、王宮や魔法学院、それから、ルイズ実家にルイズちゃんがいなくなりましたってことと、探していることを書くのよ。もちろん、あなたのサインも忘れないようにね。」
「……。」
「そうそう。いいわ。書けるじゃない。じゃあこれをフクロウ便で運んでもらいましょう。」
「でも、魔法学院には、今生徒はいないわ。夏休みでみんな帰っていて…。」
「じゃあ、頼られるお仲間さんの実家にも手紙を送りましょう。」
それから、ギーシュ達、水精霊騎士隊の実家にも手紙を書いた。
手紙は、二、三日中には送れるということで、知らせを待つことにした。
本当なら謎の刺客に襲われたことを含めてアンリエッタに報告すべきなのだが、トゥがこんな状態ではそれは難しい。
しかしその心配は、城から来たアンリエッタからの使いの者達により、解消された。
アンリエッタに直接呼ばれたのだが、トゥがこんな状態である。シエスタが、トゥの手を引いて城に入ることになってしまった。
出迎えに来たアニエスもトゥの状態を見て、あ、こりゃいかんっと思い、まずアンリエッタに報告。それから謁見の間にシエスタと一緒に呼ばれて入るなり、トゥに駆け寄ってきた。
「トゥ殿! 一体何が?」
「……ルイズゥ……、どこぉ…。」
「!? こ、これは、いったい…?」
「ミス・ヴァリエールがいなくなってから、この状態で…。」
シエスタは、恐れ多いので顔を伏せたまま答えた。
トゥが答えられる状態じゃ無いので、シエスタから事情を聞いたアンリエッタは、立ちくらみを起こしてアニエスに支えられた。
「ルイズから手紙が送られてきたので、あなた達を呼びましたが…、まさかこんなことに…。」
ルイズがトゥに、恋愛感情を抱いていることは、アンリエッタも知っていた。だが、まさか自分とトゥがあの晩会っていて、自分の胸を貸している状況を見られて勘違いされて家出をされるなんて考えもしなかった。
それだけルイズにとって、周りがトゥとの恋路の邪魔になる敵に見えて仕方がなかったのだ。トゥに対して夢中になるあまり。それゆえに空回りし、結果がこれだ。
ルイズからの手紙には、自分をガリアとの外交官から外して欲しいということと、及び司祭の職を返上するということ。そして…。
永久にお暇をいただきたいということが書かれていたのだという。
「ルイズ…、馬鹿な子…。」
「どこぉ…、ルイズぅ?」
「誰よりも好いた相手をこんな有様にして…。本当に、本当に馬鹿な子!」
「ルイズ…、どこに…いる、の?」
嘆くアンリエッタ。
トゥは、どこを見ているのか分からない顔で、似たような事をずっと呟いていた。
こうして、ルイズの大捜索が始まったのだった。
原作沿いながら、オリジナルの展開が続きます。
このネタでは、ルイズに非があるという展開にしました。(勘違いで早とちりを起こしたので)