ティファニアに忘却の魔法を使ってもらって、トゥの記憶をねつ造します。
今回ちょっと短め。
事は、ガリア女王即位祝賀園遊会までには、なんとかしなければならない。
ルイズがいない今、ガリアへの外交官はトゥしかいないが、トゥは、心が壊れかけていた。なので、なんとしてでもルイズを探す必要があった。
トゥの心をなんとか安定させる必要もあった。
手紙を受け取り、集結した水精霊騎士隊の仲間達は、中庭に通された。
そこには、中庭の芝生でちょこんっと座り、デルフリンガーをいじっているトゥと、その隣に座っているシエスタがいた。
「トゥ君? 手紙を受け取ったけど、ルイズがどうしたんだい?」
「……ルイズ…、どこ?」
「?」
「おや、なんだか様子が…。」
「来てくださったのですね! ほら、トゥさん! 騎士隊のお仲間がこられましたよ!」
「どこ…、ルイズ…。」
「メイドの君…、これはいったい…?」
「実は…。」
シエスタがギーシュ達にこれまでにあったことを話した。
ギーシュ達は驚き、顔を見合わせた。
「なんてこったい!」
「早とちりにもほどがあるだろうに!」
ルイズの軽率な行動に、ギーシュ達は頭を抱えた。
『おまえさん達には相棒の心をなんとかしてもらいたい。』
「どうやってだい?」
『まあ、その…、まあ、とにかくなんとかだよ!』
「そんなことを言われてもなぁ…。」
どう見たってトゥは、まともな状態じゃない。少々励ましたところで治るとは到底思えない。
「近しい君達がどうこうできないことを、僕達ができると思うかい?」
『そこは戦友としてしてなんとかしろ! 見捨てる気か!』
「いや、見捨てるなんて! そんな気はさらさらないよ!」
「おまえ、俺達のことをどう見てやがるんだ!?」
『それは素直にすまんかった。俺も焦ってて失言しちまったぜ。』
デルフリンガーが珍しく非を認めて、謝った。
「なあ、トゥ君。聞こえているかい?」
「……ルイズ…。」
「うーん…、これは思った以上に大変だぞ~。」
ギーシュ達は、顔を合わせ、どうするか考えた。
まずは、トゥに声をかけ続ける。
それから、ギーシュ達が来るまでの数日間での捜索の成果、シエスタから聞いた。
トリスタニアの宿はおろか、女性が駆け込むであろう修道院も全滅。
つまり、トリスタニアには、ルイズはすでにいないということだ。
「ルイズがいれば、なんとかなりそうなんだけどなぁ…。」
「トゥ君がこうなったのは、ルイズがいなくなったせいだ。帰ってきたら思いっきり文句言ってやろうぜ。」
その言葉に、そうだそうだと、みんなが声を上げた。
「トゥさん、ダメですってば!」
「ん?」
ワーワー言っていたギーシュ達がその声でそちらの方を見ると、トゥが剣を握ったまま立ち上がっていた。それを隣で座っていたシエスタが下から手を掴んで止めていた。
「トリスタニアには、ミス・ヴァリエールはいません! こんな状態で探しに行ったら怪しまれますよ!」
「どこ…、ルイズ…。」
「まあまあまあまあ! 待ちたまえ!」
「そうだぞ! 剣引きずりながら歩いて行こうってのかい? そんな無茶な!」
「陛下も兵を出してくださっていることだし、必ず見つかる! 信じて待とうじゃないか!」
ゾンビのように歩いて行こうとするトゥを全員で止めにかかる。
『気をつけろよ。今の相棒は、心が不安定で、見境無く殺しにかかろうとするかも知れないからよぉ。』
「そういうことは早く言おうか!」
幸い、そういうことにはならなかったが、トゥの怪力により、腕を掴んだ仲間が投げ飛ばされることはあった。
「トゥさーーーん!」
そこへティファニアが駆けつけてきた。
ギーシュは、ハッとした。
「ティファニア嬢!」
「はい、なんですか?」
「君の虚無の魔法を使ってみてはどうだろうか?」
ギーシュの言葉に、マリコルヌ達もアッと声を上げた。
「記憶をねつ造すれば、せめてガリア女王即位祝賀園遊会が終わるまでは持つかもしれない。」
「それ以降はどうするんだよ。」
「それは…、じゃあ、なにかいい考えがあるのかね?」
「……無い。」
「あの…、一体何が? トゥさん、ルイズは?」
「どこ……、ルイズぅ…?」
「!?」
「ずっとこんな状態なんだ。頼むティファニア嬢! 力を貸してくれ!」
「ちょっとぉ、あんな手紙を送ってくるなんて何があったの?」
そこへティファニアとピクニックをしていたキュルケがコルベールと共に来た。
キュルケは、トゥを見て、顔をしかめた。
「どうしたの?」
「実は…。」
シエスタに尋ねたキュルケは、わけを聞いた。
それを聞いたキュルケは、額を押さえた。
「馬鹿な子ね! 前にあったことを全然反省してないのかしら! いくらなんでもそんなことで勘違いして家出って…、どんだけ神経尖らせてたのよ!」
「そこで、ミス・ウエストウッドの虚無か…。」
「そんなことをしていいのかしら…。」
過去にルイズの記憶を消してしまったため、ややかしい事態を巻き起こしたことがあったため、ティファニアは戸惑った。
「とにかく今は、ガリア女王即位祝賀園遊会まで時間が無いんで、ねつ造するなら早くしたほうがいいと思います。」
「しかし、記憶をねつ造するというのは…、あまりに酷だ。」
コルベールは、悲しそうな顔でトゥを見つめて言った。
「じゃあ、こうしましょう。」
キュルケが挙手した。
「ルイズは、仕事で不在中。ガリア女王即位祝賀園遊会には、トゥ一人で行くってことになったってことにするの。」
それならば、せめてルイズが少しの間だけ離れているということにだけはできるとキュルケは言った。
記憶が正常化する前にルイズを見つけ出す必要はあるが…。
***
他に良い案もないため、その方法で行こうということになり、場所を客室に移し、コルベールや水精霊騎士隊の仲間達は外へ、トゥをベットに寝かせ、ティファニアが忘却の呪文をかけた。
「トゥちゃん、トゥちゃん。」
「……ん? キュルケ…ちゃん?」
「目が覚めた?」
「ここは? どこ?」
「ここは、トリスティン城の客室よ。」
「? 私、ド・オルニエールに…。ルイズは?」
「ルイズはね、女王陛下から急な仕事を任されて、今、トリスタニアにはいないの。」
「えっ?」
「急な仕事だったからあなたにも言えずに出ちゃったのよね。それで、私が伝言頼まれてきたの。」
「そうなんだ…。」
「ですので…。ガリア女王即位祝賀園遊会には、トゥ殿だけ、わたくしと共に来てもらいます。」
そこへアンリエッタがアニエスと共に客室に入ってきた。
どうしたのかはアンリエッタも聞いているので打ち合わせの通りに事を進めた。
「よろしいですね?」
「……分かった。」
トゥが少し考えて頷いた。
とりあえず第一関門は突破できたようだ。
そのことに、アンリエッタもキュルケも、ホッと息を吐いた。ティファニアは、ドキドキしていた。
「でも、私、どうしてここにいるの?」
「トリスティン城に来るなり、あなた、倒れたのよ。」
「えっ?」
「びっくりしたわよ~。急にバタリと倒れて…。」
「そうなんだ…。」
「でも、まあ、元気そうね。体は大丈夫?」
「なんだか頭がボーッとするような感じはあるなぁ。」
それを聞いてティファニアは、ギョッとしたが、キュルケの視線を受け口を手で押さえた。
「うん。でも大丈夫。」
「そう…。」
「体調にはお気をつけくださいね。」
「うん。」
アンリエッタに、トゥは笑顔で答えた。
その笑顔に心が痛んだが、今はガリア女王即位祝賀園遊会までトゥには正気でいてもらわなければならず、アンリエッタは、王家の者として鍛えてきた表情筋で笑顔を作った。
ルイズは、急な仕事で留守にしているということにしました。
次回は、色々と飛ばして、ガリア女王即位祝賀園遊会に向けての話になるかも。