二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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トゥが早々にジョゼットだと見抜いてます。

ついでにトゥがちょっとやらかします。ジョゼットにウタで…。


第八十二話  トゥと、偽の女王

 翌日。

 大々的に即位祝賀園遊会が開催された。

 朝から盛大に花火が打ち上がり、楽師達が音楽を演奏する。

 新王宮の前庭に集められた各国の指導者や名士達は、これほどの短期間でこれだけの王宮を作り上げてしまうガリアの底力に感嘆していた。

 やがて玄関が開き、シャルロット新女王が新王宮から姿を見せたとき、集まった名士達は、その幼さに驚いていた。だがタバサは、一応十六歳だ。だがパッと見の年齢は、二つか三つは下に見えたのだ。

 しかし…、何かが妙だ。

 と…言うのも、タバサの格好がおかしい。

 白く、簡易で質素な服で、宝石も無い。胸には申し訳程度の聖具が飾られていた。

 左右に控えていた二人の貴族が、恭しく一礼し、芝居がかかった口調でディテクト・マジックを唱えた。

 これは大事な儀式である。

 皆の前でやることで、正真正銘のシャルロット新女王だと証明するためのものだ。

 結果、魔法は感知しなかった。

 これでシャルロット女王は、正真正銘本人だと確認された。

 トゥは、ジッとタバサ…そのシャルロット女王を見ていた。

 そして、シャルロット女王は、前庭に用意されたテーブルの最上座に向かい、そこで、各国の名士達からお祝いの言葉を受け取る段取りになっていたのだが…。

 だが、シャルロット女王は、その場に立ち止まったまま、何かを告げるように右手を挙げた。

 その行動に、各国の名士達がざわついた。

 そして。

 

「ガリア王国を統べる女王として、皆様方に宣言いたします。ガリア王国は神と始祖ブリミルの良き僕でとして、ロマリア皇国連合の主導する『聖戦』に、全面的に協力します。ハルケギニアに始祖の加護があらんことを。」

 

 一瞬にして、会場が静まりかえった。

 そりゃそうだ。

 いきなりに、ガリアがロマリアの笠下に入ると宣言したのだ。

 これによって、会場内に、やはり新政府はロマリアの傀儡なのだとか、このためにロマリアはガリアに侵攻したのだとの囁きが広がった。

 アンリエッタは、顔を蒼白して倒れ込み、傍に控えていたアニエスとギーシュがその体を支えた。

「……タバサちゃん…?」

 トゥは、いぶかしんだ。

 トゥの中の何かが警報している。

 違う、と。

「なんで修道女みたいな格好してるのかななんて思ったら…、あのちびっこ、やっぱりそういう思惑があったのか…。」

「妙だと思ったんだよ。ロマリアの言うままに即位を決め込むなんて。ロマリアめ、うまいこと説得しやがったな…。」

「違う。」

「えっ?」

 マリコルヌとギムリの言葉に、トゥがボソッと言った。

「何が違うって言うんだ? 現にあいつは聖戦に協力するって…。」

「あれ、タバサちゃんじゃない。」

「へっ!?」

「なんで言い切れるんだい? ディテクト・マジックだってかけたのに?」

「ねえ、その魔法に引っかからなかったら、なんでもいいの?」

「いや、でも現に…。」

「ねえ、もしもだよ? 体も魂もほとんど同じ物があったら、それって、ディテクト・マジックに引っかかる?」

「いやいや、待て待て。待ってくれ。そんなものは存在しないよ。トゥ君、君動揺しているんだよ。きっと。」

「私は冷静だよ。」

「だが、もしも彼女が…あそこにいるちびっこが別人なのだとしてもどうやって証明するんだい?」

「ちょっと待ってね。」

 トゥは、スゥっと息を吸った。

 フワリッとトゥの青い髪が浮く。

 トゥは、小さくウタった。

 すると光る小さな天使文字と小さな魔方陣がシャルロット女王(?)の目の前に現れた。

「! きゃああああ!」

「陛下!」

 目の前に急に魔方陣が出現した魔方陣に悲鳴を上げ頭を抱えて蹲った。

 周りにいた護衛の貴族が杖を抜いた時には、魔方陣は消えていた。

 会場がシンッとなる。

 やがて、護衛とお付きの貴族の怒号が上がり、犯人捜しが始まった。

「トゥ君……。」

「い、今のは…。」

「おかしいなぁ。」

 トゥは、首を傾げた。

「私のウタ…、タバサちゃん、知ってるはずなのに…。」

「!」

 言われてみれば、あのタバサのならば、冷静にああいうことには対処していただろう。水精霊騎士隊の仲間達は、彼女の実力を知っているのだから。しかも、あの冷静で無感情なんじゃないかというほどのタバサがあんな悲鳴を上げるなんて。

 そうこうしているうちに、頭を抱えて震えていたシャルロット女王(?)は、お付きの侍女達に支えられて王宮の中に消えていった。

 結局犯人は見つけられず、園遊会はお開きとなった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その夜。

「トゥ殿…。」

 アンリエッタの部屋の前で警護にあたっていたトゥが、中にいたアンリエッタに呼ばれた。

 同じく警備にあたっていたギムリから目配され、トゥは、部屋の中に入った。

「お呼びですか?」

「……昼間のあれは、あなたがやったのですね?」

「はい。」

 アンリエッタは、園遊会でシャルロット女王(?)の前に出現した魔方陣のことでトゥに問うたら、トゥはあっさり答えた。

「あなたには、魔法ではない不思議な力があるということは、聞いていました。ですが、あの場であのようなマネをするなんて、あなたは首を飛ばされたいのですか?」

「あれは、タバサちゃんじゃないから、でも一応確かめてみたんです。」

「各国の名士達が集まっているこの場で確かめなくとも良いではありませんか。肝が冷えましたわ。」

「はい。気をつけます。」

 トゥは、にっこりと笑って答えた。

 アンリエッタは、額を押さえてため息を吐いた。

「ですが、参りましたわね…。例え女王が真の女王じゃないと分かっても、ディテクト・マジックで本人だと証明した上で、あの宣言をされてしまっては今更発言を取り下げるなんてできませんわ。」

「それよりも、まずは、本物のタバサちゃんを探さなくちゃ…。」

 トゥがそう言った、その時、窓のガラスが誰かによって外から叩かれた。

「誰?」

 トゥは、剣を握り、ギムリを呼んで、窓にゆっくりと近づいた。

 するとまた叩かれた。

「誰?」

「……トリスティン女王陛下宛てて、我が主より言伝を持って参りました。」

 若い女性の声だった。

「ことづて? どうして窓から来たの?」

「扉より入ることができないからでございます。」

 そして、現在ガリア王政府が混乱の極めていて、どうしてもトリスティンの力を借りたいのだと声の主は言った。

 トゥは、アンリエッタの方を振り向いた。

 アンリエッタは、こくりっと頷いた。そしてトゥは、窓を開けた。

 すると一人の女性が入ってきた。どこからどう見ても街女だ。だが彼女は器用に壁に張り付いていたのである。

「私は…、“地下水”と申します。」

 ずいぶんとおかしな名前だった。

 地下水は、恭しく懐から取り出した手紙をアンリエッタに手渡した。

 アンリエッタは、それを一読すると、眉をひそめ、トゥに手紙を渡した。

 トゥは、渡された手紙を見た。

 手紙の内容を要約すると、あのシャルロット女王は、やはりシャルロット女王…タバサではなかったのだ。

 そして、この手紙を届けに来た者、地下水を案内人として使わしたのだと書かれていた。

「やっぱり、タバサちゃんじゃなかったんだね。」

「いったい、差出人は誰ですか? なぜトリスティンに助力を講おうというのですか?」

「詳しい話は、主人よりお伺いくださいませ。さ、急がねばなりません。使者を。」

「…お願いできますか?」

「望むところだよ。ギムリ君、ギーシュ君を呼んできてくれる?」

 そしてギムリに呼ばれたギーシュに説明し、トゥは、レイナールを連れて行くことにした。

 準備を整え、トゥは、地下水に報告した。

 そして地下水に続いて、迎賓館の窓から外に出て、そこは壁と建物に挟まれた狭い場所だった。

 両脇を立ち木に塞がれ、周りからの死角になっている。

 地下水は、地面にしゃがみ込み、そこにあった鉄の扉を音が立たないように開けて中に入っていった。トゥもレイナールもそれに続いた。

 はしごを五メートルほど降りると、ひんやりとした冷たい空気が肌に触れ、足下に水の感触と汚水の匂いがした。

 どうやら下水道らしい。

 地下水が魔法のカンテラに明かりを灯し、入り組んだ迷路のような下水道を全く迷うことそぶりも見せず、地下水は進んでいく。まるで己の街のように、この下水道を把握しているようであった。

 結構歩いた。やがて一本の鉄のはしごがあり、カンテラの明かりを消して、三人はそのはしごを登った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 月明かりが浮かぶそこは、うち捨てられた寺院の中庭だった。

 遠くに、ヴェルサルテイル宮殿の明かりが見えた。

 寺院の中に地下水が入っていき、トゥとレイナールも続いた。

 礼拝堂の中は真っ暗で、地下水が二人の手をつないで導いてくれた。

 礼拝堂には、地下へと降りる階段があり、そこを下りると扉があった。

 地下水は、扉の前に立つと、地下水ですっと小さく言った。

 すると鍵が外れる音が聞こえ、扉が開いた。

 カンテラの明かりが目に飛び込み、中を見ると、そこはかつて寺院の司祭が使っていたであろう居室だった。

 ベットと机、そして、一行を迎え入れたのは、フードを深くかぶった若い女性だった。

 口元だけ見えている状態の女性は、トゥに向かって礼をした。

「トリスティン王国からのお客様ですわね?」

「トリスティン王国水精霊騎士隊のトゥ・シュヴァリエです。こっちは、同騎士隊のレイナール君。」

 自己紹介をすると、女性は、フードを降ろした。

 長い青髪が現れる。

「ガリア王国北花壇騎士団団長の、イザベラ・マルテルと申します。」

「北花壇騎士団って…。」

 そういえば、タバサがそれに所属していたのではないか?

「ご存じですか。ならば話は早い。時間もありませぬゆえ、急いでご説明さしあげます。先ほどの手紙にも書いたとおり、今現在、ガリア女王を名乗っている娘は、シャルロット様ではないのです。」

「知ってたよ。」

「えっ?」

「トゥ君…。」

「あっ、ごめん。確かめたので分かりました。」

「! では、あのときのアレは、あなたが?」

「はい。タバサちゃんは知ってたはずなのにあんな反応するなんておかしいです。」

「…三日前の朝のことです。シャルロット様に拝謁した際に、わたくしはすぐにその娘がシャルロット様ではないことに気づきました。同時に、これは何かの陰謀だと理解したのです。」

「いんぼう? ロマリアの?」

「それは分かりませぬ。ですが、わたくしは、それに気づかないフリをいたしました。あの娘が、シャルロット様であるように振る舞ったのです。何か事情を知らぬかと、太后陛下にも目どおりしようと考えましたが、病に伏せたとの仰せ。」

 仕方なしにイザベラは、秘密裏に手持ちの騎士を用いて調査を開始したのだが、有力な情報は集まっていないとのことだ。

 だが、おそらくは、ロマリアの手引きによるものだろうと言った。

「やっぱり…。じゃあ、タバサちゃんは? どこ?」

「それは判明しておりませぬ。ただ、全力を持って調査中です。」

「分かった。で、私達は何をすればいいの?」

「とりあえず、何もしないでください。」

 うかつに動くことは危険であること、そして女王が入れ替わっていることには気づかないフリをしていて欲しいと言われた。

「では、アンリエッタ女王陛下に、よしなにお伝えください。」

「分かった。」

「何かあれば、手紙でお知らせします。ですが、普通の手紙では、敵に渡った際に対処にしようがありません。これをお使いください。」

 そう言ってイザベラが渡したのは、数字を使った暗号表だった。

「じゃあ、あなたも気をつけて。」

「お待ちください。」

 トゥとレイナールが出て行こうとしたとき、イザベラが引き留めた。

「地下水が案内します。」

「あ、そうか。」

 あの下水道は、案内無しには帰ることはできない。だが、そのあと、イザベラは何か言いたげにトゥを見つめていた。

「何?」

 するとイザベラは、ぺこりっと頭を下げた。

「わたくしは…、前ガリア王、ジョゼフの娘でございます。父に代わって、お詫びを申し上げます。」

「!」

「トゥ君…。」

「…お悔やみを申し上げます。」

 何か言いかけたレイナールを制し、トゥはしめやかな声でそう言った。

 イザベラは、はっとしたように目を開き、深々と頭を下げた。

 




本当にタバサじゃないかどうか確かめるためにウタを少し使いました。

次回は、元素の兄弟・ジャックとの戦いと、ルイズ帰還。

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