二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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タバサ救出作戦を練る。



第八十五話  トゥ、タバサの救出に向かう

 

 タバサ発見の報が届いたのは、園遊会が始まって四日目だった。

 

 手紙によると、タバサは、ロマリア公使バドリオの屋敷に囚われているとのことだった。

 

 そして差出人のイザベラが、本日の八時に救出の作戦を講じたいと記していた。

 アンリエッタは、ガリア側に気分が優れないと言って、晩餐会への不参加を伝え、自室にトゥ、ルイズ、ギーシュ、そしてタバサの友人であるキュルケと、アニエスを呼んだ。

「タバサちゃんの居場所が分かったんだね?」

「ええ。そうらしいですわ。」

「ちびっ子、いやさ、シャルロット女王陛下救出作戦は、このわたくしめ率いる水精霊騎士隊にお任せくださいますよう。」

 ギーシュが片膝を突いて言うが、皆反対した。

「ギーシュ君。そんな大勢で行ったら一発でバレちゃうよ?」

「そうよ。おまけにここは外国。さらには向こうもつまりは外国の大使館。まさか正面から踏み込もうだなんて思ってないでしょうね?」

「ルイズの言うとおりだわ。こっそり忍び込んで、こっそりと救い出す。……あんた達が一番苦手な仕事じゃないの。」

 言われてギーシュは、うぐっと言葉を詰まらせた。

「そりゃ……、正々堂々正面からぶつかって相手を負かすのが騎士隊の本分であってだね。」

「それに、こないだのアーハンブラのようにはいかないわ。今度は街中なのよ。派手なことをしたら逆にこっちが捕えられる。」

 キュルケの言葉にアンリエッタが頷いた。

 やがてイザベラが招き入れられ、挨拶をそこそこに現状の報告が行われた。

 現在ロマリアのその大使館は、凄まじい警備がされており、また障壁や罠が幾重にもかけられていて、タバサを救出するのは不可能だとのことだった。

 そのうえ教皇ヴィットーリオが出入りしており、尋常じゃ無い警備もそのためだとのこと。

 こっそりと部下を潜り込ませる作戦はという問いに対しては、地下水のような手練れを一人潜り込ませるのが限界だったの事だった。

 場がシンッと静まりかえった。

 そんな中、トゥが口を開いた。

「移送時は?」

 するとイザベラが頷いた。

 いつまでもあそこにタバサを閉じ込めてはおけない。その時を狙って助け出す、それしかないと彼女は答えた。

 しかも明日、ヴィットーリオが急遽ロマリアに帰るとのことだった。見送りの式にアンリエッタに来て欲しいとの言葉まであった。

 トゥ達の視線がアンリエッタに集まる。するとアンリエッタは頷いた。

「まだ園遊会の途中なのに、国に帰るなんて妙ね。」

 キュルケが言った。

 そこで、イザベラが気づいたように言った。

「もしや……、教皇と一緒にロマリアに連れて行くつもりでは…。」

 全員がハッとした顔をした。

 しかし、ふとトゥだけは、首を傾げた。

「トゥ?」

「う…ううん…、なんでもない。」

「どうしたのよ?」

「なんだか……、なんだろぅ…。」

 妙なざわつきを感じたトゥは、胸の上に手を置いた。

 

 イザベラが中心となり、明日の見送りの群衆に紛れて、道中に救出する。イザベラ率いる北花壇騎士も全力で参加する。土地勘の無い水精霊騎士隊には、イザベラの部下が連絡役をつける。水精霊騎士隊は、それに従う。

 こうしてタバサ救出の作戦が練られていった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌朝。

 数百人もの聖堂騎士が屋敷の前に整列している様は、物々しかった。

 出立する教皇聖下を一目見ようと、あつまったリュティス市民でごった返すバドリオ公邸の前に、変装したトゥ達が来ていた。

 トゥとルイズ、そしてキュルケ、水精霊騎士隊からは、ギーシュとレイナールとマリコルヌ。アンリエッタは、公式の席で教皇を見送るべく、ここから離れた貴賓席にいた。ギムリ率いる水精霊騎士隊の仲間達と、アニエスがその護衛にあたっていた。

 つまり、トゥ達は、救出隊トリスティン班ということだ。

 なお、トゥ達の姿が見えないとロマリア側に不審をもたれる可能性が高いので、スキルニルと呼ばれるその者の血を振りかけると姿形がその者に変身する人形を用いて、影武者を用意した。

 トゥ達は、目立つマントを脱ぎ、修道士の服をまとって、武器を下に隠していた。

 そんな中、ギーシュがさらりと恐ろしいことを呟いた。

「どうして、生かしておくんだろう? ジャマなら始末するんじゃないかな?」

 タバサを生かしておく意味があまりないとギーシュは、言った。

 しかし今のところイザベラ率いる北花壇騎士からそんな連絡は無い。

「なあ…、もし、彼女が殺されていたらどうする?」

「ロマリアの奴らを皆殺しにするわ。」

 あっさりとキュルケが言った。

「君、そうなったら戦争だぜ?」

「そしたら先頭に立って、突撃するわ。」

「物騒なことを言うなぁ。」

「当然じゃないの。」

「……あっ。」

「どうしたの、トゥちゃん。」

「いた…。」

「どこ!?」

 するとトゥが指さしたのは、教皇ヴィットーリオが乗った馬車だった。

 その後すぐに、地下水がやってきてタバサがシルフィードと共にすでに馬車に乗せられていることを伝えにきた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 見つかったものの、救出作戦は難航した。

 っというのも、ヴィットーリオがブリミル教の最高位の教祖であることが、救出作戦を難しくさせる要因の一つになっていた。

 彼は、宗教家として説教をする。そうすれば街の人々が集まってくる。ブリミル教徒達は、ただの一般人だが、そのブリミル教の総本山の王が説教をすれば、それは末代先で語り継がれることとなり、赤子の祝福をすれば親戚一同始祖と教皇の御為ならば、死をも辞さない神の戦士になる。

 つまり下手に手を出そうものなら、そういった普通の一般人達をも敵に回さなければならなくなるのだ。

 さらに、聖戦を掲げている手前、政治的意味を行幸に込めているのもあり、ロマリアまでの歩は、早すぎず遅すぎないスピードだ。竜籠ならば一日でつくのだが、教皇の行幸はそうはいかないのだ。

 おまけに聖堂騎士達の警備は、まさに蟻の忍び込む隙間も無いといった風情。

「絶対に失敗が許されない、って難しいわね。」

 リュティスを出発してから、二日。翌日には、虎街道の入り口に、教皇一行が達するというその日、近くの宿場でトゥ達は、作戦会議を行った。

 辺りは、教皇一行を一目見ようと集まってきた人々であふれかえっており、修道服をまとった一行など珍しくないので、紛れるにはもってこいの状況だった。

「ここらでなんとしてでも救わねばならない。ロマリアに入られたら、取り返しがつかないからな。」

 真剣な顔で、レイナールが言った。

「……。」

「どうしたのよ、トゥ。こんな時に。」

「…やっぱり、なんだろう…。」

「今は、タバサを救出することが先決よ。」

「うん…。」

 トゥは、右目の花の下あたりを手の甲でこすった。

 やはり正面突破するかと、マリコルヌが言ったが、トゥは首を振った。

「そんなことしたらみんな死んじゃうよ?」

「誰か一人でもタバサのたどり着けるんじゃないのか?」

 

「そんなことをしても無駄ですよ。」

 

 そこへ、屈強な体つきの男がやってきた。

 トゥ以外の面々が一斉に修道服の中の杖に手を伸ばした。

「私です。地下水です。」

「男じゃないのよ!」

 ルイズが叫んだ。

「いえ。その者は、紛れもなく地下水です。」

 その後ろからイザベラと、もう一人、背の高い男が現れた。

 男が着ている修道服のフードを取った。

「あ…。」

 トゥがその人物に見覚えがあった。

 リネン川の中州での決闘で、トゥにタバサ宛の手紙を渡してきた男だ。

「久しぶりだな。」

「東薔薇騎士団団長、バッソ・カステルモール殿です。」

 イザベラが紹介した。

 カステルモールは、最初は信じられなかったが、実際に見てあれがシャルロットじゃないことを見抜き、本物のシャルロット…タバサを取り返して再び王座に据えたいのだと言った。そのために助太刀にきたのだと。

 イザベラは、現在の戦力を伝えた。

 北花壇騎士が、イザベラと地下水を含めて七名。残りは、教皇一行の監視に当たっているとのこと。

 カステルモール率いる東薔薇騎士団が、二十名。

 トリスティン水精霊騎士隊のギーシュ以下四名。その中に、トゥ、ルイズ、キュルケ。

 全員で、三十三名のメイジがこちらの手勢だと言った。

「たった、三十三…。」

 トゥが呟いた。

 相手は、聖堂騎士達だけで数百人はいる。

 戦うにしても絶望的だ。

 だがイザベラは、テーブルに地図を広げた。

「ここで、全力を持って、教皇一行に攻撃を仕掛けます。」

 とんでもない言葉が出てきた。

 作戦内容はこうだ。

 目指すは、教皇の馬車のみ。

 そこへたどり着いた者が、馬車の中から陛下を救い出す。

 その後は、街の外れに用意したグリフォンを使って陛下にリュティスまで逃げてもらう。

 その内容に、ギーシュが唖然とした顔で言った。

「聖堂騎士二個中隊に、これだけの人数で攻撃をかけるって?」

「そうです。」

「全滅だよ! どう考えたって!」

「我々は、緊密なチームではありません。」

 イザベラが言った。

 それぞれの国も別、組織も別の寄せ集め。緻密な救出作戦など立てられないし、またロマリア側が引っかかるとも思えないこと。とにかく馬車にとりつき、誰かが救い出す。そして誰かが聖下を守ってリュティスまで逃げるのだと。

「確かにそれしかあるまいな。」

 カステルモールが頷いた。

「反対です。」

 トゥが言った。

「っと、申しますと?」

「無駄な犠牲が出ちゃう。タバサちゃんを助けるためにみんな死んじゃったら元も子もないから。」

「トゥの言うとおりだわ。」

 ルイズが頷いた。

「しかたないんじゃない?」

 キュルケが言った。

「だって、ここでタバサを取り返せなかったら、大変な戦になるかも知れないじゃない。そしたら、もっとたくさん死ぬでしょ。」

「ダメだよ。」

 トゥは、きっぱりと言った。

 他の面々は、すでに覚悟を決めた目をしている。だがそれでもトゥは言った。

「これはやけっぱちな博打だよ。そんな危険な博打には賛成できない。」

「七万の敵に立ち向かった女の言葉とは思えないな。」

「あのときと今じゃ、事情が違う。ねえ、ルイズ。」

「なに?」

「交渉してみるってどうかな?」

「馬鹿な! 何を材料に交渉しようと言うのだ? しかも聖戦を発動しているんだ。向こうは聞く耳など持たんぞ。」

「ねえ、ルイズ。」

「なに?」

「イリュージョンで、大軍って作れる?」

「そりゃ、作れるけど…。」

「どうするつもりなんだ?」

「こうするの。」

 トゥは、思いついた考えを言った。

 それを聞いて、カステルモールも他の面々も目を丸くした。

「それにそれが失敗しても……、もしそうなったら…。」

 トゥは、大剣を抜いた。

「私が…、やる。」

 トゥの表情が消えた。

 その表情にギーシュ達もイザベラ達もゾッとした。

 




嫌な胸騒ぎがしているトゥ。

このネタでの精霊石は……。B分岐をを見ている方はなんとなく察しているかも知れませんね。

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