二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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続けて投稿。

元素の兄弟との再戦と、エルフの襲撃です。


第九十一話  トゥと二つの襲撃者

 

 ルイズを自分の太ももの上で寝かせ、トゥは、ふうっとため息をついた。

「ルイズ…。」

 トゥは心配だった。

 エルフを脅かさせるほどの魔法に、果たして小さなルイズの身体で耐えられるのだろうかと。

 初歩中の初歩であるエクスプロージョンでも、相当な精神力を削るのだ。それ以上の魔法となると…。

 例え、命の危険にさらされても、きっとルイズは、その魔法を使うだろう。自分の故郷のために…。

 トゥといられないなら、国を滅ぼすだのと言っているが、本気では無いだろうとトゥは思っていた。

 若さ故に恋に夢中になるあまりに、勢いで言ったことだろうと思っていた。

「ルイズ…。私は…。」

 寝ているルイズの頭を撫でる。

 もしも、ルイズが命を失うほどの魔法を使わなければならなくなったならば、自分は止めるだろう。

 そして使うだろう。自分が持つ、力を。

 嫌悪し、自分を蝕み続ける、この忌まわしい力を。

 例えエルフとて、花の力を止められはしないだろう。コレの力は、そういうものだ。

 もし、花が咲ききったら…。その時こそ…。

「ごめんね、ルイズ…。最後まで…、一緒にはいられないかも。」

 トゥは、眠っているルイズに囁いた。

 そして、ルイズの口に、無意識に顔を近づけていた。

 だが、その時。

「?」

 窓の外に、気配を感じた。

 ルイズを起こさないように立ち上がり、窓に近づこうとしたが、念のため剣を握った。

 そして窓を開け、地面に飛び降りた。

 すると、無数の魔法が、火や氷が飛んできた。

 トゥは、それを予測しており、飛んでそれを避けた。

 姿勢を低くし、魔法が飛んできた方向を見た。

 わざと二階から飛び降りたのは、敵の数を調べるためだ。

「……誰? って…、やっぱり、あの人達だよね? 元素の兄弟の人。」

 トゥがやれやれと言った調子で聞くと、沈黙の後、返事が帰ってきた。

「そうだ! 神妙に勝負しろ!」

 ドゥドゥーだった。

「もう…。大変なときなのに、それでもやるの?」

「それがどうした! 僕には関係ないね!」

「大ありだわよ。」

 ドゥドゥーの後ろからジャネットが現れて言った。それと、牢にぶちこまれていたはずのジャックまで現れた。

「もう、ドゥードゥー兄様、いい加減にしてよ。おかげでこの国の貴族共は、出兵でお金がなくなっちゃって、依頼はキャンセル。ただ働きしてどーすんのよ。」

「やっぱりトリスティンの貴族が依頼主なんだね。」

「依頼人を明かすなよ!」

 ドゥドゥーが怒った声で言った。

「あら? もう依頼人じゃないわ。どうでもいいじゃない。」

 そんなやりとりをトゥは聞いていて、ため息を吐いた。

「みんな死んじゃうかも知れないんだよ? あなた達も…。」

「いやぁ。どこにいたって変わらないさ。それにどんなことになったって、俺たちは生き残れる自信があるんでね。」

 ジャックがそう答えた。確かに彼らほどの実力者ならどのような状況になっても生き残れそうだ。

 トゥは、またため息を吐いた。たかが人気が出たぐらいで自分を殺すよう依頼するのだ、結局貴族達は自分のことしか考えていないのだろう。

 だが、平民は?

 地面を耕し、あるいは、家畜を遊牧して生きている民はどうなる?

 貴族よりも圧倒的に数が多いのに…。

 彼らは、きっとそんな人々のことなど考えていない。

「くだらない…。」

「くだらない? くだらないだと!? 僕はこの世界最強のメイジになるんだ! その夢をくだないって言うのか!」

 トゥの呟きを勘違いしたらしいドゥードゥーが杖を抜き、トゥに襲いかかってきた。

 トゥは、それを冷静に大剣で防ぐ。

 大木のようなブレイドが放たれるが、それも大剣で防いでいく。

「もう…、相手してられない。」

「戦え!」

「やだ。」

 トゥは、大剣でドゥードゥーを弾き飛ばし、屋敷とは反対方向に走っていった。

 ドゥドゥーがその後を追うが、その前に青い影が立ち塞がった。

「な、なんだおまえ!?」

「えっ?」

 トゥが驚いて振り返ると、そこには、タバサがいた。

 ネグリジェ姿で、いかにも騒ぎを聞いていち早く駆けつけてきましたという格好だった。

 タバサの怒りが具現化されたような、凄まじい数の氷の矢がドゥドゥーに降り注いだ。

 ドゥドゥーは、それを杖で防ぐが、何本かが身体に刺さった。

「ぐっ!」

 痛みにうめいて地面に転がったドゥードゥーに、タバサが杖を突きつけた。

「動いたら、殺す。」

 タバサが氷のように冷たい声で言う。

 だがドゥードゥーは、自分自身を巻き込んでライトニング・クラウドを放った。

 タバサは、咄嗟に杖で庇ったが、それでも握った杖から電流が流れ、右手に通電した。杖を落としそうになったが、左手に持ち替え、後ろに飛び、同時に呪文を放つ。

 風の魔法がドゥードゥーを吹き飛ばした。

 時間にすればわずか一秒とかいうレベルの攻防だった。

「まったく、言わんこっちゃないわよね。この屋敷にはメイジがいっぱい詰めてるからやめろって言ったのに…。」

 様子を見ていたジャネットがため息を吐き、ドゥードゥーを助けるために呪文を使おうとした。

 だが次の瞬間。

「きゃあ!」

 目の前で爆発が起こったため、ジャネットは吹き飛んだ。

 月明かりに照らされ、ネグリジェ姿の桃色の髪の少女がジャネットを睨み付けていた。

「あれ? あなた…ヴァネッサ?」

「違うわ。ルイズよ。やっぱりあなたは、トゥを狙う殺し屋だったのね?」

「今は違うわ。」

 ジェネットは、にっこりと笑って起き上がった。

「兄の付き合いで来ただけよ。」

「どっちにしろ、殺しに来たんでしょ。そんなの、私が許さない。」

「なぁんだ…。結局許しちゃったんだ。」

 するとジャネットは、大げさにため息をついてみせながら言った。

「う、うるさいわね! 勘違いだったのよ!」

「でも、親友の胸に抱きついているの見ちゃったんでしょー? あのトゥっていう子が。で、それが許せなくって、修道院に入っちゃったのに、ちょっと優しくされたら許しちゃうんだ、へー。」

「だから! あれは、私の! 勘違い! だったのよ!! むしろ、私が許してもらったのよ!」

「私、そんなあなたのために、わざわざ修道院まで案内してあげたんだから。それなのに、こんなに簡単に仲直りなんて。興ざめだわ。」

「おだまり。」

「安い女ね。」

 ジャネットの言葉にルイズは、髪を逆立たせて、エクスプロージョンを唱えた。

 爆発が起こるが、そこにはすでにジャネットはいなかった。

 ルイズが驚いていると、ルイズの耳元にジャネットの声が響いた。

「絶対に許さないって、頑なになってるあなたが好きだったのにな~。」

「な!」

 ルイズが驚いていると、いつのまにか横に来ていたジャネットに腕を掴まれた。

「放しなさい!」

「ねえ。あなた、あの女のどこがいいの? 私、あなたのことかなり気に入ってたのよ。だって、こんなに…。」

 ジャネットは、ルイズの頬を舐めあげた。

「すごい力を持ってるんだもの。」

「馬鹿にしないで!」

 ルイズは、自由になる左手でジャネットを叩こうとしたが、その手を握られて防がれ、さらに蹴りを食らわせようとしたが、それもガードされた。

 次の瞬間、ゴウッと大剣が迫ったため、ジャネットは、ルイズを抱えて飛び退いた。

「ルイズを放して。」

「あなた、今、この子ごと切ろうしなかった?」

「ルイズを切るわけないじゃない。」

 トゥは、にっこりと笑った。

「…ねえ、本当にどうしてこんな女が良いの?」

「あんたには関係ないわ!」

「ルイズを放して。」

「いやぁよ。この子は私のお人形にするわ。」

「…ルイズを、放して。」

「それ以上近づくと…。」

「ルイズを…放して…。」

「ちょっと…、私がこの子に危害を加えるかもって思わないわけ?」

「あ…、まずい…。あんた! 死にたくなかったら放して!」

「えっ?」

「ルイズを…はな…して…。」

 トゥが大剣を構えたまま、ジリジリと迫ってきたので、ジャネットをルイズを抱えたまま同じだけ後退した。

 ルイズは、汗をダラダラとかいた。

「まずい…。本当にまずいわ! トゥ、トゥ! 私は大丈夫だから、正気に戻って!」

「ルイズぅ…。」

「お願い! お願いジャネット! 私を放して! トゥが、トゥが!」

「な、なんだかよく分からないけど…、複雑な事情があるのね。」

「……。」

 しかしトゥは、身を翻し、タバサと戦っていたドゥードゥーに襲いかかった。

 背後に気づいていなかったドゥードゥーは、完全に油断しており、簡単に杖を切られてしまった。

「あっ!」

「…タバサちゃん、大丈夫?」

 先ほどドゥードゥーからの攻撃で膝をついていたタバサに、トゥが声をかけた。

 タバサは、こくりと頷いた。

「よかった。」

 トゥが微笑んだ。

 タバサは、そんなトゥの微笑みを眩しそうに見ていた。

 いまだジャネットに捕まっているルイズは、それを見ていて、ムッとした。

「あら? ライバルは多そうね?」

「うるさい!」

 その時、ジャネットとルイズの背後から火の魔法が飛んできた。

 ジャネットは、気づいてルイズを放して跳んだ。

 ルイズは、ジャネットから解放されるといち早くトゥのもとへ行き、その身体に抱きついた。

「ルイズ?」

「バカ! なんで、私よりタバサを優先してんのよ!」

「だって、タバサちゃんが危なかったから…。」

 ポカポカと叩いてくるルイズにオロオロとするトゥ。

 そして、次の瞬間、二人は地面に突如として現れた水面に落ちた。

「ぶは! なに!? 地面が…。」

「ぶくぶく…。」

「トゥ!?」

 大剣を手にし、デルフリンガーを腰に差していた握っていたトゥが沈んだ。

 ルイズは、慌てて傍の木の根に掴まり、沈まないようにしながらトゥを探した。

「トゥ! トゥ!」

「ぷは!」

 ルイズの横からトゥが飛び出して、木に掴まった。

「あー、びっくりした。」

「だいじょうぶ?」

「うん。ルイ…ズ…は…、?」

「あれ…ね…ねむ…い…?」

 ルイズががくりっと首を下げ、眠りに落ち、トゥは眠気に耐えながらルイズを掴んで地面に投げた。しかし自分の方は、眠気で木の根に引っかかる形になって眠ってしまった。

 眠ってしまったトゥは、手から大剣を手放してしまった。

 そこへローブをまとった人物が近づき、トゥの体を持ち上げて、杖も使わず魔法を使って泳ぎ去って行ってしまった。

 タバサがトゥを浚っていく者に追いすがり、魔法を使ったが、別の者によって阻まれた。

 その際に、頭に被っていたローブが外れ、そこにあった長い耳を見て驚愕することになった。

 彼らは、エルフだったのだ。

 驚くタバサに、エルフの先住魔法が放たれ、タバサはなすすべも無く倒れてしまった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 薄紅色の花の夢。

 

 久しぶりに見た。

 

 しかし、前とは違う。

 

 蕾のように閉じていた花が徐々に花開いていく。

 

 ああ…、これは、自分に残された時間だ。

 

 自分の中で確実に育っていっているモノの姿だ。

 

 自分には…、もう…時間が無い。

 

 ルイズ、ルイズ…。ごめんね。きっともう、最後まで一緒には…。

 

 

 トゥは、そこで目を覚ました。

 目を開いて、自分が泣いていたことに気づいて乱暴に手で拭った。

 起き上がろうとして、手を突くと、ムニュッと、何かとても柔らかい感触があった。

「えっ?」

「ふにゃ…。」

 少女の声も同時にした。

「ティファ…ちゃん?」

 見ると、ティファニアが隣に眠っていた。

「ん…、トゥ…さん?」

「目が覚めた?」

「ええ…。あれ? ここは?」

「? そういえばどこだろう、ここ?」

 改めて周りを見回すと、そこは見覚えの無い場所だった。

 二人が寝かされていた場所は、白い壁で、様々な物が脈絡なく飾られていた。絵画や、人形、タペストリー、そして宝石のたくさんついた鏡など。

 それ自体は別におかしいことではないのだが、何か妙だった。

 何がおかしいのかと考えていると、ハッと気づいた。

 飾り付けがおかしいのだ。

 帽子がけになぜかバケツがかぶせてあったり、箒が逆さになっていて、その上に羽根のついた帽子が乗せられていたり、天井からは傘がぶらさげられていて、さらにドレスがカーテンのように窓にかかっているのだ。

「わー…。ずいぶん独創的。」

 トゥは、苦笑いを浮かべながらそう呟いた。

「あれ? この服…。」

「どうしたの?」

「これ…エルフの服だわ。」

 ティファニアは、自分が身につけている服を見て言った。

「母さんの形見に似てるもの。」

「えっ?」

 二人が目をぱちくりさせていると。

 そこへ、一人のエルフがやってきた。

 




若干狂気を見せたトゥですが、周りのことにも気を配っていました。

変なところで切らせてもらいましたが、長くなりそうだったので、ルクシャナとの出会いは、ちょっと次回に持ち越しました。

次回は、どうしようかな…。
このネタでの設定だと、悪魔=虚無ではなく、花(ウタウタイ)=悪魔という図式にしているので、エルフ達とのやりとりを考えないといけませんね。

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