前半は、ティファニアとの会話。
「ここが、母の生まれた国なのね。」
二人は、足を水に浸けた状態で、そんな話をしていた。
「そういえばそうなんだね。」
「一度行ってみたいとは思ってたけれど、こんな形でなんてね。でも願いが叶ったから、もういいわ。」
「ティファちゃん…。」
「ねえ、トゥさん。」
「なぁに?」
「お願いがあるの。」
「お願い?」
「私を、殺して欲しいの。」
とんでもない言葉が飛び出した。
「何言ってるの!?」
「だって…、そうでしょ? 私がいなくなれば、私の力は他の別の誰かに宿るんでしょ? 私、今までずっとそうだったけど、今回も何もできてない。とうとう捕まっちゃうし。」
「ティファちゃん…。」
「トゥさんは、逃げて。トゥさんは、一人で逃げられる。私は無理。足手まといになっちゃう。」
「ティファちゃんを見捨てるなんてできないよ。」
「私が、こんな私が…、どうして……あんた伝説の力の担い手なんだろうって、不思議に思ってた。みんなすごいのに、私はみんなに助けられてばっかりで…。」
「そんなこと言わないでよ。」
「ここで私がのうのうと生きてたら、みんな困るじゃない。地面がめくれ上がって、住むところがなくなっちゃって。エルフ相手に交渉しようにも、私達がここにいたら、力だって復活しないでしょう?」
「逃げるときは、ティファちゃんも一緒だよ。じゃないと、子供達や他の人たちも泣いちゃうよ?」
「そうかもしれない。でも、私がここにいたら、その大事なみんなが大変なことになる。だから…、お願い…。」
「ティファちゃんも一緒!」
トゥは、ティファニアの肩を掴んだ。
やがてティファニアは、グスングスンと泣き出した。
「大丈夫。大丈夫だからね。」
トゥは、ティファニアを抱きしめその頭を撫でた。
きっとティファニアにとって、エルフの本当の姿を見たことや、自身が虚無であることなど色んな事が心に重くのしかかっているのだろう。
「ティファちゃん、ティファちゃん。エルフを説得しよう。」
「そんなこと…。」
「やらなきゃダメなんだよ。ルクシャナを殺しちゃいけないし、私達がここで潰れて誰かにこの力が宿っても、良い結果になるとは限らないよ?」
「でも、エルフは、こんなにすごいんだよ? トゥさんも見たでしょ? こんなオアシスを取り巻くような魔法をたった一人で住むために使っちゃうような人達なの。私達の言うことを聞いてくれるないよ。」
「だからって、諦めたらおしまいだよ。」
「でも…。」
「いい? 死ぬなんてもってのほか。もしかしたら、今このときがチャンスかもしれないよ?」
「ちゃんす?」
「うまくいけば、聖地から魔法装置を手に入れることができるかもしれない。……仮に無くても何か大きな変化につながるかも知れない。私達は、今最後の目的に近い場所にいる。うまくいけば、ティファちゃんやルイズに、とんでもない魔法を覚えなくてなくてもすむかもしれない。だから、諦めないで。お願い。」
「……ごめんね、トゥさん。私、怖かったの。このままここにいたら、何か酷いことをされるんじゃないかって。そうなる前に私…。」
「ティファちゃんには手を出させない。もし何かされそうになったら…。」
トゥは、隣に置いてあるデルフリンガーを見た。
「それに…場合によっては……。」
トゥは、右目の花に触れた。
「トゥさん?」
「コレで…脅す…。」
「トゥさん! なんてことを言うの!」
「エルフにとって、私は、虚無以上に恐ろしい悪魔なんだよ。コレ(花)は、ある意味で交渉材料になる。」
「だ、だからって…。」
「ティファちゃん。今、私達が置かれている状況は、それだけ危ないの。分かる?」
「でも…でも…。」
「分かって。ティファちゃん。」
「そうじゃなくって!」
「えっ?」
「トゥさんは、悪魔なんかじゃない!」
ティファニアは、強く言った。
「悪魔なんかじゃない…。」
「ティファちゃん…。」
「悪魔なんかじゃ…ないんだから。そんなこと言わないで…。」
ティファニアは、ポロポロと泣き出していた。
「ありがとう。」
トゥは、ティファニアの身体を再び抱きしめた。
***
翌朝。
窓から差し込む光で、トゥは目を覚ました。
ベットの隣には、ティファニアが寝ている。
スヤスヤとあどけない顔で寝ている。
トゥは、クスッと笑って、ティファニアの頭を撫でた。
ティファニアは、うう~んっと悩ましい声をあげながら寝返りをうった。
仰向けから、横向きになったことで、ゆったりとしたローブが少し下がり凶悪な大きさの胸が腕で挟まれて強調される。その光景たるや男が見たら鼻の下伸ばしっぱなしになりそうな絶景である。だが生憎とトゥは、女なのと、胸の有無とかには興味ないので反応はしなかった。
「う~~~ん…。」
やがてティファニアが目を覚ました。
「おはよう、ティファちゃん。」
「あ…、おはよう。トゥさん。」
ティファニアは、まだ眠気眼のまま、フニャッと笑った。
それが可愛くて、トゥは、ニコニコしながら、ティファニアの頭をなで続けた。
なでなでされ、ティファニアは、気持ちよさそうに目を細めた。
「…なんだか懐かしい感じ…。」
「そう?」
「母に、こうしてなでなでしてもらってたなぁ…。朧気だけど、覚えてる。」
「そっか。」
「父にも寝る前になでなでしてもらってた。」
「よっかたねぇ。」
「トゥさんの撫でてくれてる手…、優しくって気持ちいい。」
「そう?」
「起きてる?」
そこへルクシャナがやってきた。
ルクシャナが来たことで二人は起き上がりベットから降りた。
「朝ご飯食べた? その辺にある物を適当に食べていいわよ。」
「あの…。」
「なに?」
「エルフの偉い人と話がしたいんだけど。」
「なに? 急にどうしたの?」
「交渉したいんです。」
「なぁに? またシャイターンの門が見たいとか、魔法装置がどうのっていうつもりなの?」
「それもあるけど…。」
「だから、やめなさいって言ったじゃない。」
「それなら、ここで、コレを暴走させるよ?」
「へ?」
トゥは、自分の右目に咲いている花を指さした。
「コレが暴走したら…、エルフの国なんて跡形も無くなくなるだろうね…。」
「あ…、あの…、この人、やるって言ったらやりますから!」
「それ本気で言ってるの?」
ルクシャナがたらりっとひとすじの汗をかいた。
トゥの目が、マジだからだ。
「コレの力は、精霊の力を使うあなた達じゃどうしようもできない。そうでしょう? まあ、もちろん、虚無でも無理だろうけど。」
「あなた…、自分の住んでた場所も蛮人達も巻き込むつもり?」
「それがイヤなら交渉させて。」
「脅しってことね…。」
ルクシャナは、そう言うと、しばらくトゥとにらみ合った。
やがて、観念したのか、大きくため息を吐き。
「いいわ。叔父様に頼んでみるわ。あれでも偉い方なのよ。」
「ありがとう。ルクシャナ。」
「もう…せっかく、私と叔父様が評議会(カウシル)のおじいちゃん達に頼み込んで、あなた達の心を消さないようにしたのに、こんなことになるなんて…。」
「そうなの?」
「ええ。評議会のおじいちゃん達ってば、あなた達の心を消せって大騒ぎよ。そっちの方が安全だって。」
「でも、そんなことしたら、花は、私の意思を離れて、暴走してたと思うよ。」
「そうなの? じゃあ、止めて正解だったってことかしら?」
「うん。」
「はあ…、叔父様の判断は間違ってなかったって事ね。間一髪だわ。」
「どうしてビダーシャルさんは、私達を庇ってくれたの?」
「さあ? 悪魔であるあなたのことを警戒したのか…、それとも単に興味本位かもしれないわ。色々聞きたいことがあるって言ってたし。」
「私に聞きたいこと?」
「それは会ってからのお楽しみね。それはそうと、あなた。」
ルクシャナは、ティファニアに話を振った。
「あなたの母君は、どういう方だったの? なぜ、あなたが生まれたのかしら?」
聞かれたティファニアは、トゥを見た。
トゥは、頷いた。
そしてティファニアは、怯えた表情で自分の生い立ちについて語り出した。
アルビオンの大公と、その妾だったエルフの女性との間に生まれたこと。
それを嫌った伯父王が差し向けた手勢に父と母が殺されたこと。
逃れた森で暮らし、そしてトゥ達と出会ったこと。
虚無のこと以外をすべて語った。
ルクシャナは、メモを取りながら興味深そうに聞いていた。
「母君の名前は?」
「父は、シャジャルと呼んでました。」
「私達の言葉で真珠って意味よ。きっと、美しい方だったのでしょうね。」
「ええ。とても綺麗でした。と、言っても子供の頃だったから、ぼんやりとしか覚えていないんだけど…。」
「調べてあげるわ。そっちに行ったエルフなんて珍しいから、多分何か分かるんじゃないかしら。」
「本当ですか?」
「ええ。もしかしたら、あなたの親戚が見つかるかもね。」
「あの…、ルクシャナさん。私、思うんですけど……。」
「なぁに?」
それからティファニアは、自分の母と父が愛し合ったように、自分達はきっとわかり合えるはずだということを言った。
ルクシャナは、こうして話し合っているのだからわかり合えるだろうと言った。
「だったら! お願いです! 私達を聖地に連れて行ってください! このままだと、たくさんの人が死んじゃうんです!」
「…正直言うとね、私もそうしたっていいんじゃないって、思うわ。」
ルクシャナは、真面目な顔で答えた。
例えそれが大いなる意思の思し召しだとしても、見殺しにするのは気分が良くないのだと。
「でも、勘違いしないで、そう考えるエルフは、ほんとに少ないのよ。」
「ほんとですか?」
「ありがとう。」
「でもね、私達だって六千年間、シャイターンの門を必死で守ってきたの。そこが解放されたら、酷いことになるって言われてね。」
「酷いことって?」
「大災厄。」
「なにそれ?」
「六千年前、シャイターンの門に悪魔が現れたときに起こった出来事よ。」
「!」
「当時…、半分のエルフが死んだと言われてるわ。」
「……悪魔って、私と同じ?」
「さあね? なにせ、大昔のことだしね、信じてないエルフもいる。でも、おかげで、私達の間では、シャイターンの門を守ることは絶対になったわ。あなた達も大変かも知れないけど、私達も必死なのよ。」
「……姉さん…。」
「はっ?」
「ん…、なんでもない。」
「ねえ…、さっきから何? 何を知ってるの、あなた。」
「…知らない。」
「ウソよ。何か知ってるでしょ?」
ルクシャナが、ずずいっとトゥに詰め寄って聞いた。
だが、その時、外の方で、バシャーンと大きな着水音が響いてきた。
「アリィーだわ。」
ルクシャナは、トゥから視線を外し、外へ出て行った。
トゥ達も後を追った。
外には、大きな風竜が一匹、桟橋に向かって泳いでくるのが見えた。その背中には、一人のエルフの男性が乗っていた。
ウタウタイの心は、花を制御する意味で必要不可欠だと思って。
もし消したら、大惨事なんてもんじゃすまないかも…。精神(心)が狂ったウタウタイの状態を考えると…。
次回は、アリィーと遭遇。