二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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続けて、もう一話投稿。

ルクシャナの手引きで脱出します。

微妙にオリジナル展開が混じってます。


第九十五話  トゥとティファニア、脱出する

 

 それからトゥとティファニアは、ルクシャナから聞いていた地下牢に閉じ込められた。

 地下牢と言っても、とてもしっかりしており、ベットは二つ、椅子も机もあり、きちんとしたトイレもあった。一日に二回食事もある。

「トゥさん…。」

「なぁに?」

「私達…、心を消されちゃうの?」

「だいじょうぶだよ。ビダーシャルさんが頑張って止めてくれよ。」

 そんな会話を、ここに監禁される二日前から何度もした。

「本当に信用できるの?」

「ビダーシャルさん達にとって、虚無より私の方が怖いはずだよ。私のコレ(花)が暴走するより、決定を覆す方が賢明だって思うはずだよ。」

「でも、もう二日も経ってる…。」

「いくらビダーシャルさんが偉い人でもトップの人じゃないから大変なのかも。」

 いくらビダーシャルに権力があっても、多勢に無勢では、評議会の決定を覆すのは難しいはずだ。

 それに、ここに閉じ込められる際に、剣も杖も取り上げられてしまったため、それがティファニアの不安を余計にあおっているのだろう。

「やっぱり、心を失う前に…。」

「ティファちゃん、早まったことを考えないでね。」

「どうせ死んじゃうなら、みんなの役に立った方がいいんじゃないかなって思うの。」

「死んじゃうなんて、ダメ。」

「私だって死ぬのは怖いわ。良くないことだって思うもの。でも、それがみんなの利益になるなら…、そちらを選ぶべきじゃないかなって。」

「ティファちゃん…。」

「私達が死ねば、ルイズ達は新しい担い手を得ることができる。」

「私の心を消したら、全部終わっちゃう。」

「トゥさん…。」

「虚無も、シャイターンの門も、聖地も、何もかも、全部終わっちゃうと思うの。だからこそ、ビダーシャルさんは、頑張ってるはずだよ。…仮に私を殺すって事になっても、今度は、違うウタウタイが呼ばれるだけ…。私をすぐに殺さなかったのは、たぶんそれを知ってるから。」

 トゥは、俯いた。

「トゥさん…。だからって…、トゥさんが死んじゃったらダメよ。」

 ティファニアは言った。

「ルイズがきっと泣いちゃう。泣くどころか、後追い自殺なんてしちゃうかもしれないよ?」

「…うん。ルイズなら、やりかねないかも…。」

 トゥは、そう言って苦笑した。

 その後、ティファニアは、自分は虚無の力のことを重荷に感じていたと語り、だが、この力のおかげでトゥ達に出会えたのだから、それだけは感謝していること、そして今まで見ていることしかできなかったから、最後ぐらいティファニア、よくやったなって褒めてもらいたいことを語った。

「ティファちゃん…、だからって死ぬことは褒められたことじゃないよ?」

「ううん。いいの。分かってるから。みんなと仲良くなれたけど、人間の世界も私の居場所じゃない。エルフとの戦いが激しくなれば、やっぱり私は疎まれる。そして、エルフの世界でも居場所はなかった。最後ぐらい居場所が欲しいの。」

「じゃあ、私が居場所になってあげる。」

「でも、トゥさんにはルイズがいるわ。」

「そう言う意味じゃなくって、友達として。友達だって居場所でしょ?」

「…ありがとう。でも、できたら友達より恋人がいいなぁ。」

「えっ?」

「あ、違うの!」

 ティファニアは、顔を赤くして慌てて手を振った。

「違うの! トゥさんの恋人になりたいとかそういうことじゃなくって、ただ……、私も恋人がいたらいいなぁって…。普通に思っただけ…。」

「なーんだ、びっくりした。」

「あ、あの…、トゥさんに魅力が無いとかそういうわけじゃないから!」

「ありがとう。そう言ってくれて。」

 トゥは、クスクスと笑った。

 笑われて、ティファニアは、顔を赤くしてローブの端を握りしめた。

「笑わないで。」

「ごめんごめん。可愛くって。」

「か、かわいい? そ、そんなこと言わないで。」

「だってぇ。」

「そんなこと言われたら…、勘違いしちゃう…。」

「かんちがい?」

「……頼りたくなっちゃうから。」

「頼りにしていいよ。」

「……トゥさん…。」

「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ。」

「怖いよ…。心がなくなっちゃうのも。死ぬのも。どっちも怖い…。私、何もしてないのに…どうして? ねえ、トゥさん…。どうして?」

 トゥは、ティファニアを抱きしめた。

 するとティファニアは、ひっくひっくと泣き出し、やがて堰を切ってあふれたような激しい泣き方をしだした。

 そんなティファニアを抱きしめ、トゥは、その頭をなで続けた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 それから、六日経った。

 今日が、心消される日のはずだが、何も起こらない。

 ビダーシャルが頑張って止めたのだろうか?

 しかし、やがて、扉が開き、三人の戦士達が入ってきた。

 ティファニアは、怯えてトゥに縋った。

「私達の心を消すの?」

 トゥが聞くと、エルフの戦士達は、ばつが悪そうな顔をした。

 もしかしてっと、トゥは首を傾げて思った。

「もしかして…、評議会は…、迷ってる?」

「っ! お前達をこのままでいさせるわけにはいかんのだ!」

 どうやら一部の独断行動らしい。

 そりゃ、六千年前の悪魔が現れたと言われていきなり信じろと言われて信じるのは難しいだろう。

 何より心が無くなればそれが一番だと判断したのだろう。

「そう…。」

 目を細めたトゥは、ウタおうとした。

 だが次の瞬間、部屋に備え付けられていた、ランプが消えた。

 っと、同時に、ぐっとか、ぐおっ! っとかいうエルフ達のうめき声が聞こえて何かが倒れる音がした。

「?」

「静かにして…。」

「ルクシャナ…。」

 どうやら三人の内、一人がルクシャナだったらしい。彼女は小声で二人に言った。

「お願い。悪魔の力を使わないで。」

「分かった。」

「彼らの服を着て。」

「分かった。ティファちゃん。」

「う、うん。」

 トゥとティファニアは、言われるまま、気絶している二人のエルフの身ぐるみを剥ぎ、それをまとった。

「私達をどうして助けるの?」

「評議会は、迷ってるわ。あなたの…トゥの心を消すか否かをね。そんなことして悪魔が暴走したらそれこそ取り返しがつかないじゃない。若い連中が評議会のおじいちゃんの一部に言われて勝手に心を消そうって話してるの聞いたから、叔父様が念のためにって私に言ってきたのよ。」

「そう、やっぱり。」

「それにね、私、すっごおおおおおおおおっく、興味があるの。」

「なに?」

「あなた、別の世界から来たって言ってたじゃない。」

「もしかして…、そんな理由で?」

「ええ。それとね、約束してくれない?」

「なぁに?」

「私は、学術的好奇心からあなた達を助けるけれど、悪魔や虚無の復活に協力するつもりはないの。だから、必ず、私と行動を共にするとあなた達は神様に誓って。決して逃げ出したりしないと。」

 ルクシャナは、思い詰めた真剣な声で言った。

「分かった。」

 トゥは、頷いた。

「武器は返すけど、絶対にエルフを殺さないでね。それも誓って。」

「分かった。」

「じゃあ、急ぎましょ。」

 ルクシャナに導かれ、二人は牢から出て行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 牢を出て、しばらく進んでいくと、やがて偉そうな格好をしたエルフが五人、護衛の戦士達を連れて歩いてきた。

 ルクシャナが、あれが評議会のおじいちゃん達だと言って、絶対に口を開くな、そして自分と同じタイミングで頭を下げろと小声で告げてきたので、言われたとおりにした。

 ルクシャナに従い、通路の壁を背にして直立し、トゥとティファニアも横に並ぶ。

 五名の内、一人のエルフがすれ違いざまに小声で声をかけてきた。

「済んだか?」

「はい。」

「そうか。ご苦労。」

 そして、評議会のエルフ達は、トゥ達が囚われていた牢に入っていった。

 視界から彼らが消えると同時に。

「走るわよ。」

 ルクシャナが駆け出し、トゥとティファニアもそれに続いた。

 突き当たりにある魔法で動くエレベーターに飛び乗り、ルクシャナが一階と言うと、ブンッという感じの浮遊感があって、トゥ達が乗った円盤が上昇始めた。

 一階に着くと、ルクシャナ達と入れ替わりに何人もの戦士達がエレベーターに乗っていった。

 その時になって、ロビーに低いサイレン音が鳴り響いた。

「気づかれたわ。」

 周りのあちこちで、エルフの叫び声や怒号が響いていた。

 だが、評議会本部にいるエルフのほとんどが事情を知らず、その反応は鈍い。

 何人かの騎士や戦士達が走り回る中、キョトンとしていた。

 ルクシャナとトゥとティファニアは、まっすぐに何人ものエルフが行き来している出口へ向かった。

「玄関を封鎖しろ!」

 背後でそんな怒号が聞こえた。

「はあ? いったい何の騒ぎだ?」

 玄関の受付をしている文官が言った。

「いいから封鎖しろと言っている! 評議会からの命令だ!」

「命令書はあるのかね?」

「暢気なこと言うな! 急げ!」

 その間にもエルフ達は行き来し、その流れに乗ってルクシャナとトゥとティファニアは、外へ出た。

 評議会本部は、空から見た以上に圧巻な作りをしていた。

 巨大な円筒である評議会本部の周りを取り囲むように石段が伸び、その先は公園のような空き地になっていて、そこにはいくつもの花壇や植木があり、散策するエルフ達がいた。

 自分達の居る石段から、城下町が見え、その城下町がまた美しかった。

 白色が基本なのだが、窓枠は青く、屋根はオレンジ色で、形はそれぞれ違う。だがほどよく統一されており、三階建てほどの建物がずらりと並んでいた。

 街の間を縫う運河には、小舟がいくつも行き交う。しかも、鳥や魚、稲妻など、自然物をかたどって作られた愛らしさを感じさせる小舟だった。

「綺麗…。」

 これは、もしかしたら海の国よりも圧倒的に綺麗かも知れないとトゥは思った。

「ほら、ボーッとしないで。目立たないように。走らないで。でも、急いで。」

 急がないよう、だがゆっくりとはせず歩き、評議会本部を中心として、四方八方に延びた街路の一つに、ルクシャナとトゥとティファニアが入った。

 街路は、車道と歩道が分かれ、車道では竜に引かれた車が何台も行き来し、ガラス張りの商店がいくつも並んでいる。

 行き交うエルフ達は、ローブを深く被ったトゥとティファニアに気づく様子も無い。

「どこへ行くの?」

「私の旧い友人が住む屋敷よ。」

 ルクシャナに従い、街中を進んでいく。

 海水がかかる運河の道は、青黒い海藻が生えており、何度も滑りそうになった。特にティファニアが何度も転びそうになり、やがてトゥの腕にしがみついてきた。ティファニアの凶悪な大きさの胸がダイレクトに当たるが、トゥは気にしない。

「おかしいわね…。」

「どうしたの?」

「ここに、私が用意した小舟があったんだけど……。」

 周りの喧噪から離れ、エルフの姿が無い場所で、ルクシャナが困ったように言った。

 

「小舟なら、押収させてもらったよ。」

 

 そこへ、アリィーの声が響いた。

「アリィー!」

 声がした方を見ると、十五メートルほど離れた運河の岸にアリィーがいた。

「何をやってるんだぁああああああああああああああ! 君という女はぁあああああああああああああああ!!」

 アリィーは、整った顔を歪めて、大声で叫んだ。

 だがルクシャナは、やれやれと両手をすくめただけだった。

「だって、約束したじゃない。彼女達は私が預かるって。」

「評議会の決定なんだ! それがコロコロ変わるのは君だってよく知ってるじゃないか!」

「知ってるわ。でも、納得してるわけじゃないわ。小舟を返してちょうだい。」

 ルクシャナは、堂々とした声で言った。

 自分が正しいと言わんばかりの態度に、アリィーは、イライラを募らせ…。

「なあ、ルクシャナ。君は自分が何をしているのか分かっているのか? これは重大な民族反逆罪だぞ? 大人しく彼女達を引き渡すんだ。そうすれば、君のことは言わないでおいてやる。今なら僕と一部の人間しか、このことを知らないんだ。」

「いやよ。」

 ルクシャナは、きっぱりと拒否した。

「もう、なんなんだ、君は!」

「大変なんだね…。」

 トゥは、ちょっと同情した。

「うるさい! 蛮人の同情なんていらない! とにかく、腕ずくでも彼女達を引っ張っていくからな!」

「もし、そんなことしたら、婚約解消よ。恋人の貴重な研究対象を奪う男なんて、恋人じゃないわ。」

「わー…。」

 ルクシャナの言葉に、トゥもティファニアも、同情の目をアリィーに向けた。

 言われたアリィーは呆然としていた。だがすぐにハッと我に返ったらしく、ブンブンと頭を振っていた。

「こ、これでも、僕はファーリスの称号を持つ騎士だ。私事と使命はごっちゃにはしない!」

「立派ね。私より使命の方が大事だっていうの?」

「問答無用!」

 ルクシャナの言葉に臆さずアリィーは、腰から円曲した剣を引き抜いた。その目にちょっとだけ涙が浮かんでいるのは気のせいであろうか?

「トゥ。出番よ。」

「えー。」

「えー、じゃない。言っとくけど、絶対に殺しちゃダメよ。あれでも、私の大事な婚約者なんだから。」

 なんだかんだ言って、ルクシャナは、アリィーを大事にはしているらしい。

 婚約解消だのと脅されてても、健気に使命を果たそうとする彼がやっぱり不憫だなぁっと、トゥは、デルフリンガーを抜きながら思ったのだった。




読んでて、すげーなルクシャナって思いました。それでもそんな彼女を愛するアリィーもアリィーだけど。

トゥ達の心を消そうとしたのは、評議会の一部の企てです。ビダーシャルの言葉を信用しなかったのです。
評議会の者達が牢屋に来たのは、トゥと話をするためです。
もし消してたら…。大変なことになっていました。


次回は、アリィーとの戦闘。

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