「――今回の“魔女”は、本当に分からないんだ」
テーブルを囲むまどか達に向かって、白い小動物、キュゥべえはそう言った。
あの後、子供達を家に送り返した後、報告と対策としてマミの家に居るであろうキュゥべえへと、まどか達は訊ねた。
だが、帰ってきたのは検討違いの返事。
「分からないってのはどういうことだよ。その使い魔達は結界の外でも個々で活動出来るくらい強いんだろ?」
テーブルに置かれた山盛りのポテトへと手を伸ばしながら、佐倉杏子はそう言う。
うーんと、少し困ったようにしながらキュゥべえは言った。
「確かに、力が大きな“魔女”であればそれなりの現象として現界にも影響を及ぼすのは確かだ。
けれど、と続ける。
「今回のその“魔女”は、そんな強力な使い魔を使役しながら、現界に何の影響ももたらしていない。現象が出ているなら僕の知識を貸すことも出来るけれど、それすら無いならお手上げだよ」
一息に言って、カップを持つまどかの膝へと移動して腰を下ろした。微かに何処からか舌打ちが聞こえた気がするが、気のせいとしてスルーする。
「でも、それならあの子達を見張っておけばその“魔女”に辿り着ける筈だよね。口付けがあったってことは、狙われてるって事でしょ?」
「……そうね。取り敢えず私のリボンでポイントは付けてあるから、余程の事が無い限り破壊はされない筈よ」
「流石マミさん!」
さやかの言葉に照れたように笑って、マミは席を立った。空になったポットを手にとって、中身が少ないのを確認して運んでいく。
ふとまどかを見れば、先ほどの事を思い出したのかまだ暗い顔をして俯いている。内心ふぅと溜め息を吐いて、さやかはまどかに言った。
「まぁ、安心しなよ、まどか。 マミさんが居るから、何かあれば直ぐに教えてくれる筈だからさ」
「さやかちゃん」
さやかの言葉に、そうだよね、と納得するように呟くと、ようやく笑顔が見れた。テーブルのクッキーに手を伸ばすと、一口かじって顔を綻ばせる。
その瞬間を好機と見たか、まどかの膝で寛ぐキュゥべえの首根っこを掴み取ると明後日の方向へと投げ飛ばし、少女、ほむらはまどかへと寄り添うように座った。
「そうよまどか。心配する事なんて無いわ、貴女の不安の種はすべて私が平和的に解決してみせるから」
「コイツすげぇ。数秒前の出来事を平和的と言い切った」
「害獣の駆除は適応外よ」
杏子へとサムズアップを上げてそう言うと、さやかが諦めろとアイコンタクトする。
「まどかが絡むと容赦ないから、放っておくのが一番良いわよ」
「だな」
「え、この状況で私放置なの……?」
とにかく、と立ち上がりながら杏子が言う。テーブルの隅に置いてあった紙箱を取ると、中身を確認して頷く。
「このままダラダラしてても意味無いだろ、アタシは一旦帰るよ。マミ!これ貰って良いんだろ?」
「あら、もう帰るの? もう少しゆっくりしていけば良いのに」
「たまには施設に顔出さないとな。……ケーキ、ありがとよ」
「ふふっ、どういたしまして」
バタン、と玄関のドアが閉まる音がして、さやかがポツリと洩らす様に言う。
「……杏子の奴、何だかそわそわしてなかった?」
「何があったのかな……」
「あぁ、知らないのね。今日、妹さんに会いに行くのよ」
こぽこぽと注がれた紅茶に、マミがミルク等をゆっくりと注ぐ。その辺の仕草も綺麗で、あぁなりたいなぁ、と改めて思う。
「……あぁ、そういえば孤児院に居るんでしたっけ、杏子の妹」
「そうよ。火事で家を無くした後、色々とあってね」
「ほへー……」
え、でも。
「佐倉さん。何時でも外に居るイメージがあるけど……」
「幻術で施設に居るように錯覚させてるらしいわ。他にも――って、いけない、もうこんな時間!」
壁掛けの時計を見て、マミが慌ただしく家の中を移動する。
行動の内容を見る限り、外出するらしい。
「巴先輩。外出されるんですか?」
「えぇ、急な話で悪いんだけれど」
余ったクッキー等を袋詰めにして、まどかへと手渡しながらにこやかに言う。
「今日は、両親と久しぶりに会うから」
〰〰〰
――どうやらこの世界は、何時もとはかなり違うようだ。
佐倉杏子は妹が存命。
巴マミは両親が健在している。
加えて、あの今まで見たこともない使い魔。
「……面倒な事に、ならないと良いのだけれども」
まどか達と別れた後、パトロールがてら魔力探索をしつつ歩いて帰る。
日は大分落ちた。時間も余り無いし、帰ったら簡単な物で夕食を作るとしよう。
冷蔵庫の中身を思い出しつつ歩いていると、目線の先に見覚えのある姿が一つ。
「まどか?」
後ろ姿だが間違いない。だが、何故こんな所に?
疑問が並ぶが、取り敢えずは声を掛けよう。
「まどか。こんな所で何をしているの?さっき――」
家に帰らなかった?と続けようとしたところで、異変に気付く。
魔力を検知した。
「良かっタ、探してたンだよ。ホむらちャん」
懐に倒れる様に抱き着いて来たまどか――に似たナニカはゆっくりと顔を上げる。
――目を合わせたら、マズイ気がする。
「くっ、離しなさい……ッ‼」
組まれた腕を振り上げ、すり抜ける様に離脱する。即座に盾から銃を抜き取ると、目の前のソレに銃口を向ける。
「後ろだよ?」
そんな子供騙しに、と思ったところで聞こえる、鐘の音。
しまったと思ったときにはもう遅い。
先ほどのマンションでも遭遇した天使を象った使い魔。
それが大きめの姿見を2体で抱えて、此方を捉えていた。
鏡に映る自分と、目が合う。
「あハ、一人目♪」
――自分の意識が遠退く寸前、そんな声が聞こえた。