零これ   作:Woudy

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現時点で横須賀に所属する艦娘たちを紹介します。


歓迎会①

 

 

横須賀鎮守府 提督執務室

 

 

深海棲艦襲撃の翌日。執務室ではスポーツウェアを着た一人の女性がトレーニングの真っ最中であった。

 

「298、299、300、301………」

 

今は片手での腕立て伏せを連続500回やっているところである。

 

「失礼するわよ」

 

残り200回というところで入り口の扉が開き、女性ーーー横須賀鎮守府提督『梶ヶ谷 真理恵』の秘書艦である駆逐艦『霞』が書類を抱えて入室してくる。彼女は入室した途端目を見開く。

 

「って、あんた!?まだ筋トレしていたの!?」

 

「ん?そうよ?」

 

実は霞が退室したおよそ5時間前から、真理恵はトレーニングをずっとしていたのだ。それもかなり体力の使う種類のトレーニングをである。それを5時間も休みなくやり続けた真理恵の体は、ありとあらゆるところから玉のような汗が出ており、スポーツウェアもそのまま風呂にでも入ったかのようにずぶ濡れだった。

 

「ちゃんと休憩したの!?」

 

「ん~ん、全然」

 

「馬鹿なのあんた!倒れるつもり!?今すぐやめて、ちゃんと休憩しなさいよ!」

 

「あ~、待って。後180回……」

 

「さっさとやめて休憩しろ!!このクズ!!!」

 

会話しながらも腕立て伏せを続けている真理恵に霞は一喝する。真理恵はしぶしぶといった感じでやめた。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「はい、水」

 

「ありがとね~、カスミン」

 

タオルで汗を拭きとりながら、真理恵は霞から彼女が持ってきてくれた水入りのコップを受け取る。一口飲んでから、執務机の上に置いてある袋から煮干しを一匹取出し、口にくわえる。

 

「あんた何であんなにずっとトレーニングをしてたの?いつもは1時間くらいで終わるでしょ?」

 

普段と比べてあまりにも長時間のトレーニングに霞は疑問に思う。

 

「…エクスの件よ」

 

「エクスの?」

 

真理恵は頷き、ゆっくりと理由を話す。

 

「えぇ。いくらあの子が懇願してきたからとはいえ、後方支援に徹底するように命令したとはいえ、…まだ訓練すらやってないあの子を前線に出してしまったのは私。…最悪あの子と他の子たちの誰かが沈んでたかもしれない」

 

「だから自分への罰として、さっきのようなあんなきつい運動を何時間も続けていた…ってこと?」

 

「そうよ…。本当はいくら頼まれてもNoと言うべきだった。だから艦隊を危険に晒すようなことをしたのはあの子ではなく私よ。本来なら私が罰を受ける立場なのよ」

 

「あんたね…だとしても全く休まないで5時間もきつい運動するなんて危険よ。それで体調崩して、いざ深海棲艦が来た時に本来の能力を発揮できなくて、それが原因で私たちが沈んだらどうするの?」

 

「……ごめんなさい」

 

もっともな事を言われ、素直に謝る真理恵。霞は彼女の前に移動し、その場にしゃがむ。

 

「それに私はあんたの判断が間違っていたとは思っていないわ。みんなも言っていたけどあの状況ではエクス以外に清霜を助けられなかった。あんたがエクスを出すと判断したからこそ、清霜は今もこの鎮守府で私たちと一緒に過ごすことができている。エクスを出さなかったら清霜は沈んでいたかもしれない。…だからあんたに一つ言っときたいことがあるの」

 

霞は笑みを浮かべ、再度口を開く。

 

「……ありがとう。あんたのおかげで、私はまた友達を失わずに済んだわ」

 

「霞……」

 

「ほらっ、いつまでも落ち込んでないで。あんたらしくもないじゃない」

 

「そうよね。…落ち込んだままの姿を見せて、みんなを心配させるわけにはいかないからね~」

 

真理恵は立ち上がると、いつもの間伸びた口調で話す。どうやら普段の調子に戻ったらしく、霞は安堵の表情を浮かべる。

 

「そうそう。今回の歓迎会についてなんだけど、…詳細はこれに書いてあるわ」

 

霞は持って来た書類を真理恵に渡す。

 

「おぉ~!今回はどんな料理が食べられるのかしら~。楽しみだわ~!」

 

真理恵が感嘆の声を上げながら見ている書類の内容。それは本日行われる横須賀鎮守府最大のイベントについてだった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

一方その頃、エクスは命令違反により絶賛謹慎中だった。

 

「………」

 

ベッドの上で寝返りを打つ。その際、解いた髪が顔にかかって鼻をくすぐり、思わずくしゃみが出そうになる。しばらくそれを耐えてから、ゆっくりとベッドから起き上がる。

 

「…ふう。1歩も外に出ないって、こんなに辛いものだったのか……」

 

自分以外誰もいない部屋で、何もせず丸1日自室に籠った感想をこぼす。その言葉は部屋のいたるところに吸収され、すぐにしんと静まり返る。

 

周りを見渡すと、扉の左側に置かれた棚が目に入る。

 

「…そういえば」

 

エクスは立ち上がり、棚に近づく。その棚には本がたくさん並べられていた。

 

「鳳翔さんが用意してくれた本がこんなにあったんだった。このまま何もしないでいるよりは、この世界の事を調べていた方が良いかもしれない」

 

彼女は早速ある本を探し出す。お目当ての本はすぐに見つかった。

 

「あったあった。たぶんこれが地図帳だな」

 

本棚から地球世界全体の地図が描かれている地図帳を取出し、ベッドに腰掛ける。

 

因みにエクスはこの世界に来てしばらくしてから日本語を書く事、読む事、そして話す事ができる事に気付いた。これは彼女が”召喚”された事が影響していて、召喚対象が術者の言葉を理解できるのと同じ理屈であった。

 

「…これは。意外と狭いな、この世界は…」

 

世界地図が描かれたページの端にはこの惑星に関する情報が数値で記載されていた。この惑星の全周は、前世界のたった5分の2程度しかなかった。

 

「……ん?」

 

地図のある部分に注目する。顔のようにも見える巨大な大陸のすぐ東側に、4つの大きな島からなる弧状列島があった。彼女の目は、その弧状列島のすぐ横に記載された3つの文字へと向く。

 

「日本国?たしか清霜が言ってたな…。ここは日本国だって…」

 

清霜と最初に会った日に、彼女に尋ねた自分の居場所。彼女が言った場所の名前は、この弧状列島を領土とする島国で間違いないだろう。

 

(…あれ?この島の形状は…?それに”日本国”という名前…初めて聞く名前ではない気がする…)

 

見覚えのある島の形状、聞き覚えのある国名。彼女は自分の記憶から似たようなものがないか探し出そうとする。

 

コンコンッ

 

「エクスさん!入っていい?」

 

その最中、自室の扉をノックする音が聞こえ、次にはノックをしたと思われる者の声が扉越しに聞こえてきた。

 

「その声は清霜?どうぞ入って」

 

『おじゃましまーす』

 

入室を促すと、清霜以外にも神風姉妹や天龍姉妹、夕立、古鷹、そして古鷹によく似た格好の少女が入ってくる。

 

「どうしたんだ、そんなに大勢で?」

 

「みんなエクスさんに会ってお話したいんだって。本当は艦娘みんなが会いたいって言ってたんだけど、さすがに全員で行くのは失礼だからって清霜たちが選ばれたんだよ」

 

「み、みんなって…。そんなに私って有名?」

 

「うん。昨日の事もあるけど、青葉さんの新聞にエクスさんの事が書かれていたからね」

 

エクスは昨日の青葉の取材を受けた時の事を思い出す。

あの時の取材を元に作成された記事の載った新聞が本日の朝、掲示板にでかでかと張られていた。鎮守府所属の艦娘たちはそこでエクスが異世界から来た艦娘という事を知り、誰もが是非とも会って話してみたいと思っていた。

 

「そっか。…ところで昨日会った人たちが大半みたいだけど、そこで寝ている人は誰ですか?」

 

エクスは古鷹の隣にいる一人の少女に視線を向ける。その少女は口から涎を垂らし、立ったまま眠っていた。

 

「はぁ~…、ほら加古、着いたわよ。いい加減起きて」

 

古鷹は一度溜息を吐くと、少女の体をゆすって起こそうとする。

 

「んぁ…?何?ご飯の時間?」

 

古鷹は寝ぼける少女の頭に軽くチョップする。

 

「いつっ!…う~、もうちょっと優しく起こしてよ古鷹~!」

 

涙目で頭を押さえながら少女は古鷹に文句を言う。

 

「ちゃんと起きないからでしょ。ほら、こちらの方がエクスさんよ」

 

「ん~。この人が噂の?」

 

加古と呼ばれたその少女は、未だに眠たそうな表情でエクスをまじまじと見る。

 

「ど~も~、あたしは古鷹型重巡の2番艦『加古』ってんだ~。よろしく~」

 

「あ、はい。魔導戦艦『エクス』です。よろしくお願いします」

 

間延びした声で挨拶する加古に、エクスも同じく自己紹介する。

 

「ふぁ~、寝み…。じゃ~挨拶も済んだことだし、昼寝したいからベッド借りるよ~」

 

「…へ?」

 

「ちょっと加古!迷惑でしょ!やめなさい!」

 

古鷹の制止も聞かず、加古はエクスの横を通り過ぎ、ベッドで横になる。ものの数秒で彼女は寝息を立て始めた。夕立がエクスに彼女について補足する。

 

「加古さん、いつも眠そうにしていて、場所も時間も関係なく人前でも平気で寝ちゃう人っぽい。あんなふうに他の人のベッドに潜り込む事も1度や2度ではないっぽい。さっきも寝ながらここまで歩いてきたっぽい」

 

「……」

 

エクスは加古の行動に唖然とし、ただ突っ立ったままだった。

 

「ご、ごめんなさいエクスさん。妹がご迷惑を…」

 

「え、だ、大丈夫ですよ。元気な妹さんですね…」

 

「あれは元気って言わねぇだろ」

 

天龍がエクスのベッドで眠っている加古を見ながらツッコむ。

 

「と、とにかく立ち話もなんですし、皆さんどうぞ座ってください」

 

腰を下ろすように言われて床に座る一同。全員が座ったところでエクス自身も床に座る。最初に清霜が話し始める。

 

「そうそう、エクスさん。司令官から伝言なんだけど、もう謹慎は終わりだって」

 

「本当?やっと外に出られる~」

 

窮屈な時間からようやく解放されたような気分になり、エクスは両手を組んで天井に向けて伸ばした。

 

「ふふっ、エクスさんは実体化してからまだそれほど時間が経っていませんものね。結構きつかったと思いますが」

 

「そうですね。実体のない船魂だった頃には窮屈という感覚自体ありませんでしたから。これが肉体を持つ事と、持たない事の違いなんでしょうね」

 

ここで天龍がエクスに話しかける。

 

「エクス。昨日の事なんだけどよ、改めて礼を言わせてくれ。清霜を助けてくれて、本当にありがとな」

 

礼を述べる天龍に、エクスは首を振る。

 

「いいや。むしろ素人の私のせいで、下手すればみんなに被害が出ていたかもしれないんだ。…本当にごめん」

 

エクスはその場にいる全員に向けて頭を下げる。それを見た春風が彼女をなだめる。

 

「そんな事言わないでください。私たち、エクスさんにはとても感謝しています。あの時はあなた以外では間に合わなかったかもしれないのですから」

 

「そうだよ!清霜も、あの時エクスさんがいてくれて本当によかったと思ってるよ!だから助けてくれてありがとう!」

 

「…うん。ありがと。そう言ってくれると私も助かるよ」

 

エクスは笑みを浮かべ、春風と清霜の頭を順番に撫でてあげた。

 

「あっ、そうだった!司令官からエクスさんにもう一つ伝言があったんだ!」

 

その時清霜が何かを思い出し声を上げる。

 

「ん?何?」

 

「今日の夜、エクスさんの歓迎パーティーをやる事になったんだよ。だから必ず参加してね!」

 

「歓迎パーティー?」

 

首を傾げるエクスに、古鷹が補足する。

 

「ここ横須賀鎮守府では、新しい艦娘が来た時に必ず歓迎会を開くことになっているのですよ。これ、提督さんのアイディアなんです。歓迎会を通じて新しく来た子に鎮守府に慣れてもらうと同時に、歓迎する側の子たちもその子とたくさん接する機会を設けようって」

 

「へぇ~、その歓迎会って、どんな特徴があるのですか?」

 

ここで他の艦娘たちも話題に加わる。

 

「やっぱ料理がいつもと違う事だよな。あの居酒屋『鳳翔』の美味い料理!たくさん食えると思うと今から楽しみで仕方ねぇ~」

 

「もう、天龍ちゃんったら涎が出てるわよ~」

 

「夕立も!鳳翔さんのご馳走が今から楽しみで仕方ないっぽい!」

 

「もう、皆さんったら。あくまでエクスさんの歓迎が目的なんですから~」

 

艦娘たちが楽しみにしているのも無理はない。

ここ横須賀鎮守府に所属する軽空母『鳳翔』。彼女が本業以外に居酒屋を経営していることは以前の話にも出た通り。そこで出される彼女の料理はどれも絶品であり、彼女の料理を堪能しようと、店には艦娘や鎮守府所属の憲兵、職員、さらには多くの一般人も訪れる。そのため数ヶ月先まで予約で一杯となり、また店の方が忙しく、彼女が食事当番となる事も滅多にないため、彼女の料理を味わう機会は艦娘はおろか、提督であろうとほとんどなかった。

故に新しい艦娘が着任する毎に行われる歓迎会では、どうしても彼女の料理に関心が行ってしまうのであった。

 

「数日前に鳳翔さんから居酒屋の事を聞きましたけど、皆さんの話を聞いてると…ますます食べてみたいですね」

 

いつの間にか自身の口から涎が出かかっていることに気付き、慌ててハンカチで拭き取るエクス。彼女も頭の中は色とりどりで美味しそうな料理で一杯だった。

 

「食べたらきっとエクスさんもあまりの美味しさに飛び上がっちゃうよ!」

 

「あはは。そっか。今からとても楽しみだよ」

 

その後は目を椎茸にした神風の質問攻めに遭ったり、いかにも怖そうな仕草で「ふふっ、怖いか?」と言ってきた天龍に対し、「いや、全然」と正直に答えてしまい落ち込ませてしまったりと色々あったが、あっという間に歓迎会の時間が近づいてきた。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

横須賀鎮守府 大食堂

 

 

歓迎会が始まる少し前、エクスたちはこの鎮守府でも一際広い大食堂の入り口前に来た。閉められた扉の向こう側から暖かな光が漏れ、大勢の人々の話し声やテーブルに食器を置く音が聞こえてくる。

 

「じゃあ、エクスさん。清霜たちは先に入ってるから少しだけ待ってて。合図があったらこの扉から入って来てね?」

 

「?ああ、分かった」

 

入り口前で待つように言い、先に大食堂へと入っていく清霜たち。彼女たちの意図が分からなかったが、大人しく待つことにした。

 

しばらく待つと、中から聞こえてきた音が一切なくなり、しんと静まり返った。

 

『エクスさん!いいよ、入って!』

 

清霜の大きな声が扉越しに聞こえてきた。どうやら準備ができたようだ。

 

「…よし」

 

一回深呼吸してから、少し緊張気味に扉を開ける。扉の向こうの光が、しだいに広がっていく。

 

パンパンパンッ!

 

「ひゅう!!?」

 

扉を開けた瞬間、無数の破裂音が部屋中に響き渡る。驚きのあまり縮こまるようにしてその場にしゃがむ。

 

『ようこそ!横須賀鎮守府へ!!』

 

大食堂にてエクスが入ってくるのを待ち構えていた大勢の人々。艦娘以外にも憲兵や職員などもいて、その数は実に100人以上にも上る。妖精たちも加えれば、もっと多くなる。

そのほとんどが例外なくクラッカーを持ち、集団の中央にいる一部の人は『横須賀鎮守府へようこそ!』と書かれた横断幕を掴んでいた。

 

「…え?何これ?」

 

「艦これ」

 

「そのネタはいいから」

 

しゃがんだままの状態で疑問を口にするエクスの側に、霞にボケを突っ込まれた真理恵が手をヒラヒラさせながら近づいてくる。

 

「やっほ~、エクスちゃ~ん」

 

「提督?」

 

「どうだったかしら?なかなかのサプライズだと思ったけど」

 

「これは一体…?」

 

「ここでは新しく来た子には必ずこうして皆で盛大に迎え入れる事になっているのよ。驚かせちゃってごめんなさいね?」

 

真理恵はエクスの手を掴んで立ち上がらせると、くるりと皆の方を向く。

 

「みんな。この子が新しく鎮守府にやって来た仲間、戦艦『エクス』さんよ。…じゃあエクスちゃん、いきなりで悪いけどあいさつをお願いできるかしら?みんなあなたの事情は知ってるから、異世界から来たと言っても問題ないわよ」

 

「え、あっ、はい!分かりました!」

 

エクスは真理恵の一歩前に出て、ミリシアル海軍式の敬礼をする(形は日本のものと大して変わらない)。

 

「異世界から参りました。神聖ミリシアル帝国、第零式魔導艦隊旗艦、魔導戦艦『エクス』です。本日はこのような会を開いて頂き、ありがとうございます。私にとってこの世界は全く未知の世界ですが、皆さんと協力し合いながら頑張っていこうと思います。よろしくお願いします!」

 

直後、盛大な拍手が彼女を包み込む。自分がその中心にいる事に、ちょっぴり照れ気味になる。

 

「さぁ!始めましょう!」

 

真理恵が手を叩いて歓迎会開始を宣言する。艦娘や女性職員の何人かがエクスの元に近づき、彼女を連れて料理がたくさん並んだテーブルへと向かった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

こうして始まった歓迎会。艦娘も人間も妖精も関係なく、そこにいる全員が宴を楽しむ。

 

「おいしい…!!」

 

テーブルに置かれている色とりどりの料理。その中から海老の天ぷらを選び、ぎこちない箸使いで口へ入れる。衣のサクサク感と海老のぷるっとした食感が口の中に広がり、思わず表情が緩む。

 

「ふふっ。どうですか?エクスさんにとって初めての和食ですが」

 

側であまりにも美味しそうに食べるエクスに、鳳翔は朗らかな笑顔で尋ねる。

 

「はい、とっても美味しいです!世の中にこんなにおいしいものがあったなんて!」

 

「うふふ。気に入っていただけて私も嬉しいですよ」

 

若干興奮気味に感想を言うエクス。鳳翔はテーブルに置いてあった小皿を持つと、そこに別の皿に入っている揚げ出し豆腐をいくつか入れる。

 

「こちらなんてどうでしょうか?『揚げ出し豆腐』という名前ですが。こちらはそのままでも醤油をかけて食べてもおいしいですが、私のお店ではこうして食べるのがお勧めですよ」

 

鳳翔は説明しながら小皿に入った揚げ出し豆腐に温かいめんつゆを半分浸かる程度入れ、上から大根おろしとネギ、おろし生姜をトッピングしてエクスに差し出す。

 

口に入れると豆腐の柔らかい食感と大根おろしの苦味、生姜のぴりりとした感覚が舌を刺激し、続けて衣から温かいめんつゆが溢れてくる。

 

「~~~!」

 

あまりのおいしさに言葉にならない声を上げる。

 

「どうでしょうか、エクスさん?」

 

「はいっ!これもすごく美味しいです!」

 

「ふふっ。それはよかったです」

 

その後も鳳翔から様々な料理の説明を受けながら、エクスはそれらに舌鼓を打つ。そこへ近づく2人の駆逐艦娘。

 

「やっほ~!鳳翔さん!エクスさん!」

 

「あら、陽炎さんに不知火さん」

 

その2人の内、狐色の髪を大きめの黄色いリボンでツインテールにした少女が明るい声で話しかける。それに気付いた鳳翔が2人の名前を呼び、彼女たちの紹介をする。

 

「エクスさん。こちら、陽炎型駆逐艦の1番艦『陽炎』さんと2番艦の『不知火』さんです」

 

「陽炎よ!よろしくね、エクスさん!」

 

「…不知火です。よろしくお願いします」

 

明るく快活にあいさつする陽炎と、ドライな雰囲気でお辞儀をする不知火。

 

「も~、ぬいぬい!そんなに肩っ苦しくしないで、もうちょっと明るくあいさつしなよ!」

 

「そのぬいぬいと呼ぶのはやめてちょうだい」

 

「陽炎に不知火か。戦艦『エクス』です。よろしく」

 

互いに自己紹介を終えたところで、陽炎がにっかりと笑いながら手に持っている皿をエクスに差し出す。

 

「はいっ、エクスさん!」

 

「?これは…?」

 

見たところスープに見えるその料理に、エクスはきょとん顔で尋ねる。

 

「これはクラムチャウダー。あたしの得意料理のひとつなんだ!歓迎会の時は必ず作って、新しく来た人に食べてもらっているの。味には自信があるから、エクスさんもどうぞ食べてみて!」

 

「うん、いただくよ」

 

陽炎からクラムチャウダーを受け取り、一緒に受け取ったスプーンで一口すする。

 

「どお、どお?おいしい!?」

 

「あぁ。陽炎は料理が上手なんだな」

 

「えへへ、さーんきゅ!」

 

褒められた陽炎は若干照れた様子で喜ぶ。

 

その後しばらく鳳翔と加えて4人で話をしてから、他のテーブルへと移動する。

 

「…お、あれは」

 

焼き鳥と言う料理が置かれているテーブル。そこに群がる駆逐艦娘の中に、昼ごろ自分のところへやって来た夕立がいることを確認する。

 

「夕立」

 

「あっ、エクスさん!」

 

声を掛けられた夕立は食べる手を止めてこちらを向く。彼女と同様に周りの駆逐艦もこちらへと顔を向けた。

そのうちの一人が敬礼をしながらあいさつする。

 

「えーと、エクスさんですね?私は特型駆逐艦の『吹雪』です。よろしくお願いします!」

 

「こちらこそよろしく、吹雪」

 

エクスも彼女に合わせて敬礼する。吹雪の後ろにいる彼女と同じセーラー服の少女たちも、続けてあいさつする。

 

「白雪です。姉の吹雪と同じ特型駆逐艦です。よろしくお願いします」

 

「同じく!あたしは深雪だよ!よろしく!」

 

「初雪…です。…よろしく」

 

「よろしく。4人はみんな姉妹なんだな」

 

「4人だけじゃないよ。他の鎮守府にいる子も合わせると、吹雪ちゃんたち姉妹は、24人もいるっぽい!」

 

「24人!?そんなに姉妹が?」

 

驚くエクスに、吹雪が補足する。

 

「はい。私はその姉妹の長女なんです。…まぁ、狭義で吹雪型と言われる艦は私を含めて最初の10隻ですけどね」

 

「そっか。ところで何で吹雪たちは『特型』と呼ばれるんだ?」

 

「それは私たちが建造された時代に締結されたある条約が関係していたのですが…」

 

吹雪は詳しく説明する。当時締結したワシントン海軍軍縮条約により、主力艦の保有を制限された旧日本海軍は補助艦たる駆逐艦の強化を行った。

特型と言う名前は、睦月型以前の駆逐艦よりも高性能な駆逐艦の建造を要求された艦政本部が立ち上げた『特型駆逐艦対策委員会』の名に由来する。

彼女たち特型は睦月型以前の駆逐艦と比べ、長大な航続距離と高い攻撃力を与えられ、就役時はそのあまりの高性能ぶりに文字通り世界を震撼させた。

 

「まぁ、そのせいで補助艦も制限の対象にされちゃったんですけどね…」

 

あはは…と笑いながら、吹雪は頬を指でぽりぽり掻く。そこに近づく新たな駆逐艦娘たち。

 

「およよ?吹雪ちゃんに夕立ちゃん、エクスさんとお話してるの?」

 

その中で茶髪のショートヘアが特徴の女の子が吹雪たちに話しかける。

 

「あっ!睦月ちゃんに如月ちゃん!それに江風ちゃんと山風ちゃんも!」

 

先ほど話に出ていた睦月型の1番艦『睦月』と2番艦『如月』、そして夕立の姉妹艦である白露型8番艦『山風』と9番艦『江風』である。先に夕立が妹たちの紹介をする。

 

「エクスさん。この2人が夕立の妹の山風と江風だよ!」

 

「夕立の姉貴が昨日の戦いで世話になったんだってな。白露型9番艦の『江風』だよ。よろしく頼むぜ!」

 

「戦艦『エクス』です。よろしく」

 

活発そうな雰囲気の江風。一方、山風と呼ばれた緑髪と犬耳のような黒いリボンが特徴の少女は、姉の夕立の後ろにそそくさと隠れる。

 

「ほら、今度は山風の姉貴の番だぜ。隠れてないであいさつしなよ」

 

あいさつを終えた江風が促すが、山風は首をフリフリと振る。

 

「…あたしはいいよ、別に…。江風、あなたがやったら…?」

 

「いや、あたしは今やったじゃん…。あいさつくらい自分でやれよ…」

 

「ほら、山風。ちゃんとするっぽい」

 

夕立と江風に促され、山風はしぶしぶと言った感じでエクスにあいさつする。

 

「白露型8番艦…『山風』……です。これでいい…?」

 

「え?あ、あぁ…。よろしく、山風」

 

あいさつを終えた山風は、エクスの言葉にそれ以上耳を傾けることなく、お目当ての焼き鳥が置いてあるところへ移動し、それらを黙々と食べ始めた。

 

「恥ずかしがり屋なのかな、あの子は?」

 

「あ~、気にしなくていいぜエクス。山風の姉貴はいつもあんな感じだからよ」

 

(…というよりあの子がこの子の姉なのか…。最初見たときは妹かと思った…)

 

白露姉妹の紹介が終わったところで、続けて睦月と如月がエクスの前に来る。

 

「こんにちは~。睦月型駆逐艦1番艦『睦月』です!こっちは妹の…」

 

「『如月』と申します。よろしくお願いますね、エクスさん」

 

「こちらこそよろしく。睦月、如月」

 

するとここで何かに気付いたのか、吹雪が睦月姉妹に話しかける。

 

「…あれ?睦月ちゃん、如月ちゃん。卯月ちゃんは?」

 

「…およ?そういえば卯月ちゃんがいないね。どこに行っちゃったのかにゃ~?」

 

「…卯月?」

 

「この鎮守府にいるもう一人の姉妹の名前です。さっきまでいたはずなんですけど…」

 

周りをキョロキョロと見る睦月と如月。

その時、背後からエクスにゆっくりと近づく人影が…。

 

「ぴょん!!!」

 

「ひゃうん!!?」

 

「!!?」

 

突然後ろから聞こえてきた大声に、エクスは可愛らしい声を上げて驚く。吹雪たちも体をビクッと震わせる。

 

「やったやった!大成功だぴょん!」

 

その反応を見てぴょんぴょんと跳ねながら喜ぶ1人の少女。

 

「い、いきなり驚かすな…!」

 

人を驚かしときながら全く反省していないその少女に若干イラッとしたエクスは、語気を強めて抗議する。

 

「ちょっと卯月ちゃん!失礼でしょ!」

 

「やめてくれ、卯月!心臓に悪いじゃねーか!」

 

「えへへ。ごめんぴょん、みんな」

 

睦月や江風に卯月と呼ばれた少女は、笑いながら謝罪をすると、エクスに自己紹介を始める。

 

「今話題に出てた睦月型駆逐艦の『卯月』で~す!よろしくぴょん!」

 

「せ、戦艦『エクス』です。…お願いだから後ろから驚かすのはやめて欲しいのだけど…」

 

「あははっ、ごめんぴょん。でもエクスさんの可愛く驚くところが見たかったんだぴょん」

 

「へ?それってどういう事?」

 

「言葉通りの意味だぴょん。青葉さんの新聞に驚いてるエクスさんの写真が載ってたから、司令に聞いたらエクスさんは驚かされるのにすごく弱い人だって言ってたぴょん」

 

そう言って卯月は持っていた新聞をエクスに渡す。それは本日発行された青葉の新聞だった。

 

「!?」

 

エクスはその内容を見てぴしりと凍る。新聞の見出しには、艤装の性能試験で海中から出てきた標的に驚き、目をつむって縮こまっているエクスの写真が載っていた。見出しのタイトルは、『エクス「私、異世界でも頑張っちゃうぞ☆」』である。

 

(こ、この場面は…。それに何だこのタイトル…?)

 

見る見るうちに顔を赤くしていくエクスの横で、卯月は新聞を覗き込みながら話を続ける。

 

「いや~、朝も見たけど驚き方が本当に可愛いぴょん。み~んなこれを見て可愛い可愛いって話をしていたぴょん」

 

「な、何だかすごく恥ずかしくなってきた…。お願いだからそれ以上…言わないで…」

 

「何でぴょん?エクスさんが可愛いのは事実だぴょん!」

 

恥ずかしさのあまり、新聞を持つ手がガタガタと震える。

 

「さっきの驚き方だってとっても可愛かったぴょん。司令の言ってた通りだぴょん!」

 

「う、卯月ちゃん。もうその辺にしてあげて…ね?」

 

「そ、そうだよ。エクスさんのライフはもう零っぽい~」

 

見かねた睦月と夕立が卯月を止めに入るが彼女は止まらない。どうやら本人はエクスの反応があまりにも面白いと思ったらしく、きしししっと笑いながらさらに追撃してきた。

 

「こっちの写真も見るぴょん。エクスさんが妖精と戯れているところだぴょん。笑顔がとっても可愛いぴょんね~」

 

(…た、頼むからもうやめてーー!!)

 

顔だけでなく全身を真っ赤に染めて、心の中で叫ぶエクスだった。

 

 

To be continued...

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