零これ   作:Woudy

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番外編 懐かしい夢

 

 

「……隕石?」

 

ある家庭の夕食。父親の話に首をかしげる少女。その隣にいる少女の弟と思われる幼い少年は、父親の話にまるで興味がないのか、口の周りを汚しながら目の前の料理を食べ続けている。

 

「そうだ。今日政府から重大発表があった。今この星に隕石群が接近してきていてな、軌道計算が行われたところ、半年後にはこの帝国に衝突する可能性が高いらしい…」

 

少女は水晶でできた薄型の動画放送機を見る。ちょうど父親が話している話題に関するニュースが流れていた。画面ではこの国の国家元首である皇帝が国民に向けて何かを伝えているが、その内容を理解するにはまだ少女は幼すぎた。

 

「…あなた、それじゃあここにも隕石が落ちてくるの?」

 

少年の口周りを拭いてあげながら不安そうに話しかける母親。父親はそんな母親や少女たちを安心させようとにっこりと微笑む。

 

「なーに、心配はいらない。すでに政府が有効的な対策を打ってある。仮に衝突する場合はそれで逃げる事になる」

 

「何なの?その対策って?」

 

「自国領全域に結界を張り、この帝国をまるごと未来に転移させるとの事だ。迎撃も考えられたが、火力が足りないという事で結局没になったみたいだがな」

 

「国ごと未来へ…?そんな大規模な転移魔法、今まで聞いたことがないわ。いくら私たちの魔力が大きいって言っても、そんな事が本当に可能かしら?」

 

「実際にやってみないことには分からんだろうな…。だが、どの道そうしないとこの国は滅ぶし、私たちも全員死ぬだけだ」

 

「……」

 

母親は少女と少年を交互に見る。

 

「…?どうしたの、お母さん?」

 

目が合った少女は、きょとんとした顔で母親に聞く。

 

「…ううん、何でもないわ」

 

母親は首を横に振り、少女の頭を優しく撫でる。

 

「さ、食べ終わったなら2人共部屋に戻りなさい」

 

既に少女と少年の皿にのっていた料理は、全て2人の腹の中に納まっていた。

 

「うん!ごちそうさま!」

 

「…ごちそうさま」

 

少女はそう言って椅子から立ち上がり、自室へと走って行く。少年も歩いて彼女に続く。ダイニングルームを出たところで後ろを振り返ると、両親が何か話しているようだった。

 

(お父さんもお母さんも、何を話してるんだろう?さっきの隕石の事かな…?)

 

「……お姉ちゃん、何してるの?早く行かないの?」

 

立ち止ったままの少女に追いついた少年が怪訝な表情で尋ねる。ハッと我に返った少女は首を横に振る。

 

「ん~ん、何でもないよ」

 

そう言って少女は再び走り出すのだった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

それから半年後。

その日、少女は弟と一緒に公園の砂場で遊んでいた。

 

「む~~!トンネル掘りたいけど山が崩れちゃうよ~」

 

「…だったら水で固めればいいんじゃない?」

 

作った砂山にトンネルを掘ろうとするが上手くいかず、次第に苛立ち始める少女。そんな彼女に少年が提案する。

 

「あっ、そっか!じゃあ水を出すね!え~と、確かこうやって…」

 

少女は母親から教わった水魔法を使うため、砂山のすぐ横の地面にすぐ近くに落ちていた枝で簡単な魔法陣を描き始める。

 

「何だって!?それはどういう事だ!?」

 

「「…!!?」」

 

その時付き添いで来てくれた父親が、板状の魔導端末(現代地球で言うスマホのような物)で誰かと話している最中に突然大声を張り上げる。

 

驚く少女と少年を横目に、父親は相手と話を続ける。その様子は焦燥感に駆られている様にも見えた。

 

「どうしたの、お父さん?」

 

少女はおそるおそる聞くと、電話を切った父親が立ち上がり、彼女と少年の手を掴んで歩き出す。

 

「お、お父さん!?」

 

「…あ…山まだできてない…」

 

少年は砂山を名残惜しそうに見る。

 

ある程度歩いたところで、ようやく父親が口を開いた。

 

「2人とも、急いで家に帰るぞ!」

 

「えっ!?どうして!?まだ空はこんなに明るいよ!」

 

「すまん、時間がないんだ。急ぐぞ!」

 

そう言うと父親は、小さい2人の子供を落ちないように両脇に抱えて浮遊魔法を発動させる。魔力でできた光が翼を思わせるような形状になった時、3人の体が宙に浮く。親子は他の家などの障害物を乗り越え、文字通り一直線に家へと向かった。

 

 

 

――――

 

 

 

家に着いた後、父親はすぐに母親と何かを話し始めた。おそらく先ほどの電話に関する事だろうが、まだ幼い少女には、2人が話している内容までは分からなかった。

 

「…お父さん、お母さん」

 

父親から話を聞いた母親はみるみる顔を青くしていき、慌てて何処かへ向かった。父親も2階へと駆け上がっていく。

両親の行動に疑問を持ちながらしばらく待つと、大きめのリュックサック2つが少女と少年の前に出された。それは少女と少年がこの間旅行で使った物であった。

 

「…このリュック、私が旅行で使ったやつだよね?どうして持って来たの?」

 

「この中には日用品や便利な魔法具とか…必要なものが入っているわ」

 

首をかしげる少女に母親がリュックの中身を説明する。

 

「さぁ、2人とも。外に出よう」

 

父親は暖かい笑みを浮かべて自分の子供たちの頭を優しく撫でる。―その脇に丸められた大きな紙を抱えながら。

 

 

 

――――

 

 

 

少女と少年はリュックを背負い、両親と共に再び外に出る。

 

父親は少し待つように言うと、抱えていた紙を地面に広げる。それに描かれているものを見た少女は目を見開いた。

 

「…これ、魔法陣?」

 

両親から教わったどの魔法陣にも当てはまらず、少女はその魔法陣がどういった魔法に使われるのか分からなかった。

 

やがて準備を終えた両親が、子供たちに魔法陣の中央へ移動するように言う。言われた通り中央へ移動したところで、母親が2人を強く抱きしめた。

 

「……ごめんね」

 

「お母さん?」

 

いきなり抱きしめられて驚いた少女は横目で母親を見る。彼女の頬には涙が流れていた。

 

「お母さん?…どうして泣いてるの?」

 

「……もっとあなた達に…母親らしい事をしてあげたかった」

 

涙声でそう言いながら、まるでこの温もりを絶対に忘れないと言わんばかりに少女と少年をさらにきつく抱きしめる母親。母親のこの行為が、今生の別れを意味しているのを子供心ながら理解できた少女は、目に涙を浮かべる。

 

「……いやだ。どうしてそんな事言うの…?」

 

「…いいか、よく聞きなさい。ここにもうじき隕石が落ちてくる。だからお前たちを別の世界へ逃がす」

 

父親が母親に抱かれている子供たちの側に近づき、その場にしゃがむ。

 

「なんで!?みんなで一緒に未来へ行くんじゃなかったの!?」

 

「……」

 

少女の叫びに、父親は目をそらして黙り込む。その様子から少女はある答えに行きつく。

 

「…失敗しちゃったの?」

 

少女の問いに、父親はゆっくりと頷く。

 

「…そうだ。今からどこか遠くに逃げる時間さえない。だから転移魔法でお前たちだけでも逃がす事にしたんだ」

 

「なんで!?どうして私たちだけなの!?お父さんとお母さんも一緒に逃げようよ!!」

 

泣き叫ぶ少女に、父親は首を横に振った。

 

「残念だが転移魔法はたくさん魔力を消費する魔法でね。お前たち2人だけを転移させるのが精一杯なんだ」

 

「いやだ!お父さんとお母さんが行かないなら、私も残る!一緒に死ぬ!!」

 

「……すまない。お父さんもお母さんも、出来れば最後までお前たちと一緒にいたい。…でも2人には生きてほしいんだ。お願いだ…お父さんとお母さんの言う事を聞いてくれ」

 

「いやだ…!いやら…!!」

 

少女は首を強く振る。少年も少女の横で母親に抱かれながら泣いていた。

 

「……これから行く世界で辛い事もたくさんあるかもしれない…」

 

「…でもいつか…必ずあなたたちを大切に思ってくれる優しい人たちに出会えるから…!」

 

魔法陣がほのかに白く光り始める。どうやらいつの間にか魔法を発動させていたようだ。両親は誤って自分が転移しないよう、魔法陣の外に出る。

 

「お父さん!お母さん!」

 

少女は2人を逃がすまいとその腕を掴もうとするが、魔法陣からの光が一気に強くなり、2人の姿が見えなくなっていく。あまりの眩しさに目をつぶる。

 

「〇〇〇!■■■!…大好きよ!」

 

「〇〇〇!■■■!…生きろ!!」

 

光に包まれた周囲のどこからか、両親が自分と弟の名を叫ぶ声が聞こえてくる。それがどこからなのか、もう少女には分からなかった。

 

やがて世界の全てが白に染まり、少女の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「―――……んっ」

 

机に突っ伏して寝ている女性がゆっくりと目を開く。目に入って来たのは執務室と思われる部屋だった。

 

「…あ、あれ?ここは?」

 

「あら、起きたの?」

 

後ろから声が聞こえてきたので振り返ると、女性に毛布を掛けようとしていた一人の少女がいた。

 

「……霞?」

 

その少女は、女性の秘書艦である駆逐艦『霞』だった。

 

「あら珍しい。カスミンって呼ばないんだ」

 

「……」

 

「どうしたの黙りこくっちゃって…?なんか変な夢でも見てたの?」

 

夢。その言葉で女性は現実へと引き戻される。

 

「…ううん、変ではないわ」

 

女性は首を振る。

 

「とても…懐かしい夢だった…」

 

「そう…」

 

霞は笑みを浮かべると、女性の横に移動して毛布を渡す。

 

「…もうちょっとだけ寝る?昨日から寝ないでずっと仕事していたでしょ?残りは私がやっておくから、ちゃんとベッドで寝てきなさい」

 

「ありがとう、そうさせてもらうわ。後はこの書類だけだから、お願いするわね?」

 

「えぇ、任せなさい」

 

女性はまだ処理が済んでいない書類を霞に渡し、受け取った毛布を抱えて執務室を出る。

 

誰もいない廊下で、女性は古びたペンダントを懐から取り出す。ペンダントを開くと、そこには夢に出てきた父と母、そして弟と一緒に映っている幼いころの自分。

 

「お父さん、お母さん…」

 

魔写で撮られたその写真を見て、女性は微笑みを浮かべる。

 

「ありがとう…」

 

女性ーーー横須賀鎮守府提督『梶ヶ谷 真理恵』はペンダントをしまうと、仮眠室に向かって歩き出した。

 

 

To be continued...

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