零これ   作:Woudy

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今回は魔導戦艦「エクス」の妹「カリバー」と、従姉(準同型艦)の「バリアント」のお話です。


番外編 エクスの妹

 

 

日本国 舞鶴鎮守府 医務室

 

 

肉薄する敵機。迫りくる謎の航跡。その後襲ってきた激しい揺れと痛み。船体(からだ)が前後に割れる感覚。海中に引きずり込まれ、沈んでいく自分の船体(からだ)――――それ以降の事は何も覚えていない。

 

(…あぁ、そうだ。意識がなくなる前に誰かが私やみんなを呼ぶ声が聞こえてきたような…。え~と、誰の声だっけ…?)

 

だめだ、全く思い出せない…。……そんな事よりここは海の底なのだろうか?海の底ってこんなに温かいものなのかな?…いや、なぜか違う所にいるような気がする。少なくとも、水の中ではない事は分かる。

 

(何というか…上から何かをかけられて横になっているような感覚ね)

 

ふと私は今目をつむっている事に気付き、ゆっくりと目を開けてみた。

 

「……へ?」

 

思わず素っ頓狂な声が出る。目の前に広がっていたのは、見たことない部屋の中だった。

 

「どこ、ここ?なんで私こんなところにいるの…?」

 

最初は天国にでも来てしまったのかと思ったが、部屋はそういったイメージとはかけ離れていた。

 

周りをキョロキョロと見ていると、視界の端に自分の手が映る。両手を自分の目の前に持っていき、まじまじと見る。するとある事に気付く。

 

「…あれ?透けてない」

 

本来船魂の体は幽霊のごとく透けている。…しかし今はまるで実体化でもしたかのように、私の両手は明確にその場に存在しているような気がした。

 

「…いやこれ、どう見ても実体化してるじゃない…」

 

試しに両手を開いたり、握ったりしてみる。握った瞬間、指先と手のひらが触れる感覚があった。

それは船魂とって絶対にありえない事象……私は信じられない気分になり、これは夢なんじゃないかと頬を抓ってみる。

 

「いててて…。痛みがある。夢じゃないみたい…」

 

私は実体化したと言う事実を未だ受け入れられないまま、上半身を起こす。

 

「…温かいものの正体はこれだったのね」

 

掛布団の端をつまみ、目の前に持っていく。どうやら私はこのベッドの上に寝かされていたようだった。

 

ベットから起きて立ち上がると、すぐ隣にあった大きめの鏡に全身を映す。暗い青色の髪も、体のどこを見ても、透けている部分はかけらも見当たらなかった。服装は船魂の頃のものではなく、寝間着と思える服を着ていた。

 

「ははっ、すごいや。…私、本当に実体化している」

 

体のいたる所に触れてみて、私はようやく今の状態の自分を受け入れる。

 

鏡に背を向け、反対側に置かれた机を見る。するとその机の上に何かが置かれているのを確認する。それは円柱と皿を組み合わせ、皿の上に正四面体の青い水晶を乗せたような物体だった。

 

「…?何これ?」

 

手に取ってみると、何処か自分にとって深く関係するような気がしたそれには、見覚えのあるものが表面に刻まれていた。

 

「これ、魔導回路じゃん!…なんなのこの物体?」

 

ふと皿と円柱が繋がっている反対側の部分に、何かを挟む大きめのクリップを見つける。ここで私はある事を思いつく。

 

「……もしかして」

 

私はその物体のすぐ隣にあったゴムで髪をポニーテールで纏め、ゴムで縛った部分にゆっくりとクリップで挟んでみた。するとどうだろう。カチリという音と共に、ポニーテールの付け根にクリップが綺麗に挟まり、簡単には取れにくくなった。

 

「これ、こうやって使うんじゃないかな…?」

 

もう一度鏡で自分の姿を確認し、呟く。持った時はそれなりに重かったはずだが、付けた途端不思議と重量感は感じられなかった。

 

「……ちょっと外に出でみますか」

 

私はここがどこなのか確かめるため、部屋の外へ出る事に決めた。扉を開けると、そこは廊下だった。左右両側とも長大な廊下が続いており、等間隔に部屋への出入り口らしき扉と外を一望できる窓が設置されていた。

 

「!」

 

私は扉を閉め、外の景色を見ようと窓に近づいてみた。そこはグラウンドだろうか、広大な広場に引かれたトラックに沿って、自分より少しばかり年下の女の子たちが運動服姿でランニングをしていた。

 

「ここって群島のどれかの島なのかな?…いや、軍人しかいないはずだからそれはないか」

 

じゃあ一体ここはどこだろう?私はグラウンドで走っている女の子たちに尋ねてみようと思い、外への出口を探し始めた。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「――すいません、手伝ってもらって」

 

場所は変わって舞鶴鎮守府の執務室。机に座って書類作業をしている、改造巫女服を纏った黒髪ロングの少女が、隣の机で同じく書類作業を行っている黄色髪ポニーテールの少女へ申し訳なさそうに話し掛ける。

 

「いいえ、気にしないでください。今日の書類はたくさんありますし、榛名さんお1人では大変だと思いましたので」

 

声をかけられた少女――――第零式魔導艦隊所属の魔導戦艦『バリアント』は首を横に振る。

 

「でもバリアントさん。あなたは目が覚めてからまだ数日しか経ってないのですよ?あまり無茶はしないでくださいね?」

 

「勿論ですって。榛名さんこそあまり無理をなさらないで、何かあったら遠慮せず仰ってください。私何でも手伝いますよ!」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

微笑みながら、戦艦『榛名』はバリアントから処理済みの書類を受け取り、自分が書くべきところにペンを走らせる。

 

バリアントはその姿を見て微笑み、次の書類を手に取ろうとした。

 

「榛名!バリアントさん!」

 

その時勢いよく扉が開き、榛名と同じ格好の少女が焦った様子で執務室に入ってくる。突然の事に驚く榛名とバリアント。

 

「ど、どうしたの霧島?そんなに慌てて…」

 

榛名が妹艦である戦艦『霧島』に尋ねる。少し落ち着きを取り戻してから、霧島はずれた眼鏡を直しながら口を開いた。

 

「大変です!カリバーさんがいなくなりました!!」

 

「「えぇっ!!?」」

 

驚愕する榛名とバリアントに、霧島はさらに説明する。

 

「先ほど医務室へ向かったのですが、カリバーさんの姿が見当たらなかったのです。ベッドがまだ温かかったため、そう遠くへは行ってないと思いますが…」

 

ガタンッ!という勢いで机から立ち上がるバリアント。

 

「そ、そんな!ど、どうしましょう!!カリバーさんが…!!」

 

「落ち着いてくださいバリアントさん。目覚めてから大して時間は経っていませんから、この鎮守府の何処かに必ずいるはずです。今から放送で、皆に探してもらうよう呼びかけますから」

 

取り乱して泣き始めるバリアントを、榛名は優しく話しかけて落ち着かせる。

 

「霧島。急いで放送で皆にカリバーさんを探すように伝えて」

 

「分かったわ!」

 

霧島は執務室を後にし、放送室へ向かうため駆け出す。

 

「さっ、私たちもカリバーさんを探しましょう。…大丈夫です、すぐ見つかりますよ。だからもう泣かないで、ねっ?」

 

「ぐすっ…はい…」

 

バリアントも榛名と一緒に、居なくなってしまったカリバーを探し始める。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

――やっと玄関らしき場所を見つけ、私はそこから外に出る。上を見上げると雲一つない青い空が広がっており、そこに一つだけ浮かんでいる太陽が、温かい日差しを地上に送っていた。視線を下ろすと、黄色い花に埋め尽くされた花壇が目の前に広がっていて、花の蜜を吸おうと何匹もの蝶がヒラヒラと飛んでいた。

 

「おっ、いたいた~」

 

2つの花壇に挟まれた道を進んだ先に、グラウンドで走っていた女の子たちがいた。どうやら休憩中らしく、その場に座り込み水筒に入っている水を飲んでいた。

女の子たちのうち一人が近づいて来る私の存在に気付き、すくっと立ち上がる。

 

「ん?あいつ、もしかして例の保護された艦娘じゃないクマか?」

 

語尾にクマを付ける独特なしゃべり方をする女の子に合わせ、他の子たちもこちらを見る。…ちょっと、そんな一斉にこっち見ないでよ。少しビクってしちゃったじゃない…。

 

「ごめん、君たちにちょっと聞きたいことがあって来たんだけど…」

 

「待つクマ。その前にまず自分の名前を言うのが礼儀ではないクマか?」

 

クマクマとしゃべる子が手を前に出し、名乗るよう求めてくる。

 

「あっ、ごめんなさい。初対面でいきなり質問するのは失礼だよね?」

 

ひと呼吸おいてから、私は彼女たちに自己紹介を始める。――怖がらせないよう、優しく笑いかけながら。

 

「『カリバー』です。よろしくね」

 

人懐っこい笑顔を向けられ、女の子たちは少し照れた様子で自分達も挨拶する。その様子は何とも可愛らしい。

 

「球磨は軽巡『球磨』だクマー。よろしくクマ」

 

「軽巡、『多摩』です。…間違っても猫じゃないにゃ」

 

「駆逐艦『五月雨』です。よろしくお願いしますね、カリバーさん」

 

「同じく、あたいは『涼風』だよ!よろしくな!」

 

けいじゅん?くちくかん?人間で言う名字か何かかな?…まぁ、いっか。とにかくここがどんな所か聞いてみないと。

 

「ところで、カリバーと言ったクマか?寝間着姿で何をしているクマか?」

 

質問しようとしたところで、球磨が先に質問してきた。私は覚えている範囲で自分の身に起きた出来事を彼女たちに話す。

 

「――ん~、何て言えばいいのかな?…気付いたらベッドで寝ていた、としか…?――で、部屋を出て外を見たら君たちが走っている姿を見かけてね、ここが何処なのか聞こうと思ってやって来たの」

 

「…目が覚めたのはついさっきクマか?その時側に誰かいなかったクマ?」

 

腕組みをして意味深な様子で尋ねてくる球磨に、私は質問の意図を理解できないまま、ゆっくりと頷く。

 

「じゃあ、球磨たち以外にお前が目を覚ましたのは知らないというクマね?」

 

「…?そうだね。ここに来る途中誰にも会わなかったし」

 

「そう、分かったクマ。―――五月雨、涼風。ちょっと榛名たちを呼んできてほしいクマ~」

 

「了解しました!」

 

「ガッテンでい!」

 

鎮守府へと走っていく五月雨と涼風。私は彼女らを見送りながら球磨に尋ねる。

 

「…『はるな』って誰の事?」

 

「ここ舞鶴鎮守府の秘書艦だクマ。保護してから今まで意識を失っていた艦娘が目を覚ましたっていうなら、提督不在中のこの鎮守府で次に指揮権がある秘書艦に報告する事は当然クマ」

 

かんむす?ひしょかん?……また分からない単語が出てきたわね。”まいづるちんじゅふ”という単語が、私が今いる場所を指している事は会話の内容から分かるけど…。そんな地名、神聖ミリシアル帝国にあったけ…?

 

その時、グラウンドの端にある柱の最上部に設置されたスピーカーからチャイムの音が鳴り響き、次には女性の明瞭な声が聞こえてきた。

 

『戦艦『霧島』です。鎮守府にいる全艦娘に連絡します。5日前に保護した艦娘が医務室からいなくなりました。目覚めてからそれほど時間が経っていないため、この鎮守府のどこかにいると思います。見かけましたら、すぐに秘書艦『榛名』か私に伝えてください。すぐに向かいます』

 

放送が終了する。

 

「いったい誰を探しているんだろう…?」

 

「「いや、どう考えてもお前クマ(にゃ)」」

 

球磨と多摩が一斉にツッコむ。――おぉ、最後以外綺麗にハモった。

 

「えっ?私?」

 

私は眼を何度か瞬かせて彼女らを注視する。

 

「そうだクマ。お前が寝ていた部屋は医務室クマ。お前、5日前に海上で保護されて以来、ずっと意識がなかったんだクマ」

 

それを聞いた私は、時間が一瞬だけ止まったかのように錯覚した。

 

「い、5日!?私そんなに眠っていたの!?――いや、そもそもここはどこ!?私、たしか変な攻撃を受けて沈んだはずじゃ…!?」

 

私は頭を抱える。沈んだと思ったら実体化していて、見た事ない場所で寝ていて…。わけが分からない。いったい私の身に何が起きたっていうの…!?

 

「落ち着くクマ!」

 

「…!?」

 

球磨が私に近づくと、動揺している私の手を掴み、自分の手でそっと包み込んだ。

 

「兎に角、今ここで慌てても何の意味もないクマ。五月雨と涼風にお前が目を覚ましたことを伝えに行ってもらってるから、榛名たちが来るまで大人しくここで待つクマ」

 

真っ直ぐな目を向け、優しく私に語りかける球磨。私の手を包む彼女の手は温かく、私の心は少しばかり落ち着くことができた。

 

「…うん。ごめんね。見苦しいとこ見せちゃって」

 

「気にするなクマ。誰だって艦娘になった時は自分の状況に驚いて混乱してしまうクマ」

 

…そういえばさっきも”かんむす”って言っていたわね。私はその”かんむす”って存在になったという事?

 

「ところで気になったんだけど、”かんむす”って…」

 

「カリバーさん……!!!」

 

突如横から私の名前を叫ぶ声が聞こえてきた。………あれっ、この声って…?

 

私は聞き覚えのある声がした方を見遣る。建物の玄関前に立つ5人の人影。2人はまだ少女らしさが残る黒髪の女性。2人はさっき私の事を伝えに行った五月雨と涼風。そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ば……バリ姉?」

 

私は驚愕のあまり、それ以上言葉が出ない。

黄色い髪をポニーテールに纏め、今にも泣きだしそうな表情でこちらを見る女の子。私よりも年上とは思えない、どこか幼なそうな印象を持つその子の名前は、私と同じ第零式魔導艦隊に所属する魔導戦艦『バリアント』。

 

たしか彼女はグラ・バルカス艦隊から謎の攻撃を受けて私やエクス達の目の前で沈んでいったはず…。なぜこのような場所にいるのだろう?…見たところ彼女の体は透けておらず、私と同様に実体化しているようだった。

 

「か…カリバーさん…」

 

バリ姉の目から大粒の涙が溢れ出す。流れ出る涙が地面に落ちてシミを作っていく。

 

こちらに向かって駆け出し、私に抱き着いた彼女は張り裂けんばかりの声で泣き始めた。

 

「カリバーさん…!カリバーざぁん…!!」

 

涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、バリ姉は私の体をきつく抱きしめる。……まるでもう離さないかのように。

 

「カリバーざん…!よがっだ…!無事でよがっだ…!!」

 

「あははっ…。バリ姉…、ちょっと痛いよ…」

 

そう言いながら私も彼女の背中に手を回す。伝わってくる彼女の温もりが、彼女が無事だったという事実を再認識させる。

 

……あれっ?そうだと分かった途端視界が滲んできた。…まぁ、いいや。バリ姉の泣く姿を見ていたら、私も泣くの我慢できなくなっちゃったし、…今だけ泣いてもいいよね?……エクス。

 

しばらくの間、私とバリ姉はその場に崩れるようにして座り込み、声を上げて泣き続けた。周りにいた人たちも、私たちのために泣いてくれているような気がした。

 

 

To be continued…

 

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