横須賀鎮守府 1F 第2講義室
「エックス!艦娘にできる事は何か分かりマスか!?」
金剛からの唐突の質問。しかしエクスは一切動揺せず即答する。
「はい、教官。水上を走れる事と、艤装を使って戦う事ができます」
これはエクスが今まで受けてきた訓練や先の戦闘から嫌と言うほど理解したことである。
0800(まるはちまるまる)。昨日と同様、今日もこの時間から講義が始まった。エクスはこの1週間、まず最初に艤装の使い方などと言った艦娘が戦う上で基礎的な部分を学んでから訓練へと赴いていた。
「NO!その答えでは60点デース!それはあくまで基本中の基本でしかありまセーン!」
エクスのメインの教育係、もとい教官として抜擢された金剛は、講義中のみ掛ける眼鏡をクイッと上げると、ビシッという擬音と共にエクスに指示棒を向ける。他にも教官役を務める艦娘は何人かいたが、一番の教官役は同じ戦艦である金剛が適任と言う判断から、歓迎会の翌日からほぼ毎日彼女がエクスを指導してきた。
特に訓練は兎角厳しく、新人であるエクスに対しても、「地獄の金剛」、「鬼金剛」といった言葉通りの容赦のないしごきを行った。
遠目から見ても新人相手にはあまりに厳しい訓練。しかしその地獄のような訓練をエクスはむしろ歓迎し、全力で取り組んだ。普段の金剛からは考えられない罵倒のような叱咤を受けながら、彼女は己の心身を鍛えていく。
『敵はもっと理不尽です。その理不尽から仲間を守るためにはもっと強くなくてはなりません』
数日前に心配して尋ねてきた重巡洋艦娘たちに、エクスはそう言い放った。それを横で聞いていた金剛が、より厳しい訓練を彼女に課したのは余談である。
新人相手に容赦なしの金剛もすごいが、強くなりたい一心で彼女のしごきに堪えるエクスもまたすごい…。彼女たちを見てきた周りの人たちは後にそう語ったとか…。
閑話休題。
「では質問を変えマス!エックス!”艦娘”と”船”の違いは何か分かりマスか!?」
厳しすぎるが故に不知火などの一部の艦娘以外は、自分から望んで金剛に教えを請う者はほとんどいなかった。そのため久々に鍛えがいのある子がやって来てくれて、金剛も気合が入る。
「…!え、え~と…」
答えが分からず言葉に詰まるエクスに、金剛は目を吊り上げる。
「…なぜすぐに答えられないのデスか?それくらい一目見ればすぐ分かる筈デース!」
そう言って窓の外を指す金剛。鎮守府前の海で訓練を行っている艦娘たちと、その遠くで航行中のタンカーがエクスの視界に入る。エクスは数秒ほどその光景を見てから、先ほどの答えに辿り着く。
「はいっ、教官!人の姿をしているか否かです!」
即座に金剛の顔を見て、エクスは答える。
「その通りデス!…そして思い出してくだサイ。私たちがかつて軍艦…船だったことを。あの時とは違い、私たちは人と同じ姿をしていマス。艦娘には船ではできなかった事が人と同じ姿になった事でできる事がありマス」
「ここまで言えばもう分かりマスよね?」。金剛はそのような意味を込めた目でエクスを見る。
「はいっ。人間としての動きを利用して、戦うことができます」
その答えに、金剛は満足そうに頷く。
「その通りデース!」
金剛はチョークを掴むと、黒板に文字を書き始める。
「…仮に敵から攻撃を受けたとしマス。この時、ただ水上を本物の船と同じように滑っているだけでは攻撃を受けてしまうこともありマス。私たちはこういった攻撃を主に急停止や急な方向転換、ジャンプ、体を捻らせるなどといった行動をとって回避していマース」
文字を書き終えると、金剛は指示棒でそれらを指す。
「他にも色々な動きがあるのデスが…、エックスは朝見てマシタよね?私がテートクに抱き着く場面…」
「はい、見ました。あの時の空中での一回転。あれも戦場で役に立つのですね?」
「そうデース!もっとも、使う事はほとんどないデスが…」
話は続く。
「…ただし急停止や急な方向転換は、航行速度があまりに速過ぎると上手くできマセーン。また艦隊行動中の場合、味方の動きにも注意しなければ最悪陣形を乱す事にもなりマス。…デスから実戦では、主に体の細かな動きを利用し、それ以外の方法は状況に応じて使いマース」
ここでエクスが手を上げて質問する。
「敵艦への攻撃の際は、主にどんな動きをしているのですか?」
「基本的に艤装を使って遠くから攻撃しマスが、その戦法が通じない例外も当然ありマース」
「例外?」
「中には装甲が異常に固い深海棲艦もいマス。そのような場合遠くから攻撃しても対して効果はないネ!」
軍艦…特に戦艦はある一定の距離で砲撃戦を行った場合、自身の主砲で攻撃を受けても耐えられる装甲を持っている。ただし、交戦距離が近づけば砲弾の運動エネルギーは大きくなるため、やがて同じ主砲でも装甲を抜かれてしまう。
「…だから敵艦に肉薄して、少しでも砲弾の威力を上げるのですね?」
「その通りデース!時には目の前まで一気に詰め寄って砲弾を浴びせる事もあるネ!」
そのような至近距離での砲撃戦、元の世界では考えられなかった。特に周辺国海軍の主力が帆船ばかりだった神聖ミリシアル帝国では…。
余談だが、金剛たちのような軍艦はこの世界では70年以上も昔に活躍した存在であり、現代の軍艦は砲ではなくミサイルと呼ばれる兵器が主力となっていると言う。
古の魔法帝国が使用していたと言われる誘導魔光弾。狙った目標に必ず当たると言うエクスたちの世界では冗談みたいな兵器が、この世界ではごく有り触れた存在であると聞いて当初は耳を疑った。
(でもその誘導魔光弾に酷似した兵器をもってしても、深海棲艦には敵わなかった…)
仮に魔帝軍と深海棲艦が戦った場合、魔帝軍の方が蹂躙されるのではないだろうか…?この世界の海軍が悉くやられている状況を見ると、そう考えてしまう。
話を戻そう。
「また、砲撃だけが攻撃ではありまセン。敵艦に至近距離まで肉薄する場合や、突発的に遭遇した場合、文字通り格闘戦に発展する事もありマス」
「格闘戦…ですか?」
金剛は頷く。
「言い忘れてマシタけど、私たちにできるという事は、同じ人型の深海棲艦にもできるという事を忘れてはいけまセンヨ?」
これは当然である。相手も人の形をしているため、同じ方法でこちらの攻撃を回避したり、同様の攻撃を仕掛けてくる事だってできる。
「さて、格闘戦ついてデスが…これは通常の砲撃戦と同様、大型艦と小型艦ではやり方が異なってきマス」
駆逐艦や軽巡は打撃力が小さい分、体の身軽さでそれを補う。そのためこれらの船は天龍のように得物を持って戦ったり、敵の強力なパンチや蹴りを回避しながら相手の弱点を突く戦法を取っている。
「…逆に私たち戦艦は…」
金剛は自分が言った台詞の続きを言うようにエクスに促す。
「高い防御力を利用して敵艦の攻撃に直接耐え、強力な一撃を相手に加える」
「その通りデース!相手の攻撃に耐え、時には人だからこそできるトリッキーな動きで回避しながら敵に肉薄し、格闘戦などで相手が隙を作ったところを砲撃する。今日の訓練はこれをやってもらうネー」
「具体的にどういった訓練でしょうか?」
エクスの脳裏に、今まで訓練内容が思い浮かぶ。今回の訓練は標的を使って行えるような訓練ではない。一体どのような訓練になるのか、エクスは強い関心を抱く。
質問を受けた金剛は、フフフッといった笑い声を上げる。
「今日の訓練は至ってシンプルデース」
「?」
眼鏡を外して机に置き、首をかしげるエクスに近づく金剛。
「この私と戦う事デース!!」
一瞬だけ沈黙が講義室を支配した。
「…えぇっ!!?」
そしてその沈黙は、エクスの驚愕する声によって破られた。それはそうだ。自分の目の前にいる金剛がどれだけ強いのか、エクスは彼女と他の鎮守府の艦娘との演習で嫌と言うほど知ったのだから。
(これは今までで一番苦しい訓練になりそうね…)
心の中でそう呟くエクス。だが彼女の中に拒絶という概念は全くなかった。
「さぁっ、驚いてる暇なんてないデース!!早速行きますヨー!!」
「えっ、ちょっ…!?分かりましたから引っ張らないでください!」
「なら私より速く走るデス!遅かったら強制的に引きずっていきますヨ!!」
「は、はい教官!!」
腹の底から叫び声を上げ、エクスは金剛と共に走りながら出撃ドックへと向かった。
――――
横須賀鎮守府 演習海域
『…では、お二人とも。準備はよろしいですか?』
数キロの距離を挟んで相対するエクスと金剛に、審判役として呼ばれた明石は無線で尋ねる。
「はいっ!」
「OKデース!!」
『ルールは簡単です。お互い数キロ先にいる相手に向かって突撃しながら、相手が自分に接近しないように阻止してください。主砲弾を1発受けた場合を1カウントとし、エクスさんは5カウント、金剛さんは1カウントで敗北とします。ですからエクスさんは1発でも砲弾を当てる事が出来たら勝ちとなります。尚、主砲以外の装備を使用しても構いませんが、それらを相手に当ててもカウントされません』
力強く頷く2人に、明石は本訓練の概要を説明する。
『いいデスかエックス。今回は実戦のつもりで本気でかかってきなサイ!…もし訓練だからと手加減したら承知しないデース』
無線越しに威圧感を含ませて言葉を紡ぐ金剛。
「はいっ、教官!よろしくお願いします!」
エクスは彼女の威圧感に気圧されながらも返事をする。
『うんうん、良い返事デース。時々アドバイスしてあげマスから、頑張るデース!』
金剛は笑みを浮かべ、エクスに応援の言葉を送る。
(むしろ今の私じゃ本気でいかなきゃ……一撃も与えられないかもしれない…!)
相手は歴戦の戦艦。かたやこっちは未だに素人な部分が抜けられない艦娘。近づくことさえできないかもしれないという不安が、エクスの心を支配しようとする。
ふと横を見る。非番または休憩中の艦娘たちが、エクスの訓練を見ようと埠頭からこちらを見守っていた。その誰もが例外なくエクスに対して憐みの視線を送っていた。
『では、始めますよ!』
明石の言葉を聞き、エクスはすぐさま視線を戻す。
数回深呼吸してなんとか不安を打消し、金剛に一撃を与える事だけに意識を集中させる。
『よーい…、始め!!』
訓練開始の号令が出された。瞬間、エクスは魔導機関の出力を一気に上げて急発進。金剛へ向かって高速で突撃する。
「魔導砲…撃ち方始め!!」
発進と同時に魔力探知レーダーから得た金剛の位置情報を魔導砲に反映させ、あらかじめ装填しておいた模擬弾(真理恵と明石が共同開発した魔導回路入りの特殊砲弾)を発射する。青く光る砲弾の群れが、金剛へ向かって飛翔する。
「わぁ…!」
「きれいね~」
埠頭にて訓練の様子を見る衣笠と如月が、初めて見る魔導戦艦の砲撃に感嘆の声を発する。
「次弾装填……!」
初弾で砲弾を当てるのは容易ではない。ましてや相手が金剛ような強者なら尚更である。エクスはすぐに第2斉射を行えるように、準備を進める。
「……1発だけ当たるみたいデース」
対する金剛は冷静な目で自分に向かって来る魔導成形砲弾を見詰め、その着弾位置を一瞬で予想する。
「…それにしても初弾だというのに狙いはそれなりに正確ですネ。エックスの電探は私たちのそれよりも結構優秀みたいネー」
感心しながら上半身を右へ傾ける。瞬間、金剛の上半身があったところを一発の魔導砲弾が通過し、彼女のすぐ後ろの海面に着弾した。他の砲弾も彼女のすぐ近くに着弾し、何本もの水柱が彼女を囲むように立つ。
「さぁ、私も行きマース!!」
不敵な笑みを浮かべながら、金剛も全速力でエクスの元を目指す。電探からの情報と今までの戦闘で培ってきた感覚を頼りに、金剛はエクスの未来位置を正確に予想する。
「全砲門…ファイヤーー!!」
着弾時のエクスの予想地点に向けて、35.6cm連装砲4基から砲弾を発射する。
『さぁ、そのまま突っ込んで来ると砲弾が当たりマスヨー!どこに着弾するのか、きちんと見て判断してくだサーイ!』
「…!!?」
無線越しに聞こえる金剛の声。上を見上げると斜め上から自分に向かって飛翔する模擬砲弾が視界に入った。それらはエクスから見て空中で静止しているようにも見えた。それが意味する事は…!
「うわっ…!?」
咄嗟に左へ方向転換するエクス。直後彼女が元いた場所に砲弾の雨が降り注ぐ。
(まずかった…。あと少し回避が遅れていたら被弾していた…)
『相手の動きはきちんと観察し、すぐに正確な判断ができるようになってくだサーイ!戦況とは一瞬々々変化するものデス!ちょっとした判断の遅れが命取りになりマスヨー!』
金剛の助言を聞き、エクスは気を引き締め直す。
妖精から次弾装填完了の報告を聞いたエクスは、金剛に向かって即座に第2斉射を行う。そして正確な砲撃をさせないように、ジグザグ航行しながら彼女の元へと向かった。
やがて金剛の姿がはっきりと見えてきた。エクスの放った砲弾は彼女に向かって正確に飛んでいく。
当たった!エクスは勝利を確信し、笑みを浮かべようとしたその時だった。
「……!!?嘘!?あんなふうに躱せるの!?」
金剛は降り注ぐ砲弾を、時には体を捻らせ、時には体を低くしながら全て躱しきる。あのような動き、向かって来る砲弾全ての飛翔経路を予測しなければ不可能だ。
「それもたった数秒で…。信じられない!」
だが驚いている暇などエクスにはなかった。砲弾を躱し終えた金剛が、お返しとばかりに砲撃してきた。着弾までわずか数秒、エクスは左斜め前に跳んでそれらを回避する。
「…がぁ!!?」
だが着水した瞬間、自分の体に何かが凄まじい速度でぶつかって来た。
実は金剛は最初に4発の砲弾を放ってエクスに回避行動をとらせてから、遅れて残り4発の砲弾を撃ち込んだのだ。
そんな事とは露知らずに混乱するエクス。そこへ金剛は次弾の装填をしながら高速で接近してくる。金剛との距離は既に50mをきっていた。
「…くっ!!」
接近してくる金剛を阻止せんと、エクスは魔導砲の砲身を向ける。だが砲弾を発射する直前、金剛はその場にしゃがむ。
「ふぇ…!?」
間抜けな声と共に撃ち出された砲弾。それらは金剛のすぐ上を虚しく通り過ぎて行った。
「近づけば砲身の向きから、砲弾の飛翔ルートは大体予想できマース」
そう言って金剛は立ち上がると、エクスに向かって勢い良く飛びつく。
「わっ…!!?」
「…それにあんな近距離で全門斉射したら、次の砲撃までに相手に接近されてしまうネー」
「……」
「捕まえましたヨー♪」
固まっているエクスに対し、金剛は人懐っこい笑顔を向けた。…発射準備を終えた連装砲と共に。
「さっきの砲撃でエックスは既に4発被弾していマス。つまり、この砲撃を喰らったらyouの負けネ!」
「…なっ!!?」
それを聞いたエクスは必死に金剛から逃れようとするが、がっちりと捕まえられて引き離すことができない。
「これで終わりネー」
そして金剛が遂に砲弾が発射しようとした…その時だった。
突如、金剛の体を小規模な爆発が多数襲いかかる。
「…!!!?」
突然の事に驚愕した金剛は、エクスの拘束を解いて体をのけぞらせる。撃ち出された砲弾はエクスに当たる事なく、遠くの空へと消えていった。
「な、何が…?……!!?」
煙が晴れると、そこには下からこちらに拳を振り上げようとするエクスの姿があった。
「くっ!!」
金剛は即座にそれを躱して体を低くすると、拳を振り上げて無防備になったエクスの腹目掛けて、下から斜め上へと拳を叩き込もうとする。
「魔素展開!装甲強化!!」
「…!?」
エクスがそう叫ぶと同時に、彼女の体が仄かな青い光に包まれる。特にそれが強く光っているお腹の部分に、金剛の拳が当たった。
金属同士が激しくぶつかるような音が周辺に響き渡る。金剛の強力なパンチを受けていながらエクスの体は微動だにせず、逆に金剛は反動を受けて一瞬だけ怯む。すかさずエクスは強化した足で容赦なく蹴りを加える。
「ぐあ…!!」
金剛はその場に膝を付けるのを何とか耐えようとするが、エクスは彼女の足を自身の足で払ってバランスを崩させる。
「なめるんじゃ…ないデース!!」
「うわっ…!!?」
しかし金剛も負けてはいない。エクスの艤装を掴んで倒れるのを防ぎ、逆に自分の体重をかけて彼女を勢いよく海面に叩きつけた。
「がはっ…!」
横向きに倒れたエクスに、金剛は二度と起き上がらせないように上から押しかかる。
「はぁ……はぁ…」
「…これで、もう動けませんネ…」
そのままエクスを押さえながら、主砲の次弾装填が完了するのを待つ金剛。
「ま…まだです…」
エクスは自分の上に乗る彼女をどけようとしながら、先ほどと同様に対空魔光砲から魔力弾(演習用にダメージはない仕様になっている)を放つ。
「くぅ…!!」
金剛は両腕で顔を隠してそれに耐える。エクスはこの攻撃で金剛が怯んだ隙にこの拘束から脱しようと考えたが、金剛は足を使って彼女を挟み込むように捉えており、全く抜け出すことができなかった。
(だったら…!!)
エクスは身体を金剛ごと回転させ、彼女を海面にぶつける。
「ぶはっ…!!?」
今度は金剛も再び怯み、その一瞬の隙をついて拘束から脱したエクスは体勢を立て直す。
(今度こそ…!!仲間を守るために…!!)
エクスは心の中で叫び声を上げながら、魔導砲を金剛へ向ける。横になった彼女がエクスを見上げる。
「私は……、負けない…!!」
既に次弾発射が可能となっていた魔導砲が青白い発砲炎に包まれる。撃ち出された青い砲弾が海面に巨大な水柱を形成し、金剛を完全に飲み込んだ。
「はぁ…はぁ……」
目の前に形成された水柱を眺めながら、エクスは息を整える。
「あ、明石さん…。やりました。私の…勝ちです」
上空を飛ぶ航空機からこちらを見ている明石に、無線で報告する。しかし、明石の口から出てきた言葉は、およそ勝者に対するものではなかった。
『いえ、まだです』
「……え?」
明石が何を言っているのか分からず、困惑するエクス。
その時、突然彼女の目に映る世界が90°に傾く。時間がゆっくりと流れているのは気のせいだろうか…?
(え、何…?)
「なかなかやるネー」
いつの間にか目の前に立っていた一人の艦娘が、エクスに話しかける。
(そんな…何で…?)
その艦娘の正体は金剛だった。どうやら自分は彼女に足払いをされたらしい。
心の中で疑問を口にするエクスに、彼女はその疑問に答えるかのように話を続ける。
「…あの時丁度、私も次弾装填が完了したのデース。私は咄嗟に海面に砲弾を撃ち込み、その反動で自分の体を少し移動させマシタ」
(…!!?)
驚愕するエクス。主砲が撃ち込まれる直前、金剛は自身の主砲の内6門を海面に向けて発射し、海面を滑るような形でこちらの攻撃を回避したのである。
「…エックス。あなたは私の期待以上の艦娘デシタ」
金剛は暖かな笑みを浮かべながら、まだ砲弾が装填されている1基の連装砲をエクスに向ける。
「…デスが、今回は私の勝ちデース」
瞬間、金剛の体が火に包まれ、直後に衝撃が襲ってきた。
(あぁ…負けたんだ……私…)
ようやく自身の敗北を理解したエクスは、そこで意識を完全に手放した。
――――
横須賀鎮守府 広場
「…ん?あれ……?」
「気が付きマシタ?」
意識を取り戻したとき、エクスは金剛に膝枕されていた。既に夕方だったらしく、彼女の顔は夕焼けの光に優しく照らされていた。
「わわっ!?すいません私…!」
慌てて起き上がろうとするエクスを金剛が止める。
「気にしなくていいネー。これは頑張ったエックスへの、私からのご褒美デース」
そう言って頭を撫でる金剛。心地良い気分になったエクスは、大人しく彼女の膝に頭を乗せる。
「…私負けたんですけどね」
「なら今回得た教訓を次に生かせばいいネー!今回の訓練で大事なことは、人の動きを利用して戦うことの大切さを身を持って理解する事デスから」
次に生かす。その言葉をエクスは心の中でもう一度呟く。
「…金剛さん。今日も本当にありがとうございました」
「私はエックスの教官として当然の事をしたまでデース。…それにまだまだエックスが学ぶべきことはたくさんありマース。明日もビシビシいきますから覚悟してくださいネー!」
「はいっ、教官。よろしくお願いします」
膝枕されたまま笑顔で敬礼するエクス。それを見た金剛も彼女と同様に笑顔になる。
そこへ近づく複数の人影。
「金剛さん。エクスさんは目を覚ましましたか?」
明石の声が聞こえてきたので、エクスは体を起こす。見ると明石の他にも衣笠、由良、睦月、如月が何かシートやバスケットを持って立っていた。
「明石さん。…はい、もう大丈夫です」
「それはよかったです」
「お2人とも、これをどうぞ」
笑みを浮かべる明石。由良が彼女より前に出てエクスと金剛に近づき、抱えていた水筒の内2本を2人に渡す。
「由良。これは…?」
「温かい紅茶です。今日は夕日が綺麗ですから、みんなで外でお茶会をすることになったんです」
見るとエクスの質問に答える由良の後ろで、明石たちが持って来たピクニックシートを草の上に敷いていた。如月がバスケットを置いて蓋を取ると、中からクッキーが顔を覗かせる。
「わぁ…美味しそうなクッキーですね」
「私と如月ちゃんで作ったんです。味や形も色々あるんですよー」
「そうなんだ。すごく上手に焼けてるね」
「えへへ…」
エクスに褒められた睦月が嬉しそうに照れる。そんな姉の可愛らしい様子を、如月は大人びた笑みを浮かべて見る。
「さぁ、ティータイムの始まりネー!」
金剛の宣言と共に始まったお茶会。エクスは訓練の事を一旦忘れ、仲間との楽しいひとときを過ごした。
To be continued...
おまけその1
カリバー「エクスに膝枕してあげるのはこの私だーー!!!」
バリアント「ふぇ…!!?急に大声上げてどうしたんですかカリバーさん!?」
カリバー「え?…あっ、いや何でもないよバリ姉。なぜか誰かがエクスに膝枕をしているような気がしちゃって…」
バリアント「???」
おまけその2
比叡「ヒエーーッ!!」
榛名「どうしたのですか、比叡お姉様!?」
比叡「誰かが…誰かが金剛お姉様に膝枕をーー!!」
霧島「何、どうしたの榛名!?」
榛名「霧島!比叡お姉様がまた急に!」
比叡「お姉様ーー!!」
霧島「落ち着いて下さい、比叡お姉様!」
バリアント(膝枕…?さっきカリバーさんもそのような事を言っていましたけど…、まさかそんな事……無いですよね?)
榛名「あっ、バリアントさん!比叡お姉様を抑えるのを手伝ってください!」
バリアント「あっ、はい…!」