零これ   作:Woudy

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摩耶、鬼怒と一緒に訓練します。また、新たに秋月が着任しました。


防空訓練

 

 

横須賀鎮守府 執務室

 

 

「……そう、やっぱりね」

 

仕事中だった真理恵にかかってきた1本の電話。相手は彼女の弟の海良だった。

 

『あぁ。フィジーたちの所属国家と艦隊名…、姉貴のトコに来た異世界艦娘と全く同じ名前だったぜ?……勿論、砲弾も青く光る』

 

「これで確定ね。それに建造ドックの魔法陣から発動した召喚魔法とエクスから聞いた話を考慮すると……、私はフィジー以外の子たちを地球に召喚してしまった…」

 

『後の15人は姉貴が原因なのか?』

 

煮干しを咥えながら、真理恵は受話器を片手にゆっくりと頷く。その顔は罪悪感に満ちていた。

 

「えぇ、私の責任だわ。…おそらくこの5人以外はまだ深海棲艦が闊歩する海の何処かを彷徨っているはず…。一刻も早く保護しなければ、彼女たちにまた沈む苦しみを味合わせる羽目になってしまう…」

 

『……姉貴、ちょっといいか?』

 

ふと山城から聞いた話を思い出した海良は、その内容を真理恵に聞かせる。

 

「他の鎮守府にいるかもしれない…?」

 

『あぁ。召喚されてからもう1週間近く経っている。その可能性は高い。俺はこの後早速、『青原 由紀子』のいる呉鎮守府に向かう予定だ』

 

「そっか、その可能性もあったわね。大湊や舞鶴などはもう調べた?」

 

『いや、呉が最初だ。全員忙しくて中々時間がとれない状況なんだ。…何せ姉貴からのあの報告を聞いた後だからな』

 

これは真理恵が元帥に報告した大型深海棲艦の首都圏への異常接近についてである。彼女率いる艦隊によってほぼ全ての深海棲艦が駆逐されて以来、伊豆諸島付近までの海域に現れる敵艦はほとんど確認されなかった。故に報告を聞いて事態を重く見た日本各地の鎮守府や警備府では、現在防衛体制強化のため関係者全員が地獄のような忙しさとなっていた。

 

『「深海棲艦の活動が活発化したのでは?」。…大半の者がこう思って行動している真っ只中だ。青原にも何とか時間を作ってもらったようなものだしな』

 

「…そう。分かった。他の鎮守府については私も調べてみるから、呉の方はお願いね?」

 

『あぁ、任せろ』

 

海良との会話が終わり、真理恵はゆっくりと受話器を置く。

 

「…とりあえずまずは近くの地方隊からあたってみましょうか」

 

コンコンッ

 

もう一度受話器を持ち上げようとした時、執務室のドアがノックされた。

 

「どうぞ」

 

「失礼します!」

 

真理恵が入室許可を出すと、明るい声で1人の少女が入ってくる。その少女は昨日までこの鎮守府にはいなかった艦娘だった。

 

「秋月型駆逐艦、1番艦『秋月』です。ただいま着任致しました!」

 

真理恵の前まで移動し、敬礼する秋月。

昨日の夜、駿河湾に接近中だった敵艦隊を撃退した警備部隊は、横須賀への帰投中に海を彷徨っていた艦娘を発見する。その時保護されたのが彼女であった。

 

「よろしくね、秋月。…他の子たちから艦娘について聞いたかしら?」

 

「はいっ。まさか船魂だった私たちがこうして実体化するなんて…未だに信じられない気分ですよ」

 

「まぁ、みんな最初はそう思うけどね。すぐに慣れるわよ」

 

「はいっ」

 

にっこりと笑う秋月。するとここで何か思い出したのか、真理恵に質問をしてきた。

 

「…あの、この鎮守府に照月たち…私の姉妹艦は着任しているのでしょうか?」

 

その質問に真理恵は首を振って答える。

 

「他の鎮守府や警備府でもまだ着任が確認されてないわ。保護された秋月型は、あなたが最初よ」

 

「そう……ですか」

 

落胆する秋月。真理恵はそんな彼女を元気づけようと微笑む。

 

「大丈夫よ。艦娘は次々と保護されたり建造されたりしているから、そう遠くないうちにあなたの姉妹も見つかるわ。だから今は彼女たちの着任をのんびり待ちましょう」

 

「はいっ!」

 

秋月は再び表情を明るくする。

 

「今日は忙しいから無理だけど、数日後に花見も兼ねてあなたの歓迎会を行うから、必ず参加してね?」

 

「え!?という事は美味しい物とか一杯食べられるのですか!?」

 

秋月は驚いて目を見開くと、興奮した様子で尋ねる。

 

「勿論よ。お腹一杯食べなさい」

 

「はいっ!ありがとうございます、提督!楽しみです!」

 

秋月は目を輝かせながら喜ぶ。今から歓迎会が楽しみで仕方なかった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

その後、秋月は清霜の案内でこれから自分の家となる艦娘寮へと向かった。

 

「あっ、エクスさんたちだ!」

 

鎮守府本館を出てしばらく歩いた時、清霜が海に視線を向ける。

 

「エクスさん…?」

 

秋月も清霜の視線をたどって海を見る。海上には艤装を背負った複数の艦娘たちが立っており、何か話をしていた。

 

「あの赤い髪の女の人がいるでしょ?あの人がエクスさんっていうんだよ」

 

清霜がその数人の艦娘の中で、赤い髪が特徴の高校生くらいの少女を指さす。

 

「…あの人が」

 

秋月は昨日、他の艦娘たちから『エクス』という艦娘について聞かされており、彼女が異世界からやってきた存在だという事を既に知っていた。

 

「たぶん今演習中なんだと思うよ?金剛さん以外に摩耶さんや鳳翔さん、鬼怒さんに明石さんもいるみたいだから対空訓練をしているのかも」

 

「対空…」

 

その単語を聞いた秋月は、エクスという異世界艦娘の対空戦闘がどんなものなのか興味を抱いた。対空戦が気になるのは、防空駆逐艦の性なのかもしれない。

 

「すいません、清霜さん。寮に行く前にあの演習を見ていきたいのですが…」

 

「秋月ちゃんも興味あるの?エクスさんの訓練?」

 

清霜に頷く秋月。

 

「もちろんいいよ!清霜も興味あるから一緒に行こう!」

 

「は、はいっ!」

 

清霜は笑顔で頷くと、秋月の手を引いてエクスたちの所へ走り出した。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「…以上になります。何かご不明な点などはありませんか?」

 

「いえ、ありません。ありがとうございました、明石さん」

 

埠頭のすぐ前の海では、エクスが明石から艤装に新しく追加された装備について説明を受けていた。

 

エクスの艤装側面にハリネズミの如く設置された対空魔光砲。その砲塔群よりも少し上方に設置された、円柱に横から棒が突き刺さったような形状の物体がそれにあたる。その装備は左右両側に1基ずつ、計2基が設置されていた。

 

装備名、『94式高射装置』。

目標の位置と速度から、理想的な旋回角や砲身仰角、さらには信管の作動時間を割り出して砲に反映させる射撃指揮装置の一種である。

性能はそこそこ優秀で、高速機が多数乱舞していた大戦末期でも有効な対空射撃が可能だったと評されている。

 

明石は1週間前の艤装の性能試験において、エクスの対空魔光砲が莫大な投射能力を持っていたにもかかわらず有効打がほとんどなかった原因を調査していた。鳳翔の航空隊の練度が高かった事や、エクスの戦い方がまるでなっていない事も原因の一つであるが、一番の原因は射撃統制がされていない事であった。

 

事実、対空魔光砲を調べたところ、自分たちの対空機銃に備え付けられているものと同じような照準器しか確認されず、妖精に聞いても射撃指揮装置はないと言われた。

 

「そこで保管されていた94式高射装置を少し改造して、エクスさんの艤装に搭載しました。これで少しでも命中率が上がると思いますよ」

 

「よかったな、エクス。これはあたしも装備しているけど、水上射撃にも利用できる優れものなんだぜ?」

 

「そうなのですか?それはすごいです!本当にありがとうございました、明石さん。これで少し強くなれた気がします」

 

「いえ、当然のことをしただけですよ。艦娘のサポートが私の仕事なんですから」

 

お礼を述べられた明石は首を振って謙遜する。

エクスは新たに装備した94式高射装置の内、片方を愛でるように触れてみる。すると中から高射妖精が数人(?)出てきて横一列に並ぶ。

 

「よろしくね、みんな」

 

エクスが笑みを向けると、妖精たちは一斉に敬礼する。

 

(本当に可愛いな、この子たちは…)

 

人間がやると威厳や迫力を感じる敬礼も、妖精がやると可愛いとしか思えない。あまりの可愛さに、さらに笑みを深くするエクス。

 

「うふふっ、可愛いですね」

 

鳳翔もこちらを見て感想を述べる。

 

「はいっ。可愛いですよね、この子たち。見てて何だか癒されます」

 

「あらっ、私は笑っているエクスさんも含めて可愛いと言ったのですよ?」

 

「……」

 

鳳翔が何を言っているか分からず沈黙するエクス。だがすぐに彼女の言葉を理解し、顔を真っ赤に染め上げる。

 

「ふぇっ…!?ちょっ…そんな…!可愛いって…!?」

 

「動揺してる姿も可愛いですよ?」

 

「んなっ…!?あ、あの…お願いします…!恥ずかしいですからやめてください…!」

 

エクスは恥ずかしさのあまり慌てふためく。顔だけでなく、全身もみるみるうちに髪に負けないくらい赤く染まっていく。

 

「何言ってるデース!さっきのエックスはvery cuteだったネー!」

 

「こ、金剛さんまで…!」

 

「うふふっ」

 

エクスの反応があまりに面白かったのか、さらに追撃しようとする鳳翔と金剛。見かねた明石と摩耶が止めに入ったことで、ようやく羞恥地獄から解放される。

 

「……ところで私が照れ屋だという事を知っているような気がしましたが、なぜでしょうか?…まさか」

 

ようやく落ち着きを取り戻してから、

エクスは鳳翔に尋ねる。自分のさっきのような行動を彼女は今まで見ていないはずだ。だとすれば、誰かに教えてもらったのだろう。……大体予想はつくが。

 

「えぇ、卯月ちゃんが教えてくれましたよ?エクスさんは可愛いって褒めるとすごく恥ずかしがると」

 

(やっぱりお前か卯月ーー!!)

 

心の中で事の元凶である駆逐艦の名を叫ぶエクス。

 

その時、視界に入った埠頭に人影がいるのを確認した。

 

(あれっ、清霜…と誰だろうあの子?)

 

「…どうしマシたか、エックス?」

 

埠頭を見つめるエクスを見て、金剛たちも彼女と同じ方向に視線を向ける。

 

「あっ、こっちに気付いたみたい!お~いっ!」

 

注目された事に気付いた清霜は、エクスたちに見えるように大きく手を振る。

 

「清霜!そっちは今日の任務は終わったの?」

 

エクスは埠頭にいる清霜たちに近づく。

 

「うん!今新しく入って来た秋月ちゃんを寮に案内している所なんだ!」

 

「そっか。となりの子は初めて見る顔だと思ったけど、新しく着任してきた子だったんだね」

 

エクスは清霜の隣に立っている秋月に視線を向け、笑みを浮かべる。

 

「初めまして、戦艦『エクス』です。名前は秋月…でいいのかな?よろしくね」

 

笑顔を向けられた秋月は一瞬沈黙していたが、すぐに自分も自己紹介を始める。

 

「あっ、はい!秋月型防空駆逐艦、1番艦『秋月』です!よろしくお願いします!」

 

ここで秋月の名前を聞いた摩耶と鬼怒が興奮した様子で近づいてきた。

 

「秋月型…!?お前、防空駆逐艦の秋月型か!?」

 

「はっ、はい!その1番艦の秋月です!」

 

「やった、仲間が増えた!あたしは軽巡『鬼怒』!同じ防空艦としてよろしくね!」

 

「同じく、ここで防空艦をやってる『摩耶』様だ。よろしくな、秋月」

 

「はいっ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

同じ防空艦が来てくれたことに喜びを隠せない摩耶と鬼怒。そんな防空艦コンビに秋月は笑顔であいさつし、再びエクスに話しかける。

 

「皆さんから話を聞いたのですが、エクスさんが異世界から来た艦娘というのは本当でしょうか?」

 

「えぇ、本当よ」

 

エクスが頷くと、秋月は目を輝かせる。

 

「実は私、エクスさんが対空訓練を行うと聞いて異世界の艦娘がどんな風に戦うのか凄く気になるんです!是非見学させてください!」

 

「勿論。良いよ」

 

「やった!ありがとうございます!」

 

秋月は今にも飛び跳ねそうな雰囲気で喜ぶ。

 

「エックス、そろそろ始めマスから準備するデース!マーヤとキヌーも準備をお願いしマース!」

 

遅れて埠頭にやって来た金剛が、後ろからエクスに訓練の準備を行うように伝える。エクスたち3人は、後ろを振り向いて頷く。

 

「はい、分かりました。摩耶さん、鬼怒、行きましょうか」

 

「おう!」

 

「鬼怒がしっかりサポートしてあげるから、期待してね!」

 

「えぇ、お願いね。……じゃあ秋月、清霜、また後で」

 

エクスは埠頭に立つ清霜と秋月に手を振る。

 

「うん!エクスさん、頑張ってね!」

 

「防空艦の対空戦闘、お勉強させていただきます!」

 

エクスは頷くと、摩耶、鬼怒の2人と共に所定の海域へと移動していった。金剛、鳳翔、明石の3人も訓練のために埠頭へと上がり、清霜たちの隣に移動する。

やがて3人の姿が見えなくなったところで、明石が清霜たちに1枚のタブレットを渡す。

 

「このタブレットの画面から、エクスさんたちの訓練を見ることができますよ」

 

「ありがとう、明石さん」

 

清霜は受け取って早速タブレットの操作を行う。それを秋月は横から覗きこむように見る。明石は金剛にもタブレットを渡すと、無線でエクスたちに連絡を取る。

 

「エクスさん、摩耶さん、鬼怒さん。準備はよろしいですか?」

 

『はい、大丈夫です。よろしくお願いします』

 

無線でエクスから準備完了の報告を聞いた明石は、鳳翔へと顔を向ける。

 

「では、鳳翔さん。よろしくお願いしますね」

 

「はい、分かりました」

 

鳳翔は笑みを浮かべて頷くと、エクスたちがいる方向へ弓矢を構える。その姿は歴戦の空母を思わせる風格が漂っており、秋月と清霜はしばしの間見とれてしまう。

 

やがて軽い音と共に鳳翔が矢を撃ち出す。矢は風切り音を出しながらしばらく飛翔すると、光に包まれて1機の黄色い航空機に姿を変えた。

 

「空母の人ってあんな風に艦載機を出すんだ…」

 

艦娘になって初めて見る空母艦娘からの艦載機の発艦。エクスたちのいる方向へと飛び去る演習機を、秋月はある種の感動を覚えながら見つめるのだった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「そろそろ鳳翔さんが演習機を発艦させる頃だが。どうだ、エクス?」

 

「えぇ。レーダーに感ありです。まっすぐこっちに向かっています」

 

横須賀鎮守府から約10km離れた位置で、仮想敵機の接近を待ち構える3人。魔力探知レーダーで演習機を捉えたエクスは、より一層気を引き締める。

 

(目標はたった1機。…でも相手は鳳翔さんの艦載機。決して油断ならない相手…)

 

性能試験の時、エクスは鳳翔の航空隊に手も足も出なかった。あのような化物練度の飛行機械相手に、はたして高射装置と組み合わせた対空魔光砲がどれだけ効果があるのだろうか…。

 

エクスは午前中の講義で金剛から教えてもらった内容を頭の中で思い返す。

 

(無理に全機を相手にせず、一番自分に近い敵機から順に全火力を集中させる…)

 

エクスが鳳翔の航空隊相手に有効弾を与えられなかったのは、装備の問題だけではない。講義では、性能試験時に12機の敵機をまとめて相手にしていた事を金剛に指摘されていた。

これはグラ・バルカス航空隊200機の猛攻を受けた事が、彼女に少なからず航空機に対する恐怖を植え付けてしまったからであり、その結果航空機が迫ってくると無意識に全て撃ち落そうとする衝動にかられていたのだ。

 

そのため敵機1機あたりの弾幕密度が薄くなり、命中率も一気に下がってしまったのだ。これでは対空魔光弾の莫大な投射量と高い攻撃力も無意味になってしまう。

ただでさえ摩耶たちが撃つ砲弾と違って直撃させなければ爆発しないのに、命中率を上げるために必要な要素である”連射力”がまるで生かせていなかった。

 

(あの時の私は対空魔光砲をほとんど上手に使えていなかったんだね…)

 

最大の問題は装備ではなく自分の戦い方が下手だった事。そうエクスは判断し、金剛から教わった事を利用して今回の訓練に臨む。

訓練の流れとしては、まず最初に鳳翔が演習機を1機ずつエクスたちの元に送り込む。エクスはこの1機を全火力をもって確実に撃ち落とす。その後、2機、3機と同時に襲来してくる機数を増やしていき、複数の航空機が来ても冷静に優先順位の高い機体から順に撃ち落せるようになる事が、今回の訓練目標になる。

摩耶と鬼怒は自分たちの訓練も兼ねてエクスのサポートにあたる。対空戦闘は味方艦同士の連携も非常に重要なためだ。

 

「…そろそろ来ますよ、2人共」

 

後ろにいる摩耶と鬼怒に声を掛けるエクス。彼女が睨むようにして見ている方向から演習機のものと思われる黒い点が現れた。

 

「あれだな…」

 

「き、緊張するよ~」

 

防空艦を名乗る摩耶と鬼怒にしても、鳳翔は勝てるかどうかも怪しいほどの強者。2人も今までに何度も彼女の航空隊を相手に模擬戦をしてきたが、撃墜判定を与えられたのは両手で数えきれる程度。今回こそはと意気込むと同時に、緊張により冷や汗が流れる。

 

「……」

 

エクスは全ての対空魔光砲を接近してくるたった1機の演習機に向ける。94式高射装置と組み合わせたことで、それらは性能試験時と比べて統率のとれた動きが見てとれた。装置内では妖精たちが接近する航空機の位置とスピードから射撃に必要なデータを求め、各対空魔光砲に伝達する。時限信管の調定に必要な計算がいらない分、機械動力艦よりも情報の伝達は早く済んだ。データを得た各砲の砲手妖精は、それに合わせて旋回角や砲身仰角の調整を行う。

 

やがて演習機は肉眼でもそのシルエットが確認できるほどに接近してくる。

 

「…対空戦闘」

 

調整を終えた対空魔光砲が、高射装置の射撃統制下のもと一斉に砲口を赤く光らせる。

 

「撃ち方……始め!」

 

演習機が射程内に入ったと同時に、エクスの号令で一斉に魔力弾を撃ち出す対空魔光砲。膨大な数の光弾全てが、演習機の予想未来位置の一点に収束するかの如く向かっていく。

 

こちらの動きを読んでいたのか、演習機は機体を傾けて方向転換する。狙うべき敵機を見いだせなかった赤い光弾の群れは、虚しく上空の彼方へと飛び去って行く。

 

だがエクスも負けてなかった。機体を翻した演習機の進行方向から即座に未来位置を計算し直し、再び一斉に対空魔光弾を撃ち出す。今度は回避が間に合わず、演習機はエクスが形成した濃密な弾幕にもろにツッコみ、数発の被弾を許した。

複数の爆発があった後、爆炎の中から機体の色が赤に変わった演習機が飛び出してくる。撃墜判定を受けた演習機は機体を翻し、鎮守府方面へと飛び去って行った。

 

「うおーっ!やるじゃねーか、エクス!」

 

「すごいよエクスさん!鬼怒、あんな真っ赤でパナイ弾幕は初めて見たよ!」

 

「はいっ、ありがとうございます!」

 

褒め称える摩耶と鬼怒に、エクスは笑顔で答える。強者と謳われた鳳翔の艦載機に撃墜判定を与える事ができ、エクスにはたまらなく嬉しい気持ちになる。だが彼女はすぐに冷静な表情に戻る。

 

「…ですが、訓練は始まったばかりです。鳳翔さんの艦載機はまだまだ来るのですから、油断しないでいくつもりです」

 

「あぁ、勿論だ。次はこう上手くはいかせてくれないだろうからな」

 

エクスたちは喜びの気持ちを抑え、再びやって来るであろう鳳翔の艦載機を待ち構えた。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「……」

 

秋月はエクスの形成する濃密な弾幕を映像越しに呆然と見つめていた。となりでは清霜がすごいすごいと大はしゃぎしている。

 

(すごい、こんなに凄まじい対空砲火は初めて見ました…)

 

心の中で正直な感想を述べる秋月。彼女は圧倒的とも言える対空戦闘を目撃し、エクスに対する関心をますます強めた。

ふと彼女は、タブレットの画面を見ながらエクスの戦いを分析している金剛たちに視線を向ける。

 

「すごいですね。教えたばかりでここまで高射装置を上手く使えるなんて…」

 

明石が驚いた様子で2人に話しかける。それに対し金剛と鳳翔も彼女に同意する。

 

「そうデスね。エックスは予想以上に優秀デース。これなら予定を繰り上げて難易度を上げても問題ないネー」

 

「では、次は一気に12機ほど向かわせてもよろしいですか?」

 

鳳翔はさらに1機の艦載機を撃ち出してから、金剛に確認をとる。金剛は鳳翔の顔を見てゆっくりと頷く。

 

「イエース、ホーショーさん。よろしくお願いしマース」

 

「分かりました」

 

鳳翔は頷くと、連続で2本の矢を天空へと撃ち出す。矢は1本につき6機ずつ、合計12機の航空機に姿を変えてエクスたちの元へと飛翔する。

 

「さあ、エクスさん。前回と同じ状況ですよ?あの時とは違うという事、私に見せてくださいね?」

 

飛び去っていく艦載機の音をBGMに、鳳翔は視線の先にいるエクスに期待の眼差しを向ける。秋月も息を飲んで彼女と同じ方向を眺めた。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「……!?」

 

2機目に撃墜判定を与えたところで、エクスの魔力探知レーダーが12機の演習機を捕捉する。次は2~3機程度しかまとめて来ないと考えていた彼女は、目標が一気に増えたことに驚く。

 

「どうした、エクス?そんなに驚いて」

 

「今度の目標は12機ですよ。いきなり増え過ぎではないでしょうか…?」

 

困惑しながら報告するエクス。だが、報告を受けた摩耶と鬼怒は別段驚いた様子はなく、むしろ若干苦笑いを浮かべていた。

 

「あ~、またか。別に珍しい事でもないんだぜ、エクス」

 

「え?どういう事です?」

 

「鳳翔さんは鬼怒たちが想定外の状況でも対処できるように、こうして突然難易度を上げたりする事があるんだよ」

 

「まぁ、あたしらの場合は訓練の中盤になるまでこういった事はなかったけどな。序盤で難易度を上げてきたのは、それだけ鳳翔さんがエクスに期待しているって事なんだろうぜ?」

 

そう言ってにかっと笑う摩耶。歴戦の空母に自分が期待されている事に、エクスはプレッシャーを受けると同時に嬉しい気持ちになる。

 

「さ~て、次は機数が多いから、あたしらも本格的に参加させてもらおうか。撃ち漏らした機はあたしと鬼怒に任せな!」

 

「防空艦としての鬼怒たちがパナイという事、鳳翔さんに見せてあげましょう!」

 

「はい。お願いします、摩耶さん、鬼怒」

 

そう言ってエクスは演習機が向かって来る方向を見るが、ここで摩耶が彼女に待ったをかける。

 

「おいおい、待てよエクス。お前何であたしにだけそんなに固っ苦しいんだよ?」

 

「はい?」

 

「あたしはこうして呼び捨てとタメ口で接してるんだ。エクスもあたしに対してそうしてくれよ。…同じ艦隊防空を担う”仲間”なんだからよ」

 

「……」

 

しばし目を瞬かせて沈黙するエクスだったが、やがて清霜や第零式魔導艦隊の仲間たちに見せるような笑みを摩耶たちに見せる。

 

「…分かった。改めてよろしくね、摩耶」

 

「おう!任せとけ!」

 

笑顔を向けられた摩耶も、同じように笑顔で返す。

 

「鬼怒も、援護は任せたよ?」

 

「はいっ、了解しました!」

 

鬼怒も両手を振り上げたポーズで満面の笑みを浮かべる。そんな彼女の姿を少しの間微笑ましそうに眺めてから、エクスは再び空へと視線を向ける。先ほどまでなかった12個の黒い点が空に描かれていた。迫りくる飛行機械を睨みつけながら、エクスは対空魔光砲の発射準備に入る。彼女の動きに合わせて、摩耶と鬼怒も自身の高角砲や機銃を演習機に向ける。

 

(相手が誰であっても関係ない…)

 

これから先、対グラ・バルカス戦の時のように何百機もの敵機を相手にする戦いが来る可能性は決して低くはない。現時点での艦娘の数は、深海棲艦のそれよりもずっと少ないのだ。当然、航空戦力も敵側の方が断然多いはずだし、加えて敵側に鳳翔以上の強敵がいないとも限らない。最低でも彼女と渡り合えるくらいに強くならなければ、これから先の深海棲艦との激戦を仲間と共に乗り切ることは出来ないだろう。

 

(あの時のような悲劇はもう繰り返したくない…!)

 

鳳翔、そしてグラ・バルカス航空隊。自分を惨敗させた2つの存在にリベンジするつもりで、エクスは接近する飛行隊を相手にする。やがて12機の演習機がエクスたちの防空迎撃網に進入してきた。

 

「「「対空戦闘、撃ち方始め!!」」」

 

3人は同時に号令を出す。直後、摩耶の12.7cm連装高角砲が、鬼怒に集中配備された25mm3連装機銃が、そしてエクスの対空魔光砲が一斉に火を吹く。撃ち出された赤とオレンジの光弾が多数、鳳翔の飛行隊へと飛翔していく。

 

演習機たちは即座に散開。エクスたちの攻撃を巧みに躱しつつ、こちらの弾幕密度を下げるために波状攻撃を仕掛けてくる。

 

(相手の動きをきちんと観察し、即座に正確な判断を…!)

 

昨日の金剛の教えを思い出しながら、エクスはこちらに迫ってくる敵機へ冷静に対処する。迫りくる敵機の中で最も自分に近い1機に狙いを定め、攻撃を集中させる。

その機はしばらく機体を左右に揺らしてこちらの魔光弾を躱していたが、やがてその濃密な弾幕密度を前に遂に限界を迎えた。

演習機が爆炎に包まれる様子を確認したエクスは、即座にその機のすぐ近くを飛行していた敵機に狙いを変更。高射装置の指示の元、対空魔光砲が一斉に2機目に対し射撃を開始する。統率された対空魔光砲の攻撃を受け、ものの数秒で2機目も被弾し、同じく被弾した1機目と共にその赤い機体を翻して戦場を離脱する。

 

摩耶と鬼怒も負けじと何機か撃墜判定を与えるが、エクスの方が多く敵機を撃ち落していく。

 

(すげぇな…。エクスの奴、あたしらよりたくさん敵機を落としている。それもあの鳳翔さんの艦載機たちを…!)

 

”凄まじい”という表現がふさわしいエクスの対空戦闘に、摩耶は心の中で感嘆の声を上げる。

摩耶たちの対空砲弾と違って時限信管としての性能はない魔力弾。だが対空魔光砲の高い連射力と攻撃力が、その欠点を十二分に補っていたのだ。これと94式高射装置による射撃統制化、そしてエクスが戦い方を変えた事により、対空魔光砲は遂にその真価を発揮させた。

 

(もっと早くこうしていれば、グラ・バルカスとの戦闘も少しは違った結果になったかもしれないのに…)

 

統率された対空射撃の効果を見たエクスは、グラ・バルカス航空隊との戦いを後悔しながらもすぐに戦場へ意識を戻す。当時の自分は現世に何の影響も与えられないただの船魂。今さら悔やんでだところで仕方のないことだった。

 

対空設備の統率化がはかれなかったのも、周辺国の航空戦力が速度の遅いワイバーンしかおらず、今までの装備でも十分対処出来たからだった。自分たちと同レベルの技術力を持つ国が転移してくるなど、そんな非常識な事がエクスたちに想定できるわけがない。

 

過ぎた出来事は変えられない。でも未来は変えられる。故にエクスにできる事は…。

 

(今いる仲間たちを同じ目に遭わせない。…私はそのために空の戦いでも強くなってみせる!!)

 

3人の艦娘が織り成す弾幕を突破した5機の演習機が、彼女たちに模擬弾を投下する。3人は回避行動を取りながら対空射撃を続け、敵機が対空砲の射程外に出るまでにさらに1機撃墜判定を与えた。

 

戦果はエクスが最も多い4機を撃墜。これに摩耶が撃墜した3機と鬼怒が撃墜した1機が加わり、3人合わせて8機の撃墜となる。

数字だけ見れば何と少ない撃墜数だと思うだろう。だが、ただの8機ではない。この8機が化物並の練度を持つと謳われた鳳翔の艦載機たちだと聞けば誰もが驚愕するはずだ。特にエクスは最初の2機も加えれば1人で6機も落とした事になる。

 

「…!!?」

 

だが、喜ぶのはまだ早かった。エクスの魔力探知レーダーが再び鎮守府方面から飛んでくる航空機を捉えたのだ。その数、24機。

 

「…あははっ。鳳翔さんったら、さらに難易度を上げてきたよ」

 

エクスは乾いた笑い声を上げながら、再び演習機の襲来に備える。先ほどよりも倍に増えた航空隊の接近に、エクスは緊張感に包まれる。

 

「あ~?今度は何機だよ、エクス?あたしの電探じゃ正確な機数までは分かんねぇよ」

 

「…24機だよ」

 

「24!?…あっははは!!上等じゃねえか!摩耶様の実力はこんなもんじゃないって事、見せてやるよ!」

 

「き、鬼怒もまだまだいけます!」

 

「…いや、お前本当に大丈夫かよ?足震えてるぞ?」

 

「そ、そんな事ないです!恐れていては、皆の空は守れません!」

 

両手を振り上げたポーズで少しでも強く見せる鬼怒。だが、どう見ても足がガクガクと震えていた。

エクスはその様子を見て思わず吹き出してしまう。

 

「むー!エクスさん、今笑いましたねー!!」

 

「あははっ!ごめんごめん。謝るからそんなに怒らないでよ」

 

「あー!また笑った!」

 

「あっはははは!!」

 

「摩耶さんも笑い過ぎです!!」

 

ぷんぷんと怒ってそっぽを向く鬼怒。いつの間にかエクスの緊張は解れていた。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「すごい…」

 

画面越しにエクスたちの対空戦闘を見ていた秋月は、あまりの凄まじさにそれ以上の言葉が思いつかなかった。

 

「本当にすごいよ!!あの鳳翔さんの艦載機をあんなにたくさん落とすなんて!」

 

「そんなにすごい事なのですか、清霜さん?」

 

秋月はとなりで絶賛興奮中の清霜に話しかける。

 

「うん、鳳翔さんの艦載機さんたちはとても練度が高いんだ。だから8機も撃墜判定出した事はとてもすごい事なんだよ」

 

「そうだったんですか…」

 

秋月は鳳翔を見る。彼女は隣にいる金剛と話をしていた。

 

「…装備の恩恵もあるとはいえ、わずか1週間と少しでここまで練度を上げるとは…本当に優秀な子ですね。摩耶さんと鬼怒さんも、前回より動きがだいぶ良くなっていたようで嬉しいです」

 

「私もエックスの成長速度の早さに驚いていマース。これなら十分防空艦として艦隊の空を任せられるネー」

 

「いいえ、まだ十分ではありませんよ?」

 

金剛の言葉を鳳翔は否定する。首をかしげる金剛。

 

「え?なぜですか、鳳翔さん?戦果から見て防空を任せるには十分すぎるくらいですよ?」

 

明石も鳳翔の言っている意味が分からず、きょとんとする。

 

「いくら単独での対空能力が優れていても、一人でできる事には限界があります。ですからそれは摩耶さんたちとうまく連携して対処できるかどうか確認してから判断します」

 

秋月は画面に視線を戻す。そこには先ほど鳳翔から発艦した艦載機24機が、エクスたちに襲いかかろうとする様子が映し出されていた。エクスたちは即座に弾幕を張って迎え撃つ。

 

「艦隊防空もまたチームワークがあってこそ効果を最大限まで発揮できるもの。仲間を守るだけじゃなく、仲間と守り合う事も大切ですよ、エクスさん?」

 

勿論、艦隊旗艦を務めたあなたにはそれが分かりますよね?そう言って鳳翔はエクスがいる方向に笑みを向ける。秋月にはその様子が子の成長を見守る母親のようにも見えた。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

先ほどよりもずっと多い演習機が、彼女たちに襲いかかる。

 

「くっ…!さすがに数が多い…!」

 

吐き捨てるように言いながらも、これまで通り1機1機確実に撃墜判定を与えていくエクス。だがさすがに数が多すぎるため、大半の演習機が爆弾投下地点へと近づいてくる。

 

「…!!」

 

撃ち漏らした1機が鬼怒へと迫る。彼女は別の機体の対処に夢中で、背後から近づいてくる敵機に気付いていない。

 

「鬼怒、後ろから来ている!」

 

「え…!?」

 

エクスからの警告で、鬼怒はようやく後ろから来ている敵機に気付いたが、迎撃も回避も間に合いそうにない。

 

エクスは右舷の対空魔光砲をその敵機に向ける。高射装置が割り出したデータをもとに、各砲は敵機の予想位置に弾幕を張る。模擬弾を投下しようとした瞬間、その航空機は対空魔光砲の直撃弾を受けて爆炎に包まれる。

 

「きゃっ……!」

 

鬼怒は腕で顔を隠し、爆風から身を守る。

 

「大丈夫、鬼怒!?」

 

「は、はい。ありがとうございます、エクスさ…」

 

エクスに礼を述べようと彼女に視線を向けた時、鬼怒は彼女の背後から敵機が接近してくるのを確認する。

 

「エクスさん、後ろ!!」

 

咄嗟に叫ぶ鬼怒。それを聞いてエクスは後ろを振り向く。既に1機の演習機が模擬弾を投下しようとしている姿が彼女の瞳に映る。もはや迎撃も回避も不可能だった。

 

「…!?しまっ…!」

 

エクスは目をつむる。だが、いつまで経っても模擬弾が直撃した時の衝撃が襲いかかってくることは無かった。

 

(あれ…?)

 

目を開くと、丁度目の前の爆炎から飛び出してくる赤い航空機の姿を確認した。どうやら先ほど自分に模擬弾を投下しようとした機体らしい。

 

「エクス、大丈夫か!?」

 

横から摩耶が心配そうに近づいてくる。彼女の艤装の高角砲から煙が出ていた。

 

「ありがとう、摩耶!助かったよ」

 

「たくっ、お前も鬼怒も注意力がたらねーぞ?」

 

腕を組んで文句を言う摩耶。そんな彼女に、エクスは突然対空魔光砲を向ける。

 

「…!!?ちょっ、エクス!お前何する気…」

 

突然対空砲を向けられて驚く摩耶。そんな彼女を無視して、エクスは容赦なく魔力弾を撃った。

 

「ひっ…!!」

 

摩耶は情けない声を出して固まる。撃ち出された赤い光弾は彼女を素通りし、後方から接近していた演習機に直撃した。

 

「……」

 

「摩耶こそ注意を怠っちゃだめだよ?」

 

後ろを向いて呆然と突っ立っている摩耶に、エクスは笑顔で話しかける。

 

「…お、驚かすなよ!ビックリしたじゃねえか!!」

 

「ご、ごめん。もう模擬弾を落とそうといていたから…」

 

顔を真っ赤に染めて詰め寄る摩耶に、エクスは謝罪の言葉を述べる。

 

「お2人とも、ケンカしていないで!まだまだいっぱい来ますよ!」

 

「「は、はいっ!」」

 

涙目になって叫ぶ鬼怒に、摩耶とエクスは同時に返事をして気を引き締め直す。

 

「エクス…」

 

「何、摩耶?」

 

弾幕を張りながら、エクスと摩耶の2人は短く言葉を交わす。

 

「…サンキューな」

 

摩耶はそれ以上は何も言わず、戦闘に集中する。エクスも笑みを浮かべてから、迫りくる敵機を相手にしていった。

 

 

 

 

――その後も鳳翔航空隊との模擬戦が繰り返し行われ、エクスたちはのべ100機近くもの演習機を相手に戦った。戦果はエクスが合計20機撃墜で3発被弾、摩耶が13機撃墜で2発被弾、そして鬼怒が11機撃墜で1発被弾という結果になった。特にエクスは1週間と少し前とは比較にならないほどの戦果を上げ、摩耶たちも今までで最も良い戦果を上げることができた事に興奮を隠せなかった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

訓練が終わった時にはすっかり暗くなっていた。月の光に背後を照らされながら、エクスたち3人は埠頭に上がる。

 

「3人とも、お疲れ様でした」

 

「はい、エクスさん、摩耶さん、鬼怒さん。タオルと飲み物だよ!」

 

明石が3人に労いの言葉をかけ、清霜が持っていたタオルとお茶が入った水筒を3人に渡す。エクスたちはお礼を述べてからそれらを受け取る。

 

「エクスさん」

 

横から鳳翔がエクスに声を掛けてくる。

 

「鳳翔さん。今日は本当にありがとうございました」

 

「いいえ、私にとっても今回は良い訓練になりましたよ。3人ともよく頑張りましたね」

 

「「「えへへ…」」」

 

褒められて照れるエクスたち3人。鳳翔は話を続ける。

 

「今回の訓練から、エクスさんには是非防空艦として艦隊の空を守ってほしいと思っているのですが、どうでしょうか?」

 

「え…!?」

 

エクスは目を見開く。

 

「あなたの対空戦は実に見事でしたよ。摩耶さんたちとの連携にも問題はほとんどありませんでしたし、エクスさんには防空艦としての素質が十分にあると私は思っています」

 

これに金剛と明石も同意する。

 

「あの戦いぶりなら十分任せられマース!」

 

「私も賛成です!」

 

「……」

 

呆然とするエクスに、摩耶と鬼怒が称賛の言葉を浴びせてくる。

 

「やったじゃねーか、エクス!お前、鳳翔さんに認めてもらえたんたぜ!」

 

「やったね、エクスさん!これで一緒に戦えるね!」

 

「…どうでしょうか、エクスさん」

 

鳳翔はもう一度尋ねる。歴戦の空母である彼女に認められ、エクスは嬉しさのあまり頬を紅潮させる。

 

「はいっ、やらせてください!」

 

力強く頷くエクスに、鳳翔もまるで子供の成長を喜ぶ母親のような笑顔で返す。

 

そこへ秋月が走って近づいて来た。

 

「あ、あの…!!」

 

「秋月。どうだった今日の訓練は?」

 

「はいっ!とても勉強になりました!ありがとうございます!」

 

そう言って頭を下げる秋月。彼女はがばっと顔を上げ、再び口を開いた。

 

「あの…!私、頑張ります!そしていつか立派な防空艦になって、皆さんと一緒に艦隊の空を守って見せます!」

 

エクス、摩耶、鬼怒の顔を交互に見て、力強く宣言する秋月。エクスは彼女に近づくと、その頭を優しく撫でた。

 

「うん、その時は一緒に頑張ろうね」

 

「はいっ!!」

 

秋月は満面の笑みで返事をする。そんな彼女を摩耶と鬼怒も微笑ましそうに見つめた。

 

「…さて皆さん、そろそろお腹がすいてきたころじゃないでしょうか?」

 

するとここで鳳翔がその場にいる全員に話しかけてきた。彼女の意図が分からず首をかしげる一同。

 

「今日は特別に居酒屋『鳳翔』で私が皆さんに夕食を振る舞いますよ?」

 

この発言に大半の者が一斉に歓喜の声を上げる。

 

「マジかよ!あの居酒屋『鳳翔』の料理が食べれるのか!」

 

「やった!鬼怒、頑張った甲斐があったよ!」

 

「え~と、私たちはただ見学していただけなんですが本当によろしいのでしょうか…?」

 

「勿論ですよ。清霜さんも秋月さんも是非。ただし他の方には内緒ですよ?」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!!ごちそうになります!」

 

「さぁ、エクスさん!早く行こう!」

 

「分かったから引っ張らないでって清霜~!」

 

楽しそうな様子で居酒屋『鳳翔』へと向かうエクスたち一同。満月はそんな彼女たちのためにその優しい光で夜道を照らしてくれていた。

 

 

To be continued...

 






おまけ『山風が横須賀鎮守府に着任しました』


山風「あたし…白露型駆逐艦…、その8番艦…山風……です」

真理恵「よろしくね、山風。私がこの鎮守府の提督の『梶ヶ谷 真理恵』です。今日早速歓迎会を開くから、必ず参加してね?」

山風「別に……いいよ…そういうのは…。あたしの事は…放っておいて…」

真理恵「そんな事言わないでよ~。貴方みたいな子、放っておけるわけないじゃな~い?それに『ぽ犬』ちゃんや『まろ~ん』ちゃんもあなたに会いたがっているんだから」

山風「(ぽ犬…?まろ~ん…?)……まぁ…いいけど」

真理恵「ありがとね。……ところで、山風ちゃん」←山風の肩を掴む

山風「え…。な…何…?」

真理恵「ちょっと私の事…ママかお母さんって呼んでくれないかしら?」

山風「え……て…提督?急に…何?」

真理恵「お願い!一生のお願い!!」

山風「……え…えっと…………お、お母さん…?」

真理恵「ゴハァッ…!!!」←吐血

山風「ふぇっ!?な…何…!?」

真理恵(やばかった…。ママと呼ばれていたら確実に死んでいた…)

山風「あの…提督……大…丈夫…?」

真理恵「ガバッ!!」

山風「……!!?」

真理恵「あ~ん、心配してくれてありがと~う!よしよしよしよし!!」←抱き着いて頭をわしゃわしゃと撫でている

山風「ふぁっ…!!?やっぱり放っておいて…!構わないで~…!!」

真理恵「無理!私はママとしてあなたを守ってあげなきゃいけないの~!!」

山風「い…いや!離して…!!」←なんとか振りほどいて執務室から飛び出した

真理恵「待って~!!もっと頭わしゃわしゃさせて~!!」←浮遊魔法を発動して追いかける

山風「ふぁっ…!?つ、翼が生えた…!?」

真理恵「山風ちゃ~ん!!」←すごいスピードで追いついてくる

山風「だ、だれが~!だずげでがが~!うみがぜ姉~!」←泣きながら必死に逃げる

真理恵「よし、捕まえ……」










ガシッ

真理恵「ガシッ…?」←誰かに腕を掴まれた

???「「何しているのですか、真理恵提督?」」←妙に優しい声

真理恵「……(おそるおそる)」

加賀「(にっこり)」

海風「(にっこり)」

真理恵「…え、加賀…?それに海風ちゃんも何で…」

海風「山風の叫び声が聞こえたので佐世保から飛んできました」

山風「う…うみがぜ姉~!!」

海風「よしよし、もう大丈夫だよ」

加賀「…さて真理恵提督。向こうで少しお話があります」

真理恵「え!?…ちょ、ちょっと待った!その前に煮干しを取りに…」

加賀「黙って来なさい」←襟首掴んで引きずっていく

真理恵「あ、いえその……ごめんなさ~い!!」←手をバタつかせながら廊下の奥へと消えていった。











時雨「あっ、フィジー」

フィジー「どうしたの、しぐしぐ?」

時雨「海風と加賀さんを見かけなかった?今日出撃があるのにいないからって提督が困っているんだよ」

フィジー「それならさっき『助けなければ!』って言って2人してどっか行っちゃたよ?」

時雨「???」
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