零これ   作:Woudy

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魚雷①

 

 

「……んっ」

 

外から聞こえる小鳥たちのさえずりで目が覚める。日はまだ完全に昇っていない。

 

「んあ…。朝か……」

 

体をゆっくりと起こしてベッドから降りると、未だ寝惚けたままの状態で窓に近づく。カーテンを開けて外の景色を見ると、東の空から太陽が少しだけ顔を覗かせていた。

 

「ん~……」

 

その太陽のわずかな光を見つめながら、けのびをして完全に自分の体を起こす。

 

対空訓練の翌日。魔導戦艦『エクス』の一日は、今日も朝早くから始まる。だが、今日の彼女はいつもと様子が違った。

 

「……今日はいよいよあの訓練…か……」

 

顔を俯かせ、どこか不安な様子で言葉を発するエクス。

 

「…でもこのままで良いわけがない…何としてでも克服しなきゃ…」

 

そう言ってエクスは顔を上げると、ジャージに着替えて外へと出た。今日も吹雪と一緒にランニングをするためだ。

 

エクスが不安を抱いている本日の訓練。その内容は彼女にとって1週間前のトラウマを思い起こさせるものであった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

それは歓迎会が行われた2日後の事であった。

この日、エクスは講義終了後に金剛からある装備について教えてもらっていた。

 

「…ぎょらい?」

 

エクスは初めて聞く名前に首を傾げる。金剛は彼女を演習場に案内しながら説明を続ける。

 

「そうデース。海中を進んで敵艦を攻撃する兵器の一種デース。その威力はとても大きく、如何に大型艦といえども、何発も喰らえば致命傷になりかねないネー。デスから今後は魚雷の回避訓練もしっかりやってもらいマース」

 

「海中を進む…。そのような兵器、今まで考えた事ありませんでした」

 

「OH、そうデシタか~。…………………え?」

 

エクスが発した信じられない台詞に、金剛は目を見開いて固まる。

 

「…?どうしました、金剛さん?」

 

急にこちらを見て固まっている彼女に、エクスは何事かと尋ねる。

 

「……え、エックス。ひとつ聞いても良いデスか?」

 

「?はい、どうぞ」

 

「エックスは”魚雷”という兵器を知っていマスか…?」

 

おそるおそる尋ねる金剛。エクスは彼女の質問の意図が理解できぬまま首を振る。

 

「いえ、全く知らなかったです。さっき金剛さんから聞かされて初めて知りました」

 

瞬間、口をあんぐりと開ける金剛。

 

「え?え?…ど、どうしたのですか、金剛さん?」

 

なぜ金剛がそのような反応をするのか全く分からず、エクスは次第に焦り始める。もしかしたら自分は何かいけない事を口走ってしまったのではないかと。

自分の先ほどまでの言動の中からその原因を探し出そうとするエクス。そんな彼女の両肩を金剛はガシッと両手で掴む。

 

「え?ちょ…、金剛さん!?」

 

「で、ではエックス!YOUの国には魚雷がないのデスか!?」

 

「え!?…は、はい!ないです!」

 

「では”水雷戦隊”は知っているデース!?」

 

「い、いえ…その”すいらいせんたい”とはどういったものでしょうか…?」

 

「YOUの国の潜水艦は魚雷もなしに一体どうやって戦うデース!?」

 

「”せんすいかん”というものも我が国にはないです…」

 

「では爆雷は…!?」

 

「…それも今初めて聞きました」

 

金剛はそこまで聞くとエクスの肩から手を離し、大きくため息をつく。エクスは何が何だかさっぱり分からず、ただじっと彼女を見つめる事しかできなかった。

 

「……これは一から教える事が山ほどあるネー」

 

「???」

 

「兎に角演習場に行くネー。そこに行けば”魚雷”がどんなものか、どうやって使うのか分かりマスから」

 

そう言ってエクスの手を引っ張って先を急ぐ金剛。エクスは彼女にされるがまま演習場へと向かって行った。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「…ではエックスの国の駆逐艦たちはどうやって戦艦と戦うのデスか?」

 

演習場に着いてから訓練が開始されるまでの間、金剛はエクスと先ほどの事について話をしていた。

 

「小型艦が戦艦と戦うなんてほぼ無謀ですよ。装甲が薄い上に、小口径砲しか搭載されてないのですから…」

 

エクスも逆に質問を行い、ようやく彼女の言っている内容が理解できた。

この世界の”駆逐艦”と呼ばれている軍艦は、自分たちの国の小型艦に相当する艦種である事。最初は駆逐艦の事を単なるこの世界での小型艦の別の呼び方だと思っていたがそうではなく、ちゃんと名前の由来があった。さきほど話した”魚雷”と言う兵器を搭載し、大型艦に肉薄して攻撃を行う水雷艇。その水雷艇を”駆逐”するために建造されたのが、駆逐艦の始まりである。

 

(”駆逐”するための軍艦だから”駆逐艦”…。なるほど、この世界の小型艦の艦娘が駆逐艦を名乗る理由がやっと分かった)

 

やがて駆逐艦が水雷戦も行うようになると、”水雷艇”という艦種自体が駆逐艦によって”駆逐”されたという。話を聞いていると、今更ながらなぜ自分たちの世界でこのような軍艦や兵器が登場しなかったのか不思議に思えてきた。

 

「…魚雷が発明されなかったのはなぜなんでしょうネ?」

 

金剛もエクスと同じ疑問を抱く。

 

「おそらく、周辺国海軍の主力が帆船ばかりだったからではないでしょうか…?わざわざ海中を進んで攻撃する意味が、私の祖国にはなかったと思います。相手が帆船なら、小型艦の小口径砲でも十分倒せますし」

 

エクスは自分の推測を金剛に伝える。

実際には彼女の祖国、神聖ミリシアル帝国が古の魔法帝国の遺跡から魔導魚雷に関する内容を解析できなかったためなのだが、それ以前に技術習得を古代文明の解析に依存し、自国の基礎技術を持っていなかった事が一番の原因ではないだろうか…。

 

「エックスの世界は文明格差が随分大きいデスね。こちらの世界で考えると半世紀以上も技術格差がある事になるデース」

 

「私の祖国は古の…古代の超文明国家の遺跡を解析できるという点で他国よりずっと有利だっただけです。だからいつの間にか格差が大きく広がってしまったのでしょうね」

 

「そうデシタか…」

 

ここで他の子より一足先に準備を終えて2人の会話を聞いていた不知火が話しかけてくる。

 

「…それにしてもエクスさんの祖国の駆逐艦は不憫ですね。戦艦や空母にも大打撃を与えうる”これ”を持っていないなんて…」

 

そう言って61cm酸素魚雷を装填した4連装発射管を撫でる不知火。エクスは頬をぽりぽりと掻く仕草をする。

 

「まぁ、味方にしか戦艦も空母もなかったし…小型艦にそこまでの戦闘力が求められる機会もなかったから」

 

仮想敵国のムーと衝突があったら、もしかしたらそうなってたかも。そう考えながら、エクスは第零式魔導艦隊に所属していた小型艦8人の事を想う。

 

(あの子たちが魚雷の事を知ったら、きっと皆大喜びするだろうな…。特にフィジーなんか大はしゃぎしそう…)

 

大艦巨砲主義が主流の神聖ミリシアル帝国では、彼女たちのような小口径砲しか搭載できない小型艦は軽視されがちだった。それは最新鋭艦が集まる第零式魔導艦隊でも例外ではない。しかしこの魚雷と言う兵器が存在していれば、彼女たちの扱いもまだマシになっていたのかもしれない。

 

勿論、エクスたち船魂にはそういった人間の事情など関係ない。艦種など一切関係なく楽しく過ごした仲間との日々が、エクスの頭の中で次々と浮かび上がってくる。

 

「…エックス、泣かないでください」

 

「…エクスさん。どうぞ使ってください」

 

どうやらいつの間にか涙を流していたらしい。金剛はエクスの頭を優しく撫で、不知火がポッケから取り出したハンカチを渡す。

 

「…ありがとう」

 

エクスは礼を述べてハンカチを受け取る。

 

「皆さーん、そろそろ訓練を始めますよー!」

 

阿武隈が訓練に参加する駆逐艦娘全員に聞こえるように大声で叫ぶ。

 

「…そろそろ時間ですね」

 

それを聞いて立ち上がる不知火。金剛とエクスは彼女を見る。

 

「では、エクスさん、金剛さん。私はこれで」

 

「頑張るデース!」

 

「ハンカチ、ありがとう」

 

コクリと頷くと、不知火は阿武隈達の元へと歩き出した。

 

「うわっ…!?」

 

「「!!?」」

 

だか、数歩歩いたところで何かに足を引っかけたのだろうか。不知火は地面に思いっきり倒れてしまった。

 

「「「不知火(ぬいぬい)(ヌーイ)!!」」」

 

慌てて不知火の元に掛け寄るエクスと金剛。そこに彼女の姉である陽炎もやって来る。

 

「大丈夫か、不知火!?」

 

「だ、大丈夫です…。不知火に落ち度などありません…」

 

(何もそんなに強がらなくても…)

 

顔が地面にあたったらしく、不知火の鼻は赤くなっていた。

 

「いや、どう見ても落ち度しかないじゃん」

 

精一杯の強がりをしていた不知火に対し、陽炎は容赦なくツッコミを入れる。不知火は涙目のまま戦艦と同じと言わしめた鋭い眼光を彼女に向ける。

 

「陽炎…。”ぬいぬい”と呼ぶなとあれほど…」

 

「はいはい、それだけ睨む元気があるなら大丈夫そうね」

 

大半の者が見れば震えあがるはずの不知火の眼光を見ても何とも思わず、陽炎はポッケから絆創膏を取り出すと彼女の鼻に貼り付けた。治療を終えて陽炎はゆっくりと立ち上がる。

 

「よし、これで大丈夫でしょ。…訓練は出れそう?」

 

「…この程度で休むわけないでしょ?」

 

「そう言うと思った」

 

陽炎はにかっと笑うと、不知火の手を引いて立ち上がらせる。

 

「じゃあ、エクスさん、金剛さん!また後で!」

 

「あぁ」

 

演習へと向かう陽炎姉妹を、エクスは手を振って見送る。

 

「…仲の良い姉妹ですね」

 

「そうデスね。ヌーイもああ見えてカゲーと一緒にいるのが嬉しいのデース」

 

エクスの言葉に同意を示す金剛。エクスにはなぜか、陽炎姉妹が自分とカリバーの姿と重なって見えたような気がした。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「では、始めますよー!」

 

阿武隈の号令で始まった訓練。今回は彼女を旗艦に、『陽炎』、『不知火』、『深雪』、『初雪』、『江風』の6人からなる水雷戦隊が、龍驤飛行隊による雷撃を回避しながら迎撃を行う事になっている。

 

(軽巡…つまり私の国で言う魔砲船を旗艦に数隻の駆逐艦から構成されていて、主に敵艦隊に肉薄し魚雷を撃ち込む戦法で相手を倒す部隊……それが水雷戦隊)

 

エクスは金剛からあらかじめ教えてもらった事を思い出しながら、魚雷と言う兵器がどのように使われるのか興味を抱いて訓練を見ていた。

 

やがて水平線の向こうから低空飛行する飛行機械が出現した。エクスはそれを見て違和感を抱く。

 

(……あれ?低空で飛行する航空機?…前に似たような状況があったような…)

 

自分の記憶に似たようなものがあった気がしたエクス。そういえば魚雷の説明を受けた時も、その中に違和感を抱く要素があった。

 

(…海中を進む兵器…。たしか私、そのような兵器を昔見たことがある気がする…)

 

頭に手を当てて考える彼女をよそに、雷撃機は水雷戦隊へと接近していく。それを見ていると、なぜか次第に頭が痛くなってきた。

 

「どうしマシタか、エックス?何か考えているのデスか?」

 

金剛が心配そうにエクスに声を掛ける。さらに痛みが増してきた。

 

「あ、金剛さん。…いえ、何でもないです」

 

「本当デスか?頭を押さえていたので具合でも悪いのかと思いマシタが…」

 

「ちょっと考え事をしていただけです。心配かけてすいませんでした。もう大丈夫ですから」

 

「そうデスか?具合が悪くなったらすぐに言うデース」

 

「はいっ、ありがとうございます…」

 

エクスは心配させまいと無理やり笑みを浮かべてから演習場に視線を戻した。

 

「…………………!?」

 

直後、エクスの笑顔が凍りついた。彼女の目にはちょうどぶら下げた魚雷を投下する雷撃機の姿が映っていた。その投下された”魚雷”という兵器は…細長く、そして彼女の知る爆弾よりずっと大きかった。

 

(低空……海中……)

 

エクスの脳裏に浮かぶのはグラ・バルカス航空隊との戦闘。低空から進入してきたそれらが、自分たち目掛けて”海中を進む兵器”を投下するシーンが鮮明に思い出された。

 

「あ……あぁ……」

 

そしてエクスの視線は、雷撃機が魚雷を投下したポイントに向けられる。海中から水雷戦隊に向けてのびるいくつもの航跡を見た瞬間、彼女は自分や仲間がどうやって沈んだのかを思い出す。

 

「あ……う…………」

 

エクスは冷や汗をかきながら雷跡を見詰め続ける。自分たちを沈めた兵器が、こちらに向かって来ているような錯覚に襲われていた。息が荒くなり、手も震えて始める。

 

「エックス…?」

 

どんどん顔色が悪くなっている事に気付いた金剛がエクスに話しかける。だが恐怖に苛まれていたエクスの頭にまで、彼女の声が届くことは無かった。

 

海中を進んだ魚雷が水雷戦隊に到達した時、彼女の精神は遂に限界を迎えた。

 

「う…うぷ…………うおぇぇぇぇぇーっ!!!」

 

「!!?エックス…!?」

 

おそらく自分たちの船体に魚雷が突き刺さる瞬間を思い出したのだろう。謎の攻撃に対する恐怖が最高潮に達したエクスは、朝食べた物を消化液と共に一気に吐き出していった。

 

「エックス!エックス!しっかりするネー!!」

 

エクスが突然嘔吐したことに驚いた金剛は、必死に彼女の名前を叫ぶ。それを聞いた他の艦娘も何事かとこちらへ駆け寄ってくる。

 

腹の中の物をすべて出し終えた後、今度は意識が朦朧とし始める。彼女の精神が、無意識にこの恐怖から逃れようとしていたのだ。

 

(…あぁ、そうか…)

 

エクスはうつぶせになって地面に倒れる。金剛たちが必死に声を掛けるが、それも次第に聞こえなくなっていく。

 

(私たち……”魚雷”で沈んだんだ………)

 

自分たち第零式魔導艦隊を襲った謎の攻撃の正体が理解できたところで、エクスの意識は完全に途切れた。

 

 

To be continued...

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