零これ   作:Woudy

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エクスの登場は次回になります。


戦闘①

 

 

時は少し遡る。

 

 

伊豆大島の東約30kmの海域にて海を割きながら航行する4人の艦娘。軽巡『天龍』を旗艦に駆逐艦『神風』、『春風』、そして『清霜』からなる遠征艦隊である。遠征任務を終えた彼女たちは、自分たちとほぼ同じ大きさのドラム缶を曳航しながら、横須賀鎮守府を目指し北上中だった。

 

「今回の遠征は大成功でしたね、神風お姉様」

 

深夜からの任務にもかかわらず、大して疲れている様子もない春風が、自分の姉である神風に話しかける。

 

「そうね、春風。今回はいつもよりたくさん資材が手に入ったし、司令官きっと喜ぶわ~!」

 

神風は真理恵の喜ぶ姿を想像し、思わず笑みを浮かべる。

 

「おめぇら、まだ鎮守府に着いてないぞ。『帰るまでが遠征』なんだからな。しゃべるのは結構だが気ぃ引き締めろよ?」

 

任務を無事終わらせて若干気が抜けている大正浪漫溢れる姉妹2人を天龍が注意する。だが天龍はおしゃべりに関しては一切咎めなかった。艦娘とはいえ彼女たちも立派な少女。楽しくおしゃべりしたい年頃だ。昨日からの任務で大変だっただろうし、労いの意味も込めて大目に見ることにした。

 

「分かってますって、天龍さん。…あ、そうだ!天龍さんも明日非番ですよね?私たち横須賀へお買い物に行くんですけど、よろしければ一緒に行きませんか?」

 

神風が尋ねると、天龍は首を横に振る。

 

「いや、明日は龍田のとこに行かなきゃならねぇから無理だな。誘ってくれて悪ぃけど…」

 

「そうですか…。清霜さんは私たちと一緒にお買い物行きませんか?」

 

神風は艦隊最後尾にいる清霜に尋ねる。

 

「あっ、ごめん!私もパス!エクスさんの所へ行くつもりだから」

 

清霜も彼女の誘いを断る。聞いたことのない名前に、神風も春風も首をかしげる。

 

「エクスって、……昨日から話題の例の艦娘か?」

 

その名前の人物に思い当たる節があった天龍が、確認も兼ねて清霜に尋ねる。

 

「うん、そうだよ!昨日会っていっぱいお話したんだけど、その時清霜が横須賀の街を案内するって約束したんだ。だから明日街へ連れて行こうと思ってるんだ」

 

「え~、羨ましいな~!私もその人に会ってお話したいですよ~!」

 

「大丈夫だよ神風ちゃん。もう面会謝絶してないから会いに行けるよ。今日エクスさんの部屋に行くつもりだから、天龍さんと春風ちゃんの4人で一緒に会いに行こうよ」

 

「え!ホントッ!?」

 

「本当ですか?ありがとうございます。春風、楽しみです」

 

話題の艦娘に会えると聞いて喜ぶ神風姉妹。

 

「なぁ、清霜は昨日その艦娘に会ったんだよな?どんな奴なんだ?」

 

「ん~、たしか異世界から来たって言ってたよ?」

 

「は?異世界?冗談だろ?」

 

天龍は怪訝な表情で清霜につっこむ。当たり前の反応だ。普通なら異世界から来たなどと言われて真に受ける人などいない。だが天龍のつっこみに対し、清霜も手をブンブンと振りながら反論する。

 

「冗談じゃないよ!本当だよ!司令官もエクスさんもそうだって言ってたもん!どうしてなのかはほとんど理解できなかったけど…」

 

昨日真理恵からエクスがどのようにしてこの世界へやって来たのか説明を受けたが、聞いたことのない単語が多くチンプンカンプンだった。ただ異世界から来たという事は事実だと理解できた。

 

「い、異世界!?今異世界って言いましたか清霜さん!?その話詳しくお願いします!」

 

するとここで『異世界』という単語に反応した神風が、目を椎茸にしながらその話に食いついてきた。

 

「ど、どうしたの神風ちゃん!?そんなに興奮して」

 

「ふふっ、神風お姉様は今ラノベ?という物に夢中になっているのですよ」

 

「そうよ!特に現代学生がチート能力を手に入れて異世界でヒロインたちと一緒に活躍したり、自衛隊が異世界で悪の軍団や魔物を圧倒したりする作品にはまっているの!異世界の艦娘って聞いて興味ないわけないじゃない!」

 

「わ、分かったよ。話すから落ち着いて神風ちゃん」

 

普段の神風とは比較にならないほどの饒舌っぷりにさすがの清霜もたじろぐ。このまま話させ続けるときりがないと判断した清霜は、一旦彼女を落ち着かせる。

 

「あっ、ごめんなさい。ちょっと興奮してしまいました。…え~っと、そのエクスって人の容姿はどんな風でしたか?私昨日は哨戒任務でその人の姿見てないので」

 

「容姿?う~ん、そうだねぇ…。神風ちゃんが今言った作品に出てくる異世界の人たちみたいな格好していたよ?」

 

清霜自身もその手のジャンルのラノベはよく読む方であり、それらに描かれる異世界人の多彩な衣装をある程度記憶していた。エクスも彼らのそれを思わせるような衣装を身に纏っていた事を思い出す。

 

「本当!?早く会って見てみたいな~!…他には!?出身地とか!」

 

「たしか神聖ミリシアル帝国?だったけ?一番文明が発達した魔法の国から来た軍艦だって言ってた」

 

「魔法!?まさに異世界ね!」

 

「何だか神聖ローマ帝国みたいな響きがして神秘的な名前ですね~」

 

「魔法ねぇ…。…てことはソイツの艤装も魔法で動いてんのか?」

 

盛り上がる神風姉妹の前方を進んでいた天龍が、ふと疑問を口にする。

 

「う~ん、どうだろう?そこまで聞いてないし…」

 

清霜は思案顔になる。

 

「たぶん魔法で動いているとは思うよ?魔法の国から来たって言ってたし、今日会いに行ったら聞いてみるよ」

 

「そうか…。しかしだとしたら大変だな、ソイツ。燃料や弾薬に必ずしも俺らのものが使えるとは限らねぇわけだし」

 

天龍の懸念は燃料に関してのみ当たっていた。弾薬に関しては天龍たちと同じものでも問題はないが、燃料の方は彼女らのもので代用はできない。エクスの艤装を動かすために必要なエネルギーは魔力であり、それは魔石と呼ばれる燃料から供給される。地球にも一応魔石はあるのだが埋蔵量が少なく(この埋蔵量の少なさが、本作の地球において魔法ではなく科学が発達した要因の一つである)、しかも大半が海外に存在するため入手が困難だった。また仮に入手できても、高純度化に必要な施設や道具が足りず、この世界の魔導師たちは時間をかけて精製するしかないため非常に効率が悪かった。魔力総量の大きい高位の魔導師ならばそこら辺の石ころに自身の魔力を注入するといった事も可能だが、あいにくこの地球の歴史上今までそのような魔導師は存在しなかった。

 

「そこは大丈夫だと思いますよ?司令官が何とかしてくれるかもしれません。司令官、魔法使いですから」

 

…そう、今までは。神風が言った人物こそ、それが可能な人物だったのである。

 

「魔法使いねぇ……。俺は未だに信じられないな…」

 

「天龍さんも何度か見たじゃないですか、司令官の魔法。…特に魔法を使った時に出すあの光の翼!とても綺麗で神秘的でした!」

 

「そりゃ見たけどよ…。ってか提督って本当に何者なんだ?あんな不思議な力を持っているわ、光る翼を出すわ、…普通の人間ではないみてーだが」

 

少しまぶしかったのか、天龍は顔に当たる太陽の光を片手で遮る。

 

「何者かなんてどうでもいいじゃないですか天龍さん。司令官は司令官です!」

 

「分かってるって神風。ちょっと気になっただけだって………ん?」

 

天龍は視線を自分の後方で航行している神風から前方に戻した時、彼女の電探が何かを捉えた。

 

「どうしました、天龍さん?」

 

「電探に感あり…だ。水上艦らしき影を捉えた」

 

「え、水上艦ですか?…春風、たしか今日の哨戒任務の人たちって…」

 

「はい、摩耶さんに鳥海さん。あと龍田さんと夕立さんの4人でしたよ、神風お姉様」

 

「そうそう!哨戒部隊の人たちではないのですか?」

 

天龍は神風の質問に対し、首を横に振る。

 

「いや、目標は6隻だ。摩耶たちじゃねぇ。それにこいつらは海から向かって来ている」

 

「!?じゃ、じゃあまさか…」

 

神風の顔が強張る。今の海は深海棲艦が闊歩している場所だ。そこからやって来ている水上艦らしき6つの影。考えられる可能性は一つしかなかった。

 

「あぁ、深海棲艦と見て間違いないだろうな」

 

天龍は頷く。

 

「とにかくお前ら、見つからねーように気をつけろ。…今の俺らは主砲1基しかない。敵の規模は分からねぇが、仮に重巡でもいたら太刀打ちできねぇからな」

 

「「「了解しました!」」」

 

天龍の指示に頷き、気を引き締める駆逐艦3人。その時深海棲艦と思われる水上艦隊から、索敵機らしき航空目標が発艦した。索敵機は天龍たち遠征部隊に向かって一直線に飛んでくる。

 

「!?天龍さん、索敵機がこっちに向かって来ているよ!」

 

対空電探を積んでいた清霜が、天龍たちに報告する。

 

「まずい!この距離だとすぐにこっちの姿を見られちまう!…あの水上艦と距離をとるぞ!」

 

天龍の言う通り、ほんのわずかな時間で南の空から黒い点が一つ、彼女たちの元に現れた。それは徐々にその黒く禍々しい生き物のような姿に変わり、彼女たちの上空へと達する。

 

「くそっ!やっぱり深海棲艦だったか!」

 

天龍の電探には索敵機からの情報を得た深海棲艦の艦隊が、自分達へと進路を変えるのが確認された。

 

「気づかれちまったか…。お前ら!任務は中止だ!ドラム缶は投棄しろ!全速力で鎮守府に逃げるぞ!」

 

「「「了解!!」」」

 

4人は機関出力を上げ、増速を始める。索敵機を出したという事は軽巡以上の艦艇が少なくとも一隻はいるという事である。今の自分たちの武装は少ない。戦えばこちらが不利なのは確実だった。天龍は駆逐艦たちに指示を出した後、鎮守府に緊急の無線を入れようとする。

 

「…あ、あれ!?おかしいな!」

 

その時最後尾を航行していた清霜が悲痛な声を出した。彼女の声を聞いた3人が後ろを振り向く。

 

「どうした清霜!?」

 

「て、天龍さん。機関出力が上がらないよぉ…!」

 

「何だって!?」

 

天龍は驚愕しながらもドラム缶を投棄し、すぐさま清霜の元まで移動し併走する。神風姉妹も心配そうに彼女を見る。

 

「どうしてなの!?行く前あんなにチェックしたのに~!」

 

「今そんな事はいいから、それよりどれだけ出せるんだ!?」

 

「に、25ノットまでしか出せないよ…」

 

ここで天龍は電探を見る。深海棲艦と思われる艦隊は、約30ノットのスピードでこっちに接近していた。

 

「相手の方が速いな…。このままじゃ追いつかれちまう…。おい、神風!春風!」

 

天龍は前方を航行しながらこちらを見ている2人に叫んだ。呼ばれた2人はビクリと震えてから返事をする。

 

「「は、はい!」」

 

「お前らは先に行け!俺は清霜の側にいる。臨時旗艦は神風!お前に任せる!」

 

「!?そ、そんな!?お2人だけ置いて行くなんて…!」

 

「いいか、俺たちの武器は少ない。相手は軽巡以上の艦がいるかもしれないし、数でも向こうが有利だ。最悪4人まとめて海の底だ。…艦隊の生存率を少しでも上げる必要がある」

 

「で、でも」

 

天龍は不敵な笑みを浮かべる。

 

「…な~に、沈むつもりなんかこれっぽっちもねぇ。俺たちもお前らを追って必ず鎮守府にたどり着くから。…とにかく旗艦としての命令だ。行け!」

 

「「……了解」」

 

未だ葛藤している神風と春風だったが、命令である以上仕方ない。2人は速力を上げる。30ノットを超える速度に達した2人は、しだいに天龍と清霜を引き離していく。

 

「天龍さん!清霜さん!必ず助けに来ますから!」

 

神風がこちらを振り返って叫んだ。

 

「…ごめんね、天龍さん。清霜のせいで」

 

小さくなっていく2人を見て、清霜が暗い表情で横にいる天龍に謝る。それに対し天龍はニッと笑って彼女の頭を撫でた。

 

「気にすんなって。トラブルのない任務なんてねぇんだから。…おっといけねぇ、鎮守府に連絡入れる途中だったな」

 

清霜の頭から手を離すと、天龍は無線に手を当てて鎮守府に連絡を入れようとした。

 

「天龍さん!あれ!!」

 

その時清霜が南の方角を指さす。彼女が指をさした方向から現れた深海棲艦。その艦隊に人型の深海棲艦の姿がある事を確認した2人は驚愕する。

 

「嘘だろ!戦艦ル級じゃねーか!しかも2隻だと!?」

 

軽巡どころではない。自分たちを追って来ている艦隊は、戦艦ル級2隻、重巡リ級1隻、軽巡ホ級1隻、駆逐イ級2隻からなる水上打撃部隊だった。

 

「なんでこんな沿岸域にまで戦艦や重巡が来るの!?今まで軽巡ですら滅多に見かけなかったのに!」

 

「清霜、とにかく出せるだけスピードを出せ!行くぞ!」

 

「う、うん!!」

 

天龍と清霜は鎮守府を目指して25ノットで北上する。だが敵艦隊は30ノットの速度で自分たちを追いかけてきており、追いつかれるのも時間の問題だった。天龍は鎮守府に緊急通信を送り、通信に出た真理恵から増援部隊をこちらに送るから、それまで全力で逃げるよう指示を受ける。

 

「…!?もう撃ってきやがった…!!」

 

通信を終えると同時に、水平線の彼方にいる深海棲艦の艦隊が天龍たちに砲撃を開始した。2隻のル級が煙に包まれ、砲弾がこちらへと飛んでくる。砲弾は2人より少し離れたところに着弾し、巨大な水柱を形成する。

 

「くそっ!弾着観測射撃か!」

 

上空を旋回する敵の偵察機を天龍は睨めつける。敵機に向かい射撃すると同時に被弾する確率を少しでも下げるため、2人は回避行動を繰り返しながら鎮守府を目指した。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

一方、重巡『摩耶』と『鳥海』、軽巡『龍田』、駆逐艦『夕立』から成る哨戒部隊は金剛と合流し、遠征部隊救出へと向かっていた。

 

「くそっ!ル級だと!?今までこんな事なかったぞ!」

 

摩耶が吐き捨てるように言う。

真理恵から敵の詳細を聞いた増援部隊5人はその編成に驚愕した。何せ自分達が排除して以降、大型艦級の深海棲艦は一度としてこちらの哨戒範囲に接近した事はなかったのだから。

 

「!?前方から水上艦が2隻来るネー!」

 

摩耶から旗艦を譲り受け、艦隊の最前列を航行していた金剛が前方から接近してくる人影を捉え、身構える。その人影はしだいに彼女たちの見覚えのある姿になる。

 

「あっ、神風お姉様!あれっ!!」

 

「哨戒部隊の人たちだ!おーーい!!」

 

こちらの存在に気付いたのか、叫びながら手を振る神風姉妹。金剛たちも遠征部隊の2人を確認し、彼女たちと合流する。

 

「カミー!ハルー!無事でよかったデース!」

 

「あれっ?天龍さんと清霜ちゃんがいないっぽい!?」

 

夕立が遠征部隊の残り2人がいないことに疑問を抱く。それに対し神風が返答する。

 

「実は……清霜さん、機関の調子が悪くて速度が出せなくて、それで天龍さんがそばに…。私たちは先に行けって言われて…」

 

「分かりまシタ。私たちが今すぐ助けに行きマスから、泣かないでくだサーイ」

 

今にも泣きそうな神風の頭を、金剛はやさしく撫でる。

 

「神風さん、春風さん。天龍さんたちはあの向こうにいるのですね?」

 

「はい、そうです」

 

鳥海の質問に、春風が頷く。

 

「さぁ、行くデース!カミーとハルーも私たちと一緒に来てほしいネ!2人だけ先に鎮守府に帰すのは危険デスから」

 

金剛の言葉に頷く神風姉妹。その時プロペラの轟音が耳に入って来たため、7人は音のする方向を見る。

 

「あれは…」

 

「鳳翔さんと龍驤さんの航空隊ですね」

 

鎮守府でも2人しかいない空母艦娘の精鋭飛行隊が天龍たちのエアカバーを行うべく、金剛たちを追い抜いて神風たちが来た方向へと飛び去っていく。その数烈風12機、彗星12機の計24機。

 

「兎に角、私たちも急ぐデース!」

 

『了解!』

 

7人も深海棲艦に襲われている天龍と清霜を助けるべく、全速力で向かった。

 

 

 

――――

 

 

 

横須賀鎮守府 埠頭

 

 

「今回はホンマおかしいわ、戦艦まで沿岸に来るなんて…。それに敵の編成…どう考えても偵察部隊ではないみたいやな」

 

「えぇ、敵艦隊は明らかにこの鎮守府を目指しているようですね」

 

「天龍たちは不運にも鎮守府へ行く途中のその敵と出くわしたっちゅうことやな…」

 

第1次攻撃隊と同じ編成の第2次攻撃隊24機を発艦させた鳳翔と龍驤が、遠征部隊を追尾している敵艦隊の本当の目的について考察する。

 

「前回の作戦で雷撃機の大半が点検中の時に襲撃が来るとはな…。なんでこんな時に限ってやって来るんやろうな…。まさかこちらの通信を傍受されとるのか…?」

 

「それを言っても仕方ありませんよ、龍驤さん。今稼働可能な機でやるしかありません」

 

「分かっとる。深く考えるのは後回しや。…おっ、艦載機が敵艦隊を発見したみたいやな。天龍と清霜も見つけた」

 

第1次攻撃隊が深海棲艦の艦隊を発見する。既に敵艦隊は天龍と清霜に砲撃を加えていた。2人はジグザグに航行しながら敵艦隊の攻撃をかわし続けていたが、敵は少しずつ距離を詰めてきており、被弾するのも時間の問題だった。

 

「艦載機のみんな!敵の注意を天龍たちから逸らすんや!攻撃開始!第2次攻撃隊も、会敵しだい攻撃開始や!」

 

「戦闘機の皆さんは、周囲を警戒してください」

 

無線で龍驤と鳳翔の指示を受けた艦載機たちは、それぞれ自分の役目を果たすべく行動を開始した。

 

「後は金剛たちが到着するまで時間を稼ぐだけや…。そういえば鳳翔、例の艦娘も増援として向かっているって言うとったな?」

 

「えぇ、青葉さんと古鷹さんが彼女と共に」

 

「しかしまだ訓練すら全くしてないんやろ、その子?いくら提督が許したとはいえ大丈夫やろうな…」

 

龍驤の懸念は最もであった。艦娘もまた艤装という兵器を扱う立派な軍人である。訓練もなしに実戦に赴いたところで自分の扱う武器をうまく運用する事など、よほど優秀でもなければできないだろう。ましてや今日初めて艤装を動かしたような艦娘が、いきなり本物の戦場に出された時のリスクは計り知れない。最悪本人どころか、仲間まで轟沈という事になりかねない。あの優秀な提督がこんな簡単な事を分からないわけないはずだが…。

 

「大丈夫だと思いますよ。邪魔にならないように救出部隊よりずっと後方から支援にのみ徹するよう司令官さんから厳命されてたみたいですし」

 

「う~ん、確かにそれなら金剛たちだけで片付けてしまうから、遠くからただ見てるだけで終わるかもしれへんけど…。それでもリスクが無くなったわけやない。何で提督はその子を前線に送ったんや?」

 

龍驤の疑問に、鳳翔はふふっと笑う。

 

「…司令官曰く、彼女の強い意志を感じ取ったからみたいですよ?」

 

「強い意志?」

 

「えぇ、彼女が自分にも行かせてほしいと司令官に頼んだ時です。その時の彼女の目から『今度こそ大事なもの守りたい』、『もうただ見ているのは嫌だ』。そういった意思を感じ取ったそうですよ」

 

「……そうか。それで後方支援のみ徹するという条件で戦場に出るのを許可したというわけやな…。その子も随分辛い目に遭ったんやな…」

 

龍驤は空を仰ぐ。思い出すのは自分が沈んだ第2次ソロモン海戦の時。

 

「…うちらもあの時は…見てる事しかできへんかったな…」

 

「…えぇ」

 

鳳翔も後輩の空母たちが自分を残して次々と沈んでいったあの時を思い出していた。同じく生き残った葛城や隼鷹たちがそばにいてくれなければ、とっくに自分の心は壊れていたのかもしれない。

 

(”船魂”だったあの頃は何もできなかった。…でも今は違う)

 

「おっと、戦闘中に考え事はあかんわ」

 

そう言って龍驤は戦いへと集中する。彼女の言葉を聞いた鳳翔も、意識を戦場へと移した。

 

(今の私たちは大事な人たちを守る事ができる…”艦娘”になれたのですから)

 

ただ後輩たちを見送る事しかできなかった自分が、こうして大切な人を守るために戦える。それが鳳翔にはたまらなく嬉しかった。

 

 

To be continued...

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