実りの秋は早々と過ぎて行き幻想郷に冬が訪れる。
お正月も無事迎えられ春が来る季節に移るはずだが。
……幻想郷の冬は5月になっても終わらない。
主人公、藤村大樹は不思議に思った。
人里の知り合いに聞いてもこんな事は今まで無かったらしい。どうやら新しい異変のようだ。
俺はいつも通り寺子屋へ向かう。寺子屋の屋根には昨晩降り積もったであろう雪がまだ残っていた。
人里に凍えるような冬の風が入ってくる。今日の朝はまだ晴れているだけ幾分マシだ。
夏は外の世界と比べてだいぶ涼しい幻想郷。それでも冬の寒さはそう大差ない。
「おはよう慧音。今日も速いね。」
「ああ。おはよう。寺子屋の近くの道の雪かきをしていたからな。」
どうやら慧音は除雪していたようだ。朝の弱い俺とは違い早めに来て生徒の安全を守る先生の鏡のような人だ。
「俺も手伝わないとなあ。慧音だけに雪かきさせるのはいけないし。」
「気にするな。朝が苦手なんだろう。人には得意不得意があるから仕方ない。」
その優しさが俺の心を温めてくれる。
「それにしても……。」
俺は上を見上げる。寺子屋の屋根には雪が積もってなかった。慧音が除雪したのかな。
……いかん、この冬が日常になる。
「もう5月、春だっていうのにまだ凍えるような冬。俺が言うのも何だけど、これは明らかな異変なのに霊夢はまだ解決しないのかな? 」
11月から始まった寒さが、4,5ヶ月続くのは異常だ。
「さあな。あいつ結構面倒くさがりな所があるからな。でもそろそろ動くだろう。」
そもそも、幻想郷の秩序を守る博麗の巫女がそんないい加減でいいのか?
「そうだと良いんだがな……。」
前回の紅霧異変たる時は人里に霧が覆われた頃には既に霊夢と魔理沙が解決したと聞いていた。
今回はどうも動いている気配がない。もう5月……4月はつい最近終わり、桜の花見が出来ずここの人達も嘆いていた。だが一向に解決しそうにない。
……冬眠でもしているのだろうか。その気持ちは分かる。オフトゥンの魔力は別次元。起きようとする心を何度もへし折ってくるからなあ。
「そんな事気にしたって私達には何も出来んからな。それならいつかこの冬も終わると思いながら過ごす方が気が楽だろう? 」
「そうですね。今日も授業頑張ろう。」
気合を入れた所で、俺は寺子屋の暖かい部屋にこもる。
つい1週間前に聞いたばかりの話だが、レミリアが行った紅霧異変は吸血鬼……レミリアの弱点である『太陽の光』を隠してしまうのが目的だったと言う。
実にわかりやすい。俺自身外の世界で吸血鬼の弱点はいくつか聞いたことがある。太陽の光も然り。主にあの超人気の漫画でだけど。あのロードローラーをぶつける吸血鬼からね。
それに対して、今回の異変の目的がまるで見えない。この幻想郷に冬が居座り続けた方が有利な妖怪でもいるのだろうか?
そんな事を考えても何も思いつかない。得するのは雪女とかかな?
「大樹先生。そんなにボーッとしてどうしたの?」
生徒の1人が俺に喋りかけてくれたようだ。
「考え事さ。」
「ねえ大樹先生~。何で今年の冬は終わらないの~?」
ちょうどその話題について考えていた所。
「ここに来てまだ1年も経っていない俺に聞かれても分からないよ。何故かは分からないけど、きっと博麗の巫女が春にしてくれるさ! 」
生徒の何気ない質問を俺は希望的観測を込めて返す。
この冬はいつ終わるのやら。そろそろ終わらないと農作物に影響が出そうだけど。
「それじゃあ慧音。お疲れ様~。」
今日もづがれだ。こんな時は暖かい自室でこもるのが一番。飲みに誘われても断ろう。
「ああ。また明日な。」
いつものように授業が終わり自宅へ帰ろうとしていたその時。突然目の前に人が飛んできた。
「すいませーん。そこの外来人の貴方!」
きっと俺のことだろう。
「? はい。何でしょう?」
そこに来たのは白い服、黒いスカート。黒髪ショートのカメラを持った少女であった。……カメラって事は、この人も外来人かな?
「申し遅れました。私『文々。新聞』の記者をやってます射命丸文という者です。少しインタビューの方よろしいですか?」
「新聞か……。そういえば、俺取ってないなあ。」
人里の皆が新聞を読んでいるのをしばしば見かけた事があるが、俺は1度も読んだことが無かった。だってここは事件事態が起こらないからなあ。幻想郷に範囲を広げれば、そうでもないかも知れない。
「それなら丁度いいです!是非うちの新聞取ってくださいよ。」
射命丸さんが目を輝かせながら売り込む。どんな感じなのか気になるが、悪くはないかな。
「商魂たくましいですね。まあ質問の後にでも考えておきますね。」
うん、値段によるかも。寺子屋の教師の給料は安いけど、幻想郷ではあまり出費しないからなあ。だいたいは住居代しか引かれないし。光熱費も水道代もないからなあ。
「ありがとうございます。それでは早速質問なのですが……。その前に。貴方は少し前に幻想郷へ来た外来人で間違い無いですよね?」
「ああ。少しって言っても半年以上前ですけど。」
射命丸さんはメモ帳とペンを取り出した。おお、いかにも記者っぽいぞ。
「そうだったんですか。それじゃあ質問していくんですが、今回の事をどう考えていますか?」
「今回の事って、この長い冬の事ですか? 」
「はい。実際この異常気象は幻想郷では無かったこと。異変と言ってもおかしくないですよ。」
内容は異変に対する感想か。よくある街頭インタビューみたいなものか。
「ああー……。今回の異変で思う事は2つありますね。一つ目はこの異変の理由です。」
「と、言いますと?」
「他の人も言ってるかもしれないけど……。紅霧異変の時は理由が『苦手な太陽光を遮る為』。だけど今回のような幻想郷の冬を終わらせない事にメリットは何なのか、気になります。」
射命丸さんはサラサラッとペンを動かす。
「なるほど~。なかなか鋭い鑑識眼をお持ちのようで。」
鋭いも何も、疑問に思っただけなんだが。こういうのが聞き上手なのかな?
「だから理由について色々考たのですが……。何がしたいのか俺には検討もつきません。もしかしたら、冬が好きな妖怪達の仕業かもしれないですね。」
「それでもう1つとは?」
「何故霊夢……博麗の巫女がこの異変を放ったらかしにし続けていたのか。いくら相手がわからないと言ってもこのまま冬を放置してたら食料難になって幻想郷のバランスが壊れるだろうに。」
射命丸さんはフムフム、と頷く。
「ご協力ありがとうございました。貴方の家は知っているので明日お試し版入れておきますね。」
俺の個人情報はどうやら保護されていないらしい。何故家がバレてるし。
「ありがとうございます。……1つ、伺っても? 」
「何でしょうか? 」
文が帰ろうとする中、俺は呼びとどめた。
出会った時から気になることがあった。そして今見つけたが、射命丸さんの後ろに生えている小さい羽。何よりも頭につけている赤い帽子のようなもの。これで連想される妖怪は1つだけだ。
「射命丸さんって……。天狗、ですよね。」
「はい。鴉天狗と呼ばれる種族ですよ。まあ外来人からしたら物珍しいものかも知れませんが。こっちじゃあ結構の数が生活していますよ。」
やはりか。しかも俺の母親と同じ種族じゃないか。
「その……。だいぶ前に幻想郷から抜け出した女性の鴉天狗をご存知ないですか?」
少しドキドキしながら、返事を待つ。
「……。」
……あれ、射命丸さんの雰囲気が変わった?
「確かに知っていますよ。ただ……。」
振り返った射命丸さんの目は、凍りついた感じというか、他社を突き放す感じがする。
「ただ……?」
「貴方の反応から、その女性の息子だという事は分かりました。ただ貴方はこの事に関わらない方がいい。きっと悲惨な目に合うから。」
さっきまでの丁寧な敬語口調も変わり、まるで人格が変わったかのようだ。
「そせめて理由だけでも。他の人から聞きましたけど、何故俺の存在は認められないんです? 」
「人間の血が混じった者を、烏天狗と認める事が出来ない。前代未聞の貴方の事例はこの結論に。」
結論……?
「もし、俺が烏天狗だと主張すればどうなるんです?」
「そうなれば、始末するのも受け入れるのも天魔様の言う事次第ですかね。」
天魔様……? 恐らく烏天狗を統べるトップか?
「自分と母親の問題に関わるなと言われて、俺はできません。それに、俺は母親に会うために幻想郷に来たんです。最初は死んでいると勘違いしていたけど……。生きているのなら、会いたい。」
俺は無意識に拳に力を入れた。最初は知りたいと思っていたが、幻想郷に居るのなら、会いたい。記憶には残っていないけど、きっと優しい母親に違いないから。
「そうですか。……忠告はしました。もしその時が来たならば私がどうこうできなくなりますよ。」
「文さんの忠告は貰っておくよ。それに俺は自分で何とかするよ。」
突然、射命丸さんが我に返ったかのような反応をする。
「……。すいません。偉そうなこと言って。それでは失礼します。文々。新聞を宜しくお願いしますしますよ~。」
まるで突風の如く、射命丸さんは去って行った。
空を飛び人里の近くの山へ向かっているだろう彼女を見つめながら俺は考え込む。
結論、そして天魔様……。それが一体どういうことか。俺はまるで分からない。
夕日が空を染め始めた頃。何処からか妖精達が空を踊り始める。
異変が始まると妖精が活発になると聞いたことがある。
その翌日、俺は速く目が覚めた。
いつもの寒い冬は無く、布団が暑苦しく感じた俺はそれを除けて窓から景色を見る。
そこに雪はなく、人里には暖かい春風が訪れていた。
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