「ええっと、思い出せる範囲でですけど…」
病院にある菊岡の部屋の中で、誠は思い出しながら机の上でカードを並べる。
1枚はDen Cityでの一件で手に入れたカード、《BF-黒槍のブラスト》とレベル3の《C.C.ウルフ》を置いている。
「本当はチューナーっていう特殊なモンスターを使っていたんです。でも、そのカードを手に入れることができなかったので、今回は《ウルフ》で代用しています」
「分かった。それで、レベル3のチューナーモンスターとレベル4の《黒槍のブラスト》で…」
「はい、レベル7のシンクロモンスターをシンクロ召喚していました」
もう1つのカードケースから《神聖魔導王エンディミオン》を出し、レベル7のシンクロモンスターということにして2枚の上に置く。
リンク召喚、リンクモンスター以外にエクストラデッキからモンスターを特殊召喚する手段もモンスターも知らない菊岡は興味深げにその召喚法を理解していた。
「ということは、精霊はシンクロ召喚という未知の召喚法を使っている、ということになる」
「シャドーが何かを思い出してくれればいいんですけど…」
「まあいい。だけど、今後も同じようなことが怒らないとは限らない。用心しておいてくれ」
「はい」
病院を出て、自転車に乗った誠は西の中川方面へと向かっていた。
平日であるが、学校は短縮授業で昼に終わり、その後は病院に言ったことで、もうすぐ時刻は午後4時半になろうとしている。
「おい、なんでそんな方向へ走るんだよ?いつもは家でつまらねー動画を見るんだろ?」
「つまらないって言わないでよ…。ちょっと、歯医者に…」
中川のすぐそばにある雑居ビルの一角にあるその歯医者は誠が小さいころから世話になっている場所だ。
虫歯になると必ずと言っていいほどこの歯医者へ行く。
ドリルで虫歯を削られたときの痛みと音、そして独特の匂いが幼いころはすごく怖くて、治療が終わると明日奈や両親に泣きついたのを覚えている。
さすがに今年で17歳になる今は泣き出したりしないものの、苦手意識は今でも変わらない。
馬廻駅から徒歩で4分の位置にあるため、自転車であれば2分足らずで到着することができる。
中川の東側にある交差点に北側から差し掛かった。
「あ…そろそろ赤か…」
横断歩道用の青信号が点滅し、自転車を止める。
西側には橋があり、そこを渡るとすぐに歯医者のある雑居ビルにつく。
「おいおい、まだ赤になってねーだろ?行きゃいいだろ?」
「これは黄色信号と同じだから…!?この頭痛って…!?」
突然の、しかも覚えのある頭痛を感じ、左手で頭を抑えながら周囲を見渡す。
「ああ…こりゃあ、またステージ2が出たか。しかも近い…」
誠が交差点の南側に目を向けると、ここまでまっすぐ続く1本道を1台の軽トラックが80キロ近いスピードで走り、交差点のど真ん中を突っ切ろうとしていた。
「暴走トラック!?あの道って、制限速度が40キロじゃ…!?」
「んなこと言ってる場合かよ!?いるぜ…あのトラックの上に」
「トラックの上??」
頭痛が収まっていき、シャドーが指摘した暴走トラックの上を見る。
そこには『マツカゼ』前の道路で見た銀色のステージ2の姿があった。
トラックが交差点に急ブレーキをしながら突入する。
80キロ近いスピードを急減速させていることから、黒いタイヤ痕ができ、白煙とゴムの焦げたにおいが出る。
目の前に迫ってきたトラックに驚いた誠は自転車を倒し、尻餅をついてそれを見ていた。
トラックは誠の目の前で停車し、トラックの上にいたステージ2が周囲に響くクラクションの音と何が起こったのかを確かめに来た人々や運転手を無視して、彼の目の前に飛び降りる。
「裏切り…裏切り、者…」
顔がフルフェイスの機械の仮面で隠れているためか、たどたどしい機械音声が聞こえてくる。
「裏切者…僕が?」
「いや、俺かもな…。こいつはてめーなんて歯牙にもかけちゃいねえ。しかも…精霊に意識が乗っ取られかけてるな」
意識の乗っ取りについては、ステージ2の言動で誠も薄々とだが、勘付いていた。
その言葉の意味は分からないが、少なくとも精霊に憑依されても、人間としての意識が残っている人のものとは思えない。
吸血鬼男の場合は暴走しており、ほとんど言葉になっていなかったのに対して、ジャックドー、大原信也は狂ってはいたものの、意識そのものは彼本人で、コミュニケーションを少なくともとることができた。
コミュニケーションが取れる点はジャックドーと変わらないが、その主が違う点で危険な領域に近づきつつあることがわかる。
「裏切者…消す」
「一体どうした!?何があったんだ!?」
交差点の北西あたりにあるコンビニ、『パーソン』の中から中年で小太りの警官が出て来る。
せっかくのトイレ休憩中に騒ぎが起こり、若干不機嫌だが、警官としての責務を果たそうとこの騒ぎを起こした張本人であるステージ2に近づく。
「おい、この軽トラを動かしたのはお前か!?まったく、変なコスプレをしおって…近ごろの若いのはよくわからん!」
「ギ…ギ…?」
機械音声を出しながら、ステージ2は警官に目を向ける。
仮面についている青色のツインカメラが点滅する。
「事情を聞かせてもらう。パトカーへ…」
「邪魔…だ」
拘束するため、腕をつかもうとした警官の腕を逆につかみ、川へ向けて投げる。
川岸はかなり高く、そこから川へ落下すると死ぬのは確実だ。
「ああ…!!」
立ち上がり、なんとか彼を助けようと走るが一足遅く、聞こえてきた悲鳴は水の音によってかき消された。
まさかの事態に女性の悲鳴が聞こえて来て、周りにいた人々は怖がって逃げ出す。
「お前、いったい何を!?」
遅れてやってきた、先ほどの警官の相棒が遅れて出て来て、ステージ2に向けて叫ぶ。
再び現れた邪魔者を見たステージ2はゆっくりと彼に近づいていく。
「に…逃げてください!!殺されてしまいます!!」
「殺される?いったいどうい…ウゥ!?」
ズドンと腹部に突然鈍い痛みが発生し、警官は腹を抑え、口から血を流しながら倒れる。
肉薄したステージ2の拳が腹部に直撃したようで、かなりの力が入っていたことがわかる。
かくして、その交差点にいるのは誠とステージ2だけになった。
「なんとかして、止めないと…!!」
恐怖で足がすくむのを必死に隠しながら、誠はデュエルディスクをつける。
それと同時に変身し、姿も変化した。
「シャドー…?」
「勘違いすんな。こいつは俺を殺すつもりだ。てめえもろとも…。だったら、さっさとデュエルで黙らせて、俺について聞いてやるぜ」
デュエルディスクを見たステージ2は左腕をデュエルディスクに変化させる。
そして、カメラの色が赤く変化する。
「ギギ…ドロイド…デュエル・スタンバイ…。裏切者、抹消…」
「トビー…さん…」
ステージ2、ドロイドの正体かもしれない人物の名前を口にしていると、倒れている自分の自転車の籠に入っているカバンから着メロが流れる。
この時間帯であれば、姉か直葉のものだろうが、今はそれにかまっている場合ではなかった。
誠
手札5
LP4000
ドロイド
手札5
LP4000
カードをドローした誠は倒れている警官に目を向ける。
ピクリとも動いておらず、生きているかどうかすら分からない。
恐怖を唾と共に無理やりの見込み、ドロイドに目を向ける。
「誠、絶対勝てよ!!こいつからは聞きたいことが山ほどあるからよぉ!!」
「僕の…先攻。僕は手札の《C.C.ウルフ》を墓地へ送り、《C.C.バロール》を特殊召喚」
白をベースとした、推進器を3本付けたアームを2本付けている大型のモノアイカメラが現れる。
そのカメラの上部には顕微鏡座の配置をした青い球体が装飾されている。
C.C.バロール レベル5 攻撃1900(2)
「更に、僕は手札から《C.C.フェニックス》を召喚!」
左右に4枚ずつ羽根の有る、炎のような赤い装甲と鳥獣型の機械が現れる。
両翼には鳳凰座の配置の青い球体が置かれている。
C.C.フェニックス レベル4 攻撃1600(4)
「このカードの召喚に成功したとき、墓地に存在するレベル4以下のC.C.モンスター1体を特殊召喚できる。僕は墓地から《C.C.ウルフ》を特殊召喚!」
《C.C.フェニックス》の口から炎の輪が放たれ、その輪の中から《C.C.ウルフ》が飛び出す。
C.C.ウルフ レベル3 攻撃1000(3)
「そして、手札から魔法カード《イーリアス・ドロー》を発動。僕のフィールド上にC.C.が3体以上存在し、C.C.以外のモンスターが僕のフィールドに存在しない場合、デッキからカードを2枚ドローする」
3体の召喚によって失った手札を補完し、誠はエクストラデッキを見る。
ここから繋ぐ星座は1つ。
イーリアス・ドロー
通常魔法カード
(1):自分フィールドに「C.C.」モンスターが3体以上存在し、それ以外のモンスターが存在しない場合に発動できる。自分はデッキからカードを2枚ドローする。
「現れろ、星座を繋ぐサーキット!!」
上空に手を掲げると、夕方であったはずの空が星が輝く夜空へと変わっていく。
「アローヘッド確認。召喚条件はC.C.モンスター2体以上。僕は《C.C.バロール》、《フェニックス》、《ウルフ》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、《C.C.ジェニオン》!」
上空に現れたサーキットに3体のモンスターが飛び込み、双子座が出現すると同時に《C.C.ジェニオン》がサーキットからフィールドに舞い降りる。
ビームダガーを引き抜き、ドロイドに警戒するかのように身構える。
C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500(EX1)
「更に、墓地の《C.C.バロール》の効果発動。このカードを素材にC.C.リンクモンスターのリンク召喚に成功したとき、墓地に存在するこのカード以外のリンク素材となったモンスター1体を手札に戻す。僕は《C.C.ウルフ》を手札に戻す。そして、カードを2枚伏せてターンエンド」
誠
手札5→2(うち1枚《C.C.ウルフ》)
LP4000
場 C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500(EX1)
伏せカード2(1)(2)
ドロイド
手札5
LP4000
場 なし
C.C.バロール
レベル5 攻撃1900 守備2000 効果 闇属性 機械族
このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか使用できず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードは手札の「C.C.」モンスター1枚を捨てて、手札から特殊召喚できる。
(2):このカードを素材に「C.C.」リンクモンスターのリンク召喚に成功したとき、墓地に存在するこのカード以外のリンク素材となったモンスター1体を対象に発動する。そのカードを手札に加える。
「ギギ…ドロー…」
ドロイド
手札5→6
「《サイバー・ドラゴン》…特殊召喚。相手フィールド上にのみ…モンスターが存在するとき…ギギ、特殊召喚可能…」
サイバー・ドラゴン レベル5 攻撃2100(1)
「ギギ…手札から魔法カード…《エヴォリューション・バースト》発動…。自分フィールドに《サイバー・ドラゴン》が存在するとき…《サイバー・ドラゴン》の攻撃を放棄する代わりに…相手フィールドのカードを1枚破壊」
《サイバー・ドラゴン》の口から白いビームが発射され、《C.C.ジェニオン》を襲う。
「罠カード《メタル・コート》を発動!《ジェニオン》に装備!」
《メタル・コート》の効果で一時的に装甲が銀色にコーティングされた《C.C.ジェニオン》は《サイバー・ドラゴン》から放たれたビームを受け止める。
装甲に触れた瞬間、ビームが霧散しており、本体はダメージを受けていない。
《メタル・コート》を装備したモンスターはカード効果では破壊されない!」
「ギギ…手札から《サイバー・ドラゴン・コア》…召喚」
ビームが収まると同時に、浅黒い装甲をしたヘビ型の機械が現れる。
まだ完成していないのか、透明なカプセルに隔離されており、赤いケーブルによってその動きを封じられている。
サイバー・ドラゴン・コア レベル2 攻撃400(2)
「このカードの召喚に成功したとき…ギギ、デッキから…サイバー、もしくはサイバネティック魔法・罠カードを手札に加える…。《サイバー・リペア・プラント》を手札に加える…。手札から魔法カード…《シフトアップ》発動…。自分フィールドのモンスターのレベル…最も高いレベルに統一…」
《シフトアップ》から放たれる青い粒子がカプセルの中にも侵入し、《サイバー・ドラゴン・コア》が大型化するとともにカプセルを破って外へ飛び出す。
サイバー・ドラゴン・コア レベル2→5 攻撃400(2)
「レベルを5に統一…?それが条件のリンクモンスターでも…?いや…」
シンクロ召喚を見てしまった誠には、これがリンク召喚の下準備に見えなかった。
それ以外の、もっと別の召喚の準備。
シンクロ召喚とも違う何かが迫っているのを感じた。
「ぎぎ…レベル5の《サイバー・ドラゴン・コア》と《サイバー・ドラゴン》で…オーバーレイ」
夜空に銀河のような空間が出現し、その中に2体のモンスターが飛び込んでいく。
「オーバーレイ…!?」
「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築…。エクシーズ召喚…。《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》…」
上空の銀河、オーバーレイネットワークが爆発し、その中から《キメラテック・オーバー・ドラゴン》に似た頭部で、胴体が《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の車輪上のパーツとなっている《サイバー・ドラゴン》が現れる。
更に、後からレーザー砲とバリアユニットが装着され、まさにその姿は《サイバー・ドラゴン》にこれまでの派生したモンスターたちの力を結集させたものと言えるだろう。
サイバー・ドラゴン・ノヴァ ランク5 攻撃2100(5)
「シンクロの次は…エクシーズ…??」
「更に…《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》…オーバーレイネットワーク再構築」
驚きを抑える間もなく、更にドロイドはせっかく召喚した《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》を再び生まれたオーバーレイネットワークに取り込ませる。
オーバーレイネットワークの中で、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の胸部に∞の記号が大きく現れる。
「ランクアップエクシーズチェンジ…現れろ、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》」
上空から降りてくる《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の尻尾がより長くなり、同時に翼がより機械から生物に近いような造形へと変わっていく。
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ランク6 攻撃2100(EX3)
「あれ…?攻撃力が《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》と変わってない…?」
何かあることは分かっているものの、攻撃力が《サイバー・ドラゴン》と同じ2100であることが引っかかる。
そして、そのモンスターの周囲を舞う3つの球体にも違和感を感じた。
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の下に置かれているカードと同じ数の球体が何を意味するのか、それはすぐに理解できた。
「ギギギ…《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》は…《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》を素材にエクシーズ召喚可能…。その、攻撃力…オーバーレイユニットの数×200アップ」
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ランク6 攻撃2100→2700(EX3)
「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果…。攻撃表示モンスター1体をオーバーレイユニットに…」
「ええっ!?」
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の口から放たれる白い球体を受けた《C.C.ジェニオン》が光りの球体へと変化し、そのモンスターの周囲を旋回する。
敵であるはずの《C.C.ジェニオン》をも力に変えたことで、更に攻撃力を高めていく。
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ランク6 攻撃2700→2900(5)
「ギギ…手札から魔法カード《未来融合-フューチャー・フュージョン》発動…」
続けてドロイドが融合という聞きなれない言葉が入ったカードを発動する。
発動しても、そのカードがフィールドに出現するだけで、特に何の効果も演出もない。
「ギギ…バトル。《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》でダイレクトアタック…エヴォリューション・バースト・インフィニティ…」
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の口から白いビームが発射され、それが誠の正面で∞の文字を描くと、一直線に彼へ向けて飛んでくる。
「うわああああ!!!」
「ぐう…この野郎、こんなダメージをまともに受けやがってぇ!!」
攻撃を受けた誠だけでなく、シャドーもダメージを受けているのか、苦しんでいる。
変身していなかったら、そのまま灰になっていてもおかしくない。
誠
LP4000→1100
「ぐう…僕は罠カード《ショック・ドロー》を発動!!僕が受けたダメージ1000につき1枚、デッキからカードを…」
「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果…。1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ取り除くことで、カード効果の発動を無効にし、破壊」
オーバーレイユニットの1つが砕け、それによって発生する銀色の波紋を受けた《ショック・ドロー》が消滅する。
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ランク6 攻撃2900→2700(5)
取り除かれたオーバーレイユニット
・サイバー・ドラゴン・コア
「そんな…《ショック・ドロー》を無効にされるなんて!!」
「厄介なカードだぜ、ちくしょう!!」
「ギギ…カードを1枚伏せ、ターンエンド」
誠
手札2(うち1枚《C.C.ウルフ》)
LP1100
場 なし
ドロイド
手札6→1(うち1枚《サイバー・リペア・プラント》)
LP4000
場 サイバー・ドラゴン・インフィニティ(ORU3) ランク6 攻撃2700(5)
未来融合-フューチャー・フュージョン(永続魔法)(4)
伏せカード1(3)
フィールドのカードを失い、ドローに失敗した誠はハアハアと荒くなった息を整えながら、ドロイドのフィールドを見る。
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》のせいで、1ターンに1度、カードの効果の発動を無効にされた上に破壊されてしまう。
そして、攻撃表示モンスターをオーバーレイユニットに変える効果は敵にも味方にも使える。
つまり、彼の手札に通常召喚可能なモンスターが加わると、確実にパワーアップのチャンスを与えてしまうことになる。
「ハア、ハア…トビー、さん…」
そして、問題なのは憑依されているトビーだ。
このまま憑依され、乗っ取られてしまった状態が続いてしまうと元に戻れなくなるかもしれない。
まさか姉の身近な人がこんなことになるとは思わなかった誠は震える指を抑えながら、デッキトップに指をかける。
「僕の…ターン!!」
誠
手札2→3
「僕は…モンスターを裏守備表示で召喚。カードを1枚伏せてターンエンド!」
誠
手札3→1(手札・フィールドのカードのうち1枚《C.C.ウルフ》)
LP1100
場 裏守備モンスター(1)
伏せカード(2)
ドロイド
手札1(《サイバー・リペア・プラント》)
LP4000
場 サイバー・ドラゴン・インフィニティ(ORU3) ランク6 攻撃2700(5)
未来融合-フューチャー・フュージョン(永続魔法)(4)
伏せカード1(3)
「ギギ…ドロー…」
ドロイド
手札1→2
「ギギ…《フューチャー・フュージョン》の効果…。《キメラテック・ランページ・ドラゴン》を見せ、その素材となるモンスターをデッキから墓地へ送る…ギギ。《プロト・サイバー・ドラゴン》、《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》、《サイバー・ドラゴン・ドライ》を墓地へ…」
3枚のカードが墓地へ送られ、《未来融合-フューチャー・フュージョン》が青く光る。
誠は初めて見る融合モンスターに驚いたうえに、こんなピンポイントに複数枚のカードを墓地に肥やすことができるカードの存在に戦慄した。
仮に1ターンというタイムラグがなかったら、禁止カード息が決定的な破格の効果だ。
「ギギ…魔法カード《サイバー・リペア・プラント》発動…。墓地の《サイバー・ドラゴン》は3体…ギギ。《サイバー・ドラゴン・コア》、《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》、《サイバー・ドラゴン・ドライ》…墓地に存在する場合、《サイバー・ドラゴン》となる…。よって、デッキから《サイバー・ドラゴン・コア》を手札に加え、墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》をデッキへ…ギギ」
「サーチしたうえに《サイバー・ドラゴン・コア》をデッキに…!?」
「《サイバー・ドラゴン・コア》、召喚…」
即座に《サイバー・リペア・プラント》でサーチしたモンスターがフィールドに現れる。
既にオーバーレイユニットに変えることが決定づいているのか、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》は口にエネルギーをためている。
「ギギ…《サイバー・ドラゴン・コア》の効果。デッキから、《サイバー・ネットワーク》を手札に…ギギ。そして、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果発動…。《サイバー・ドラゴン・コア》をオーバーレイユニットに」
エネルギーがビームに変換され、口から発射される。
ビームを受けた《サイバー・ドラゴン・コア》はオーバーレイユニットに変わり、別の脅威へと姿を変える。
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ランク6 攻撃2700→2900(5)
「ギギ…バトル。《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》…裏守備モンスターを攻撃」
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の口から白い光線が発射され、セットされているモンスター、《C.C.ウルフ》が光りの中で蒸発してしまった。
「《ウルフ》の効果発動!このカードが特殊召喚されたモンスターとの戦闘で破壊されたとき、デッキからカードを1枚ドローする!」
「ギギ…《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果で無効…」
再びのドロー効果も、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》がオーバーレイユニットを消すことで消滅させる。
これにより、誠は2ターンの間に3枚の手札をそのモンスター1体によってフイにされたことになる。
取り除かれたオーバーレイユニット
・サイバー・ドラゴン
「よし…!僕は罠カード《墓地墓地の恨み》を発動!」
「ギ…??」
誠が発動した、デフォルメされた幽霊2匹のいる満月の墓場がイラストのカードを見たドロイドの動きが止まる。
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果で無効にすべきカードの選択を誤り、再計算に追われている。
「相手の墓地のカードが8枚以上あるとき、相手フィールド上のすべてのモンスターの攻撃力を0にする!」
カードからイラストになっている2匹の幽霊が現れ、ドロイドのフィールドを旋回する。
その幽霊のエネルギーが吸い取られて行っているのか、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》のカメラがブラックアウトし、動きを止めて地面に落ちた。
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ランク6 攻撃2900→2700→0
「こいつ…《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》を屑鉄に変えやがった…」
成功率半々の誠の賭けだったが、精霊とはいえ単調だったためか、それに勝つことができた。
ライフを大幅に失っているのは痛いが、まだツキはこちらにあるようにシャドーは思える。
「ギギ…カードを1枚伏せ、ターンエンド…」
誠
手札1
LP1100
場 なし
ドロイド
手札1(手札・伏せカードのうち1枚《サイバー・ネットワーク》)
LP4000
場 サイバー・ドラゴン・インフィニティ(ORU3) ランク6 攻撃0(5)
未来融合-フューチャー・フュージョン(永続魔法)(4)
伏せカード2(2)(3)
「僕のターン、ドロー!!」
誠
手札1→2
「僕は手札から《C.C.ブラスタ》を召喚!」
C.C.ブラスタ レベル4 攻撃1900(1)
「バトル。僕は《ブラスタ》で《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》を攻撃!イーグル・シュート!」
《C.C.ブラスタ》が上空で《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の周囲を旋回しながらガンランチャーを連射する。
遅効性のある炸裂弾が着弾し、爆発と共に《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》が消滅する。
「ぐうう…!」
ドロイド
LP4000→2100
「更に、僕は手札の《C.C.イーゼル》の効果発動。このカードは僕のフィールド上のC.C.が特殊召喚されたモンスターを戦闘で破壊したダメージステップ終了時に手札から特殊召喚できる」
「ギギ…永続罠《サイバー・ネットワーク》発動。更に罠カード《サイバネティック・リボーン》発動。《サイバネティック・リボーン》の効果…エクストラデッキから特殊召喚されたサイバー・ドラゴンが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られたとき、墓地からそのモンスター以外のサイバー・ドラゴン2体を特殊召喚…」
「く…!!」
爆発と共に散乱した《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の残骸が上空に出現した水色の渦の中へ運ばれていく。
そして、それと入れ替わるように《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》と《サイバー・ドラゴン》が現れる。
サイバー・ドラゴン・ノヴァ ランク5 攻撃2100(3)
サイバー・ドラゴン レベル5 攻撃2100(4)
サイバネティック・リボーン
通常罠カード
このカード名のカードは1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドのEXデッキから特殊召喚された「サイバー・ドラゴン」モンスターが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られたとき、墓地に存在するそのカード以外の「サイバー・ドラゴン」モンスター2体を対象に発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。
「チェーン3で、《C.C.イーゼル》を特殊召喚!」
月の石でできた装甲でできており、胴体がカンバスを固定した画架のような形となっている人型ロボットが現れる。
カンバスには画架座が中央にある夜空が描かれている。
C.C.イーゼル レベル3 守備1500(3)
「更に、《イーゼル》の効果。このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在するとき、デッキからC.C.モンスター1体を手札に加える。僕はデッキから《C.C.リザード》を手札に加える!更に、《C.C.リザード》は僕のフィールドにC.C.が存在するとき、手札から特殊召喚できる」
C.C.リザード レベル1 守備200(2)
C.C.イーゼル
レベル3 攻撃1200 守備1500 効果 地属性 機械族
このカード名の(1)の効果による特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドの「C.C.」モンスターが特殊召喚されたモンスターを戦闘で破壊したダメージステップ終了時に発動できる。手札のこのカードを特殊召喚する。
(2):このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在するとき、デッキに存在する「C.C.」モンスター1体を対象に発動する。そのカードを手札に加える。
「そして、現れろ!星を繋ぐサーキット!アローヘッド確認!召喚条件はC.C.1体!僕は《C.C.リザード》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク1!《C.C.ジ・インサー》!」
赤い厚手のマントで身を包んだ、純白の鎧姿の人型兵器がサーキットの中から飛び出す。
マントにはみずがめ座の刺繍が施されており、遅れて上空から降ってきた軍配を左手で握った。
C.C.ジ・インサー リンク1 攻撃0(EX1)
「《C.C.リザード》の効果!このカードをC.C.リンクモンスターのリンク素材として墓地へ送ったとき、相手フィールド上に《リザードテイルトークン》1体を守備表示で特殊召喚する」
リザートテイルトークン レベル1 守備2000(2)
「《ジ・インサー》の効果発動!このカードがフィールドに存在する限り、1度だけこのカードのリンク先にC.C.モンスター1体を特殊召喚できる。僕は墓地から《C.C.ジェニオン》を特殊召喚!」
《C.C.ジ・インサー》が軍配を空に掲げると、上空に双子座が浮かび上がり、そこから《C.C.ジェニオン》が下りてくる。
C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500(2)
C.C.ジ・インサー
リンク1 攻撃0 リンク 水属性 機械族
【リンクマーカー:下】
リンクモンスター以外の「C.C.」モンスター1体
このカード名のカードの特殊召喚は1ターンに1度しか行えない。
(1):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、自分の墓地に存在する「C.C.」モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターをこのカードのリンク先に特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。
「更に、再び現れろ!星を繋ぐサーキット!アローヘッド確認!召喚条件はC.C.モンスター2体。僕は《ジ・インサー》と《ジェニオン》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク4!《C.C.アウストラリス》!」
白い筋肉質な義肢を手足とし、左手に白い弓を握った白髪と褐色の肌の戦士が誠の目の前に現れる。
上空にいて座が出現すると、その光に包まれ、その姿が白い4枚羽根がついた灰色の鎧姿へと変わっていった。
C.C.アウストラリス リンク4 攻撃2800(EX1)
「僕はこれで、ターンエンド!」
誠
手札2→0
LP1100
場 C.C.アウストラリス リンク4 攻撃2800(《C.C.ブラスタ》、《C.C.イーゼル》、《サイバー・ドラゴン》とリンク)(EX1)
C.C.ブラスタ レベル4 攻撃1900(1)
C.C.イーゼル レベル3 守備1500(3)
ドロイド
手札1(手札・伏せカードのうち1枚《サイバー・ネットワーク》)
LP4000
場 リザードテイルトークン レベル1 守備2000(2)
サイバー・ドラゴン・ノヴァ ランク5 攻撃2100(3)
サイバー・ドラゴン レベル5 攻撃2100(4)
未来融合-フューチャー・フュージョン(永続魔法)(4)
伏せカード1(2)
「ギギ…ドロー…」
ドロイド
手札1→2
「永続罠《サイバー・ネットワーク》発動…。1ターンに1度、自分フィールドに《サイバー・ドラゴン》が存在するとき、デッキから光属性・機械族1体を除外…。《サイバー・ドラゴン・ドライ》を除外…。《サイバー・ドラゴン・ドライ》の効果発動…。このカードが除外されたとき、私の《サイバー・ドラゴン》1体はこのターン、戦闘・効果では破壊されない…ギギ」
フィールドに唯一存在する《サイバー・ドラゴン》が緑色のプリズム状のバリアに包まれる。
「そして、《フューチャー・フュージョン》の効果…。3体のサイバー・ドラゴンモンスターを素材に融合…」
《未来融合-フューチャー・フュージョン》の中から墓地へ送られていた3体のモンスターの幻影が現れ、上空に現れた渦の中へ飛び込んでいく。
「エクシーズ…融合…」
「融合召喚。ギギ、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》…」
渦の中から黒い五角形の石を組み立てて作ったような、中央部に赤く燃える動力源のある機械が出現する。
そして、その石と石の隙間から融合素材となった3体のサイバー・ドラゴンが顔を見せる。
キメラテック・ランページ・ドラゴン レベル5 攻撃2100(EX2)
「やっぱり、また攻撃力が2100…」
攻撃力が同じでも、《未来融合-フューチャー・フュージョン》の効果を使って召喚したモンスター。
そのモンスターに何かがあると感じざるを得なかった。
「ギギ…《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の効果…。このカードの融合召喚に成功したとき、融合素材となったモンスターの数まで魔法・罠カードを破壊できる…ギギ、しかし、今回はその効果を使用しない…」
せっかく魔法・罠カードを複数枚、好きに破壊できるカードだとしても、今の誠のフィールドには魔法・罠カードがない。
《未来融合-フューチャー・フュージョン》発動の目的が墓地肥やしだとしたら、今回召喚した《キメラテック・ランページ・ドラゴン》はついでというべきだろう。
一瞬、ドロイドが何かの信号をキャッチしたかのように首を左右に動かす。
「了解。これより、彼を連行する」
「え…?」
「このカードは…《サイバー・ドラゴン》を含むフィールド上の機械族モンスターを墓地へ送ることで、融合召喚できる…ギギ。私が除外するのは《サイバー・ドラゴン》、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》、《リザードテイルトークン》…そして、お前のフィールドに存在するすべての機械族モンスター」
「そんな…僕のフィールドのモンスターを融合素材に!?」
上空に現れ、残ったままの《融合》の渦がどんどん大きくなっていき、その中に2人のフィールドのモンスターたちが吸い込まれていく。
そして、その中から丸いタイヤ状のパーツがいくつも連なった蛇のような体をした黒い機械竜が現れる。
「融合召喚!《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》。このカードの攻撃力は融合素材となったモンスターの数×1000となる」
キメラテック・フォートレス・ドラゴン レベル8 攻撃0→7000(EX2)
「そのカード…《サイバー・ドラゴン》がいたら、いつでも…」
「何やってんだ、誠!!何か打開策を考えやがれ!俺が消えちまうだろう!!」
シャドーの叫び声が聞こえる誠だが、今の彼にはどうしようもない。
フィールドにも手札にもカードがない彼になすすべはない。
「…そ、んな…」
「バトル。《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》でダイレクトアタック」
タイヤ状のパーツから次々と機械竜の頭部が出現し、先頭の頭部と共に口にエネルギーをため込む。
「誠ーーーー!!!」
シャドーが叫ぶ中、次々と黒いビームが発射され、そのビームの中に誠は包まれようとしていた。
しかし、急に彼の目の前に紫色の大型な人型兵器が出現し、誠を守り始めた。
「この…モンスター…は…?」
自分のデッキにない、不思議なモンスターを見ながら、誠は意識を手放していった。
誠
LP1100→0
倒れた誠のそばに、黒いマントの男が姿を現し、ドロイドはその男にお辞儀をする。
男はドロイドを見ずに、倒れている誠を背負う。
「彼は確かに裏切り者だ…。だが、殺せという命令は出ていない」
「ギ…?しかし…」
「私は『あのお方』から全権を委任された。従ってもらう。お前にも…な」
男は変身を解除した誠に目を向ける。
そして、ドロイドと共に男は一瞬で姿を消した。
「あれ…?誠君、まだ帰ってきてないんですか?」
誠の家で、店の手伝いとして客席の掃除をしている直葉は調理を続ける明日奈に声をかける。
今日はお客さんが多くなるかもしれないということで、里香と桂子も来ており、4人で仕込みを続けている。
「今日は歯医者へ行くって言ってたけど、歯医者ってそんなに時間がかかるのかしら…痛っ!」
「だ、大丈夫ですか?」
急に声を上げた明日奈を心配し、モップを置いて彼女に駆け寄る。
左手の中指を軽く斬ってしまったようで、すぐに救急箱を取り出して治療を始める。
「平気平気、ごめんなさい。心配かけちゃって…」
「珍しいわね、明日奈が包丁で手を斬るなんて。…にしても、どこでほっつき歩いてるのかしら?誠の奴!」
今日は誠にいろいろ手伝いを頼もうと思っていた里香が腹を立てる中、直葉は何か胸騒ぎを感じていた。
(誠君…どうしちゃったんだろう…?)