遊戯王VRAINS 幽霊に導かれし少年   作:ナタタク

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第26話 人と精霊

「ここは…」

真っ暗な空間の中、誠はどうして今自分がここにいるのかを思い出す。

(確か、僕は僕の影とデュエルをして…)

デュエルをし、もう1人の自分からの言葉をはねのけ、彼は1枚のカードを残して誠の中へ消えていった。

そのカードを手にしてからの記憶が途切れており、おそらくそのカードと今の状況が関係していると思えて仕方がない。

「…この声は…」

聞き覚えがあるようでない、そんなあいまいさを感じさせる声がどこからか聞こえてくる。

同時に、剣戟やブレスの音が響き渡り、その先には淡い2つの光がぶつかり合っているのが見えた。

「この光がやってるの…?」

どういうわけなのか確かめようと前へ踏み出そうとするが、なぜか足が動かず、同時に腕も動かせない状態であることを知る。

何も重しや枷がついていないが、それでも体を動かすことができず、ただその光を見ることしかできない。

「貴様…!!その『鍵』を奪うということが何を意味しているのか分かっているのか!?」

「鍵…??」

「当たり前だ!こいつこそが奴らが『神』なんてもんを名乗っている理由なんだろ!?」

「そうだ。それを奪う所業、許すわけにはいかん!!天誅!!」

「命じられるままに動く奴らに負けるかよ!俺は…俺の選んだ生き方をする!!」

 

「う、うう…!」

「誠君!誠君、大丈夫!?」

病院のベッドの中でうなされる誠の手を直葉が握り、何度も誠に語り掛ける。

病室には直葉だけでなく、徹や菊岡らの姿もある。

あのデュエルの後から1週間。

あの火を最後に長く続いた雨がやんだが、今度は誠がこん睡状態に陥ってしまっていた。

学校終わりと共に病院に行き、何度も誠の看病をするが、ただうなされるだけで起きる気配がない。

「なぁ、先生。今の誠はどうしたんだよ?あのデュエルの影響じゃあないよな?」

「この現象は私が見る限りでは初めてだ。それに、そもそもステージ3というのも誠君が史上初。理論上にしか存在しないはずの存在だから…」

そもそも、ステージ2になる人間と精霊はいたとしても、そこからステージ3となるのはかなりまれで、現状では誠と直葉だけだ。

直葉は《超融合》の影響もあるが、誠が一番特殊で、ステージ2になることなくステージ3となり、更には自分の影とデュエルをするというわけのわからない現象を起こしている。

(影…つまりは、心の闇。それが具現化して、彼をデュエルで殺そうとした…)

そして、そのデュエルで影に勝利した誠はその影からカードを得るとともに、このような状態となってしまった。

最初から菊岡にとっては想定外な進化を進みつつある誠。

(もしかしたら、あるのかもしれない…ステージ3の『先』が。人霊一体の境地が…)

菊岡の予測が正しければ、この眠りは誠にとってはその境地へたどり着くための段階。

そのための休眠状態と言えるだろう。

もっとも、これはあくまで菊岡の想像にすぎず、をれを不用意に言うと余計な混乱を起こしてしまう。

「ひとまず、これまで無理な戦いを続けてきたんだ。ここで少しだけ、休ませてあげた方がいい」

「休ませた方がいいって…こんなにうなされているのに!?」

直葉から見ると、今の誠は休んでいるようには見えない。

握っている手は汗で濡れていて、寝ている今の彼の表情は苦しげだ。

「必要なら、こちらで治療もする。それよりも、直葉さんも休んだ方がいい。笑顔で、彼を迎えたいだろう?」

「それは…そうだけど…」

「なら、話は早えな。パトカーで送ってやる、ついてこい。小沢さん」

「ええ。行きましょう。今の私たちにできることはないわ」

「ちょ、ちょっと待って!!誠君が苦しんでいるんですよ!?」

小沢に引っ張られ、徹に連れられて直葉は病室を後にしようとする。

だが、出入り口に菊岡が割って入ってくる。

「待ちたまえ、君と…そして誠君に渡しておきたいものがある」

「渡したいもの…?」

「これだ。これで、変身の時の負担を軽減できるだろう」

菊岡に手渡されたのは《アカシック・マジシャン》のカードと薄いカードケースだ。

「変身をするときはこれを使うといい。変身中の肉体への負担を軽減してくれる」

「は、はい…」

「さあ、あとは私に任せて帰ってくれ」

菊岡が道を開け、小沢は菊岡に頭を下げてから直葉を連れて出ていった。

その後で、徹たちも退出し、残ったのは病室には眠っている誠と菊岡の2人だけになった。

「さて…仮にステージ4が存在するとしたら、おそらく君はそこへ向かおうとしている。それがこの世界と君自身にとって、吉と出るか凶と出るか…)

眼鏡をはずした菊岡は椅子に座り、薄い笑みを浮かべながら眠る誠を見つめる。

決して苦しむ姿を見て楽しむサディストというわけではないが、ただそこから先へ向かいつつある誠を見るのが楽しくて仕方がないところはある。

(だが、この世界が滅びたとしても、私は問題ないさ。私の願いが叶うというなら…私の『場所』を奪った愚かな者たちを滅ぼせるというなら…)

 

「誠君…」

パトカーで家まで送られた直葉はシャワーを浴びながら、眠っている誠の身を案じる。

同時に、この状況になるまでにどうして誠に一言も言葉をかけられなかったのかという後悔が浮かび、それが容赦なく直葉の胸をチクチクと傷つける。

和人のことが記憶に戻ってから、それに戸惑って誠のことを気遣う余裕がなかった。

誠がステージ2との戦いに傾倒してしまい、一緒にいる時間が少なくなったこともあるが、それは今の直葉にとってはいいわけでしかない。

(一言…言えばよかった。お兄ちゃんがああなっちゃったのは…誠君のせいじゃないって…)

冷静に考えれば、そこで立ち向かっても誠も和人も殺されるのは明白だ。

そして、そのことは和人が望まず、逃げるように言ったのだろう。

今の直葉ならそれを理解できるが、そこまで整理するのにここまで時間がかかってしまった。

「直葉ちゃん…」

「アカネ…」

シャワーを止め、蛇口の上に座る小さなアカネを見る。

心配そうに見つめる相棒に、直葉はどうにか笑顔を見せようとするが、鏡に映るその笑顔はどこかひきつっていて、作ったものだということがあっという間にわかってしまうものだった。

「どうしたらいいんだろう…あたし…」

這いずり回る後悔の念と迷いを払おうと、シャワーの水量を増やし、直葉の体の泡が流れ落ちる。

しかし、泡と一緒に流れるのは体についた汚れだけで、本当に流したいものはいつまでも体と心にこびりつく。

「直葉ー、お風呂長すぎるんじゃない?いつまでも入っていたらのぼせるわよー!」

「う、うん!!もうすぐ出るからー!」

直葉は思い出したものの、やはり両親は思い出す気配がない。

気になるのは、どうして和人の場合はこうして人々の記憶から消えてしまったのかだ。

おそらく、思い出すことができたのは誠以外にはステージ3となった直葉だけ。

ここで考えてもいい答えなど出るはずもなく、直葉はシャワーを止めて脱衣所へ出る。

母親が用意してくれたバスタオルで体を拭いていると、パジャマの上に置いてあるスマホが鳴る。

「琴音…?どうしたんだろう?」

先日退院し、学校へ戻った琴音からの連絡で、本当なら親友の電話は喜ばしいはずなのだが、今の直葉にはそれを喜ぶ余裕がない。

だが、出ないわけにもいかないため、パジャマを着ながら電話に出た。

「もしもし、夜遅くにごめんね?」

「ううん。それで…あれから体調はどう?」

「大丈夫。あまりよくは覚えていないけど…みんなに迷惑をかけちゃったんだよね…。私がステージ2になったせいで…」

意識を回復し、安静する中で直葉から精霊のことやステージ2について教えてもらっていた。

菊岡から口外しないことを条件に話を聞くのを許可されており、話を聞いた後は自分に起こったことを考えるとどこか納得がいった。

そして、誠と直葉、そして警察官の徹がそのステージ2から霧山城市を守るために戦っていることを聞いた時は驚いていた。

「そんなこと、気にしないでよ。それよりも、琴音が無事でよかった…」

「ありがとう。それで…この話、話したらいいのか迷ってるんだけど…」

迷っているのか、琴音が少し黙ってしまう。

その間にパジャマに着替え終え、脱衣所を出た直葉は階段を上がり、自室へと入る。

直葉は黙って、琴音が決めるのを待ち続ける。

「…その、誠君。和人さんのことを明日奈さんに話そうとしたら、急に遮っちゃったことがあって…。和人さんにも会えなかったから…。直葉、和人さんどうしたの?」

琴音の話を聞いた直葉の眼が大きく開く。

和人が監視者にされたのと琴音が地元を離れたのはちょうど2年前。

厳密にいえば、琴音が霧山城市を出たのが少し先の話で、あの事件のことは知らないはずだ。

そして、最初に琴音がカフェランベントに来たことは誠から聞いており、その話をした時はステージ2になっていない。

(もしかして…お兄ちゃんのことが記憶から消えたのって、霧山城市の中でだけってこと…??)

「直葉…どうしたの、直葉」

「あ、ううん!実は…お兄ちゃんは外国にゲームのプログラムを勉強しに行ってるの。交換留学生ってことで。それで、明日奈さんが寂しがるといけないからって…」

「ふーん、そんなことがあったんだ。誠君って、明日奈さんのこと大事にしてるから…」

多少沈黙してしまったため、嘘をついていると怪しまれるかと思ったものの、どうにか信じてもらえたことで直葉は安堵する。

実際、和人はプログラムや機械いじり、そしてデュエルが趣味で、将来はその知識を利用してゲームを作りたいとよく言っていた。

特に尊敬しているのはインダストリアル・イリュージョン社会長のペガサス・J・クロフォードで、若いころ病で倒れ、1年間生死の境をさまよった際に見た世界を元に妻のシンディア・J・クロフォードと共にデュエルモンスターズを作り上げたことで知られている。

精霊世界のことを知り、ステージ2の存在もあることから、もしかしたらペガサスはその精霊世界を見たのかもしれない。

そして、彼はデュエルモンスターズで得た膨大な利益を元手に多くのゲームを作り出し、今はアメリカにゲームプログラマーを養成する学校を作るなどで後進の指導にも力を尽くしている。

「それで、琴音はあれからどうなの?調子は戻って来た」

「うん…まだまだ壁は高いけど、私なりに走ってるつもり。大丈夫、一人じゃないって分かったから…それに、誠君も直葉も前へ進もうとしているのを見たら、うじうじしてた自分が恥ずかしくなっちゃって…」

琴音が霧山城市に戻ってきたのは、レギュラー競争に負けたショックが原因だった。

陸上をやっていく意義を見失い、そんな自分を慰めるために誠などの友人に助けを求めた。

だが、ステージ3となり、町を守るために戦い、昔のように話してくれる誠達を見て心境の変化が起こった。

「だから、もう1度ぶつかる。まぁ、私にできることといったら、ただ走ることだけだけどね…」

「それで十分だよ。だって、琴音は走ることが好きなんでしょ?」

「うん。それで、いつか自慢できるといいな…。霧山城市の人々の平和を守る2人のヒーローのことをね!」

「ヒ、ヒーローって、琴音…!」

「冗談冗談。じゃあね、直葉」

一方的に電話を切られ、直葉は一気に力が抜ける感じがしてベッドに横たわる。

だが、この疲れはどこか心地よく思えて、心の中でそんな気持ちをくれた大切な友達に礼を言う。

「いいなぁ、直葉ちゃんは気持ちよく話せる友達がいて…」

「アカネは精霊世界で友達とかいなかったの?」

不自由な暮らしだったという意外に、アカネから精霊世界での暮らしを聞いたことがない。

どこか聞きにくい感じがしたが、それでも聞いてみたいという気持ちが勝った。

「友達かぁ…。私のいる世界ではそれを作ることなんてできなかったよ」

「友達を作れない??」

「うん。精霊は生まれながらに生き方が決められてしまうの。それで、友達とか恋人とかを作ることができなくて…それが嫌になって、この世界に来たの」

「そっか、その…ごめんね」

「ううん、でも、この世界に来てよかった…。危ない目にあわせてしまったけど、それでも…直葉ちゃんに、初めての友達に会えたから…」

「ん…友達だね。あたし達」

直葉の隣に現れたアカネの幻影がベッドに横になり、お互いに笑顔を見せあった。

だが、そんな穏やかな時間を突然打ち切る呼び出し音が響く。

「徹さんから…??」

ベッドから飛び出した直葉はすぐに携帯に出る。

携帯からはエンジン音と風の音が聞こえて来て、それだけでバイクに乗りながらの連絡だということが分かる。

「もしもし、桐ケ谷さんか!今、ステージ2が出現している!位置情報を送るから、来てくれ!!」

徹の必死な声が聞こえる、徹達だけでは対処しきれない状況だということが分かる。

誠が目覚めない今の状況では、もう直葉に頼むしかない。

さっそく携帯に位置座標のデータが送られる。

「西山…霧山城バーガーの近く!!行こう、アカネ」

「うん!!さあ、変身だよ!」

もらったカードケースに《アカシック・マジシャン》のカードを入れる。

すると、リアルソリッドビジョンシステムが起動したのか、直葉の腰にベルトが出現する。

バックル部分に《アカシック・マジシャン》の杖を模した認証機がついており、ベルトも黄色と緑をベースとした鮮やかな色彩となっている。

そして、アカネも直葉の中へ戻り、変身の準備が整う。

「…変身」

小さくつぶやくとともにカードケースを認証機にかざす。

すると、カードケースが光りはじめ、直葉の姿が変身したものへと変わっていく。

変身し終えた直葉は家で眠っている両親に静かにいってきますとつぶやいた後で、窓から外へ飛び出した。

そして、変身することで使えるようになった魔法で窓を閉め、いつも使っている自転車に乗る。

路上へ出て走り始めると、誠がやったように自動的にDボードへと変化していき、その上に乗って猛スピードで西山へと飛んでいった。

 

「くそ…あの野郎!!いい加減降りて来て俺とデュエルしやがれ!!」

トレーラーの影に隠れる徹は大声で上空を飛ぶステージ2に叫ぶ。

上空には鳥の仮面をつけた、炎をまとったネイティブ・アメリカンの民族衣装姿のステージ2が飛び回っていて、吹き矢を撃ってくる。

矢が当たった場所にはまるで鉄砲の銃弾が命中したかのような大きなへこみが生まれておる。

そんなものを何度も受けたら、たとえヘリでも危険なので、ヘリを呼ぶこともできずにいる。

また、火がついている森や建物からわかるように、発火性のものがついているようで、それでこの地域一帯では火災が発生している。

今は霧山城市の消防車がフル稼働しており、おそらくは近隣の消防署にも応援を呼ばなければならなくなるかもしれない。

「刑事殿、このままでは損害が増す一方です。銃による応戦を提案します」

「くそ…!せめて、デュエルができる状況へもっていきてえが…」

「谷村さん!!」

「刑事殿、彼女が来ました」

Dボードに乗った直葉の姿はステージ2にも見えたようで、彼は吹き矢を直葉に向けてくる。

フッと息を吹き込むと炎の矢が飛んでいく。

「アカネ!!」

「任せて!!」

直葉とDボードの前に薄緑色の魔力のバリアが展開され、矢を受け止めるものの、同時に激しい衝撃が直葉を襲い、Dボードを揺らす。

「危なかった…ありがとう、アカネ」

「Dボードとバリアは任せて!」

アカネから魔力を受け取ったDボードが加速していき、上空を飛ぶステージ2に迫る。

彼女から何かを感じ取ったステージ2は吹き矢をデュエルディスクに変換させ、左腕に取り付ける。

その様子はバイザー越しに徹にも見えていた。

「よし…あとはあの子が止めてくれれば…だが、情けねえな。空を飛べねえためにああいうステージ2を止めることができねえなんてな」

「今の我々には空中用の装備はありません。ヘリも使えない以上は、彼女や今眠っている結城殿に頼むしかないでしょう」

「お前の機能で俺の白バイをバリアを使えるDボードにはできないか?」

「不可能です。私はあくまで私です。精霊では…」

「もういい、黙ってろ」

 

「さあ、おとなしく精霊世界に帰ってもらうよ!!」

デュエルディスクを展開させ、ステージ2に指をさした直葉が叫ぶ。

「うるせえ!!うるせえ!!せっかく好きにできんだ。邪魔はさせねーぞ!!オラァ!!」

「好きにしたいからって…人に迷惑かけちゃだめでしょ!!そんな人を自由になんてさせてあげない!!」

「だったら、止めてみろよ…デュエルでなぁ!!」

コミュニケーションが取れる分、余計にアカネのいう自由のない精霊世界の実情が感じられる。

わずかに彼という政令を強制送還するのは気が引けるが、霧山城市を燃やそうとしている彼を放っておくわけにはいかない。

「「デュエル!!」」

 

ステージ2

手札4

LP4000

 

直葉

手札4

LP4000

 

「俺様の先攻!!俺様は手札から魔法カード《手札抹殺》を発動!さあ、手札を全部捨てて、捨てた枚数分ドローしやがれ!!」

「いきなり《手札抹殺》!?うう…」

 

手札から墓地へ送られたカード

ステージ2

・ラヴァル炎湖畔の淑女

・ラヴァル炎樹海の妖女

・ラヴァル炎火山の侍女

 

直葉

・ブラック・マジシャン

・マジシャンズ・プロテクション

・魔道化リジョン

・貪欲な壺

 

「そして、墓地へ送られた《ラヴァル炎火山の侍女》の効果発動!!こいつは俺の墓地に同じ名前以外のラヴァルが墓地に存在する状態で墓地へ送られたとき、デッキからラヴァルモンスター1体を墓地へ送ることができる。俺は《ラヴァルロード・ジャッジメント》を墓地へ送る!更に俺はカードを1枚伏せ、手札から《フレムベル・ヘルドッグ》を召喚!」

 

フレムベル・ヘルドッグ レベル4 攻撃1900(1)

 

「そして、こいつは俺のフィールドに炎属性モンスターが存在し、墓地にラヴァルモンスターが3種類存在するとき、手札から特殊召喚できる。《ラヴァル炎河川の魔女》を特殊召喚!」

胸元を強調した淡い紫色のローブを身にまとい、煙ではなく炎が出ているキセルを口にする魔女が現れる。

その肌は3体のラヴァルの女性と同じく、熱した石でできているように見えた。

 

ラヴァル炎河川の魔女 レベル4 攻撃800(2)

 

「現れやがれ!逆巻く炎のサーキット!」

ステージ2の手から放たれる炎が上空へと向かい、サーキットへと変わっていく。

「アローヘッド確認!召喚条件は炎属性モンスター2体。俺様は《ヘルドッグ》と《魔女》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!出ろ、リンク2!《ラヴァル・クラッシャー》!!」

巨大な右腕に自分の体の倍以上の大きさを誇る灼熱の槌を握り、左腕が青い義手となっている禿げ頭で白いひげ面の巨大な男が現れる。

 

ラヴァル・クラッシャー リンク2 攻撃200(EX1)

 

「《ラヴァル・クラッシャー》の効果発動!こいつのリンク召喚に成功したとき、こいつのリンク先にモンスターが存在しない場合、墓地からラヴァルモンスターを2体まで特殊召喚できる。俺は墓地の《ラヴァルロード・ジャッジメント》と《ラヴァル炎樹海の妖女》を特殊召喚!」

自らの正面に巨大な岩を召喚した《ラヴァル・クラッシャー》がそれを持っている槌を振るい、一撃で粉砕する。

そして、その中にいた2体のモンスターが飛び出した。

1体は水晶のような鎧に鬼のような顔をした人型の騎士で、もう1体はドラゴンの鱗でできた薄手の服に黒い頭巾をつけた小柄な少女だった。

 

ラヴァルロード・ジャッジメント レベル7 攻撃2700(2)

ラヴァル炎樹海の妖女 レベル2 守備200(チューナー)(1)

 

「そして、《ラヴァル・クラッシャー》の攻撃力はこのカードのリンク先に存在する炎属性モンスターの元々の攻撃力分アップする!」

ちょうど、リンク先には《ラヴァルロード・ジャッジメント》が存在し、更に槌に宿る炎の勢いが増す。

 

ラヴァル・クラッシャー リンク2 攻撃200→2900(EX1)

 

「更にリンク素材となった《ラヴァル炎河川の魔女》の効果発動!こいつをリンク素材としてラヴァルリンクモンスターのリンク召喚に成功したとき、墓地から守備力200の炎属性モンスター1体を特殊召喚する。俺様は墓地の《ラヴァル炎火山の侍女》を特殊召喚!」

《ラヴァル炎樹海の妖女》と似た服を着ているが、メイドのようなスカートをつけていて、髪の毛が炎そのもののウェーブがきいた長髪となっている少女が現れる。

 

ラヴァル炎火山の侍女 レベル1 守備200(チューナー)(3)

 

「そして、《ラヴァルロード・ジャッジメント》の効果発動!1ターンに1度、こいつの攻撃を放棄する代わりに、墓地のラヴァル1体を除外することで、てめーに1000のダメージを与える!俺は墓地の《ラヴァル炎河川の魔女》を除外!俺の炎を受けやがれぇ!!」

《ラヴァルロード・ジャッジメント》の手から発射される炎が直葉を襲い、直葉とDボードがバリアに包まれる。

「う…うううう!!バリアで守っても、こんなに暑いの!?」

バリアは確かに炎を受け止めているが、それでも激しい熱が遅い、汗でびっしょり濡れてしまう。

 

直葉

LP4000→3000

 

「レベル7の《ジャッジマント》にレベル1の《侍女》をチューニング!」

《ラヴァルロード・ジャッジメント》の肉体が7つの炎へと変化し、《ラヴァル炎火山の侍女》が変化した炎の輪をくぐる。

7つの炎はくぐった後で輪へと変化し、8つの輪が一列に並ぶ。

「滅ぼされし紅蓮の魂よ、灼熱の竜帝となりてよみがえれ!!シンクロ召喚!!現れろ、レベル8!《ラヴァルバル・ヒドラドラグーン》!!」

8つの輪をくぐってくるマグマを体中に流した3つの頭と首を持つ《サイバー・エンド・ドラゴン》にも似たシルエットのドラゴンが現れ、上空がまるで昼のような明るさへと変貌していく。

 

ラヴァルバル・ヒドラドラグーン レベル8 攻撃2800(2)

ラヴァル・クラッシャー リンク2 攻撃2900→3000(EX1)

 

「《侍女》の効果発動。デッキからもう1枚の《侍女》を墓地へ送る。更にもう1枚の《侍女》の効果で、デッキから《ラヴァル・ランスロット》を墓地へ送る。ターンエンド!!」

 

ステージ2

手札4→0

LP4000

場 ラヴァル・クラッシャー(リンク先:《ラヴァルバル・ヒドラドラグーン》) リンク2 攻撃3000(EX1)

  ラヴァル炎樹海の妖女 レベル2 守備200(チューナー)(1)

  ラヴァルバル・ヒドラドラグーン レベル8 攻撃2800(2)

  伏せカード1(2)

 

直葉

手札4

LP3000

場 なし

 

先攻1ターン目でいきなり1000のダメージを与えたうえに、攻撃力3000のリンクモンスターと攻撃力2800のシンクロモンスターを召喚されてしまった。

手札に会った《魔道化リジョン》を墓地へ送られたことで、最初のターンに《ブラック・マジシャン》を手札に加えるという算段も崩れている。

(今ある手札だと…モンスターの召喚もできない!《手札抹殺》のせいで一気に手札事故だよぉ…)

泣き言を言いたくなるが、直葉の脳裏にあのうなされている誠の姿が浮かぶ。

きっと、彼は今でも戦い続けている。

そんな中で自分が投げ出してしまったら、彼に笑われてしまう。

「アカネ…いくよ!」

「うん!!」

「あたしのターン、ドロー!!」

 

直葉

手札4→5

 

「あたしは手札から《召喚僧サモンプリースト》を召喚!このカードは召喚に成功したとき、守備表示にする!」

 

召喚僧サモンプリースト レベル4 守備1600(1)

 

「《サモンプリースト》の効果発動!1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を墓地へ送ることで、デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚できる。あたしは手札の《マジック・ブラスト》を墓地へ送り、《ライトロード・マジシャンライラ》を特殊召喚!」

 

ライトロード・マジシャンライラ レベル4 攻撃1700(2)

 

「そして、あたしは《ライラ》の効果発動!攻撃表示で存在するこのカードを守備表示にすることで、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊できる!お願い、《ライラ》!」

《ライトロード・マジシャンライラ》が杖を額に当てて祈りはじめ、ステージ2の伏せカードに光の粒子が集まってくる。

粒子がカード全体が真っ白になるくらい付着すると、そのカードは粒子と同化する形で消滅した。

 

破壊された伏せカード

・シンクロン・リフレクト

 

「ちっ…!」

「さあ、現れて!魔力を繋ぐサーキット!アローヘッド確認。召喚条件はトークン以外の同じ種族のモンスター2体。あたしは《ライラ》と《サモンプリースト》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れて、《アカシック・マジシャン》!!」

「私の出番だね!よーし!!」

サーキットの中から飛び出したアカネは直葉の前で浮遊し、杖を構えた。

 

アカシック・マジシャン リンク2 攻撃1700(EX2)

 

「はっ!何バカなことやってんだ、てめえは!!《アカシック・マジシャン》はリンク先にモンスターがいねえと何の役にもたたねーじゃねーか!!」

リンクマーカーの都合上、今の《アカシック・マジシャン》がリンク召喚できるのは2つ目のエクストラモンスターゾーンのみ。

リンク先のモンスターを手札に戻す効果も、そのリンク先にモンスターが存在しないために不発に終わる。

にもかかわらず、なぜ《アカシック・マジシャン》を召喚したのか?

初歩的なミスだと笑うステージ2だが、直葉は既に行動を起こしていた。

「あたしは手札から魔法カード《マーカーズ・チャージ》を発動!エクストラモンスターゾーンのリンクモンスターのリンクマーカーの数が同じ場合、デッキからカードを2枚ドローして、ドローしたカードを公開するわ!あたしがドローしたのは《マジシャンズ・ナビゲート》と《スカイ・ナビゲーション》!!あたしは手札から魔法カード《スカイ・ナビゲーション》を発動!あたしのフィールドに《アカシック・マジシャン》が存在するとき、デッキから闇属性・魔法使い族モンスター1体をこのカードのリンク先になるあたしのフィールドに特殊召喚する。あたしはデッキから《幻想の見習い魔導士》を特殊召喚!」

「さあ、現れて!!直葉の仲間!!」

《アカシック・マジシャン》が杖を空に掲げ、上空に黒魔術の魔法陣を生み出す。

その中から服装は《ブラック・マジシャン・ガール》に近いものの、肌色が褐色となっていて、髪の色も白がかったものとなっている少女が飛び出してくる。

 

幻想の見習い魔導士 レベル6 攻撃2000(1)

 

スカイ・ナビゲーション

通常魔法カード

このカード名のカードは1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分フィールドに「アカシック・マジシャン」が存在する場合に発動できる。自分のデッキに存在する闇属性・魔法使い族モンスター1体をそのモンスターのリンク先となる自分メインモンスターゾーンに特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン、攻撃できない。

 

「そして、《幻想の見習い魔導士》の効果発動!このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキから《ブラック・マジシャン》を1枚手札に加える!そして…現れて!!魔力を繋ぐサーキット!」

再び上空にサーキットが出現し、アカネと《幻想の見習い魔導士》の体が魔力の薄い膜につつまれていく。

「直葉、アレを出すんだね!!」

アカネの言葉を肯定するかのように、直葉は首を縦に振る。

侑哉の世界から帰還し、監視者と誠のデュエルの後でなぜか入っていたカード。

それがどんなものかは直葉もアカネも分からず、菊岡にも調べてもらったが分からずじまいだった。

だが、今はそのようなことは関係ない。

「アローヘッド確認!召喚条件はエクストラモンスターゾーンとメインモンスターゾーンに存在する闇属性・魔法使い族モンスター1体ずつ!」

「何!?存在するモンスターゾーンまで指定するリンクモンスターだとぉ!?」

「あたしは《アカシック・マジシャン》と《幻想の見習い魔導士》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!古の時代に作られし魔法使いたちの白き鎧!リンク召喚!リンク3、《魔導機ゼルガード》!!」

黒い2枚の翼をバックパックとした、白いローブを模した装甲で包まれた鎧が直葉の目の前に現れる。

 

魔導機ゼルガード リンク3 攻撃1200(EX2)

 

「うん…??」

直葉が鳴り物入りでリンク召喚したそのモンスターのステージ2は不信感を抱く。

リンク3にしては攻撃力が低すぎる上に、リンクマーカーがいずれも上向きだ。

そんなモンスターをエクストラモンスターゾーンにリンク召喚したとしても、まったくメリットがない。

「《ゼルガード》は確かに、このカード1枚だけだと何もできない。けど、仲間がいたら話は別!!《ゼルガード》の効果発動!1ターンに1度、手札の闇属性・魔法使い族モンスター1体を特殊召喚できる!現れて、《ブラック・マジシャン》!」

「そのカードは…《幻想の見習い魔導士》の効果で手札に加えた…!!」

「そして、《ゼルガード》は装備カード扱いとなってそのモンスターに装備するよ!」

特殊召喚された《ブラック・マジシャン》の真上に浮かんだ《魔導機ゼルガード》が分離し、そのモンスターの体に装着されていく。

「《ゼルガード》を装備したモンスターの攻撃力は1000アップ!」

 

ブラック・マジシャン レベル7 攻撃2500→3500(2)

 

「あたしはカードを1枚伏せて、バトル!《ブラック・マジシャン》で《ラヴァルバル・ヒドラドラグーン》を攻撃!黒・魔・導!!」

《魔導機ゼルガード》を纏った《ブラック・マジシャン》が増幅した魔力で従来よりも強く凝縮した魔力の弾丸を作り出し、《ラヴァルバル・ヒドラドラグーン》に向けて発射する。

しかし、その魔力の弾丸は《ラヴァルバル・ヒドラドラグーン》の口から発射された炎によってかき消される。

「《ヒドラドラグーン》の効果。こいつは墓地のラヴァル1体を除外することで、3つの効果の内の1つを発動できる。その1つ目の効果で、てめえのモンスターの攻撃を封じた!!」

無傷な姿をさらす《ラヴァルバル・ヒドラドラグーン》は咆哮し、同時に《ラヴァル・クラッシャー》の力が高まる。

 

墓地から除外されたカード

・ラヴァルロード・ジャッジメント

 

手札があと2枚残っているが、スピードデュエルではメインフェイズ2がない以上はできることは限られる。

「あたしはこれで、ターンエンド…」

 

ステージ2

手札0

LP4000

場 ラヴァル・クラッシャー(リンク先:《ラヴァルバル・ヒドラドラグーン》) リンク2 攻撃3000(EX1)

  ラヴァル炎樹海の妖女 レベル2 守備200(チューナー)(1)

  ラヴァルバル・ヒドラドラグーン レベル8 攻撃2800(2)

 

直葉

手札5→2

LP3000

場 ブラック・マジシャン(《魔導機ゼルガード》装備) レベル7 攻撃3500(2)

  伏せカード1(《マジシャンズ・プロテクション》)(1)

  魔導機ゼルガード(装備カード扱い)(2)

 

「う、ん…」

夜の病室の中でゆっくりと誠は目を開く。

消灯時間を過ぎているせいか、部屋の仲は薄暗く、ベッドのそばにあるライトだけが頼りだ。

「そっか…僕、あのデュエルの後で気を…でも…」

激しいデュエルを終え、倒れてついさっき目覚めたにもかかわらず、なぜか体が軽くなっている気がした。

「シャドー…起きてる?シャドー、シャドー!」

「ああ、うるせえ!!真夜中なんだから、静かにしていやがれ!!」

「ご、ごめん…。シャドーはなんともない?」

「ああ?別にどうってことねーよ。にしても、迷惑な話だぜ。本音のてめーと戦うなんてよ。こんなのは2度とごめんだからな」

「う、うん…そうだね…あ…」

その戦いの原因の大部分が自分にあると思っている誠はシャドーに詫びようとするが、急に脳裏にステージ2と空で戦っている直葉の姿が浮かぶ。

今回のビジョンは頭痛無しで映っており、背景などもいつもよりも鮮明になっている。

「直葉が戦ってる…助けに行かないと…!」

「助けに行くだぁ?Dボードはどうすんだよ?」

「借りていく!!…ってこれは…」

ベッドのそばの机に置かれている手のひらサイズで、1枚カードが入るくらいの横長で青がベースの長方形型のバックルを手に取る。

バックルの下には手書きの手紙があり、それは軍隊のようにまとまりのあるきれいな文字で文章が書かれていた。

(誠君、就業時間を過ぎたから帰る。朝には戻ってくるが、おそらくこの手紙を読んでいるときは真夜中で、僕はここにいないだろう。だから、君のために用意したそれの説明だけはしておく。ステージ3への変身は確かに君たちにステージ2と戦う力を与えるだろう。だが、君たち自身への体に負担をかけている。これを使って変身することで、その負担を軽減することができるだろう。やり方は裏に書いてあるから、読んで覚えておいてくれ。それから、君の体についてだが、おそらく君はステージ3を超える何かに変化しつつある。それが将来の君にとっては吉と出るか凶と出るか、それはまだ分からない。経過観察はしていくが、少なくともこれからステージ2と戦い続けることについては問題ない。それでは、また朝に。目覚めた翌日には退院できるようにして、学校や君の家族にも連絡はしてあるから心配は不要だ。 菊岡)

「菊岡さん…」

手紙の裏には使い方の説明があり、《C.C.ジェニオン》のカードを入れることで変身することができるようだ。

誠はそのカードを入れた後で、バックルを当てる。

すると、バックルからカードの帯のようなものが出現し、それがベルトとなって誠の腰に装着される。

「あとはバックルの横についているレバーを引けば…」

レバーを引くと、バックルがひっくり返り、双子座を模したレリーフが正面に出てくる。

そして、誠の姿は変身したものへと変化していった。

 

「あははははは!!せっかく召喚したが、これじゃああっというまに俺のモンスターにつぶされちまうなぁ!!俺のターン、ドロー!!」

 

ステージ2

手札0→1

 

「俺は《ヒドラドラグーン》の効果発動!墓地のラヴァル1体を除外し、除外されているラヴァル1体を特殊召喚できる。俺は除外されている《ラヴァルロード・ジャッジメント》を特殊召喚!」

《ラヴァルバル・ヒドラドラグーン》が咆哮するとともに炎でできたい次元への渦が出現し、その中から《ラヴァルロード・ジャッジメント》が飛び出す。

 

ラヴァルロード・ジャッジメント レベル7 攻撃2700(3)

 

ゲームから除外されたカード

・ラヴァル炎火山の侍女

 

「そして、《ラヴァルロード・ジャッジメント》の効果発動!!墓地の《ラヴァル・ランスロット》を除外し、てめーに1000ダメージを与える!!くらえよ!!」

再び《ラヴァルロード・ジャッジメント》の手から放たれる炎が直葉とアカネを包み込む。

バリアのおかげで無傷なのには変わりないが、バリアを展開する度にアカネの幻影が疲れを見せ始めていた。

 

直葉

LP3000→2000

 

「はあはあ…アカネ、大丈夫…?」

「へ、へ、平気よ。これくらい…」

口ではそういうアカネだが、汗だくになっているうえに息切れまでしている。

ベルトを使った変身のおかげで負担が軽くなってはいるものの、それでも長時間このデュエルを続けるわけにはいかない。

「さあ、現れやがれ!!逆巻く炎のサーキット!アローヘッド確認!召喚条件はラヴァルモンスター3体!俺は《クラッシャー》、《ジャッジメント》、《妖女》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!灼熱の業火で戦場を焼き尽くす魔人。リンク召喚!現れろ、リンク4!《ラヴァルロード・スルト》!!」

サーキットが爆発するとともにそこから体の各部からマグマを流し続ける岩石の巨人が出現する。

右手には溶岩でできた巨大な騎士剣を右手1本で握っていた。

 

ラヴァルロード・スルト リンク4 攻撃3000(EX1)

 

「何なの…!?あの燃えている巨人は…!!」

空中で浮遊するその巨人が存在するだけで周囲の気温をどんどん引き上げていく。

体感温度では既に44度を超えており、全身を熱い風呂で使っているような感じに襲われている。

「ギャハハハハハ!!《ラヴァルロード・スルト》のリンク召喚に成功したとき、ゲームから除外されているラヴァルモンスターをすべて墓地へ戻す!」

除外された《ラヴァル・ランスロット》や《ラヴァル炎河川の魔女》、《ラヴァル炎火山の侍女》がすべて墓地へ戻っていき、同時に《ラヴァルロード・スルト》が激しく咆哮する。

「そして、こいつの攻撃力はターン終了時まで墓地へ戻ったラヴァルモンスターの数×1000アップする!!」

 

ラヴァルロード・スルト リンク4 攻撃3000→6000(EX1)

 

「こ…攻撃力、6000!?」

「バトルだ!《ラヴァルロード・スルト》で《ブラック・マジシャン》を攻撃!!」

《ラヴァルロード・スルト》が手にしている刃を《ブラック・マジシャン》に向けて振り下ろしていく。

刃が近づくにつれて更に気温が高まっていき、直葉の体力を奪っていく。

「あたしは罠カード《マジシャンズ・プロテクション》を発動!!あたしのフィールドに魔法使い族モンスターが存在する限り、あたしが受けるダメージは半分になる!!」

「だが、これで《ブラック・マジシャン》は破壊されるぜ!」

「あたしは手札の《マジシャンズ・ハット》の効果発動!このカードを手札から墓地へ送ることで、このターンあたしの闇属性・魔法使い族モンスター1体は戦闘でも効果でも破壊されない!!」

《ブラック・マジシャン》の帽子をつけた黒い小人のようなモンスターが飛び出していき、《ブラック・マジシャン》を刃からかばう。

自分の数十分の一の大きなのモンスターに受け止められたことに驚く《ラヴァルロード・スルト》は後ろへ下がり、同時に《マジシャンズ・ハット》も消滅する。

「ちっ…だが、ダメージは受けてもらうぜ!!」

 

直葉

LP2000→750

 

「俺はこれで、ターンエンドだ。《ラヴァルロード・スルト》の効果で攻撃力は元に戻るが、ここで俺はスキル、灼熱決闘の効果発動!フィールド上のモンスター1体の元々の攻撃力を今の数値に変更することができる!この効果で《スルト》の元々の攻撃力を6000に変更するぜ!更に、《スルト》とリンクしている俺のラヴァルモンスターの攻撃力はターン終了時に600アップする!」

「あたしは墓地へ送られた《マジシャンズ・ハット》の効果発動!このカードが手札・フィールドから墓地へ送られたターン終了時、デッキから闇属性・魔法使い族モンスター1体と通常魔法カード1枚を手札に加える!あたしは《ブラック・マジシャン・ガール》と…」

ここで迷うのはどの通常魔法カードを手札に加えるべきかだ。

今頭に浮かんでいるのは《ティマイオスの眼》で、これと《ブラック・マジシャン・ガール》を素材とすることで《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》を召喚することが可能だ。

「直葉、でも…《ラヴァルロード・スルト》は」

カードを確認すると、《ラヴァルロード・スルト》には相手の効果では破壊されない効果がある。

戦闘破壊するにしても、攻撃力6000を上回るモンスターを用意しなければならない。

迷いながら、通常魔法カードを見ていくが、長時間考え続けるとジャッジキルで敗北してしまう。

(…!このカードって…)

初めて見るカードに直葉の目が留まる。

《魔導機ゼルガード》だけでなく、他にも直葉のデッキにいつの間に紛れたカードがあったことがこれで分かる。

2枚の通常魔法カードはいずれも《ティマイオスの眼》と何らかのつながりがある。

そして、このカードであれば形勢を逆転できる。

「あたしは《ヘルモスの爪》を手札に加える!!」

 

ステージ2

手札4→0

LP4000

場 ラヴァルロード・スルト(リンク先:《ラヴァルバル・ヒドラドラグーン》、《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》) リンク4 攻撃6000(EX1)

  ラヴァルバル・ヒドラドラグーン レベル8 攻撃2800→3400(2)

 

直葉

手札2(《ブラック・マジシャン・ガール》、《ヘルモスの爪》)

LP750

場 ブラック・マジシャン(《魔導機ゼルガード》装備) レベル7 攻撃3500(2)

  マジシャンズ・プロテクション(永続罠)(1)

  魔導機ゼルガード(装備カード扱い)(2)

 

マジシャンズ・ハット

レベル1 攻撃0 守備0 効果 闇属性 魔法使い族

このカード名の(2)の効果はデュエル中1度しか発動できない。

(1):このカードを手札から墓地へ送ることで発動できる。自分フィールドの闇属性・魔法使い族モンスター1体はこのターン、戦闘及び効果では破壊されない。この効果は相手ターン中でも発動できる。

(2):このカードが手札・フィールドから墓地へ送られたターン終了時に発動できる。デッキから闇属性・魔法使い族モンスター1体と通常魔法カード1枚を手札に加える。

 

「あたしのターン、ドロー!!」

 

直葉

手札2→3

 

 

「あたしは手札から魔法カード《ヘルモスの爪》を発動!!」

「融合魔法…人間の分際でできるなんてなぁ、おもしれえ!!」

「このカードは手札・フィールドのモンスター1体を墓地へ送って、そのモンスターに対応する融合モンスターをエクストラデッキから特殊召喚できる!あたしは《ブラック・マジシャン・ガール》を墓地へ送って融合!!魔導の力は時を操る槌となって運命を砕く!現れて、《タイムマジック・ハンマー》!!」

ウインクした《ブラック・マジシャン・ガール》が《ヘルモスの爪》と一つとなり、その姿が天使の羽根と時計を模したレリーフが左右についている、金色の柄の槌が現れる。

 

タイムマジック・ハンマー レベル2 攻撃500(EX2)

 

「はぁ…?鳴り物入りの融合召喚でそんなチンケなモンスターを…てめえ、舐めてんのかぁ!?」

おまけに、そのモンスターはリンクモンスターでない以上、エクストラモンスターゾーンを埋めてしまうともう直葉はリンク召喚できないようにも見える。

それが余計にステージ2を憤慨させる。

「そんなことないわよ!これが…私達を勝利へ導く!!直葉!!

「うん!さらにあたしはスキル、アルケミスト・マジックを発動!」

「私たちのライフが1000以下の時、デッキから魔法カード1枚を手札に加えることができる!」

「あたしはデッキから《ティマイオスの眼》を手札に加える!!そして、手札から魔法カード《埋葬呪文の宝札》を発動。墓地の魔法カード3枚を除外して、デッキからカードを2枚ドロー!そして、手札から魔法カード《死者蘇生》を発動!墓地から《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚!」

 

ブラック・マジシャン・ガール レベル6 攻撃2000(3)

 

「そして、手札から魔法カード《ティマイオスの眼》を発動!《ブラック・マジシャン・ガール》に名もなき竜の力を与える!!現れて、《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》!!」

「な…ちょっと待てよ!!てめえ、エクストラモンスターゾーンはもう使ってるだろう!!それに、リンクマーカーは…」

「リンクマーカーならあるよ!《ゼルガード》は自分の効果で装備カードとして魔法・罠ゾーンにあるとき、リンクマジックになる!!」

「嘘…だろ…??」

精霊の力を借りているとはいえ、どうして普通の人間がリンクマジックまで使えるようになっているのか、ステージ2は理解できず、ただ茫然としている。

 

 

竜騎士ブラック・マジシャン・ガール レベル7 攻撃2600(3)

 

「そして、《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の効果発動!手札1枚を墓地へ送ることで、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を破壊する!あたしは《ラヴァル・ヒドラドラグーン》を破壊する!!」

《ブラック・マジシャン・ガール》が乗っているドラゴンの口から発射されるビームが《ラヴァル・ヒドラドラグーン》を貫き、消滅させた。

 

手札から墓地へ送られたカード

・ブレイクスルー・スキル

 

「くそ…!!だが、俺は《ヒドラドラグーン》の効果発動!こいつが相手によって破壊されたとき、墓地のラヴァルを復活させることができる。俺は《ラヴァルロード・ジャッジメント》を特殊召喚!」

 

ラヴァルロード・ジャッジメント レベル7 攻撃2700(2)

 

「なら、あたしは《タイムマジック・ハンマー》の効果発動!このカードは装備カード扱いとしてフィールド上のモンスター1体に装備できる!」

剣を手放した《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》は《タイムマジック・ハンマー》を手にする。

可愛らしいデザインが気に入ったのか、嬉しそうにその槌を隣の《ブラック・マジシャン》に見せびらかしていた。

「《ヒドラドラグーン》を倒したことは褒めてやるが、無駄だぜ!攻撃力6000の《ラヴァルロード・スルト》は…」

「バトル!あたしは《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》で《ラヴァルロード・スルト》を攻撃!!」

「何!?攻撃力2600程度のモンスターで攻撃だと!?」

《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》は《タイムマジック・ハンマー》を上段で構え、乗っているドラゴンが正面の《ラヴァルロード・スルト》に向かって飛んでいく。

《ラヴァルロード・スルト》の剣と《タイムマジック・ハンマー》がぶつかり合うと、なぜか《ラヴァルロード・スルト》の姿がゆがんでいき、やがて姿を消してしまった。

「何!?《ラヴァルロード・スルト》が…てめえ、何しやがった!?」

「《タイムマジック・ハンマー》の効果だよ!このカードを装備したモンスターが相手モンスターと戦闘を行うとき、その相手モンスターを除外できる!そして…サイコロで出た目の数のターン数のスタンバイフェイズ時に戻ってくる!」

デュエルディスクにサイコロの映像が出て、自動的に振られる。

出た目は4で、《ラヴァルロード・スルト》のいた場所には大きく4の文字が表示された。

「そして、《ブラック・マジシャン》で《ラヴァルロード・ジャッジメント》を攻撃!黒・魔・導!!」

続けて《ブラック・マジシャン》が杖から魔力の弾丸を発射し、それを受けた《ラヴァルロード・ジャッジメント》が爆発とともに消滅する。

「くぅ…!!」

 

ステージ2

LP4000→3200

 

「だが、まだ俺のライフは残っているぜ!!ライフが残っている限り、勝負は最後まで…」

「ううん!!これでもう終わりだよ!《ゼルガード》の効果発動!リンクマジックになったこのカードのリンク先の闇属性・魔法使い族モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊したとき、墓地の魔法使い族モンスター1体を除外することで、続けてもう1度だけ攻撃できる。その時、そのモンスターの攻撃力は倍になる!!黒・魔・導・烈・風(ブラック・ストリーム・マジック)!!」

「ば、馬鹿なぁ!?」

杖を手放した《ブラック・マジシャン》が両手で直に魔力を練り上げ、黒い魔力の竜巻を引き起こす。

竜巻を受けたステージ2は吹き飛ばされ、近くの建物の屋上に墜落した。

 

ブラック・マジシャン レベル7 攻撃3500→7000(2)

 

ステージ2

LP3200→0

 

 

ラヴァルロード・スルト

リンク4 攻撃3000 リンク 炎属性 炎族

【リンクマーカー:/左/右/左下/右下】

「ラヴァル」モンスター3体

(1):このカードのリンク召喚に成功したときに発動する。ゲームから除外されている自分・相手の「ラヴァル」モンスターをすべて墓地へ戻す。その後、このカードの攻撃力はターン終了時までその効果で墓地へ戻したカードの数×1000アップする。

(2):このカードは相手のカード効果では破壊されない。

(3):自分ターン終了時に発動する。このカードとリンクしている「ラヴァル」モンスターの攻撃力が600アップする。

 

ラヴァル炎河川の魔女

レベル4 攻撃800 守備200 特殊召喚 炎属性 炎族

このカード名の特殊召喚は1ターンに1度しか行えず、(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードは通常召喚できない。

自分フィールドに炎属性モンスターが存在し、自分の墓地に「ラヴァル」モンスターが3種類以上存在する場合、手札から特殊召喚できる。

(1):このカードをリンク素材として「ラヴァル」リンクモンスターのリンク召喚に成功したときに発動できる。自分の墓地に存在する守備力200の炎属性モンスター1体を特殊召喚する。

 

ラヴァル・クラッシャー

リンク2 攻撃200 リンク 炎属性 炎族

【リンクマーカー:左下/右下】

炎属性モンスター2体

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのリンク召喚に成功したとき、このカードのリンク先にモンスターが存在しない場合に発動できる。自分の墓地に存在する炎属性モンスターを2体まで特殊召喚する。

(2):このカードの攻撃力はこのカードのリンク先に存在する炎属性モンスターの元々の攻撃力分アップする。

(3):相手ターン中、このカードのリンク先に存在するモンスターがフィールドを離れたとき、このカードのリンク先に炎属性モンスターが存在しない場合に発動する。このカードを破壊する。この効果は無効化されない。

 

ラヴァルバル・ヒドラドラグーン

レベル8 攻撃2800 守備1200 シンクロ 炎属性 ドラゴン族

チューナー+チューナー以外の「ラヴァル」モンスター1体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分の墓地に存在する「ラヴァル」モンスター1体を除外することで発動できる。以下の効果のうちの1つを適応する。

●このターン、相手モンスター1体の攻撃を1度だけ無効にする。

●ゲームから除外されている「ラヴァル」モンスター1体を自分フィールドに特殊召喚する。

●このカードはこのターン、魔法・罠カードの効果を受けない。

(2):このカードが相手によって破壊され墓地へ送られたときに発動できる。墓地に存在する「ラヴァル・ヒドラドラグーン」以外の「ラヴァル」モンスター1体を自分フィールドに攻撃表示で特殊召喚する。

 

魔導機ゼルガード

リンク3 攻撃1200 リンク 闇属性 魔法使い族

【リンクマーカー:左上/上/右上】

EXモンスターゾーン、及びメインモンスターゾーンに存在する闇属性・魔法使い族モンスター1体ずつ

このカード名のカードはフィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

(1):1ターンに1度、自分の手札に存在する闇属性・魔法使い族モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。その後、このカードは攻撃力1000アップの装備カード扱いとしてそのモンスターと同じ列の自分魔法・罠ゾーンに置き、そのモンスターに装備する。魔法・罠ゾーンに表側表示で存在するこのカードは「LM」カード扱いともなる。この効果で魔法・罠ゾーンに存在するこのカードはフィールドから離れたとき、除外される。

(2):このカードが(1)の効果で魔法・罠ゾーンに存在し、このカードのリンク先に存在する闇属性・魔法使い族モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊したとき、自分の墓地に存在する魔法使い族モンスター1体を除外することで発動できる。そのモンスターは続けてもう1度だけ攻撃することができる。その時、そのモンスターの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで倍となる。この効果を発動したターン、そのモンスター以外の自分のモンスターは攻撃できない。

 

「へ、へへ…こいつは、すげえものを見たぜ…」

敗北し、これから自分にどんな運命が待っているのか分かっているステージ2だが、先ほどのデュエルについては素直に敗北を認めていた。

その相手が乗るDボードが近くまで飛んできて、直葉がそこから飛び降り、じっと自分を見ている。

「あなたを…精霊世界に還すわ」

「好きにしろ…。ちょいと短かったけどよ、面白かったぜ…。だから、一つだけ教えておいてやる。あと数日の間に、ここでとんでもねえことが起こる…」

「とんでもないこと…?」

「ああ。てめーらの存在が気に入らねえから…とさ。この街が火の海になっちまうかもな…。ま、そうならねえよう頑張るんだな」

「火の海って…なんでそんなことを!?ああ…待って!まだ聞きたいことがあるのに!!」

右手に出現したカードがステージ2を吸収していき、そのカードは《ラヴァルロード・ジャッジメント》へと変わっていく。

そして、残されたのは全身が日焼けしているアロハシャツ姿の男性だった。

ステージ2に勝利したにもかかわらず、この情報を聞いたことで喜ぶ気にもなれなかった。

(一体…霧山城市で何が起こるの…?誠君、お兄ちゃん…)


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