ノーネーム・ノーライフ~ゲーマー兄妹は箱庭で神話を紡ぐそうですよ?~ 作:アウトサイド
第一話「ゲーマー兄妹は異世界から招待されたようですよ?」
もしも、ゲームですべてが決まる世界があったら? そんな馬鹿なことを思う。
時代は平成へと流れ、ゲームは一つの誇るべき文化として存在している。一年に販売されるゲームの数を知っているだろうか? テーブルゲーム、家庭用ゲーム、年齢制限付きゲーム、オンラインゲーム、携帯ゲーム、同人ゲーム、最近なんて家庭用VRゲームが登場し始めた。もはや数えることが馬鹿らしく感じられる。
そんなもの触れた子供は、小さいころに、否、ゲーマーなら誰しもが思ったことであろう。
このゲームなら、自分は負けない。このゲームなら、自分は頂点に君臨できる。そして、新しいゲームを触れるたびに思う。
ああ、ゲームですべてが決するのなら、世界はもっとも面白いのに――と。
「ほんっとに、人生はクソゲーだよな、妹よ」
「にぃ……いま、さら」
狭い部屋だった。いや、部屋自体は狭くない。その空間を狭めているのは、無数のゲーム機。目の前の壁には、八台ものパソコンにつながるディスプレイが存在し、天井にあるだろう蛍光灯は灯さず、その明かりだけで生活をしていることがうかがえる。
もはや芸術とすら言える複雑な回線ケーブルが並ぶ床には、積み上げられた『兵糧』、もといカップ麺や清涼飲料水があって、ここに住む人間の食生活に対し、不安を抱いてしまう。
では、そんな空間にいる人間について語ろう。
この空間には二人の人間、兄と妹がいた。
兄――空。十八歳、ニート。
妹――白。十一歳、不登校。
この端的な紹介で、二人に対して抱いた感想はなんだろうか?
簡単だ。社会不適合者、典型的なダメ人間。そんな印象を抱いた人間は、多いのではないだろうか? そしてそれは、決して大きく的を外れているわけではないということを、認めよう。
事実、二人は社会からはじき出された異端だった。
そんな兄妹は、今日もゲームをしていた。
「あー、白ぉ死んだ。リザってぇ……」
「ちょい、待ち。今食事中」
「いやいや、白さん? 控えめに言ってお兄ちゃんピンチだからさ。ていうか、三日は食ってない兄の隣でカップ麺とか優雅すぎんでしょ。ちょっ、マジでリザってって!」
「んー……オケ、完了」
「っしゃ、妹よ、愛してるぜぇ!」
両手にマウス、二画面ニキャラ操作……に加えて食事をしている妹。画面では、明らかにチートツールを使っているとしか思えない対戦相手を含め、ダブルスコアのレベル差のある、およそ
このゲームを知るものなら、否、このゲームを知る知らないにかかわらず、あらゆるゲーマーがこう口に出すはずだ。
『ふざけるな』『ありえない』『どうせ、チーターだろ?』と。
しかし、驚くことにこの兄と妹は、不正を一切行うことなく、戦っている。
ユーザー名“
それが彼ら兄妹だった。
しかし、
「ふぅー、とりま勝利ー」
「ん、思ったより長かった」
「いや、単純計算で600倍の敵倒すのに、時間かかると言われましても」
「でも、結局勝ちは……勝ち」
「……だな。今何徹目だ? あーいや、いいや。そのカップ麺の山を見る限り、結構過ぎてるみたいだし。少し休むか」
小休憩。徹夜四日目にして、ようやくゲームをする手を止めることを決意した兄妹。人間の三大欲求のうち、睡眠欲と食欲を放棄して活動していた二人も、さすがに疲れが見えた。
ちょっと仮眠を。なんてことを考えていた二人のもと、一つの電子音がなった。
――テロンッ、と。
メールの到着を告げる電子音に、素直に寝不足の眼に怠惰を浮かべ、発信源を見る。
「にぃ、メール」
「知っとる。どうせ広告メールかなんかだろ? ほっとけ」
「友だち……かも」
「……………………誰の?」
白が呟いたあまりにも頭のおかしい発言に、大きな間を開けて訊ねた空。そんな空に対し、白は無慈悲にその白魚のような指を空に向ける。
「白ぉ、にいちゃん今すっごい傷ついた」
「白のって言わないの、当然」
「だったら言うなよ! お互い傷つくだけじゃねぇか! 引きニートライフエンジョイしてる俺に、友達なんぞいるわけないだろ!?」
この兄、十八歳にして半泣きである。
「あー、とりあえずタブPCのだろ、今の? さて、どいつかなーっと」
「……音は、テロン……3番メインアドレス、だよ」
「はいよ、エロゲの山ん中に紛れてるわ」
――件名:『 』兄妹へ。
「「…………」」
件名の内容に二人は押し黙る。『 』名義でのメールは今までも多数寄せられいるので、決して不思議なことではない。しかし、そこに
「……にぃ、どうする?」
「……なんで俺たち『 』が兄妹だと知っているのか、まあいろいろと思うところはあるよ。だが、問題はこれだな」
メールの本文には、こう書かれていた。
『 悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その才能を試すこと望むならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの“箱庭”へ来られたし 』
「ハッ、素敵な口説き文句じゃねぇか! ああ、本当に――」「おも、しろい。ほんと――」
兄妹は笑う。そして当然のように呼吸を揃えて、
『ふざけるな』
怒りを露わにした。
友人? そんなものはいない。財産? 興味がない。世界? 心底クソくらえだ。だが、たった一つ。たった一つだけ我慢ならないことがある。
「ったく、気分悪い。白、小休憩はやめだ。再開するぞ」
「ん、ストレス、発散」
そういって、兄妹はディスプレイに向き合った。
その瞬間だった。
『ああ、君たちならそう言ってくれると思っていたよ』
ディスプレイから、子供のような小さな手が伸びてきた。
「「は?」」
いやおい待て。ホラゲーをやった覚えはない。
しかし、無慈悲にもその手は現実であり、そしてこう告げた。
『だから、
――――――…………
「「……? は……っ!? はぁぁぁぁぁっ!?」」
間を置くことはなかった。急に開けた視界、久方ぶりの眩しさに、目がくらむ。
目を見開くと青空が広がっていた。なんせ、そこは上空4000メートルほどの世界。落下による圧力が襲う非現実的な状況に、兄妹は絶叫する。
「なん――なんだこれぇぇぇぇぇぇっ!?」
「にぃ! 落ちてる!」
パラシュートなしのスカイダイビングの結末を、予想できない馬鹿はいないだろう。そして、その結末へと向かい、自分たちが落下している事実に気絶しそうになる。
何より、眼下に広がる光景が、脳をフル回転させても足りないほどの世界だ。
視線の先に広がる地平線は、世界の果てを彷彿とさせる断崖絶壁。
眼下に広がるのは、巨大な天幕に覆われた未知の都市。
ああ、ようやく結論が出た。ここは、この場所は――――。
「「異世界ファンタジィィィィィー!?」」
紛れもなく異世界なのだと。
「あ、死んだ」
落下地点は湖。普通なら計算の必要もなく即死である。
――ボチャンッ、どうやら異世界でのスカイダイビングはパラシュート抜きでも可能らしいということを、空と白は最初に学んだ。
――――――…………
湖から這い上がってきた二人は、息を整えるとその場に仰向けに寝転がる。
「白、生きてるか?」
「にぃ、こそ……」
「ああ、最悪だ。割とマジで死ぬかもしれん。なんで、なんで下が湖なんだよぉぉぉっ!? おかげでハードどころか、ソフトまで全滅じゃねぇか!? 唯一無事なのが、防水スマホ二台と防水タブレットPCだけとか、もうマジふっざけんなよ、リアル!?」
ちなみ、補足ではあるが、ソーラーチャージャーやマルチバッテリー、充電ケーブルが無事なところを見ると、割と十分ではないかと思ってしまう。もっとも、当人たちからすれば、せめて携帯ゲームの一つや二つくらい無事であってほしかったというのが、願いだろうが。
そんな兄妹の嘆きの声に応える人間がいた。
「あなたたちの言ってることの半分もわからなかったけど、問答無用で空に放り出されたことに関しては、同意見ね。ったく、ちゃんと着替えは容易されてるんでしょうね?」
「右に同じだ、クソッタレ。初っ端からゲームオーバーになるところだぜ、これ。まだ石の中にでも飛ばされた方がマシだ」
「……いや、それこそおしまいでしょう?」
「俺は問題ないね」
「そう。身勝手ね」
兄妹は身を起こす。その視線の先には、三人の人間がいた。お嬢様然とした黒髪の少女に、なかなかにやんちゃそうな少年、無関心を装いながら猫の世話をしている少女。兄妹と比較してもキャラの濃い面々が、不満を滲ませながら濡れた服を絞っていた。
そんな三人を視界に収めながら、白は空に訊ねる。
「……にぃ、ここどこ?」
「さぁな、それこそ世界の果てとでもいえばいいか? しかしまあ、つくづくリアルはクソゲーだと思っていた俺たちだが……」
「うん、ついにバグった」
「リアルなんざ、超クソゲー」
その眼に宿るのは呆れか、怠惰か。ずぶぬれの恰好のまま立ち上がり、面倒くさい様子で服を絞る。そこにすでにある程度の水分を服から絞り終えた少年が質問する。
「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」
「そうね、そのことに同意はするけども、それ以上にその呼び方をやめてもらえないかしら? 私の名前は久遠飛鳥。野蛮そうなあなたは、よろしくしてくれるかしら?」
「ハッ、逆廻十六夜だ。見ての通り、粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃えてる駄目人間ではあるが、よろしくするかどうかは、この状況を把握してからでも遅くはねぇんじゃないか?」
「それもそうね。じゃあ、そこで子猫のお世話をしているあなたは?」
「春日部耀。この子は三毛猫。それ以外は同文」
「極めて簡潔な自己紹介ありがとうよ。じゃあ、次だ。そこのお前らは?」
三人が空と白に視線を向けた。
ここで二人が考えていたことは単純だ。第一に十六夜が言った“手紙”に関して、ほかの二人も異見しなかったところを見ると、十中八九、三人は手紙とやらを受け取っている。
つまり、この中で“メール”でこの世界に招待されたのは、兄妹だけということになる。まあ、それはどうでもなると二人は思っていた。
しかし、問題は第二の考え。
((この三人、絶対普通じゃない))
空は普段の観察眼から、白は己の知る常識の中からこの三人をそう判断した。それが異能的なものに対する考えではなく、世間一般における常識に当てはめた場合、この三人の落ち着きようは異常だった。
まず、いきなり異世界に招待されて平常心を保っているなどおかしいだろう。そして何よりも
するとどうだろう。この三人は、身一つ以外のすべてを放棄してこの世界にやってきたことになる。
そして、こういう人間への対処は兄である空の役目だ。
「う~ん、じゃあまあ、質問を一つずつクリアしていこう。まず、十六夜が最初に訊ねた手紙に関して。残念だが、俺たちは手紙をもらって招待を受けたわけじゃない。俺たちが受けたのはメールだった」
「メール? へぇ、あの手紙は密室だろうとどこだろうとやってきそうなもんだったけどな」
「そうね、事実、私には誰もいない部屋に手紙が置いてあったわ。密室殺人ならぬ密室投書、見たときは面白いと思ったけど……」
ここで三人に、自分たちの境遇と違う理由で兄妹がやってきたという認識を植え付けておく。そこに生まれるのは、好奇心だ。三人の目に、兄妹に対する興味が浮かんだ。
そうだ、それでいい。こういう人間にとって好奇心はブレーキとアクセル二つの役目になる。そして、この場合重要なのはブレーキ。兄妹に対する
「で、次の質問。俺の名前は空。こっちは妹の白だ」
「…………白、十一歳」
空の背中に隠れるようにする白。怯えているようで、むろん、それは演技である。
(よし! 可愛さ、健気さ、儚さすべてにおいてパーフェクトだ、妹よ!)
少女に対する可愛さに思うことなど、万国共通。それは、庇護欲。お互いが敵か味方かわからない状況で、こちらに保護すべき対象がいるのは大きい。
「あら、怯えさせちゃったかしら? 私は彼と違って粗野でも乱暴でもないから大丈夫よ?」
「うん、三毛猫を愛でるといい」
「……あ、ありがとう。“お姉ちゃん”」
ズキューンと二人の少女の胸を何かが貫いた。それは、おそらく恋にも似た衝撃があったはずだ。何せ、空から見て白は最高最上最奥のごとく、世界というものを魅了できるほどの可愛さを持つ自慢の妹。そんな妹が、“お姉ちゃん”などというのだぞ?
(正直、俺もたまにはお兄ちゃんって呼ばれた欲求があるというのに!)
とまあ、あっけなくも白の魅力に魅入られた二人は、さっそく白を猫可愛がりする。
「え、えっと白ちゃんよね? その、もう一回さっきの言葉を言ってもらえないかしら?」
「アンコールを求める」
「ん、お姉ちゃん」
今度は首かしげのぶりっ子ポーズ! わかっていてもトキめいてしまうのが、年上としての性質!
と、まあ、ここまでは予想通りの結果。
だがまあ……。
「やっぱ、お前には意味ねぇか……」
「いやいや、俺だってあんな妹は可愛いと思うぜ? だが、残念だったな。俺も
十六夜だけは空の魂胆に気づいている。この状況で、おそらくもっとも無力に近い状況で、敵を作らないようにする空の行動を十六夜は察したまま、観察していた。
「ケッ、うらやましいったらありゃしねぇよ」
「そう言うなって、俺もお前らとやりあうつもりはねぇよ」
「それを信用しろと?」
「できるだろう、俺を見てるお前には」
空にとって癪なことだが、確かにこの状況で三人の中で誰が一番信頼を置けるかというなら、間違いなく十六夜を選ぶ。おそらく、この男は粗野な外見やイメージに反し、博識で観察眼に長けている。そのうえ、この自信満々の態度、実力の方も相当なものなのだろう。
「ハァ……わぁったよ。正直、俺一人じゃ白を守り切れると断言するのは、難しそうだ。何せ、異世界だからな。情報が整理できるまではそれなりに頼りにさせてもらうよ」
「ヤハハ、任せろ。お前はともかく、あの妹は守ってやるよ」
「ああ、それでいい。んじゃ、そろそろだな」
「だな。もういいだろう」
二人は、森のある一点へと目を向ける。そして、こう言い放った。
「「いい加減出てこいよ」」
こうして、二人のゲーマー兄妹の“異世界神話”が紡がれる。
「ああ、もうこの子可愛いぃぃ!」
「肌スベスベ、小さい」
「に、にぃ……ヘルプミィー……」
紡がれるのだ。
興が乗って連載には切り替えてみたものの、続く気がしない……。