高町なのはバース   作:たくやんか

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プロローグ 遭遇

 

 おそらくは、これを読む皆さんの方がよく知っているであろう彼女の物語だ。そして、それを読む皆さんの物語でもある。更には、話を書く私の物語でもあるのである。のである。

 

 ある時は、願い事を叶える宝を集めた。ある時は輪廻転生を繰り返す本を解放した。ある時は、別の物語に生きる少女達を助けた。世界を救い、絆を高め、生徒を育てた。慕われ敬われ、その身にふさわしい称号をもらい、何時だって諦めず、前を向く。

 そんな彼女の物語だ、これは。皆さんの物語でもあるし、私の物語といってもいい。そう今も…

 

 これから話すのは、世界は様々だという事だ。様々な世界とも言える。多種多様と言ってしまってもいいが、思いや願いは一つという事。彼女の信念は一つという事。皆さんや私の信じている事は一つという事。きっと一つという事。

 

 ある世界では英雄だった人物が、別の世界では大犯罪者だという事もある。男だったり、豚だったり、猿だったりする。スポーツ選手や料理人、モデルやアイドル。総理大臣。色々いる。どれだけ広がっているか分からない。西から昇ったお日様がミナミに沈む。それでもいいのだ。話し始めてみよう。それでは!それでは、始めようと思う。思います。

 

 

 静寂が夜を包む一時。昼間の暑さは何処へやら。気温は20度。過ごしやすい快適さ。

 その街並みは8時間前の騒々しさを打ち消すようにただ静かに、静かにあった。

 この地に居を移し住まう地球出身の魔導士『高町なのは』も明日の仕事に差し支えのないように、睡眠を取り休んでいた。その日は目立った事柄もなく、教え子達に面倒をかけられる事態もなかったので、肉体的にも精神的にも過度の疲労がかかるような出来事にもならなかったのだ。

「うう~ん。むにゃむにゃ…クロノくん」

 シーツを掴み、足で挟んで、ぐるりと寝返りをうった彼女は寝言で男性の名を口にし、幸せそうな顔を浮かべている。朝になれば、また1日が始まるのだから夢位は見させてあげた方がいいのだろう。彼女にかせられた責任は途方もなく重いのだから。

 

《なのはさん!なのはさん!起きて下さい!》

 

「んにゃ!」

 

 だが、その静寂は唐突に破られた。

 緊急通信である。

 これが来たという事は、何か大変な事態が起きたという事である。

「…なあに?」

《お休みのところ申し訳ありません!なのはさんの自宅から近い所で何者かが暴れているとの連絡が届きました》

「うん。それで?」

《現場でCランクの魔導士が向かいましたが、まるで歯がたたず…》

「うんうん」

《Bランク魔導士の局員でも抑えきれないんです。このままでは被害が増す一方で》

「うん、そっか。分かったよ。私が行ってくる。任せて!」

《すみません、本当に》

「いいんだよ。こういう時の『私』だから、ね」

 彼女は睡眠を止め、即座に身を整えると、空に飛び出した。その顔は、先程までの夢見る女の子ではなく、十分な責任と覚悟をおった戦士の顔であった。

 

 

「全く、仕事柄仕方ないとはいえ大変だなあ。緊急手当でも出ればいいんだけど、そうもいかないってのが痛いとこだね。…あっ!いたいた。あそこかあ」

 何かの爆発物でも使ったかのように、そこは荒れ果てていた。全速力で飛ばしてきた彼女を待ち受けていたのは、瓦礫の山とおびただしい被害者の群れ。現場慣れしていない者ならば、吐き気をもよおすであろうものだ。

「凄いなあ。一体何をどうすればこうなるの?」

 周囲を見渡す彼女の前に、局員の何人かが声をかける。

「すいません、なのはさん」

「お疲れ様です、なのはさん」

「ご足労かけます、なのはさん」

 

「いいって事よ!」

 

 現場の局員達の状況説明を聞くと、この被害をもたらしたであろう犯人に彼女は向かう。 

「気をつけて下さい。とても獰猛な奴です」

「うん。周りを見れば分かるよ。危険そうだね」

 慎重に歩を進めれば、微かな息づかいが聞こえてくる。

 もう少しで犯人と出会う。

 僅かに胸が苦しい。緊張しているのだろう。

 うなり声が聞こえる。どうやら、普通の相手ではないらしい。変態かもしれない。どうするか?

 

 高町なのはがそいつを見ると同時に向こうも首をずらして、なのはを見る。容姿は普通に人体である。がたいのいい人間の男にしか見えない。違うといったら異様に血走った眼とダラダラとだらしなく垂れるヨダレと荒い息使い。この人変なんです!と指摘されるような風貌だった。ぐりんという音と共に青白い眼光が映った。ギョロりとした目ン玉はやはり獣のそれでとてもではないが、人間らしい理知性は感じ取れない。こいつは危ない、危ないな。そう思わせる。

 高町なのはは管理局の人間。怯むわけにはいかない。

 勇気を持って一歩進む。

 

「時空管理局です。あなたのしている行為は周囲の人間に大きな被害を与えています。直ちにその行為を止めて、大人しく投降を…」

「GuruguruGaa!GuruguruGaa!GuruguruGuruguru、GuruguruGaa!!」

「…話は通じそうにないね」

 

 疑いようもなく、もはや獣は明白。なのはの言葉に反応した、それは物凄いスピードで襲いかかってきた。10メートルはあろう距離を一瞬で埋め、右手の大きな食らったら死んじゃうような爪の一撃をなのはは避けた。続いて来た大きな口からの逝っちゃうような噛みつき攻撃をバニラで防いだ。壁によって弾き飛ばされた獣は起き上がると直ぐ様またの突進。なのはは飛んで空に逃れる。姿勢を整え、砲撃の体勢をとると、獣は抜群の跳躍力で近づいてきた。砲撃で牽制し、なのはは獣に向かい飛び、すれ違いざまに一撃を加えた。叫びながら落ちてくる獣に今度はシューターによる弾丸を当てると 、簡単に落ちていったので、だめ押しの一発を当てた。すると、獣は地に伏していた。ぐったりとしていた。

「終わったかな…?」

 駆け寄ってきた魔導士や局員を見て、少し安堵したなのはは、バリアジャケットを解除しようとした、…その時だ。

 

 パチパチパチパチと乾いた音が鳴ったのは。

 

「ほう。私の猟犬を倒すとはなかなかやるではないか。この世界のなのはは」

 

 いつの間にか現れた男は感心の意味を込め、手拍子をしていた。その男は全く誰にも気づかれる事もなく、そこに突然現れた。その男は、とても不気味だった。

 男の放った言葉に不思議がり、と同時に男の正体を確かめんがため、なのはは聞いた。

「?この世界?…あなたは誰?」

 男はクックッと微笑しながら落ちついた様子で返事を返す。

「聞いてどうする?どうせお前には関係なくなる。何故ならば、お前はここで私に狩られるのだからな」

「何を言ってるのか、分からないよ。この危ない人とあなたは関係あるの?只の一般人なら下がって下さい」

 男はまるで中世のイギリス辺りの貴族のような服を着こんでいた。その身なりのいい服をクシャリと曲げて、高笑いを始めた。愉快そうに。

「先程、私はこいつを猟犬といったはずだが?どうやら鈍いと見える。私はお前を狩りに来たのだ。そのためにこいつをけしかけたのだよ。お前をおびき寄せるために」

 自信たっぷりにそう言い放つ男の言葉通りなら、男はなのはが目的で、そのために真夜中に街中で騒ぎを起こしたという事になる。

「詳しく話を聞く必要がありそうだね」

 そう言って、レイジングハートを構えるなのはは、自分自身のある異変に気がつく。

 足が震えていたのである。いや、よく確かめると全身が震えていた。

「え?何?」

「体は正直だな。私に対して正常な反応をしている」

 認めたくはなかった。まさかそんな…

「怯えているの?この人に」

 気づいた途端にガタガタと地面が揺れたんじゃないかという位に体が逃げ出したがっている。捕食者に食われる小動物という例えが一致する。数多くの戦いを経験してきた彼女をしても、初めての経験だった。

「くっ…!」

 レイジングハートを構え直し、なのはは気丈に立った。視線を男に向け、警戒心と闘争心を再構築した。魔力を全力で解放し、今から起こる事に備える。

「いいぞ!獲物はそうでなくてはな!」

 男は両手をゆっくりと宙に上げ…

「さあ、なのは狩りの始まりだ」

 そう言った。

 

 

 

 数分後…

 

「うぅ…うぁ…」

 

 そこには、ボロボロにされた『高町なのは』と彼女を助けようと奮闘した局員達の亡骸。そして、全く無傷の男の姿があった。男は、なのはの頭を片腕で掴むと、地面から引き上げ、立ち上がらせた。

「さて、今の気分はどうだね?」

 憎らしい笑みを浮かべる男に、なのははうつむいたまま答える。

「……最悪だね」

 顔を引き寄せ、ニヤリと笑う男。獲物の収穫を喜び、その質を吟味していた。その様子になのはは嫌悪感しか沸かなかった。男は、なのはを狩りの獲物としてしか見ていない。なのは狩りとしか思っていない。だから…

「局員の皆まで…」

「私の邪魔をするからだ。解っていると思うが、私の目的はお前だけだ。余計な物を狩るのは狩りではない。だが、邪魔が過ぎたのでね。蹴散らしたのさ」

 このまま終わるわけにはいかない。この理不尽を止めなくては。不撓不屈の精神にて。

 だから、なのははいつも諦めないのだ。

 

「私は、絶対に諦めない!」

 

 男はまた可笑しそうに笑い上げた。

 

「ククク、ハーハハハ‼モゲギャーー‼」

 

 何が可笑しいのか?その様子になのはは面を食らったように驚く。自分が搾り滓のような精神力まで出して、上げた言葉に反応した男は気がふれたように笑っていた。嘲るような笑い方とも違う、その様子に戸惑いと疑問が出る。そう!この男の正体が 最初から分からない!

「諦めない!不撓不屈!全くお前達はいつも同じ台詞を言うな」

「えぇ?」

「何百何千という世界でお前達は似たような事を言う。聞き飽きたわ、ハハハハハ!」

「あなたは何を言って?」

「ミッドチルダでも、地球でも、六課にいても、いつも一緒だ」

「こ、ここはミッドチルダでも地球でもない!」

「さて、いい加減もういいだろう。そろそろ食事に移させてもらう」

 

 男はなのはを抱き寄せると、その首筋に牙を食い込ませ、なのはの何もかも奪っていった。彼女の意識は薄れ、やがて逝った。

 

 ここは月面都市『TUKINARI』。

 数多くの世界で、月の魔導士として生きていた世界の高町なのははこうして死んだのだ。

 

 

 

 

「何だか胸がざわざわする」

 異変を感じ取った者が、そう言った。

 

 その人物は、僕らのよく知る彼女だ。

 

 高町なのはバース。

 始まります。

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