投稿する直前までタイトルを【雁夜おじさん吐血ブシャー】にするか悩んだ。
なんというか、ギャグタイトルでも付けないとおじさんが不憫で不憫で……。
攻撃の余波によって起こった衝撃と砂を、腕で顔を庇ってなんとか耐える。
どっちだ……。
ランサーの一撃が届いたのか、それとも届かなかったのか。
ゆっくりと目蓋を開け、腕を退かした先で見たものは……ランサーの槍に胸の右半分を貫かれたランスロットの姿だった。
見れば鎖は千切れ、ランスロットのアロンダイトを持つ手が胸の左側を護っている……あの状況から剣でなんとか槍を弾こうとした、いや実際弾いたのだろう。だからこそ軌道が中央からずれた。
流石は最高の騎士。だがあの傷ではもう……。
「……申し訳ありません我が王」
「謝罪はいらない。騎士の不忠を裁くのが王の務めです」
「あぁ……貴女の騎士であった私が羨ましい……」
……ああそうか。
聖槍に貫かれながら、先程までの憎悪の表情から満ち足りた表情へと変わったランスロットを見て、彼の願いをなんとなくだが理解してしまった。
たぶん彼は裁かれたかったのだ。他でもない自らの王に。
何故そんな望みを抱いたのかは分からない。だがそのあたりに彼が狂戦士となった理由があり、そしてランサーにはその理由が分かっていたからこそ、自ら裁くことに拘ったのかもしれない。
「それはどうでしょう。私は貴方達を厳しく罰しましたからね。貴方達のあらゆる立場と権利を剥奪し、財の殆どを没収して二人を国外に追放したのですから。きっと恨んでいることでしょう」
えっ、それって普通に二人を逃がしたんじゃないか?
今のランサーの発言は確かに不貞を働いた二人を単身で国外に放り出したように聞こえるが、それは同時に二人の立場と言う枷を外させ、ただの男と女として『送り出した』とも取れる。
……ああそうか。つまりランサーは騎士と王妃である二人をきっちり罰する代わりに、自分の出来る限りの権力を使って二人を助けたのだ。
その後に己に降りかかるであろう批難と失望を知りながら。
「……姿形、そして考え方は変わっても……やはり貴女の根底の不器用な優しさは……変わっていないのですね」
もはや体の半分が消えているランスロットが寂しそうな嬉しそうな笑みを浮かべる。
「……他に何か言い残すことは?」
あと一分もせずに消えてしまうであろうランスロットへそう声をかけるランサーに、ランスロットは少しだけ申し訳なさそうな表情をさせて願った。
「できれば私のマスターの願いを……あの男もまた、たった一人の少女を救う為に戦っていた不器用な男です」
「マスター」
こちらに視線を向けたランサーの意図を理解し、彼女に頷いて答えランスロットに近付いて尋ねる。
「そいつの名前は?」
「名はカリヤ……マトウカリヤです。今はコンテナー置き場付近の裏路地で気絶していると思います」
よりにもよって御三家の一つか。てか気絶してるのかよ。
「分かった。本人から話を聞いて協力できることなら手を貸すよ」
「感謝します。我が王の新たな魔術師よ」
あ、やっぱりこの人の認識だとこっちが仕える立場なのね。まぁ否定はしないけどね。サーヴァントあってのマスターだ。彼等の期待に答えられるのなら、そういう立場でも悪くない。
「では逝けランスロットよ。いつまでも我が親友のギネヴィアを待たせるな」
ランサーが身体を離し、既にランスロットの体から抜けていた槍を地面に突き刺してそう命じる。
「――はっ。我が王」
もはや頭部すら薄れていたランスロットは、それでも誇らし気な表情をさせ、恭しくお辞儀をして……消えていった。
「……まさか二度、同じ騎士を裁く事になるとは。因果なものです」
「無理にランサーが裁かなくても、もう一人、セイバーの方でも良かったんじゃない?」
自分がそう尋ねるとランサーはゆっくりと頭を横に振った。
「あれは……ダメしょうね。同じ真面目人間ですから。きっと彼が狂戦士になるだなんて欠片も思っていないでしょう。最悪見当違いな理由で討ちかねない」
「……ランサーはよく気付いたね」
「道を外れたからこそ、彼とギネヴィアのその真面目な性格の危うさに気付いたのです……故に、私が率先して裁く必要があった」
当時のことを思い出したのか、少しだけ寂しそうに瞳を揺らしたランサーだったが、すぐにいつもの無表情に戻り、ラムレイに跨る。
「さて、我が騎士最後の頼みです。彼のマスターを探すとしましょう」
「……そうだね。どうやら向こうの戦闘も終わったみたいだし。今なら楽に探せるかもね」
遠見の魔術で再度コンテナ置き場を確認すると、他のサーヴァントやマスターは撤退したようだ。
何匹か使い魔が近くに向かっているが、まあいいだろう。対策はしてあるし。
腰のポーチから魔石を取り出して自分の魔力を補充しつつランサーに頼んで自分もラムレイに乗せて貰い、コンテナ置き場に向かって貰う。
「頼んだ私が言うのもアレですが、マスターはよいのですか? 彼のマスターを助けることは貴方には関係の無いことのはずです」
「そうだね。でもさ、誰かの為に戦う人に悪い人は居ないと思うんだ。何よりランサーに頼まれたんだ、嫌とは言えないよ。もちろん話を聞いてからじゃないとなんとも言えないけどね」
自分の答えにランサーは珍しく困ったような表情をさせた。
「お人好しですね。貴方は」
「ランサーほどじゃないよ」
生涯その不器用な優しさを通した人に言われてそう返すと、珍しくちょっとだけムッとさせた彼女は正面に向き直る。
「今日は魔力消費が多かったので更に三倍の食事を要求します」
「オウ……」
反撃した代償は意外とでかかった。なぜ自分はこれだけの知識と技術を持ちながら黄金率のスキルだけは持っていないのか!
◆
(俺は死ぬのか……こんなあっけなく……桜ちゃんを救うことも、時臣への復讐も果たせぬまま)
冷たく汚い裏路地の地面に血反吐を吐いたまま横たわる男、ランスロットのマスターであった間桐雁夜は自身の有様に無念を抱きながら、先程まであったはずの令呪が消えた己の手の甲へと力無く視線を向ける。
雁夜が聖杯戦争に参加した理由は、間桐に貰われた養子の少女、間桐桜のため。そしてもう一つが彼女の本当の父であり、魔術師の子供だからという理由で桜を養子に出した遠坂時臣への私怨だった。
元々雁夜と時臣、そして彼の妻であり桜の母親でも遠坂葵は同級生であった。
そして雁夜は葵に恋心を抱いていたが結局その思いを告げられず、彼女は時臣の妻となった。
その後雁夜は間桐の家督を継がずに出奔し、魔術とは無縁の生活を送る。そんな彼の楽しみは時々街に戻って葵やその娘である桜と桜の姉である遠坂凜と会話を交わすことであった。
一年前も同じように土産を持って街に戻った雁夜だったが、そこで初めて桜を間桐の養子に出した事を葵から聞かされ愕然とした。
もちろん養子に関しては遠坂側にも事情があった。
時臣の娘二人には『運が悪い』事に二人ともが特異な才能を有していた。特に桜はあまりにも珍しい『虚数』の属性を有していた。
もしも桜が魔術師の加護を得られない場合、彼女のその特異性がバレれば封印指定にされて魔術師協会に保護と言う名の監禁、最悪その特異性を残す為にホルマリン漬けにされかねない。
しかし桜の特性は封印するにはあまりにも惜しい。そんな風に悩んでいた時臣のところに間桐から御家存続のために養子が欲しいという申し出を受けた。
時臣はどうせ預けるのならばと盟友の間桐を信頼して預けたというわけだ。
しかし事情を知らない雁夜からしたら間桐の要請を受け入れて娘を捨てたとしか思えず、故に激高した。
雁夜は葵にも詰め寄り問い質したが、魔術の世界から逃げた貴方には関係ない。という痛い所を突かれ口を紡ぐしかなかった。
そして雁夜は出て行った間桐の屋敷へと戻り、間桐の魔術を牛耳る己の父であり数百年を生きる間桐の化生と呼ばれる翁、間桐臓硯と取引をした。
『あんたの目的は聖杯だろ? 俺が聖杯を手に入れたら桜ちゃんを開放しろ』
臓硯は雁夜の提案を受け入れ、己の蟲魔術によって魔術師として未熟過ぎる雁夜の身体を魔術が扱えるように無理矢理弄くりまわして改造を施した。
因みに桜も既に同じように蟲に身体を蹂躙されてその魔術回路と属性を間桐の魔術に適応できるように改造されていたが、雁夜とは違い精神はともかく肉体が壊れないように時間をかけて施され続けていた。
結果、一年の拷問にも等しい肉体改造の果てに雁夜はなんとかマスターとしての資格を得てサーヴァントを呼び出すだけの魔術師に成ることに成功した。
代償として一月と生きられない身体になってしまった事と引き換えに。
しかし、現実は残酷である。
それだけの代償を払ったにも関わらず、雁夜の聖杯戦争の結果は開始一日目で脱落という結果であった。
(時臣のサーヴァントを襲ったまでは良かった。奴のサーヴァントが逃げてバーサーカーを撤退させる筈だったのに、あの馬に跨った紫の鎧の一撃を受けた後から突然膨大に魔力を奪って暴走しやがった。お陰で俺はその代償の苦痛で悶絶して令呪が使えず、いつの間にか意識が飛んで目が覚めてみれば令呪が無くなっていた。つまりバーサーカーがやられたってことだ)
雁夜は時臣への復讐のために彼のサーヴァントを狙っていた。
雁夜にとっては他のサーヴァントやマスターは眼中になかった。桜の出来事とこの一年の苦痛によって雁夜の心は時臣への憎悪で一杯であったからだ。
しかしいくら心が滾ろうとも、彼の身体は既に限界であった。
彼の中の蟲は魔力の生成の為に体内でカリヤの血肉を食い漁ったが、これ以上は魔力を生成出来ぬと判断して活動を止めた。あとは魔力が切れて死ぬのをただ待つだけの状態であった。
(目蓋が重い……くそぉ。最後に……せめて最後に……桜ちゃんの……凜ちゃんの……葵さんの笑顔が見たかった)
目蓋が完全に落ちて視界が閉ざされ意識も薄れ始めた彼の耳に――かすかな音が聞こえた。
「……が……スターで…」
「まず……治療を……」
(人の……声?)
人の声らしき音を聞きながら……雁夜は意識を失った。
と言うわけで原作と違ってバーサーカー陣営が早くも脱落!
多分原作よりも展開はかなり早いです。
さてもうすぐ桜ちゃんの登場です。