岸波白野の転生物語【Fate/編】   作:雷鳥

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と言うわけで二日目開始です。今回は桜ちゃんの今後についての回となります。



【二日目開始】

「倉庫街及び湾岸一帯とホテル一棟の爆破事件。幸いどちらも死者はゼロであり、昨晩から警察の懸命な捜査が行われている…ねぇ」

 

 家電コーナーのテレビに流れている昨晩起きた事件のニュースを桜ちゃんと一緒に眺めながら、その内容について思案する。

 

 倉庫街と湾岸は自分達も関わっているから知っているけど、ホテルはあの後またどこかの陣営がやりあったと言うことか。と言うか、ホテル一棟爆破ってどうやって隠蔽工作するんだろう……地盤沈下とか?

 

「兄さん?」

 

「ん、ごめんね桜。それじゃあ買い物に行こうか」

 

 こちらを見上げる桜ちゃんに微笑みながら手を繋いで改めて買い物を再開する。

 因みに兄さん呼びは趣味ではなく兄妹という設定を通すためだ。

 それでもちょっと苦しいと思ったから《Code:変化(disguise)》で髪や瞳の色を桜ちゃんに似せた。

 

 それとランサーは今は自分と反対側の桜ちゃんの隣を珍しくラムレイから降りて一緒に歩いている。そしてラムレイは桜ちゃんの背後を護るかのように付いて歩いている。

 

 ランサーって子供好きなのかな?

 

 何かと桜ちゃんを気に掛けているランサーを微笑ましく眺めながら必要な品物を求めて大型デパートを歩き回った。

 

 

 

 

『ふむ。結論から言えば一度開いてしまった魔術回路を止めるのは無理だ。ああ、勘違いしないで欲しい。無理と言うのは技術的な意味ではなくコストとリスク的な意味だ。私から助言するとしたら弄られた魔術回路を正常化し、改めて魔力の扱い方を教えて回路のオンオフを出来るようにすべきだろう』

 

「そうですか。やはり一度回路が開いてはどうしようもありませんか……」

 

 買い物を終えた自分達は荷物を車に載せたあと、人払いの結界を張ってデパート一階の公衆電話から目的の人物に連絡をつける。

 

 蒼崎橙子さん。

 魔術協会でも屈指の実力者であり人形造りの天才。

 しかしその実力が仇となり封印指定を受けて現在は協会を出奔して日本に移り住んでいる。もっともまだ永住する場所は決めていないようで転々と拠点を替えている。

 ただ自分にはお得意様と言う理由で何故か連絡先を教えてくれる。まぁその理由はとても単純なものなのだが。

 因みに『赤』という言葉が嫌いでそれを含んだ彼女の二つ名を目の前で言うと冗談でもなんでもなく殺される。実際に記録として残っているため、彼女の前では決して口にしないように注意している。

 それと自分の名前もあまり好きではない様で苗字で呼んだ方が機嫌が良い。

 

 そんな彼女なら回路の停止や凍結も可能かと思ったが、出来るとしてもやはりリスクを伴うみたいだ。

 

『それに、その子は虚数属性なんだろ? だったら多分魔術を使えないのは逆に危険だ。自身の身を護ると言う意味でも、やはり『力』は必要になると思うね』

 

「ではやはり、どこか有名な魔術師の名家に預けるしかありませんか?」

 

『それが『二番』だろう。一番は君が面倒を見ることだと私は思うがね」

 

「……出来ればそうしたいんですけどね」

 

 助けた責任を果たすならそれが正しいのだが……自分がこの戦いを生き残れる可能性、そして彼女の父親を殺す可能性を考えると流石に返事を躊躇う。

 

『まあいいさ。それと、日本で幾つか良い物件を見つけたんでね。そろそろ定住する予定だ。生きていたらまた会おう』

 

「ええ。蒼崎さんもお元気で」

 

 そう返事を返して電話を切って新しいカードを取り出して今度は外国へと電話をかける。

 

 ……凄い勢いで料金メーターが減って行く。

 

 数回のコールの後、目的の相手の声が流暢な英語で響く。まあアイツの個室への専用回線だから出るのは一人だけなんだけどね。

 

『誰だ?』

 

「白野だ。久しぶりだなエーデルフェルト」

 

 軽い挨拶を送ると向こうからなんとも嫌そうなフン、という鼻を鳴らす音が響いた。

 

『一体何の用だ。今は聖杯戦争に参加中の筈だろう』

 

「ああそれでな、頼みがあるんだ』

 

『……いいだろう。言うだけ言ってみろ』

 

「やけにすんなり了承したな。いつもは自分へのリターンがうんぬんって言うのに」

 

 エーデルフェルト家の現当主であるこの男は自らの利益にかなりうるさい。

 まぁ誰だってタダ働きは嫌だろうから分からないでもないが、この男は徹底している。少なくとも収入より出資が上回るようなら決して助けてはくれないタイプだ。

 

『現状、貴様には貸しがある。だからさっさと清算したいのだよ』

 

「そんな借金みたいな……」

 

『当然だ。貴様のようないつ死ぬか解らぬ『人生破綻者』に借りを作ったまま死なれたらエーデルフェルト家の者としての恥だ。故に貴様からの借りはさっさと返すことに決めている。ほら、さっさと用件を述べろ』

 

 う~んこの相変わらずの上から目線よ。まあ相手は本当の貴族な上に言っている事も正しいのでこちらはぐうの音も出ない。

 

 エーデルフェルトの言葉に肩を落としながら、桜ちゃんについて要点と要望だけを纏めて説明する。

 

『ほう、あの遠坂の娘か。それならば母上も許すだろう。なにせあの憎き遠坂が出来なかった事をするのだからな』

 

「あ~えっと、預かって欲しいとお願する立場で言うのもあれだけど……虐待とかイジメは勘弁してくれよ」

 

 一応忠告しておくとエーデルフェルトは心外だと言いた気に不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

『我がエーデルフェルト家の者がそのような幼稚で陰湿な事をするものか。やるなら正面から、正々堂々と喧嘩させる!』

 

 おおう。相変わらず魔術師らしからぬ家柄だ。

 

 エーデルフェルト家は魔術師至上主義と言うよりも自分達の一族至上主義であり、一族としての誇りや教えを大切にしている。良く言えば『魔法使いらしい魔術師』だ。

 今の世の魔術師は魔術師界のルールや規則を重んじるが、彼等は魔術その物の探求や好奇、そして一族の栄誉と栄華を優先する。

 特に現当主のこの男は家の利益を優先するタイプで目の前で人がどれだけ傷付こうが我先にと討伐対象の技術を掻っ攫おうとする。

 自分はそう言うのには興味が無くどちらかと言えば人命優先なので彼とは数年間ビジネスパートナーとして良好な関係を続けている。

 本人も基本思考が利益優先なだけで正直者で悪い奴じゃないしね。

 

『それでその桜という少女を預かる場合、形式上は貴様の『妹』とし、私の『弟子』として魔術の基礎修得まで預かること。それ以降は彼女の意思を尊重する。と言う事でいいんだな?』

 

「ああ。できれば桜ちゃんには普通の女の子として幸せになって欲しいと思っている」

 

『フン、まあいいだろう。貴様が死んだ場合、預かってやる。連絡がつくようにはしておけ。落ち合う場所はその地にある我が一族の双子館の一つを使うといい。場所と結界の解除と展開の詠唱は――』

 

 それから幾つか細かい事をエーデルフェルトと話し合って電話を切る。

 とりあえずこれで自分が居なくなった場合の桜ちゃんの安全確保は出来た。

 電話を終え傍で待ってくれていた桜ちゃんと霊体のランサーに声を掛ける。

 

「お待たせ。それじゃあ一度キャンプ地に帰ってお昼を食べて……桜ちゃんはそのあとはどうしたい?」

 

「……お馬さんに乗りたい」

 

 桜ちゃんはしばらく考えるとそう答えた。

 

 ランサーに視線を向けると彼女はしばし考えた後に頷いてくれた。どうやら桜ちゃんを乗せて貰えるみたいだ。

 

「なら戻ったらみんなで散歩でもしようか」

 

 山には人払いの結界を施してあるから山中ならランサーを実体化させても問題ない。

 使い魔が居るかどうかの確認も必要だな。

 来た時と同じように桜ちゃんの手を繋ぎながら午後の予定を頭の中で纏めていく。

 

 

 

 

 山へと戻り桜ちゃんに『顔の無い王』のレプリカ版を渡して姿を隠して貰い自分とランサーが他陣営の使い魔が居ないか探りをいれる。案の定キャンプ地付近で数匹発見したのでランサーと共に処理してからお昼にする。

 

「さて、それじゃあ御飯も食べたし、先に桜ちゃんの身体を治しちゃおう」

 

「治す?」

 

「うん。とりあえず肉体と魂の異常なら自分の治癒魔術で治せると思う」

 

 けっこう魔力を持っていかれる魔術だけど、仕方ない。

 

 そう言って桜ちゃんに背中を向けて貰って服を脱いで貰う。

 

「……ランサー、何故急にラムレイを自分の背後に……」

 

「いえ、疑っては居ませんが……ラムレイ、マスターが怪しい動きをしたらとりあえず踏みなさい」

 

「ブルル」

 

 こ、恐い。いつの間にランサーはこんなに過保護に、でも気持ちは解る。

 

「そういう趣味は無いから。さて――《Code:完全治癒(recover)》」

 

 桜ちゃんの背中に触れながらコードキャストを唱える。

 桜ちゃんの身体を光が包み、彼女の髪の色の濃さが増す。どうやらこちらの色が本来の彼女の物らしい。

 

「……どうかな桜ちゃん?」

 

「なんか、少しだけ体が軽くなった……かも?」

 

 まあ実感は湧かないよなぁ。

 

「見た目で判るのは髪の色程度ですね」

 

「魔術回路は流石に本人にしか解らないけど、回路は肉体に依存しているし壊れていなければ修復されているはず。まあ肉体の異常が治ったのは間違いないし、今はそれだけ分かればいいさ」

 

 桜ちゃんに服を着て貰い、その後は桜ちゃんの希望通りに彼女をラムレイに乗せて比較的に緩やかな山道を選びつつ散歩を開始する。もちろん周囲の警戒は怠らない。

 

 ある程度散歩していると桜ちゃんが眠そうなのでキャンプ地へと戻る事にし、その道中で空に魔力のある者にしか見えない信号弾が放たれている事に気付く。

 

 あの方角は教会、それにあれは確か召集の合図だったか。と言うことは監督役からの呼び出しか。ふむ、これは聖杯について色々訊けるチャンスかもしれない。

 

「ランサー、ちょっと教会に行ってくるよ。桜ちゃんの護衛を頼む」

 

「一人で行くのですか?」

 

「どうせ召集には使い魔しかこないだろう。それにランサーを連れて行くと桜ちゃんも連れて行くことになる。まだ桜ちゃんを他の陣営に見せるわけには行かない」

 

 手段を選ばない奴等に見つかったら大変だからな。

 

 桜ちゃんにもう一度『顔の無い王レプリカ』を着せる。能力の発動条件はフードを被るだから羽織るだけなら問題ない。

 

「ランサーに着るように言われたらさっきみたいにその外套のフードを被るんだよ。ランサーも桜ちゃんのことをよろしく」

 

「行ってらっしゃい……」

 

「何かあれば念話や令呪を」

 

「分かった。ランサーも何かあったら念話で知らせてくれ」

 

 説明を終え、手を振る桜ちゃんにこちらも手を振って答えながら二人の傍を離れて下山する。さてさて、教会では何が聞けるかな。

 




オリジナルキャラである現当主のエーデルフェルトさん。登場はたぶん今回限り。
設定はルヴィア達双子のお父さん。
感想聞く限り双子が当主になる慣わしらしいので、まあそれまでの繋ぎの当主だと思ってください(色々見逃してくれると嬉しい)
白野とはビジネスパートナーとしては信用している仲であり、白野の人柄をよく理解している。
白野の介入で御三家は兎も角、エーデルフェルト家の日本人嫌いに関しては彼の代で多少緩和された。

あと橙子さんの口調はエクストラを参考にしてるのでちょっと違和感あるかも(空の境界の方だと確か戦闘時以外はもっと女性ぽかった筈だし)
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