さて、困ったな。
アサシンと共に車で移動しながら先程アサシンから伝えられた情報で今の内に整理しておくべき物を纏める。
まずアサシンのマスターの名前は言峰綺礼。
監督役の言峰璃正の息子であり、アサシンから見てもかなり高い戦闘能力を有しているらしい。
というか、話を聞いたらやっぱりマジカル☆八極拳を使うあの人のオリジナルだった。
ただどうも自分が知る言峰綺礼とは性格がちょっと違うみたいなんだよねぇ。
こちらの言峰綺礼は激辛料理好きなのと八極拳と魔術が使えるというのは自分が知っている言峰綺礼と同じだが、けっして自己主張せずに命令と職務に忠実な勤勉で真面目な性格らしい。
自分が知っている言峰綺礼という人物は、人が苦労する姿を見る為ならどんな労力も惜しまない凝り性な性格。かと思えば着ている神父服の如く、ルールや規則を厳守し、こちらの問いや悩みの確信を衝くように答えや助言を気まぐれに与えてくる。
正直言って敵にもしたくないが味方にもしたくない。というのが自分の本音だったりする。
因みに人が悶絶する程の超激辛料理、特に麻婆豆腐が好きで、購買の店員の時は万感の思いを込めて終盤に入荷した激辛麻婆パンをこちらに勧めてきた。
味は普通に美味しかったけど回復量が微妙だったので菓子パン感覚で買ってたなぁ。
サーヴァントのみんなには大不評で特にアーチャーとギルガメッシュは自分に使ったら契約を解除するとまで言いそうな勢いだった。というかギルガメッシュには言われた。
……まぁ元々は別世界の話だ。言峰綺礼の性格の違いは今は置いておこう。問題なのは言峰綺礼と言峰璃正の二人が遠坂時臣と組んでいるという事だ。
この情報を知った時はアサシンを引き抜けて本当に良かったと心の底から思ったものだ。
現地を熟知した魔術師、対人専門の達人クラスの武人、ルールを仕切る監督、宝具の群を持つ英雄、そこにこの諜報に長けた分身するアサシンが居たとあってはまともに戦うことすら出来なかったに違いない。
まあそんな磐石を期したからこそ、アサシンが裏切ったんだけどね。
結局の所アサシンと言峰は遠坂とギルガメッシュを勝たせる為の犠牲でしかない。
アサシン自身もそれは当初から理解しており、最終的には全員裏切り自らが聖杯を手にするつもりでいたが、マスターにしか願いが叶えられないと知ってこちらの誘いに応じたという訳だ。
それとギルガメッシュの判明している能力や行動についても教えてくれた。
能力については自分が知っているものしかなかった。
そして基本的にギルガメッシュは《単独行動》のスキルで好きに現世をうろついているらしい。彼らしくてつい心の中で苦笑してしまう。
次にアサシンが教えてくれた情報はキャスターとキャスターのマスターについてだった。
どうやら既にアサシンはキャスターのマスターの居場所を把握しているらしい。
なのに何故アサシンが暗殺をしないのかと問えば、自分達がキャスターを排除するとアサシンの生存がバレると言うことでマスターからの命令で手を出す事を禁じられているらしい。
ただどうやらキャスターは何故かセイバーに強い執着を持っており、今夜にでも行動を起こす可能性が高いという事だ。
最後にアサシンが自らの能力を説明しようとしたので、自分はそれはちゃんと契約した時でいいと断った。こちらもその時にちゃんと自分が扱う魔術について説明すると伝えると、仮面で隠れていたがなんとも不可解そうな雰囲気を出していた。
『それで、ハクノはこれからどうするので?』
『とりあえず今後の方針は現地でランサー達も交えてから決めるよ。アサシンに説明しないといけない事もあるしね』
令呪で繋がっていないので別で念話の魔術を施してアサシンと念話で会話しながら車に乗って根城の山へと向かう。
因みにアサシンが自分を呼び捨てなのは彼女とマスター契約している訳ではないから他の呼び方でと言ったらこうなった。
「……帰還かマスター」
「ただいまランサー」
山について拠点の場所に向かうと、ラムレイを背凭れに座るランサーとラムレイの胴体に寄りかかって眠る桜ちゃんの姿があった。
なんというか……尊いと言うか癒されるというか。
心が暖かくなるのを感じながら、しかし自分が彼女の本当の親である時臣を殺す可能性を考えて、すぐに気持ちが沈む。
「さて、それじゃあまずはランサーに紹介したい仲間がいる」
「ふむ。想像はつきますが聞きましょう」
そう言って立ち上がった彼女に合わせてこちらもアサシンに出てきて貰う。
「こうして挨拶を交わすのは初めてですねランサー。私はアサシン、貴女のマスターからの同盟の申し出を今回受けさせて貰う事にしました。貴方達が私達を裏切らない限り、以後の協力を約束しましょう」
「ふむ。このマスターは己の不利な約束であろうと違えぬお人好しだ。その上動くと決めたら大胆に動く。存分に力を振るって尽力し、私の負担を減らしてくれる事を期待している」
……なんか酷い言われようだ。自分はそんなにランサーに負担をかけただろうか?
「なるほど。そのお人好しの件とはその少女のことですか?」
あれ? 桜ちゃんについては知らなかったのか。まぁ彼女の状態を知っていたら時臣に伝えているか。
とりあえずアサシンにも桜ちゃんについての説明をすると、最後の方では仮面越しでも判るほどの呆れた雰囲気を出して軽く溜息をつかれた。
「なるほど、自分の命も危ないと言う戦争中に人助けとは。確かにお人好しですね」
「ああ、頼んだ私が言うのもなんだがな」
なんか短時間で随分と二人は仲良くなっている気がする。そしてその分こっちの心へのダメージが蓄積していく。やめて! 白野のライフはとっくにゼロよ!
「……あ~とりあえず今後の為にもアサシンにはまず訊いておかないといけない事がある」
とりあえず二人の会話が一段落したのでランサーと一緒に聞こうと思っていた質問をアサシンに尋ねる。
「なんでしょうかハクノ?」
「アサシンの望みってなに?」
自分の質問にアサシンが思い出したかのような仕草をする。
「……そう言えばここまでその質問をされませんでしたね。いえ、敢えてこのタイミングまで待ったと言うことでしょうか?」
「ああ、聞くならランサーと一緒にって決めていたからね。ランサーだってアサシンの口から聞きたいでしょ?」
「ええもちろん。それでアサシン、貴女の願いとは?」
アサシンはしばらく沈黙した後……他のアサシンを呼び出した。
ランサーが警戒の為に槍を出す。自分も一応魔術回路に魔力を巡らせ、とりあえずそれ以上の行動をしないようにランサーに視線だけ向け、今度はアサシン達へとその視線を向ける。
それを待っていたかのようにこちらが視線を向けると同時にアサシン全員が一斉に口を開いた。
「「我等の願いはただ一つ。統合された完璧な人格を得ること」」
……ふむ。なんとなくだが、アサシンの分身の謎が解けた気がした。
「……もしかしてアサシンって生前は多重人格者で、分身が出来るのはその多重人格がスキルか宝具になっているから?」
「おお、流石はあの慎重派の璃正殿から情報を引き出すだけのことはある」
「いかにも。我等は生前人格を切り替える事であらゆる職種の人物に成りすまし暗殺をこなしておりました」
「そしてついには教主『
「しかし、長い間人格を替え続けた我々はその内『本当の自分』というものを思い出せなくなってしまったのです」
「故に。我々の聖杯への望みは全ての人格を結合し、本来の己を取り戻すこと」
「それが、我々の悲願です」
それぞれのアサシンが一人一人言葉を紡いで行く。
その姿から、人格や性別は違えでも彼等全員が同じ望みを持つ『一人の人間』なのだと悟り、同時に安堵と共感を覚える。
そして何よりもこの暗殺者の、大望を望む者達からしたら取るに足らない『個人的で小さな願い』を、叶えてあげたいと思ってしまった。
だから伝えよう。
「……アサシン」
「なんでしょう……」
代表してポニーテールのアサシンが答える。
「たぶん自分なら――たとえ聖杯が無くても君の願いを叶えて上げられるかもしれない」
「「――っ!?」」
アサシン達が驚きその方法を尋ねようと逸る者が居たのでそれを手で制する。
「だがその為にはクリアすべき条件がある。まず一つはアサシンと自分が完全にマスターとサーヴァントとして繋がること。正確には『
指を二つ立ててクリアすべき問題を挙げる。
「……一つ目はマスターを殺せ、という事でよろしいので?」
「……できれば穏便に済ませたい。令呪の宿った腕を切り、その後令呪を奪ってその令呪を使ってサーヴァントがマスターの移行を受領すれば、回路も移動できるはずだ」
令呪はサーヴァントへの絶対命令権だ。サーヴァントが了承すれば回路の移動も可能だろう。これでまず一画使用するな。
「そして自分とアサシンが繋がったら、今度は令呪の魔力を使ってアサシンの精神の結合を行う」
これにどのくらい魔力を消費するかだな。
「アサシン、言峰綺礼は令呪を使ったか?」
「いいえ」
となると最高で三つ手に入る。キャスターのマスターが令呪を使っていなければ場合によってはそれも奪って六つ。自分の物を含めれば九つ。
監督役から貰える令呪は……立場的に諦める方向で考えよう。
問題はどこであの言峰綺礼から令呪を奪うかだ。
「……アサシン、すまないが言峰綺礼について何か隙を狙えそうな情報を持っていないか? アサシン自身が見ていて感じた事でもいい」
「そうですね……衛宮切嗣」
「衛宮切嗣、確かアインツベルンの護衛として参加しているってさっき教えてくれたっけ」
「ええ。何故か言峰綺礼はセイバー陣営に所属する衛宮切嗣に異常な執着を見せています。昨晩も保護されている教会を抜け出してビル爆破を行った彼等に単独で接触し、交戦しています」
「セイバー陣営、それに衛宮切嗣……なるほど、だからあのアイリスフィールと呼ばれた女性とセイバーの繋がりが弱い訳だ」
「というと?」
自分の言葉にアサシンが疑問の声を上げる。
「彼の手口から考えてセイバーのマスターは間違いなく衛宮切嗣だ。あの白い髪の女性、アイリスフィールが人間ではなくホムンクルスであることを考えると、たぶん囮だろう」
彼女の魂の波長は人間の物ではなかった。たぶんホムンクルスだろう。アインツベルンはホムンクルス技術が優秀だと聞いているし。
ただ……どうにも引っ掛かるんだよなぁ。
彼女の魂の波長の一部……自分はそれを『どこか』で見たような気がしてならない……いや、今は言峰綺礼への対処が先だ。そして一つだけだが策が浮かんだ。
「アサシン、キャスターはセイバーに異常な執着を見せていたんだよな?」
「ええ」
「今晩キャスターが動いた場合、言峰綺礼も動くと思うか?」
アサシンに尋ねると彼女は顎に手を当てて考え、頷いた。
「恐らく。まだ我々の裏切りには気付いていないでしょうから」
「そこを狙うしかないか。まったく、セイバー陣営とは色々あるな」
「ん? 私はセイバーとの因縁がありますが、マスターも何かあるのですか?」
ランサーに『個人的な事なんだけど』と前置きしてから告げた。
「衛宮切嗣は……自分が尊敬する人物の一人なんだよ」
だからこそ知りたい。
あの『正義の味方』と同じ理想と信念を抱いているであろう彼がなぜ――恒久平和なんて未来を聖杯に願うのかを。
「……お話終わった?」
声のした方に振り返ると、いつの間に起きていたのか桜ちゃんがラムレイに跨り彼女の鬣を三つ編みにしながら小首を傾げていた。
ラムレイはなんとも言えない表情をさせながらも、されるがままである。良い
「骸骨……」
あ、やっべ。アサシンの分身解いて貰ってない。
「あ、えっとね、あの人達は……って何してんの?」
見るとアサシン達、特に男性陣が、こう、なんというか、ほっこりしていた。
「癒される」
「癒しでござる」
「ほぼ四六時中むさいおっさんの警護監視ばかりの我々に彼女はまさにオアシス」
「つーか新たなマスター片手にクール巨乳ビューティー、片手にクール美幼女装備とか」
「爆破しろ」
「爆ぜてハクノ」
「おぉぉい! お前等そんな性格だったか!?」
急にアサシン、主に男衆の性格の豹変にツッコミを入れると、一部の女性陣が呆れていたりなんか『え、この新しいマスター候補女誑し?』みたいな警戒の視線を向けてくる。
おかしい。さっきまで真面目な空気だったのに! 桜ちゃんがいるだけでこのゆるふわ空間――許せる!
もしかしたら桜ちゃんは我々の陣営にとって一番重要な存在なのかもしれない。癒し的な意味で。
調べた結果、令呪だけなら奪える手段があるなら奪うのが自然の流れかなと思って今回の様な話の流れになりました。(下記に調べられた限りの設定を載せておきます)
あとは回路まで奪わないと正式契約した事にはならないので二体目の魔力消費は回路を繋いだ時点から発生するという設定で行く予定です。
ただ……ぶっちゃけアサシンの願いって令呪で叶えられるんじゃないだろうか?
と思ってしまう今日この頃……でもアサシンはあれが英霊としての正常な姿だから無理かな、とも思ってしまう……皆さんどう思います?
自分で調べた限りの『令呪と回路について』の設定(五次四次のみ参考)↓(見たい方だけどうぞ)
・令呪と回路は別物。その為令呪を使い切ってもマスターとの回路は健在。
(各作品のサーヴァントとマスターの会話参考)
・令呪の宿っている部分を摘出すれば手段さえあれば令呪だけなら奪う事が可能。
(五次綺礼と四次ソラウの行動と言動を参考)
・令呪を移動しても回路は移動していないので、他者のサーヴァントを完全に奪うには令呪での回路移動か契約その物を破棄させる手段が必要。
(五次綺礼のランサーへの処置とキャスターの宝具を参考)
・たとえ前のマスターに令呪を消費されても、新たに契約すれば令呪は三画与えられる。(五次の凜とセイバーを参考。ネットでは補足でその聖杯戦争時の総数『21画の内から再分配』とあった)