キャスターのマスターも出るよ!
「さて、ここか」
日が落ちるのを待ってアサシンの報告にあった用水路に到着した自分とランサーは、車が通れるほどの巨大な出入り口から進入する。
空間から片手で持てる大きさの『遠見の水晶玉』を取り出して用水路の地図が映し出される。
しばらく地図通りに進んでいると、地図上部に魔力体の反応が映し出される。
「流石に護衛は残すか。倒している間に逃げられても厄介だな……ランサー、確認だけど自分がラムレイに乗ってもあの
「難しいでしょう。あれは我が聖愴の力をラムレイと私に纏わせる事で行う技です。そして聖槍の枷を外す度に威力と速力が増します。枷を一つ外しただけでも人間のマスターには耐えられないでしょう。たぶん肉体が爆発します」
――つまり開放された瞬間にレンジでチンされた卵の様に爆発四散する訳ですね分かりたくないです。
自分が内側から爆発四散する姿を想像してしまって嫌な気分になりながら、今度はアサシンに尋ねる。
「アサシン、君の中で魅了スキルを持っているハサンはいる?」
「ええ。分離していないのですぐにでも呼び出せます」
アサシンはそれぞれの人格が専用でスキルを持っている。
重複もしているらしいが少なくとも分裂できる数の約半分近い数のスキルを有しているらしい。やっぱこのサーヴァント強いよ。
まぁスキルを使うには人格の切り替えか、宝具で分裂する必要があるらしいので、もし使いたいスキルを持ったハサンが分裂してどこかに行っていたら使えないんだけどね。
「となると……最善はランサーとラムレイによる突撃で護衛を蹴散らし、そこを一気に駆け抜けてマスターらしき人物に魅了の魔術を掛けることかな。魅了が効かなくてもアサシンならそのまま物理的に拘束も可能だろうし、二人はこの作戦、どうかな?」
「問題ありません」
「同じく」
「じゃあ準備をしてから行こうか」
まず《Code:
物質化制御で作った礼装『破邪刀』。破邪の力を持った切れ味の良い太刀。
性能としては破邪の効果のお陰か死徒と呼ばれるこの世界の吸血鬼にも通用するし、切れ味も逸話に違わぬもので弱いゾンビやグール、武装していない人間なら両断できる切れ味がある。
というか礼装の解説読んだ時にまさかと思ったんだけど……外見はまんま
『
酒呑童子の首を刎ねた事で有名な天下五剣と呼ばれる名刀の一つ。
逸話では名人が試し斬りしたときに一振りで六人の罪人の遺体を一刀両断したらしい。
それと意外と狐とのエピソードも多い刀だ。狐つきを祓ったり、天照大神の神託があったという逸話から狐が守護としてついているというエピソードもある。
……まあ流石に本物ではないだろう。凝り性のムーンセルが用意したレプリカに違いない。
「よし、頼むランサー」
「では。行くぞラムレイ、風の如く駆けよ!」
二人は以前のセイバー戦のように紫電を纏わせながら用水路を駆け抜けて行く。
そのあとをアサシンが追走し、一番遅い自分が腰に破邪刀を携えながら続く。
前方ではランサーの蹂躙が始まったのか、紫色の光にまじって空中を肉片や血飛沫が舞っている。
二人はどんどん先行し、置いていかれる形となるが……敵は全て前方の二人が片付けてくれるので問題は無いだろう。
「っと!」
咄嗟に嫌な予感を感じてそこに向かって破邪刀を横薙ぎに走らせる。
降ってきたのはなんか歯のついたイソギンチャクみたいな触手の肉片だった。切断された触手は切り口から青白い炎が発火してそのまま焼滅される。
……生きた肉片、いや偶々消滅し切る前にこっちに飛んで来たのか。気を付けよう。
とりあえずその後は飛んで来た肉片を切り伏せながら突き進む。
『ランサー、次の道を右だ』
『了解』
魔力の気配が強い方へとランサーを誘導する。二人から少し遅れる形で水路を進んでいると、不意にランサーから念話が届く。
『……止まれマスター』
『何かあったのか?』
周囲を警戒しながら言われた通りに足を止めてランサーに状況の説明を求める。
『アサシンが先ほどマスターと思しき男を魅了の魔術で操ることに成功した。そちらに向かうから、こちらには来るな』
『……何があった』
一向に状況の説明をしないランサーに何かがあったと判断して移動を再開させる。そしてすぐに僅かに明かりが灯っている場所が見えてきた。
「ランサー、アサシンだいじょう――」
水路の大きく開けた場所に到着した。そこで――地獄を見た。
「……なんだよこれ」
そこに居たのは紛れも無く子供達だった。
だが――『人の形』をしていなかった。
ある者は椅子、ある者はテーブル、酷い者では内臓を剥き出しにされまるで楽器や照明器具の様な形で『子供達が呻いていた』。
そう――あんな曲がってはいけない場所が曲がり、出てはいけない物が出ているにも関わらず。
彼等は……『生かされていた』。
「だから来るなと言ったのです」
いつの間にか険しい表情をさせたランサーが傍に立っていた。
「白野、こちらがキャスターのマスターです」
アサシンが連れてきたのは染めた短髪の髪に紫のジャケットにジーンズ、腕や耳に装飾品を見に付けた何処にでもいそうな今時の青年だった。
その眼は魅了にかかっている為か虚ろで、先ほどまで『この光景』を作り出していたのか、衣服や手には血が付着していた。
「……時間が無い。まず、お前はキャスターのマスターか?」
「マスター? キャスター?」
問い返すような呟きを聞いて相手が聖杯戦争について何も知らない事を理解して質問の内容を変える。
「この子供を攫ってこんな事をしたのはお前の意思か?」
「そうだよ」
目は虚ろだが、嬉しそうな笑みを浮かべる青年になんとも言えない感情を抱く。できればサーヴァントに強要されていて欲しかった。
「そうか……お前はこの光景をどう思う?」
「超COOLだろ?」
……ダメだな。
彼は自信有り気な表情で逆にこちらに問いかける。その行動と表情から、彼にとってこの行いは『当然の物』であり、罪悪感の対象にはならないのだろう。
エリザ、君と解り合えたのは本当に奇跡だったのだと、改めて思うよ。
かつて何度も戦い、そして一度だけ共闘した『吸血鬼』のモデルの一人、殺人姫エリザベート・バートリー。
もしも彼女が残虐な殺人鬼のままだったなら……自分は間違いなく彼女と共闘することは無かっただろう。
一度だけ深呼吸して心を落ち着かせる。
エリザのように話し合って理解し合うのは時間的に無理だ。記憶の操作……ダメだな。これも時間が無い。
彼の左手に令呪を確認する。そして救う命を――決めた。
一番近くに貼り付けにされた子供に触れて《Code:
……なるほど、一定以上の苦痛と恐怖に達すると強制的に肉体や精神を元の状態に治癒する拷問系の術式か。これなら、ここにいる全員を治せるかもしれない。
浄眼を完全に開眼して子供達の魂と精神の状態を把握する。
どの子も壊れかけているが、その最後の一線を呪いが越えさえずに元通りに再構築している。どうやら子供達の苦痛と悲鳴を魔力に変換しているみたいだ。なんとも酷く悪趣味なやり方だ。
「アサシン、分裂して子供達を連れてきてくれ。まだこの子達は救える」
「お言葉ですが、すぐにでもキャスターのマスターを殺すべきでは?」
アサシンの忠告に自分は首を横に振る。
「いま彼を殺してキャスターが死ねばこの子達を活かしている呪いも解けてしまう。我侭を言っているのは分かってる。でもごめん、面倒をかけてすまないが頼む」
自分は立ち上がってランサーとアサシンに頭を下げる。
しばしの無言のあと、二人から軽い溜息が漏れる。
「分かりましたから頭を上げなさい。アサシン、私が周囲を警戒します」
「了解。では急ぎましょう。魅了の効果もそう長くは続きませんから」
頭を上げるとそこには僅かに苦笑を浮かべる二人が居て、自分が指示する前にそれぞれ動きだす。
「ありがとう二人とも。それじゃあこっちも準備をしないと」
アサシンが数人に分裂して子供達を慎重に運んで一箇所に集め、ランサーが周りを警戒している間にキャスターのマスターに近付き、令呪を持つ手を握る。
「キャスターとの回路はそのままに、令呪三画だけをこちらに譲渡しろ」
「はいは~い」
キャスターのマスターの了承を得たお陰が、簡単に令呪の魔力を三画分奪うことに成功した。
そもそも令呪の画数はあくまで命令権を帯びた魔石のようなもので、それだけを奪うならそう大した問題ではない。
逆にサーヴァントとの繋がりである令呪本体や回路そのものを移植するとなると時間が必要だが、キャスターを仲間にするつもりはないから今は必要ない。
「連れてきましたよ白野」
アサシンの声に目の前に並べられた子供達を見てその悲惨な姿に憤りを感じながら近付き、懐から自分の魔力を完全に回復できる最後の魔石を取り出す。
地面に手を付く。
「《Code:
コードの使用範囲を広げ、指定範囲内の子供全てを選択する。
すると切り刻まれた子供達の身体が、ひび割れた魂が、消えかけた精神が、全て元通りになる。
やはり既存の魔力だけじゃ足りなかったか。
魔石の魔力が全て無くなり、身体に残っていた魔力も半分近く持っていかれた。
だがこれだけではダメだ。
この子達が自我を持って目覚めた時、きっと今回の記憶が蘇り精神に異常を来すだろう。
「《Code:
子供達の魂と精神に強制的に干渉して記憶を文字通り削る。
この子達がいつから捕まっているのか分からない為、少々多めに削ってしまうが仕方ないだろう。
忘却の魔術は相手が一般人なら抵抗が無い為そこまで魔力を使わない。
子供達はそのまま忘却の魔術の効果によって眠りに付く。無理に起こさなければ目覚めるのに丸一日程かかるだろう。その間に警察を呼ぼう。
「これでこの子達は大丈夫だ。あとはそっちだな」
立ち上がってキャスターのマスターへと向かい――一振りでその首を刎ねる。
頭と身体が崩れ落ちる音が響き、少しして彼の魂の波長が消えたのを確認して浄眼を解除する。
破邪刀についた血を振って払ってから鞘に仕舞う。
「……行こう。これでキャスターは脱落だ」
「ええ」
その場で犠牲になった子供達とキャスターのマスターに黙祷し、ランサーとアサシンを連れて来た道を引き返そうとしたその時、目の前にリターンクリスタルを使用した時の光を伴ってアサシンとは別のハサンが現れる。
その腕には令呪の宿った左手が抱えられていた。
「任務達成。言峰綺礼の令呪にございます」
「……まさか立て続けに手に入るなんて。そう言えば監督役が身内だったな。予備令呪を貰ってアサシンに使われたらヤバイな。すぐにでも移植を始めよう」
急いで左手首を手に取る。
やることは変わらないが今回は急ぐ必要がある。
なにせアサシンの所有権はいまだ言峰綺礼の物なのだ。更に今回は魔力だけではダメだ。『アサシンの令呪として』奪う必要がる。
「アサシン、反対の掌を握ってくれ。回路を繋ぐからアサシンは出来れば抵抗しないでくれ」
「分かりました」
アサシンに右手を差し出して握ってもらう。
アサシンとの回路を形成――――形成完了――令呪摘出開始――読み込み開始――令呪一画分の定着――完了。
「アサシンへ令呪を持って命じる。言峰との回路を完全に断ち、自分を新たな主と認めよ」
「はい。我が新たなマスターよ」
アサシンが裏切りの宣言をすると同時に言峰との回路が強制的に切れ、左手に残っていた令呪が二つともこちらの右手に移植が完了する。
そしてアサシンとの契約が完了した瞬間に身体から一気に力が抜ける。
ぐっ。聖杯のバックアップがあるとは言え、流石にサーヴァント二体じゃ魔力がかなり奪われる。今のままじゃまともに戦えない。
だがそれでも、令呪はこれで合計で八つ。アサシンの願いを叶えるには十分な数のはずだ。
「アサシンの裏切り、そしてキャスター消滅が自分達の仕業だと他の陣営も気付くだろう。やはり監督役からの令呪は諦めるしかなさそうだ。外に出て一番近い公衆電話から警察に連絡したら一度山に戻ろう。そして急ぎアサシンの望みを叶える。それが終わり次第拠点を移動しよう」
「ではマスター、ラムレイに乗ってください」
「ありがとうランサー」
新しい拠点の問題は既に解決している。今は時間との勝負だ。重くダルい身体を気遣ってくれたランサーの言葉に甘えてラムレイに跨り、下水路を後にした。
前置きで登場予告しといて龍之介ちゃんはすぐに退場だよ!
同時にキャスターも次回で退場が確定したよ。やったぜ!
まぁぶっちゃけ……あの現場見たらさすがに躊躇い捨ててる白野はこの選択をすると思うんだ。
そして早々に綺礼の令呪奪取に成功。この辺は次回のあちらサイドで判明します。
因みに白野の破邪刀を何にするかはかなり迷った。
説明文で鬼を斬ったとあったのでその中から選択。
最初はネタで『HASSO-BEAT!』と言って八連撃を叩き込む白野がやりたくて薄緑にしようかとも本気で思ったけど、土蜘蛛は鬼種かなぁと悩み断念。
結局調べたら狐との縁もあるし一番有名なのでいいかと童子切にした。
因みにムーンセルに在る物は霊子(魂の情報)から作られているので『本物』である。(ただしムーンセルではマスターへの攻撃は基本禁止なので鞘から抜けないようになっている)
つまりこれを召喚の触媒にしていた場合、あの人が出てきます。
いや~まさか童子切りにすると決めて調べたらFGOにいるとは。しかもまたヤンデレ属性だったよ(笑)