岸波白野の転生物語【Fate/編】   作:雷鳥

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白野と桜の邂逅と白野がどういう状態になったかの色々な説明回。
こちらもプロローグ(表)と同じで全作品の共通プロローグです。
色々不透明な部分は別の編やFate編で保管する予定。
それとfate編シリーズでは基本白野はチートの予定です。



【プロローグ(裏)】

 意識が目覚める。

 

 ここは?

 

 辺りを見回す。一面に広がる水面から視線を上げると、水面よりも更にほの暗い電子の夜空が広がっていた。しかし夜空には月も無ければ星も無い。夜空と表現したのも真っ暗だからそう表現しただけだ。

 

『先輩……』

 

 ……不意に、懐かしい声が背後から聞こえた気がした。

 

 振り返るとそこには巨大な桜の大樹が生えていた。

 

 桜の香りに誘われるように足が自然とそちらに向かう。

 そして桜の前まで辿り着き……声を掛けた。何故かは分からない。でも、そうするべきだと思った。

 

「……桜?」

 

「……は~い。お久しぶりです。せ~んぱい」

 

 桜の木の反対側から、ひょっこり顔を出して悪戯っ子のような顔で笑う後輩。そんな後輩の顔を見た瞬間、愛おしさが溢れ、気付けば駆け出して彼女を、桜を抱きしめていた。

 

「ちょっ、せせ、先輩!? いきなりハグなんて大胆過ぎです。こ、心の準備というか、シャワーの準備というか!?」

 

 相変わらずテンパルと悪役なんて忘れて素になってしまうダメな後輩。そんな不器用で間の抜けた奴は一人しか知らない。

 

「……『桜』、なんだな」

 

「……はい。本当に……また会えて嬉しいです。先輩」

 

 桜と言う名を強調した事の意図に気付いてくれたのか、彼女はゆっくりと肯定するように囁き、自分の背中に腕を回して抱きしめ返してくれた。

 

 紫の長い髪に左の前髪を赤いリボンで結って後ろに流し、茶色い制服の月海原(つくみはら)学園女子制服の上に白い白衣を纏った彼女の名前は(さくら)

 

 自分と同じムーンセルによって生み出された霊子AIにして、聖杯戦争に参加するマスター達の健康を管理する上級AIの中でも特別な管理AI。

 

 そして、自らBBと名乗り、岸波白野を護る為、自身の全てを捧げて戦ってくれた悪になりきれない小悪魔系ラスボス後輩。

 

 そう。今目の前にいる彼女はBBとして自分を守り続けてくれたあの桜だった。

 

 ここが何処だとか、どうやってあの初期化の波から生き延びたのかとか、何故今迄教えてくれなかったのかとか、色々な疑問が浮かび上がるが、それらは声に出る事は無く気付けばあの日、あの時、どうしても伝えたかった事を口にしていた。

 

「……ありがとう桜」

 

「……はい……さ。先輩座りましょう。色々お話したいです」

 

 感謝の言葉を聞いた桜はその場でくるりと一回転すると、白衣がBBの頃に着ていた黒のコートに変わる。

 

「うん。こっちの方がしっくりきますね」

 

 楽しそうに笑いながら、桜は木の幹に身体を預けて座る。彼女に続いて自分も隣に座る。

 

「さて、それじゃあ何から話しましょうか?」

 

「正直知りたい事だらけなんだけど」

 

「そうですね。では順を追って説明します」

 

 そして桜が語った。

 

 なんでも自分が消滅する直前に何かを祈ったのだが、ムーンセルが何を勘違いしたのかそれを願いと捕らえ、その結果、自分が別の世界へと転生を繰り返し続ける存在となってしまったらしい。

 

「それと魂はサーヴァントと同じ創りであり、魔術回路の数や質、知識や経験は男女両方を融合したものらしいですよ」

 

 なるほど。だから女性の自分や男性の自分と言う二つの記憶があるのか。

 

 因みに今の自分は何故か体が白く輝いていて性別は分からない。まあ性別はこのさい気にしなくて良いだろう。

 

 桜の話は続き、『岸波白野』という人格保護を最優先する為、転生した世界での『記憶』はリセットされるらしい。ただ人格に影響の無い知識は『記録』として継承は許されるらしい。その辺りは桜が分かりやすく説明してくれた。

 

「先輩が知った有益な情報を、先輩の感情や感傷等を一切排除して辞書の様に簡潔且つコンパクトに纏めてしまうんです。そして初めから知っている『知識』として継承されるので転生の際に違和感はほとんど無いでしょう」

 

 なるほどムーンセルらしいと思った。

 ムーンセルは自身が観測機であり続ける為に有益だと思う情報は蓄積するがそれ以外、特に観測機から逸脱しそうな情報は徹底的に排除する。もしくは必要な情報だけに纏め直す。

 多分ムーンセルは自身のその在り方に肖って、この魂をその様に作り変えたのだろう。

 

 とりあえず自分の現状は理解した。次に自分が訊きたいのはこの場所と桜についてだ。

 

「ここは先輩の心象世界です。精神の更に深い自己の根源と言ってもいい場所ですね」

 

 心象世界。その存在の内面を象徴する世界、だったか?

 

 因みにアーチャーが使った【無限の剣製(アンリミテッド・ブレードワークス)】という宝具は、固有結界という自身の心象世界を展開する魔術で、魔法の域にもっとも近い魔術と呼ばれていたらしい。

 

 これが自分の内面だとすると、なんとも個性が無い世界だ。

 

 電子の海と空はまんまムーンセルだし、桜の木は月の裏側で見た桜迷宮の大樹だ。

 

 まぁ元々それほど個性が強くもないので、自分の心象世界については早々に話題を終わらせ、自分にとっては一番重要な桜の話に移る。

 

「そもそもなんで桜はムーンセルの手伝いをする事が出来たんだ?」

 

「私が関わる事ができたのは本当に奇跡と言ってもいい出来事でした。覚えていますか先輩? 表の世界に戻った時に桜の花弁を持っていたのを?」

 

「ああ覚えてる。今ならなんであれをずっと持ち続けたのか理解できる」

 

 例え記憶から忘れても、魂は決して忘れなかった。桜を失った悲しみを。桜を助けられなかった後悔を。だから自分が消滅するその時まで、大事に自分のデータの中に保管し続けた。

 

「ふふ、実はですね。あの桜の花弁には少しだけ、本当に少しだけ、『私』の人格データが含まれていたんです。もっとも、たった一度だけ……先輩が消える時にあの時伝えられなかった事を伝える為だけの、そんな小さな力しかないデータでしたが」

 

 桜がそこで一度言葉を切って空を見上げた。

 

「でも奇跡が起きました。最初は訳が分かりませんでしたが、ムーンセルが先輩が関わる記憶領域のデータを蒐集しているのを知り、そこで初めてムーンセルがやろうとしている事を理解しました。もっとも融通の利かないムーンセルだけではできなかったようですから、私が手を貸してあげました」

 

 そう言って可愛らしく舌を出して小さく笑う桜。ただその瞳には少しだけ悲しい色を宿していた。

 

「そうまでした桜が伝えたかったことって?」

 

「決まっているじゃないですか」

 

 桜は真面目な表情で告げて立ち上がった。自分もまた彼女に続いて立ち上がり、お互いに正面を向き合う形になる。

 

「先輩を……失恋させる為です」

 

「え?」

 

 桜の予想外の言葉に、そんな呟きが漏れる。

 

「言いましたよね。『一度だけ』だって……今いる『この私』は『他の方達』と違って外側にしか存在できませんでしたから」

 

 桜はそう言ってこちらを見上げながら微笑んだ。

 

 確かに言った。今目の前にいる彼女はたった一度だけ現れる力しかないと。

 

 ああそうか。失恋という意味がようやく理解できた。

 

 見上げる桜を堪えきれずに抱きしめた。抱きしめずにはいられなかった。だってこれが、彼女を感じられる最後になるのだから。

 

「先輩。大好きです」

 

「ああ。自分も大好きだ」

 

 だがその恋は叶わない。

 

「先輩。愛してます」

 

「ああ。自分も愛してる」

 

 だがその愛は報われない。

 

「嬉しいです。先輩」

 

「ああ嬉しいよ。桜」

 

 だがその喜びは続かない。

 

「幸せです。先輩」

 

「ああ幸せだよ。桜」

 

 だがその幸せは紡がれない。

 

「貴方を好きになってよかった」

 

「ああ、君を、好きになってよかった」

 

 抱きしめる手に力が籠もる。顔など無いはずなのに頬を熱い何かがつたう。

 

 あの時は戸惑いが大き過ぎて彼女の為に泣く事すらしてやれなかった。

 

「だからもう、私を守れなかった事に拘らないで、新しい恋に生きてください。そして私の事は忘れて……」

 

「忘れない!!」

 

 忘れられるわけが無いし忘れていい筈が無い。そんなこと、岸波白野が絶対に許さない!

 

「例え何百、何千の世界を渡ろうと、自分の『初恋』と『初めての失恋』の相手は、桜だけだ。それだけは、譲らない」

 

 男だとか女だとかは関係ない。彼女は間違いなく岸波白野に恋の大切さを教えてくれた初めての相手なのだから。

 

「っ……はは、嬉しいです。私先輩の初めてを二つも頂けたんですね。きっと白桜や他のみんなも羨ましがりますよ」

 

 身体を少し離して桜の顔を覗き込む。

 桜は嬉しそうに笑いながら涙をポロポロと流していた。そして彼女の身体から桃色の粒子が漏れ始める。

 

「時間です……先輩、最後に後輩からのお節介です――ん」

 

「ん――!?」

 

 唐突に唇を奪われる。そして唇から温かい何かが身体を駆け巡った。

 

「ふふ、キスしちゃいました。油断大敵ですよ。それと先輩、あまり無茶して相手を泣かせると化けて出てやりますからね」

 

 と言ってBBの頃のような小悪魔な笑顔を浮かべて消えていった。

 

 両目が僅かに熱くなった。また涙でも溢れたのだろう。しかしもう悲しむ必要は無い。

 だって桜が最後に見せてくれた笑顔は、生前最後に見たはかない笑顔ではなく。悔いの無い晴れやかで可愛いらしい笑顔だったから。

 

 力が漲る。今なら……本当の意味で『立ち上がれる』気がした。

 

「「ありがとう桜」」

 

 声色は二つ。今ここに本当の意味で岸波白野の精神は完成した。

 

 気付けば世界が一変していた。

 

 薄暗かった空が真昼の様に明るくなり、空には月が現れ、水面に立つ桜の大樹がよりいっそう大きく、美しく花咲いた。

 

「「ん?」」

 

 気付けば電子の海から片手で掴めるほどの大きさのぬいぐるみの様な人形があちこちに浮かんでいた。

 

「「これは?」」

 

 俺は近くに浮んだ可愛らしくデフォルメされた三頭身位の『セイバーの人形』に触れ、隣の『私』がアーチャーの人形に触れる。

 

 その瞬間――。

 

『うむそれでこそ奏者よ! さあ、顔を上げたのなら次はもう分かるな?』

 

『ようやくか。相変わらず戦闘外ではのんびりしているな。さあ、立ち上がったなら次の行動に移ろうか』

 

 人形から確かに熱い魂を感じて、自然と口元に笑みが浮かぶ。

 

『他の方達』と言った桜の意味がようやく理解できた。

 

 俺と私がお互いに見詰め合って笑う。

 

 そしてこの心象世界がどういったものなのかも何となく理解した。

 

 そもそも桜の話では今の自分は『俺/私』の二人の岸波白野が合わさった存在だ。

 だがいくら同一の存在であり互いの記憶を共有しようとも、俺達にやはり違う存在なのだ。

 故に精神の深い心象世界では人格が男女で別れてしまう。だからこの世界では岸波白野は二人いる。

 

 だがそれは些細なことだろう。俺は私でもあり、私は俺でもある。否定する必要は無い。せいぜい性別で表の人格に若干の差が出るくらいだろう。

 

 私も俺と同時に同じ結論に到ったのか、二人でまるで示し合わせたかのように視線を送り、笑い合う。

 

 そして自分の心象世界についてもはっきりした。

 

 つまるところ岸波白野の心象世界とは……『空の器』なのだ。

 

 ふふ。一人では生きられない自分にはピッタリな世界だ。

 

 曖昧だった天と地の境界が、『月』と『桜』を配置する事で『天地』を造り、人形達が生きる事で『世界』と成した。

 

 見渡せば殺風景なこんな世界でもサーヴァントの人形達は楽しそうに空中を漂っている。そこには桜やアルターエゴ、生徒会のみんなの人形もあった。

 

 しばらくそんな不可思議な光景を眺めていると、彼方から光が迫る。

 

「行くか!」

 

「行きましょう!」

 

 二人揃って駆け出す。迫る光に臆することなく二人揃って飛び込む。

 

 さあ行こう! 新たな出会いの為に!

 




 元々桜との別れは書きたかった内容なので頑張った。そして白野は性別によって若干性格が変わる理由付けでもある。
 あとで後書き部分に色々書き足すかもしれません。
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