白野がキャスターのマスターを倒す数分前にそれは起きていた。
深い森の中で剣撃と蹄の音が響く。
その中心にいるのは青い衣服に銀の鎧を纏ったセイバーと紅のマントを羽織ったライダーが『
「たく埒があかんな」
「無駄口を叩く前に一体でも多く轢き――来てはいけません!」
そんな彼女達を包囲するように数本の触手を蠢かす蛸の様な海魔。そこに、場違いな小さな少女が虚ろな目でやって来くる。
その少女に向かってセイバーが悲痛な表情で静止を呼びかける。
――が。
「ぐぎゃっおぼおお!?」
少女の苦痛な悲鳴と共に、その幼い身体を内から食い破るかのごとく多数の海魔が現れてセイバー達へと襲い掛かる。
「っっ出て来いキャスターーーー!!」
少女の最後に見せた苦悶の表情、そして幼い子供に施した醜悪な呪いに、セイバーが怒りの声を上げる。
それも仕方が無い。何故なら彼等が戦っている海魔は全て子供を生贄として召喚されている物なのだから。
「趣味が悪いにも程があるな。本体を叩ければ良いのだが。ううむ、こんな時にお互い魔術師が居らんとは」
ライダーは神威の車輪の上で剣を振り回し巧みに戦車を操縦しながら忌々しげに増える海魔を睨む。セイバーもまた怒りに顔を歪めながらライダーの戦車に乗った状態で剣を振り続ける。
そんなセイバーとライダーの様子をキャスターはある程度離れた場所で水晶玉を通して覗いていた。
「素晴らしい。我が麗しのジャンヌ。怒りに歪めたその顔もまたお美しい。しかしなんですかあの無礼で不遜な男は。我が麗しのジャンヌに対してあのように親し気に、しかも狭い戦車に同乗などと恐れ多い行為を! お陰で予定が狂ってしまった!」
元々キャスターは自分から姿を見せて目の前で子供達全員を一斉に海魔にしてセイバーを捕らえるつもりだった。
しかしキャスターとの邂逅よりも早くライダーがセイバーに接触して戦闘が始まってしまった。
運良く二人にバレずにそれを察知したキャスターは当初の予定を変更して姿を隠し、海魔を使ってなんとか二人を離そうとしていたが、そこは流石の騎士王と征服王、異変に気付いた瞬間に共闘姿勢をとってお互いに背中を預けるように海魔達を屠って行く。
「やはり、これは私自ら赴き制裁を加えなくては――ん!?」
不意に――キャスターの身体に異変が起きた。今まであった繋がりと魔力の流れが途絶えたのだ。
「まさか龍之介の身に何か!」
(まずい! 急いで魔力を供給しなければ消滅してしまう!)
キャスターはまだ生贄となっていない残りの子供を引き戻し、彼等を魔力の糧にしようと動き始める。
だがそんな彼の焦りという隙を、暗殺者が見逃すはずは無かった。
キャスターが水晶玉から視線を逸らしたその瞬間――彼に向かって黒いクナイに似た形状の暗器が数本飛来し、本を持つ方の彼の手に突き刺さる。
「ぐあああっ!? こ、これは!?」
キャスターは痛みで手から本を落としてしまい、慌ててもう片方の手で落ちた魔導書を拾おうとするが、更に飛来した鎖鎌の刃が魔導書に深く突き刺さると、そのまままるで釣りのように引き上げられて遠くへと放り投げられてしまう。
「キャスターの無力化、完了」
「油断するな消滅するまで監視は続行だ」
現れたのは二体のアサシン。アサシン達は木の上からキャスターを一度見下ろしたあと、霊体化し、更に気配遮断で姿と気配を消す。
「お、おのれアサシン! 暗殺者風情がこの私の、私の崇高な使命の邪魔おおぉぉおお!!」
キャスターは怒り、ただでさえ巨大に見開いた目を更に広げて血走らせる。
そしてそれが、キャスターの最後の言葉だった。
魔力供給が断たれた以上、生粋の魔術師ではない上に戦闘継続や単独行動のスキルを有していない彼に現界の為の時間はそう長くは与えられていない。
結果……キャスターは最後までアサシンを罵りながら呆気なく消滅して行った。
キャスター消滅と同時にセイバー達へと群がっていた海魔もまた消滅する。その事態に、セイバーとライダーは同時に同じ結論に到る。
「うむ。どうやら何者かがキャスター、もしくはそのマスターを殺したようだな」
「ええ。私の手で裁けなかったのは残念ですが致し方ありません。さて、これで心置きなく戦えますね征服王」
そう言ってセイバーは戦車から飛び降り、剣をライダーへと向ける。
「おぉおぉ威勢が良い。では余も今度は本気で戯れるとしようか」
セイバーのその姿勢に答えるように、ライダーは不敵な笑みを浮かべて神威の車輪の手綱を強く握る。
二体のサーヴァントがそれぞれの主の命に従い改めて戦闘へと移った。
セイバーとライダーが激突しているその時、別の場所でも戦いは起きていた。
その一つが最後の侵入者とその人物の正体に気付き、切嗣の為に迎撃に向かったアイリスフィールと舞弥だった。
森に潜む二人の前に倒すべき対象、言峰綺礼が現れる。一度彼と戦い彼の戦闘能力に圧倒された舞弥はアイリスフィールに決して近付かないように忠告し、自らも森の闇隠れながらマシンガン、キャリコM950Aを乱射させる戦法で常に姿を隠して行動する。
飛来する弾丸を前に綺礼は瞬時に体機能を強化し、射線から逃れながら懐から教会の代行者が使用する武器、黒鍵の柄を左右合わせて四本取り出して指の間に挟み、魔力を通して刀身を生み出して弾丸を迎撃して行く。
(あれが人間って、嘘でしょ)
アイリスフィールは綺礼の動きに驚嘆しながらも、袖から貴重な鉱石で作られた針金に魔力を通し、鷹のような猛禽類の使い魔を二体作り上げて放つ。
舞弥が銃で綺礼を牽制し、アイリスフィールがその硬く鋭い針金を持って拘束、そのまま断ち切る。と言うのが二人の作戦だった。
銃弾の発射地点に向けて綺礼が持っていた黒鍵を放つ。が、黒鍵は対象に当たらず、別方向からまた銃弾の雨が放たれる。
(幻覚の魔術で身を隠しているか)
放たれ続ける銃弾の雨を迎撃しながら状況を分析する綺礼の元に、アイリスフィールが生み出した針金の使い魔が空から襲い掛かる。
綺礼は先ほどと同じように黒鍵を放つ事で弾丸の弾幕を一時的に止め、その瞬間を狙って強化されたその鋼のごとき左手の拳を使い魔に放ち破壊を試みる。
(今!)
綺礼の拳が鷹を殴った瞬間、一体目の鷹が千切れ飛ぶ。その瞬間、アイリスフィールの意思を受け取り、もう一体の鷹の針金が解け、そのまま綺礼の左腕に巻き付き、更に右手へも伸びて巻き付くと、最後に勢い良く引き絞られて両の手が手枷の様に拘束される。
「っ!?」
アイリスフィールはそのまま綺礼の腕を断ち切ろうとするが、出来なかった。
(なんて硬い!? ダメ、せめて拘束しないと!)
アイリスフィールはすぐに目的を変更して針金を動かして無理矢理綺礼を傍の木へと動かし、腕に巻きついていた針金を伸ばして木の幹へと巻き付ける。結果、腕を上げるような形で綺礼は拘束される。
「舞弥さん!」
自分では彼の腕を断てないと判断したアイリスフィールが潜伏している場所がバレるのを覚悟で舞弥へと叫ぶ。
舞弥もその意味を理解し、銃では分が悪いと判断して腰から分厚い刃渡りのナイフを取り出し、言峰綺礼の頭部目掛けて投擲しようとその姿を現したその時――それは起こった。
「なっ!?」
「えっ!?」
「ぐっ!?」
突如針金によって拘束された綺礼の左の手首目掛けて円形の暗器、チャクラムが投擲され、彼の手首が切断され、そのまま木の幹に深々と突き刺さる。
そして何処からともなく放たれた鞭が落下した左手首に巻きつき、いつの間にか居たアサシンによって回収される。
「裏切るかアサシン!」
綺礼は珍しくその表情を歪めて叫ぶ。
「もとより我々を使い潰す算段だったのだ、自業自得だ。ではな元マスターよ」
令呪の宿った綺礼の左手首を奪ったアサシンは新たに現れた別のアサシンから白野に事前に手渡されていた転移用の魔石を受け取ると、教えられていた詠唱を唱える。
「《
鞭を持ったアサシンがその場から姿を消すと同時に傍に居た別のアサシンも霊体化して消える。
それを見届けた綺礼はアサシンが居た場所を一度だけ睨むがすぐに左手が切断された分緩んだ針金をその場で引き千切り、撤退する。
「ま、待ちなさい!」
「マダム追ってはダメです! それよりここは一度城に戻りましょう。ここではアサシンの良い的です」
綺礼を追おうとするアイリスフィールを舞弥が諌める。
アイリスフィールはしばし迷うも、確かにアサシンが言峰綺礼を裏切った以上、どう動くか分からない為、悔しそうに唇を噛みながら頷き、二人は来た道を戻る。
その途中で城から大きな爆発音が響き渡った。
セイバーとアイリスフィールが戦っていた頃、切嗣もまたアインツベルン城でケイネスと戦っていた。
彼はお得意の現代兵器を使ったトラップを用いてケイネスを迎撃する。
しかしケイネスはそのことごとくを水銀を使って作り出したお手製の魔術礼装、『
液体であるが故にあらゆる形状に変化可能で石壁程度なら簡単に砕き、切り裂く攻撃力を持ち、更には指定した人物を瞬時に護る自動防御や熱や音、自動索敵までこなす。
そんな月霊髄液に対して切嗣は自らの体内の時間を加減速させるオリジナル魔術『固有時制御』を駆使し、加速して攻撃を避け、減速によって熱や音での感知を行っている月霊髄液の索敵をかわし、なんとか凌ぎながらケイネスと月霊髄液を観察し続けた結果、月霊髄液の弱点を見抜く。
(そろそろだな)
切嗣は懐から自分用にカスタムした銃、コンテンダーを取り出してそこに口径の大きい弾丸を込め、まずは片手に持ったキャリコを発砲する。
「無駄だ」
余裕の笑みを浮かべながらケイネスの周りを月霊髄液が水銀の壁で覆う。この方法でずっとケイネスは切嗣が撃ち続ける弾丸を弾いていた。それこそが、切嗣の罠とも知らずに。
月霊髄液が防御体制に入った瞬間に切嗣はキャリコでの発砲を止めてもう片方に持っていたコンテンダーを構え、自動防御が解けかけた瞬間に発砲する。
「ぐあっ!?」
コンテンダーから放たれた弾丸がケイネスの左肩に命中する。
「ふっ」
左肩を抑えながら自身を睨むケイネスに対して、切嗣はケイネスを挑発する為に判り易く嘲笑を浮かべてから、その場を走り去る。
(やられた。月霊髄液の自動防御は一度解くと再度の防御を命じても最初の時よりも多少の時間差が出てしまう。そこに気付いたのは褒めてやろう。だが、ならば次はより防御、そして同時に攻撃に特化した形にするだけのこと!)
「この痛み、何倍にもして返してくれる! すぐには殺さん。肉体を端から削り痛みと苦痛を与え、心と肉体が死ぬ前に治癒し、そしてまた削ってくれる!」
ケイネスは切嗣に聞こえるように大声で叫びながら月霊髄液を伴って後を追う。
自動索敵で切嗣の後を追う月霊髄液にケイネスが付いて行くと、明かりが消え、外からの月明かりだけが差し込む廊下へと到達する。
(……居るな……いや、誘い込まれたか。機会を伺っていると見える)
切嗣を追う内に冷静さを取り戻したケイネスは、先ほどの切嗣の行動からまた同じ攻撃を仕掛けてくると判断する。
(もっとも、それこそが私の狙い。あの銃、どうやら一発しか撃てないと見た。奴が姿を現し発砲した弾丸を弾いたあと、そのまま奴目掛けて攻撃する!)
月霊髄液は三百六十度全てを守る事が出来る。ケイネスからすれば全身を覆うように守りさえすれば例え背後から奇襲されても問題は無いと判断した。
ケイネスは最適な動きを頭の中で描き、月霊髄液へと送ってすぐに動けるようにする。そして切嗣の狙いに気付かぬ振りをして進む。
そんなケイネスの背後の通路の一室に潜んでいた切嗣は彼の様子を伺い、頃合だろうとが飛び出し、キャリコとコンテンダーを構え、先程と同じようにキャリコから発砲する。
((狙い通り!))
それは奇しくも二人同時に思った言葉だった。
迫る弾丸にケイネスは月霊髄液の防御形態を通常の壁から棘のような無数の杭として防ぐ。
攻撃を防がれた切嗣は構わずにコンテンダーを発砲する。
「馬鹿め! やはりそう来たか!」
ケイネスの勝利を確信した笑みと叫びに応えるように、月霊髄液が弾に触れた瞬間、杭の壁が一気に収束して弾その物を閉じ込める。
あとは残った杭による串刺しでケイネスが勝つ――はずであった。
「ああああがががああっっあぐうううあうあううああああああ!?」
突然ケイネスの全身を高熱と激痛が襲う。血管や神経が皮膚に映るほど激しく動き、鼻や口から血が噴出する。
「あああがががああああっっ――」
内からの熱と痛みに喉を掻き毟るような動作を行いながら、狂ったように踊っていたケイネスだったが、ついには糸の切れた人形の様に、ただの水銀の液体へと戻った月霊髄液の水溜りへと倒れ付す。
(令呪が消えていない。ちっ。殺し切れなかったか)
ケイネスの左手の令呪が健在な事から、彼がただ気絶しただけだと判り、切嗣が確実に止めを刺そうとキャリコを構えた瞬間――窓からの光が遮られた。
危険を察知した切嗣は咄嗟にその場から大きく後ろに飛び退く。
「ブルオオオオ!」
「これは!?」
現れたのはライダーの愛馬ブケファラスだった。
ライダーはケイネスと別れた後、己の愛馬を呼び出して常にケイネスを監視させていたのだ。そして危なくなれば救助するように命を出していた。
ブケファラスは主の命を守る為にケイネスと切嗣の前に立ちはだかると、すぐに倒れたケイネスの襟を噛み付いて持ち上げようとする。
「くっ!」
切嗣はすぐにキャリコを構え直して発砲する。迫る弾丸――それを前にブケファラスが取った行動は――不動。
自らの身体に降り注ぐ弾丸。しかし馬とは言えブケファラスもまたライダーの武装の一つ。なんら魔術強化もされていない弾丸では傷を負う事は無く。ブケファラスはケイネスを連れてその場からまた空へと向けて駆け出して行った。
「――っ」
切嗣は好機にも関わらずケイネスを仕留め損なった事への苛立ちから顔を顰める。
「……ふう。まあいい。起源弾をくらった以上、もうケイネスはリタイアだ」
『起源弾』
衛宮切嗣の切り札にして魔術師殺しに特化した必殺の弾丸。
この弾丸は切嗣の起源である『切断』と『結合』を弾丸が触れた相手に及ぼすものである。
一般人にこれを放てばその部分は破壊されるもすぐに結合して傷跡が残ったようになり、その部分の機能が『切断』されるだけに留まる。
しかしこれが魔術師相手だと最悪な凶弾へと進化する。
この切断と結合の効果は魔術回路にも及ぶ。
その為魔力が通っている状態でこの弾丸に触れると魔術回路が切断され、回路が出鱈目に結合されるのだ。
出鱈目に繋がれた回路を魔力が通ることで内側で暴走、その威力は回路を流れていた魔力量に比例して上がり、身の内から魔術回路、神経、血管を破壊して行く。
切嗣の恐ろしい所は使用する弾丸を威力の高い物にすることで、物理的にも高い殺傷能力を持たせ、相手の危機感を煽っている所だろう。故に、魔術師は皆、今回のケイネスのように魔力を大量に使用して防壁を張るしか身を護る術がない。と言う訳だ。
切嗣は思考を切り替え、今後の予定を考えながらその場を離れる。
そして数十分後。セイバー、アイリスフィールと合流し、アイリスフィールから伝えられたアサシンの裏切りとセイバーから伝えられたキャスター消滅の情報に、今後の予定を大幅に修正するべきだと判断した彼は、二人に城で待機を命じてすぐに舞弥と共に新たな拠点を得る為に街へと向かう事になった。
因みに今残っている各陣営の戦力↓
セイバー陣営=セイバー・切嗣・舞弥(原作と違って怪我無し)・アイリ(サーヴァント二体入り)
ライダー陣営=ライダー・ケイネス(八割死状態)・ソラウ
アーチャー陣営=アーチャー・時臣・綺礼(左手欠損)・璃正
ランサー陣営=ランサー・アサシン・白野(現在魔力不足)・桜(癒し枠)
こうして戦力だけ文章にするとまだまだどの陣営が勝つか分からないね!
次回は二日目最終日。時臣の胃がやられる!